WRC2021/09/12

ロヴァンペラ、ギリシャの首位を快走

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 2021年世界ラリー選手権(WRC)第9戦アクロポリス・ラリー・ギリシャは土曜日にレグ2を迎え、トヨタGAZOOレーシングWRTのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)が4つのステージでベストタイムを奪い、オイット・タナク(ヒュンダイi20クーペWRC)に30.8秒の大差を築いている。

 金曜日のペロポネソス半島のステージは完全なドライコンディションであったが、ラミアから南下してパルナッソス山脈に向かう土曜日のステージは、レッキのときには大雨に見舞われ、まるでウェールズのようにぬかるんだコンディションだったことから、ラリー本番への影響が懸念されるところだ。

 初日を終えてラリーをリードするのは2カ月前のラリー・エストニアでキャリア初勝利を飾ったばかりのロヴァンペラ、3.5秒差の2位でタナクが続き、さらに0.2秒差でセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)がぴたりと追い掛ける展開となっており、トップ3はわずかに3.9秒差と拮抗している。路面コンディションがレッキのあとどのように変化しているのか、誰も正確に把握しているわけではなく、最初のセクションにむけて3人のタイヤチョイスは大きく分かれることになった。

 ロードオープナーから解放されて8番手のポジションからスタートするオジエはソフト3本+ハード2本、タナクはソフト4本+ハード1本、そしてシェイクダウンではわざわざソフトタイヤを選択したあとそれを土曜日のために温存してしていたロヴァンペラはソフト2本+ハード3本と、なぜかもっともソフトを少なめにチョイスした。

 オープニングステージのSS7パヴリアーニはレッキのときには大雨と濃霧のために視界がまったくない状態で行われたため、1回目の走行ではペースノートの修正が必要となりそうだとも見られていたステージだ。よく晴れて空気が乾いているせいか予想以上にドライコンデイションが進んでいるが、柔らかくなってレッキの轍が深く残っているところも多く、木陰ではかなり湿って滑りやすくなっている。そのため誰もが慎重にスタートを切ったはずだが、これまでのところこの週末でもっとも長い24.25kmのステージでロヴァンペラが勝負を掛けたようなアタックをみせた。

 ロヴァンペラはエストニアでも土曜日の最初のステージで首位を争っていたクレイグ・ブリーンに対して強烈な先制パンチをお見舞いするかのようなベストタイムを奪ったが、ここでもふたたびその日と同じような衝撃の速さをみせることになった。彼は2位につけているタナクに5.6秒もの差をつけ、二人の差を9.3秒へと広げている。1kmあたり0.23秒の差をつけた計算だ。さらにオジエにいたっては12.8秒遅れの4番手タイムで、若きチームメイトからは16.7秒遅れとなってしまった。

 ロヴァンペラはステージエンドで速さの秘密を聞かれ、いつものように冷静な声でコメントした。「わからないよ。ハード2本とソフト2本というタイヤパッケージは、このステージには適していなかったと思う。序盤はハードをうまく使うことができたが、中盤から終盤にかけてのスローなセクションでは苦戦したよ。でも、すこしプッシュしてみたところ、タイムがいい感じになったので良かったよ」

 ロヴァンペラよりも先にステージを走り切っているタナクは金曜日にはマシンのフィーリングに悩まされていただけに、オジエを7.2秒も上回ることができたことに驚いていた。「このタイムにはかなり驚いた。本当に苦労して、ただ走り抜けただけだが、うまくいったことは明らかだ。しかし、昨日よりもフィーリングが良くなったとは、けっしてまだ言えないよ」

 ロヴァンペラは続くSS8グラビア(24.81km)でも連続してベストタイム。ここではさらにペースを上げて2番手タイムのタナクに1kmあたり0.3秒の差をつけるまさしく信じられないペースをみせて、一気に16.8秒差へと突き放す。タナク自身もオジエに6.4秒差をつけており、二人の差は13.8秒差へと広がっており、わずか2つのステージでトップ3の構図は予想しなかったほどの変化をみせる。

