WRC2021/09/13

ロヴァンペラがライバルを圧倒する完璧な2勝目

(c)Toyota

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 2021年世界ラリー選手権(WRC)第9戦アクロポリス・ラリー・ギリシャは9月12日に最終日を迎え、トヨタGAZOOレーシングWRTのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)が、第7戦ラリー・エストニアに続くWRC 2勝目を獲得した。

 8年ぶりにWRCのカレンダーに復帰したアクロポリス・ラリーは、かつてはチャンピオンシップの帰趨を占う鍵となるイベントとして知られていた。ヨーロッパスタイルのスピードラリーながらも、気温も高く、マシンの耐久性が試される悪路が舞台。ドライバー、チーム、マシンの成熟度を推し量るマイルストーン的な存在でもあった。最終日の行程は、まさにその古き佳き時代の名物ステージのひとつ、タルザンを軸にしたルートとなっている。

 最終日の出走順は、前日の順位のリバースで3分間隔となる。1.ピエール-ルイ・ルーベ(ヒュンダイi20クーペWRC)、2.ジョルダン・セルデリディス(フォード・フィエスタWRC)、3.ティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)、4.エルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)、5ガス・グリーンスミス(フォード・フィエスタWRC)、6.アドリアン・フールモー(フォード・フィエスタWRC)、7.ダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)、8.セバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)、9.オイット・タナク(ヒュンダイi20クーペWRC)、10.ロヴァンペラ。しかし、ルーベがステージに向かうロードセクションでエンジンのトラブルが出てストップ、リタイアとなってしまった。これでコースオープナーはセルデリディスになった。

 最終日の朝は予想外の雨となったため、各ドライバーのタイヤチョイスは、ソフトを主体としたものとなった。オジエとグリーンスミスはソフト3本+ハード2本。ロヴァンペラ、エヴァンス、フールモーはソフト2本+ハード3本。タナク、ヌーヴィルはソフト5本、ソルドはソフト6本、ルーベとセルデリディスがソフト4本+ハード2本を選択した。

 SS13タルザン(23.37km)は、かつて死のタルザンロードと呼ばれ、90年代のWRCではアクロポリス・ラリーを象徴するハードなステージだったが、今回WRC開催を支援したギリシャ政府の肝煎りでグレーダーによって整地が施されており、一見フラットで石も転がっていない。序盤の10kmは難しいサーフェイスでのダウンヒル。その後、ロヴォリアリ村とレンティナ村へのジャンクションまでの道はスムーズで、そこから先は有名な石畳のセクションが控えている。全体的にコースはテクニカルで、多くのヘアピンが散在しており、雨が降ったことでマディなコンディションとなった区間もあり、この週末、最大の難関となると予想されていた。

 選手権リーダーで今回のラリーではライバルがトラブルで沈んだことで3位のポジションをクルージングすることに徹しているオジエは、「実にトリッキーなコンディションだった。最初の区間はグリップがとても低い。間違ったタイヤ選択だった(ソフトとハードを2本づつ履いた)。フルソフトがベストだっただろう」と語った。しかし、2位のタナクに30.8秒差で最終日をスタートしたロヴァンペラは、同じようにハードとソフトを2本づつクロスさせてセットしていたにも関わらず、ベストタイムを記録する。しかもフルソフトで走ったタナクに14.1秒の差をつけるスーパータイム。これで両者の差は決定的ともいえる44.9秒に広がった。

 SS14はラリー最長の距離、33.20kmを持つピルゴス。最初の12kmほどは狭い上り坂を行き、その後中間地点のダフニに向けて道幅が広がっていく。所々にヘアピンを含む曲がりくねったセクションがあり、村を通り抜けるターマックのセクションを経て、道はアナトリに近づいていくと再び狭く、トリッキーに転じていく。最後の10kmはハイスピードで、いくつかのヘアピンコーナーを抜けてフィニッシュする。

 ベストタイムを刻んだのは、タナク。「いいステージだった。ちょっと視界が悪かったけれど、気になるほどではなかった」とコメント。3番手タイムのオジエは「すべてオーケー。今はとにかく走り切って、パワーステージを待つだけだ。それがこのラリーで必要な最後のプッシュになるだろう」と自身の戦略通りにラリーが進んでいることを確認した。ラリーリーダーのロヴァンペラは「すごく難しかった。もう少しドライだと思っていたら、森の中は本当にマッディだった。ハードタイヤをフロントに履いて走っていたから、僕にとっては今週末を通して最も難しいステージだったかもしれない、全然うまく走れなかったよ」と言いながらも、リスクを冒さず、4番手タイムでこのステージを終え、35.0秒のリードを持ってパワーステージに向かう。

