WRC2023/05/14

ロヴァンペラ、無敵の速さで57秒をリード

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 2023年世界ラリー選手権(WRC)第5戦のラリー・デ・ポルトガルは、13日にレグ2を迎え、トヨタGAZOOレーシング・ワールドラリーチームのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)が7つのステージのうちの5つのステージを制する無敵の速さをみせてリードを57.5秒へと拡大、今季初優勝に大きく近づいている。

 ポルトガルの土曜日は、マトジニョスの北東に位置するカブレイラ山脈のステージが舞台となる。ヴィエイラ・ド・ミーニョ(26.61km)、ラリー最長のアマランテ(37.24km)、マラオ・エリアのフェルゲイラス(8.81km)の3ステージをマトジニョスのミッドデイサービスを挟んで2回ループし、この日の締めくくりとしてラリークロス・サーキットのロウサダ・スーパーSS(3.36km)を走る、7SS/148.68kmという長い一日となる。

 花崗岩の奇岩のなかを走るステージとして知られる、この日のオープニングステージであるSS9ヴィエイラ・ド・ミーニョを一番手で走行したのは、前日のオルタネーターが破損によるリタイアから復帰した勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)だ。アクシデントでマシンを大破させたエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)がリスタートできなかっただけに、勝田はマニュファクチャラーポイント獲得という重要なミッションを担うことになる。

「昨日はあまり走れなかったので、今はクルマに戻れてうれしいよ」と勝田は語った。「すべてうまくいっているように見えるけど、とにかくめちゃめちゃ滑るんだ。あまり楽しめなかったかな、すごくサンディだ」

 このヴィエイラ・ド・ミーニョは、前日のように石が転がっていたバンピーなステージとは異なり、柔らかい砂に覆われた粘土地のサーフェイスは比較的フラットでスムースだ。ここで素晴らしい速さでスタートを切ったのは、波乱の初日を10.8秒リードして終えていたロヴァンペラだが、彼はすでに中間スプリットで2位につけるダニエル・ソルド(ヒョンデi20 N Rally1)に対して8.5秒差をつけている。

 ステージを走りきったソルドは、先にフィニッシュしたチームメイトのエサペッカ・ラッピ(ヒョンデi20 N Rally1)の暫定トップタイムから0.5秒遅れというまずまずのタイムでフィニッシュしたことに気をよくしただろうが、レポーターからロヴァンペラが後方で信じられないペースを刻んでいると聞いて目を丸くした。「カッレの方が中間スプリットで8秒速いって? 彼は速いよ、本当に速いんだよ。まあ仕方ない、僕はここであまりうまく走ることができなかったからね。本当に滑りやすくてフィーリングが掴めなかったよ」

 ロヴァンペラはその後もさらにペースをアップ、29.61kmのこのステージでソルドに13.3秒もの大差をつける圧巻のベストタイムを叩き出し、リードを24.1秒へと拡大した。1kmあたり0.5秒も引き離した計算だ。「今日、目が覚めて、ちょっとラリーを走らないと・・・って思ったんだ。そして、それをやってみたんだ!」と、ロヴァンペラはいたずらを成功させた少年のような笑みをみせた。

 トップ争いの後方では、3台が1.5秒という僅差にひしめく混戦状態で土曜日を迎えたが、5位につけていたエサペッカ・ラッピ(ヒョンデi20 N Rally1)が2番手タイムを奪い、ティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)とピエール-ルイ・ルーベ(フォード・プーマRally1)を抜いて3位へと躍り出した。それでも彼は前日までとまったく変わった路面コンディションのためか、ひどいフィーリングだったと訴えた。「最悪な感じだった!ヤンネ(・フェルム)には全然グリップがないって言ったほどだよ。本当、20秒くらいロスしそうな感じがしたよ!」

 ヌーヴィルもリヤからのトラクションがなく攻められなかったと訴える。「グリップが信用できないし、クルマのリヤも信じられないんだ。トラクションがかからず、タイムがどんどん失われてしまったよ」

 ヌーヴィルから0.9秒差につけていたルーベはここで6.6秒もロス、その差が7.5秒へと広がったことを聞いて、信用できない表情を浮かべていた。リヤウィングの左側のサブウイングは破損して失われており、エアロのバランスも影響を及ぼしたのだろう、明らかに彼は前日のリズムを失っているように見えた。