 オジエは、タイトルを争うライバルたちが金曜日のトラブルで大きく失速しているため優勝を狙う必要はない。それでもここでは全力を出し尽くしたといった様子で額に汗をにじませており、けっしてペースをコントロールしているわけではないことをその表情が物語っている。「序盤でペースが上がらなかった理由は僕にはわからない。僕にとって再び難しいステージだったということだ。グリップにかなり苦戦しているんだ」

 タナクも「難しかった。後半はグリップが落ちすぎてまるでパンクしたかのように感じた」とソフト3本ではグリップが不足していたと訴えており、このセクションではハードを多めにチョイスしたロヴァンペラの戦略が当たったように見える。

 ロヴァンペラはライバルたちを完全に置き去りにして、接戦になりそうな状況を完全に一歩抜け出すことになったが、にくらしいほどに状況をクールに分析している。「良い気分だ。タイヤの選択も良かったし、エンジニアのサポートにも感謝している。この2つのステージは本当に難しかった。フロントにハードを履いていると、まだ泥の残るセクションではトリッキーだったが、乾いているところでは最大限にプッシュしたんだ」

 イテアでのタイヤフィッティングゾーンで続くSS9ヴォーキサイト(22.97km)とSS10エレフテロコリ(18.14km)にむけてトップ3は全員がハード4本をチョイス、オジエとロヴァンペラはソフト1本、タナクはソフト2本をスペアとして積む。エレフテロコリはレッキのときにもっとも雨でぬかるんだセクションが多く、スタックしたマシンが続出したステージであり、タナクはそれを警戒したのだろう。

 SS9ヴォーキサイトではまたも速さをみせたのはロヴァンペラだ。彼はここで3連続でベストタイム、タナクとの差を21.4秒へと拡大する。しかし、ここではその走りは完璧ではなく、右コーナーで大きなスライドをしたあと左リヤがディッチのなにかにヒットしたような不吉な音を立てる。

 ロヴァンペラはさすがにステージエンドでほっとしたような表情を浮かべた。「あれはかなりビッグな瞬間だったね。なんとか逃れることができてラッキーだったよ、ディッチの中に何もなかったからね。少しプッシュしすぎたかもしれないので、その後はもう少し慎重になった」

 続くSS10エレフテロコリではかなりのセクションに雨の影響が残り、水たまりやマディなセクションもかなり長い距離が続いたが、事前にキャンセルの恐れがあったとは思えないほどに路面は乾いている。ここでもロヴァンペラは連続してベストタイム、タナクはここでは18.3秒も遅れたため、ロヴァンペラのリードは39.7秒へと拡大する。チームメイトから6.5秒落ちの2番手タイムで続いたオジエは、タナクの3.6秒差の背後へとぴたりとつけることになった。

 タナクは、2本のスペアが災いとなったのだろうが、トヨタ勢に比べて明らかにペースが落ちた理由を語らなかった。「不幸なことは何もない。すべてOKだよ」

 ここまでは負け無しの4連続ステージウィンを並べてデイサービスに戻ってきたロヴァンペラはいい気分で攻めることができたとふり返っている。「気分はいい。とくにエレフテロコリはこのループの最難関ステージというのもある。最初は全然ペースもリズムも掴めなかったから難しかった。でもその後なんとかリズムを少し掴むことができて、ラフだったところではクルマもセーブするようにした。2回目の走行のステージではあまり荒れてないことを祈るよ」

 オジエは2位のタナクに3.6秒差に迫ったとはいえ、トップを走るチームメイトからは43.3秒と大きく引き離され、彼の勝利の可能性はほとんどなくなってしまったが、選手権のライバルたちが前日のトラブルの影響のために後方に沈んでるだけに無理をしてプッシュする必要はまったくない。エルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)は7位まで追い上げてきたが、ティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)も必死でプッシュするも3番手という走行順がハンデとなり、まだ14位にとどまっている。

