WRC2022/02/28

ロヴァンペラが高速戦スウェーデンで優勝

(c)Toyota

(c)Hyundai

(c)Toyota

 2022年世界ラリー選手権第2戦ラリー・スウェーデンは、トヨタGAZOOレーシングWRTのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)が今季初勝利を飾り、選手権リーダーに立つことになった。

 スウェーデンの最終日は、ヴィンデルン(14.19km)とサールシェーリーデン(13.93km)の2ステージをノーサービスで2回ループし、2回目のサールシェーリーデンがパワーステージとして行われる4SS/56.84kmという短い一日だ。

 美しい朝を迎えた最終日は、2位につけていたエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)のドラマとともに始まることになった。

 エヴァンスは当初、最終日をチームメイトのロヴァンペラから8.3秒遅れでスタートする予定だったが、土曜日の最終ステージでフライングフィニッシュの後コースオフ、定められたルートではなくエスケープロードを走行したために10秒のペナルティを課されてしまい、リーダーからは18.3秒遅れとなっていた。

 エヴァンスが優勝する可能性はこれでほぼなくなるとともに、3位のティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)とのマージンは3.4秒差に縮まっている。この想定外の問題が彼の動揺を誘ったわけではないだろうが、さらなる波乱が襲いかかる。

 オープニングステージのSS16ヴィンデルンの7.9km地点の高速セクションでエヴァンスはオーバーステアとなってスノーバンクに激突、幸いにも360度のスピンだったためすぐにコースに復帰、ボンネットが跳ね上がったままのマシンで走行を開始したが、フロントのダメージはあまりにも大きく、マシンを止めることになった。

 追いすがるライバルがいなくなったロヴァンペラは、このステージでハイブリッドブーストを使うことなく、平均速度140.73km/hというWRCヨーロッパ・ラウンド最速記録のベストタイムを叩き出す。エヴァンスのトラブルで2位へとポジションを上げてきたティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)に対して、ロヴァンペラはいまや23.9秒という大きなリードを手にすることになった。

「ハイブリッドを使っていないのにこのタイムというのは、かなりいいと思う! 他のステージも、きっと大丈夫だろう」とロヴァンペラは語っている。彼がハイブリッドブーストを使えない理由ははっきりしていない。しかし、エネルギーメーターではブレーキ回生をしている表示もないことから最終ステージに向けたエネルギーのマネージメントを行っているわけではなく、なんらかのトラブルであるはずだが、彼の声はきわめて冷静だ。

 スタート前、エヴァンスにペナルティが課されたことで、ヌーヴィルは「エルフィンとの(3.4秒)差をひっくり返して2位を狙いに行く」と語っていたが、その目標は思ってもみない形で実現することになった。首位のロヴァンペラとの差は努力で追いつけるものではないが、彼と後方のエサペッカ・ラッピ(トヨタGRヤリスRally1)との戦いは最後までもつれそうだ。ヌーヴィルはここで2番手タイムでラッピとの差を4.9秒としたが、もう少しマシンのフィーリングを改善したいと訴えた。「ゲームは始まっているけど、完璧なステージではなかったから、もっと良くできる。シャシーを少し修理する必要があるけど、プッシュし続けることができると思う」

 続く、SS17サールシェーリーデンは2回目の走行がパワーステージとして行われるため、多くのドライバーたちにとってはペースノートを見直すチャンスとなった。ここでのベストタイムを奪ったのは2番手ポジションで走行するオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)。彼はスペア1本でスタートしており、ここではペースを確かめながらハイスピードレッキを成功させることなった。

 2番手タイムを刻んだのは3位につけるラッピ。彼はヌーヴィルの3.2秒後方へと肉薄することになったが、それでもまだ最大限の力を発揮できていない自分に苛立っていた。「95%はできるけど、100%はできない、それがこの週末だったんだ。ノートもいいが、自信がない。あとは僕の問題だ。それを受け入れるしかない」