 パワーステージとなる最終SS、2回目のタルザンの走行は、距離が12.68kmと短縮されており、パワーステージの前にタイヤフィッティングゾーンが設けられたことで、フレッシュなタイヤでタイムを競う勝負のステージとしての注目が集まる。

 果たして、ここでベストタイムを刻んだのは、ライバルたちがアクロポリスの罠に嵌る中、圧倒的なペースでラリーをコントロールしてきたロヴァンペラだった。「僕たちは、恐らくあまり快適ではない状態でここに来たが、すべてがうまくいって、ハードにプッシュすることができた。チームのみんなが素晴らしい仕事をしてくれたことに感謝している。マシンは完璧で、しかもラフなラリーだったのに、ずっと問題なく走ってくれた。フィンランドでも少なくとも同じ速さで走れることを期待しているが、どうなるかな」と、自身のWRC2勝目を冷静に分析した。いずれにせよ、難しいコンディションとなり、荒れたラリー展開になった中、終始、自分のスピードをキープし続けたパフォーマンスは、本格的な才能開花を宣言しても差し支えないだろう。

 最終ステージのスタート地点で、i20のエキゾーストからスモークが発生するというアクシデントがあったタナクは、「このステージのスタート時には、本当に危なかった。また問題が発生して、大量のスモークが出て、スタートの数秒前までマシンをスタートできなかったんだ。(フィニッシュできて)本当にラッキーだった。ウェザークルーに感謝している。彼らが素晴らしい仕事をしてくれたおかげで、常に適切なタイヤを選ぶことができた」と波乱万丈の2位を振り返る。

 3位のオジエは、パワーステージでも3番手タイムを記録。「このラリーでは、選手権首位の座を維持するという目標があった。それを達成し、リードを拡大することができた。コンディションは常に変化していたので、簡単ではなかったが、クリーンなラリーができたと思う」と語った。

 4位には新しいコドライバーのカンディード・カレラとの初めてのチャレンジとなったソルド。「この週末は本当に悪かった。ペースノートが少し悪かったし、そのせいでラリー中も自信が持てなかった。4位より上になることはできなかったので、とにかく順位をキープできるよう心掛けた。次のラリーではもっといい成績を残せるようにしたい」とコメントした。

「今年は、ラフなラリーでの成績が好調だったので、もう少し期待していたが、いろいろあってそうはならなかった。アドリアンとのバトルを楽しんでいたが、残念ながら今朝、彼はトラブルに見舞われてしまった」というグリーンスミスが5位でフィニッシュ。最終日を5位で迎えたフールモーは、オープニングステージの前にエンジントラブルデストップ、スパークプラグを取り替えたことで復調したが、タイムコントロールに18分遅着したために3分のペナルティを課されてしまい、最終ステージでエヴァンスに抜かれて7位でラリーを終えている。

 エヴァンスはラリー序盤にギヤボックスのトラブルに見舞われて17位まで後退したが、どうにか6位でフィニッシュし、さらにパワーステージでセカンドベストを記録した。「ラリーには『もしも』ということがたくさんある。マシンのフィーリングはおおむね良かったが、こればかりは予測できないし、『もしも』なんてことは言えない。今回は僕たちの週末ではなかったが、仕方ない」。

 さらに前戦イープルでの勝利から一転、苦しいラリーになったヌーヴィルは「わからない。常に全力を尽くして、この週末もあきらめずに頑張ってきたが、残念ながらその努力に対する対価は得られなかった。正直なところ、僕たちはもっと報われるべきだと思う。すべてを捧げているのに、本来の力を発揮できていない」と8位に終わったラリーを総括した。

 第9戦アクロポリス・ラリー・ギリシャを終えて、ドライバー選手権ではオジエが180ポイントとリードを広げ、2位にはエヴァンスが136ポイント、ヌーヴィルが130ポイントで3位となっている。マニュファクチャラー選手権では、トヨタGAZOOレーシングWRTが397ポイントを獲得。2位ヒュンダイは340ポイントとその差を57ポイントに広げられることとなった。
 
 次戦は、10月1〜3日に行われるラリー・フィンランド。いよいよシーズンは大詰めへと向かう。