 そして迎えたSS10アマランテでルーベのラリーは唐突に終わりを迎える。このラリーで最も長いステージであるとともにもっとも悪名高いと評されるステージは、ワイドでハイスピードの流れるようなコースは一転して木々に囲まれた狭くツイスティなキャラクターへと変化する。ルーベはまさしくこの狭いセクションでこの罠に落ちてしまい、ブラインドコーナーのイン側に隠れていた切り株にステアリングをヒットし、さらにコーナー出口の岩壁に右フロントを激しくヒットしてコースを半ばふさぐようにしてマシンストップ、再び動き出すことはできなかった。

 このアクシデントでもステージは中断されることはなく、後続のマシンはややペースを落として通過することになった。 2位につけるソルドはルーベの横をパスするときも止まりそうなスピードへ落としたため、21.7秒を失っており、ふたたび強力なペースをみせてベストタイムを奪ったロヴァンペラがリードを45.8秒へと拡大する。

 さらにソルドの3.3秒後方にはラッピが迫り、さらに3.1秒差でヌーヴィルが続いている。ラッピもまたストップしたルーベのクルマのために減速を余儀なくされており、このステージではノーショナルタイムを受けるだろうと説明している。「レフリー(=スチュワード)はきっとタイムを戻してくれると思う。誰かが止まっているようなところでリスクを冒す意味はない。ステージとしてはまずまず良かった、カッレがかなり速いことは確実だけど、今の時点ではダニ(ソルド)の方が気になるところだ」

 ルーベのクラッシュにより、ヒョンデ勢が2-3-4位をキープしているが、その後方にはオイット・タナク(フォード・プーマRally1)も34.1秒差で続いている。金曜日のバンピーなステージのあと彼はプーマを「木馬」に例えて酷評し、ここでも「暴れ馬」と表現を変えたが、彼はモチベーションを失わずに4位争いに挑んでいくつもりだ。「前ステージより少しバランスが良くなったが、サスペンションにはまだ苦労している。まだ暴れ馬に乗っているようなものだ」

 朝のループを締めくくるSS11フェルゲイラスは森のなかの狭く流れるようなテクニカルなダウンヒルセクションはサンディで滑りやすくなっているが、ロヴァンペラの勢いは止まらない。彼は朝の3ステージを総ナメにする連続のベストタイムでスタート前に10.8秒だった後続との差をいまや52.4秒に拡大している。「朝は何度か良い走りができているが、今回は本当に良かった。ループ全体が良かったので、この調子でやっていきたい」

 彼の後方では、ヒョンデのチームメイト同士の2位争いが熱くなっており、「限界までプッシュしようとした」というソルドがラッピとの差をここでは4.6秒差をつけて総合2位をキープしているものの、これまでラッピとの差をなかなか縮めることができなかったヌーヴィルが2番手タイムを奪って0.9秒差に接近、セットアップ変更がやっとうまく行き始めたと笑顔をみせている。「確かにプッシュしたよ。セットアップを大きく変えて少しは良くなったが、ここでは毎回リヤがワイドになってしまったよ」

 5位のタナクはヒョンデ勢とのタイムを大きく縮めることができずに36.2秒遅れ。勝田は一番手で路面掃除の試練に立ち向かってきたが、狭く高速のセクションでリヤのグリップを失ってスピン、ひやりとした瞬間を味わっている。「とても滑りやすく、氷の上を走っているような、別次元な感じだ! でも大丈夫、僕たちはここにいるからね」

 マトジニョスのミッドデイサービスでは気温が23度まで上昇、午後のループに向けたタイヤチョイスはハードの比率が高くなったが、サンディな路面が多かったせいか、2番手スタートのタナクはヒョンデ勢を追い上げるべくソフトを中心にチョイス、ヌーヴィルのみがスペアを1本として軽量作戦でチームメイトとのバトルに備える。