 オジエは今週末の仕事はこれで十分だと確信したのか、「OKのループだった。二人はとても速く、とくにカッレは強力なペースをみせている。今のところ、自分の仕事を続けているので大丈夫だ。僕はもう同じアタックモードではないし、自分のことに集中しなければならない。チャンピオンシップのためには今の状況は完璧だ。あとは3位を守るだけだ」と語っている。

 オジエの言葉は、サービスをはさんでこの日行われる残り2つのステージではペースを落としてクルージングするような表現だったが、SS11パヴリアニで彼は目が覚めるような走りでロヴァンペラに8秒差をつけるこの日初のベストタイムを奪い、タナクの2.5秒差に迫ることになった。

 最後のセクションに向けて、オジエはハード5本をチョイス、ロヴァンペラはこの日初めてスペア2本を搭載する安全策でハード4本+ソフト2本、そしてタナクはさきほどのループでの反省からかスペアを1本に減らして、ハード2本+ソフト3本を組み合わせている。

 タナクはこの日最後のステージとなるSS12エレフテロコリでは、4本ともハードのオジエに対して、ソフト3本+ハード1本に履き替える。1回目の走行より明らかに荒れて多くの石が転がっているステージで、タナクはオジエに6.9秒もの差をつけるベストタイム、ふたたび9.4秒という大差を築いて2位でレグ2を終えることになった。

 タナクは、これまで週末、マシンのフィーリングに満足できていない様子だったが、やっといいリズムで走ることができたと満足そうに語った。「OKだ。良いタイヤチョイスだったと思う。それに、僕はいくつかの変更を行って、ようやくそれが役に立った。今はマシンも少し自信をもって楽しめるようになったと感じるよ」

 オジエは2年前にタイトルを争ったかつてのチームメイトの速さを聞いても驚かず、すべて計画どおりに行っているとコメントした。「オイットはプッシュしたいときには必ずプッシュするからね。僕らにとって午後のループは良いものだった。良いリズムで、ここまでは計画通りに進んでいる」

 タナクにここで3.8秒差をつけられ、ロヴァンペラのリードは30.8秒となったが、それでも彼は大差を築いて明日の最終日を迎えることになる。ステージエンドの彼は、リードを喜びつつも、最後のループが予想していたよりてこずったのはスペア2本の問題なのか、路面が荒れることを予想してセッティングを変えたことが原因なのか悩んでいるようだった。

「午後は、セットアップの選択を少し間違えたようだ。プロテクションを向上させたがったが、トラクションが大幅に失われてしまったんだ。グリップも良くなかったしね。でも、少なくとも1日の終わりにこのポジションにいることには満足だが、明日は何ができるか見てみるよ」

 4位のダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)はトップ3からは1分30秒近い遅れとなっているが、チームの選手権のために堅実なペースを刻んでおり、5位のアドリアン・フールモー(フォード・フィエスタWRC)は1分10秒近くの後方に離れており十分に安全圏内だ。ガス・グリーンスミス(フォード・フィエスタWRC)も15.8秒差でチームメイトに続いて6位につけている。

 エヴァンスはギアボックスが完全に機能するようになったことで、選手権のためにも少しでも順位を戻すべく、16位から7位へとポジションを戻したが、Mスポーツ・フォード勢には2分あまりの差を付けられている。

 また、エヴァンスと同様にポイント圏内への復帰を目指していたヌーヴィルもリカバリーをみせて10位まで順位を上げており、明日は38秒前方でWRC2のトップ争いを演じているマルコ・ブラチアとアンドレアス・ミケルセンの2台のシュコダ・ファビアRally2エボを抜くことがターゲットとなる。

 明日の最終日はかつてのアクロポリスの死闘の舞台となった伝説のステージの一つでもあるタルザン・ステージから始まる69.25km/3SSの1日となる。スタートは現地時間8時8分(日本時間14時8分)が予定されている。