 朝から3台のヒョンデによる2位争いが続いているが、午後のループもオーダーなどはなく真っ向勝負の戦いが継続している。SS12ヴィエイラ・ド・ミーニョでソルドは2番手タイムを奪ったが、ラッピも0.1秒差で続いており、その差は4.7秒にとどまったが、スペア1本の軽量戦略で臨んだ5位につけるヌーヴィルはここではチームメイトほどペースが上がらず、ラッピとの差は0.9秒から5.8秒へと大きく広がってしまった。

 しかし、奇妙なことにヌーヴィルはステージエンドで自身の走りに満足したように、「いいステージだった。わだちが増えているので、マシンをラインに保つのが少し楽になった」とコメントしたのに対して、大きく上回る速さをみせたラッピはマシンのコントロールに必ずしも満足できなかったようだ。「かなりクリーンなドライビングができたが、一方で、多くの場所でアンダーステアだったため、何度もミスしたよ。朝と同様、まだスリッパリーだったので、カッレは僕たちに15秒くらい差をつけるだろうね!」

 ロヴァンペラは、中間スプリットまでは1.5秒差をつけてトップタイムのペースを刻んでいたソルドを終盤にパス、この日4つめのベストタイムで55.2秒にリードを広げている。路面はラインが生まれてグリップは上がっているようだが、ブラインドコーナーの先にはかき出された予想外に大きな石も転がっていることもあるため、ここではペースを抑えるようにしたと彼は語っている。

 SS13アマランテはクリーンなラインもあるものの、ところどころ多くの石が転がり、5位につけるタナクが跳ね上げた石で自身のウインドスクリーンを割ってしまうなどコンディションは悪化している。ロヴァンペラは荒れてきた路面が目立つようになった後半では安全なペースへと切り換え、今日初めてステージ勝利を逃すことになった。

 このラリーで最も長いステージであるアマランテでロヴァンペラの連続最速タイムにストップをかけたのはソルドだ。彼は「戦いに参加するためにはプッシュする必要があった」と語り、一時は2位のポジションを脅かしつつあったチームメイトに12.8秒差をつけることに成功した。

 それでもロヴァンペラはこの日最後のロングステージであるSS14フェルゲイラスでこの日5つ目となるベストタイム奪取、この日の締めくくりとしてラリークロス・サーキットのロウサダ・スーパーSSでは直接対決でソルドにベストタイムを奪われたものの、慎重なペースを刻んでリードを57.5秒として土曜日を終えることになった。

「間違いなく今日はいい一日だった。前のステージの最後にインターカムをなくしてしまったが、それが使えなかったのが森の中でなくてこのステージでよかったよ!」とロヴァンペラは語っている。

 ソルドから11.1秒遅れの3位には、午後のループでペースを上げたヌーヴィルが続いている。この日の最初のステージで表彰台のポジションをラッピに奪われた彼は、SS13でラッピに8.5秒差をつける速さをみせて抜き去り、ポジションをチームメイトからとりかえした。ヌーヴィルは滑りやすい路面では完璧な自信をもてないと不満をみせたながらも、ラッピとの直接対決となった最後のスーパーSSでも0.1秒差でチームメイトを下し、2.3秒差をつけて3位をキープしてみせた。

 ヒョンデ勢の一角を切り崩すことに野心をみせていたタナクだったが、滑りやすい土曜日の路面でじわじわと引き離されてしまい、ラッピからは1分10秒遅れとなっている。さらに最後のスーパーSSでもハンドブレーキが利かない問題に見舞われた彼はステージエンドで「なんて日だよ」と苦笑いを浮かべている。

 勝田は前日のトラブルですでにトップから1時間あまりの遅れとなっているが、ロウサダ・スーパーSSでは丸一日1番手で路面掃除に苦しんできたフラストレーションを吹き飛ばすかのように2番手タイムを奪ってみせた。「フィニッシュできてうれしい。フィニッシュ後にスピンしたが、大丈夫だ、楽しむためのものだ」と、勝田は大声援を送ってくれたファンに応えていた。

 明日の最終日に残されるのは59.59km/4SSにすぎない。久々に強烈な走りで大量リードを奪ったロヴァンペラが、昨年のニュージーランド以来となる勝利を飾ることになるのか。オープニングステージのパラデスは現地の7時5分(日本時間の15時5分)スタートとなる。