 ヌーヴィルはコーナーの外側のスノーバンクにマシンを当てたものの巻き込まれることなく逃れきったのは幸運だった。6番手タイムに終わった彼は、慎重に走ったことを認めた。「路面にパーツがたくさん散らばっていて、スノーバンクが多く破壊されているのを見た。すべてにブレーキングポイントでフィーリングに悩まされ、そこでかなりのタイムロスがあったよ」

 首位を堅持するロヴァンペラをはじめ、ほとんどのドライバーがパワーステージのためにタイヤマネージメントに集中するなか、ヌーヴィルとラッピの一歩も引かない激しいバトルはSS18ヴィンデルンでも続いており、ヌーヴィルがラッピに0.5秒差をつけるベストタイムを奪い、二人の差を3.7秒へと広げている。

 ここでのヌーヴィルの平均速度は141.08km/h、朝のタナクの記録を上回ってWRCヨーロッパ・ラウンドの最速ステージ記録を更新した。それでもヌーヴィルはまだグリップに自信を持てていないと語っている。「トラクションが全くなくて、正直言って悪夢だったよ。みんなもグリップが低いみたいだけど、僕はまだ自信を持てずにいるんだ」。ラッピもまだ終わっていないと語りながらも、「最も重要なことは、チームのポイントだ」と、無理なプッシュは避けなければならないと自身に言い聞かせていた。

 ロヴァンペラはタイヤを労りながら3番手タイムで首位をキープ、安全圏ともいえる21.6秒をリードして最後のSS19サールシェーリーデンのパワーステージを迎えたが、ハイブリッドブーストをもたないにもかかわらず2番手タイムでフィニッシュ、金曜日を一番手で走行するというハンデを撥ねのけ、昨年のアクロポリス・ラリー以来となる通算3勝目を獲得することになった。

「本当にうれしいよ。特に金曜日の出走順からは、こんなにうまくいくとは思っていなかった。かなり大変だったけど、本当に幸せだ。しかし、今はあまり祝う気分にはなれない。ウクライナの人々にとっては本当に大変な1週間となっている。この困難な時期に、彼らが強さと希望を見いだせることを願っている」

 ヌーヴィルはラッピに8.6秒差をつけて総合2位でフィニッシュ。不本意な開幕戦となったチームにとったが、これが立ち直った証明だと彼は語った。「モンテカルロの後、僕たちは多くの仕事をしなければならなかった。難しい時期もあったが、皆が一生懸命に働いてくれた。僕たちがここにいることは、正しい道を歩んでいることを証明している。これからのイベントが楽しみだ」

 ラッピは、2019年のラリー・トルコ以来、3年ぶりの表彰台をトヨタでの復帰戦で達成することになった。「プッシュしてティエリーと競うことは、リスクが大きすぎた。でも、表彰台に上れたことは本当にうれしい。これが目標だった。チームのみんなに感謝している。マシンも何も問題なかったし、僕らを再び迎え入れてくれたことに感謝したい!」

 勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)は金曜日のスタックによる大きなタイムロスがあったためポディウム圏内からは1分30秒ほど遅れることになったが、4位でフィニッシュ。パワーステージでも4番手タイムと高速戦での速さを証明して今後につなげる速さをみせている。「がんばったが、最後まで小さなミスをしてしまった。それでもマシンは非常に強いので、将来的にはトップ争いができるように頑張りたい」

 5位でフィニッシュしたのはガス・グリーンスミス(フォード・プーマRally1)。チームメイトのクレイグ・ブリーン(フォード・プーマRally1)が2度のリスタートでポイント圏外のフィニッシュが確実な状況であり、さらにアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)もまた土曜日の夜にトップ10から脱落したエンジントラブルの影響で、この日の朝のロードセクションでリタイアとなっていたため、最終日はチームの選手権ポイントを獲得するというプレッシャーとの戦いとなった。「いい意味で慎重に」走ったと認めている。

 オリヴァー・ソルベルグ(ヒョンデi20 N Rally1)は一時はトップまで1.6秒差で上位を争っていたが、土曜日の最終ステージでスロットルのトラブルで20歳での初表彰台は持ち越しとなった。彼は全速力を取り戻し、SS17では2番手タイムを記録して6位で母国戦を終えている。

 金曜日のハイブリッドユニットの問題によってリタイアに追い込まれたタナクは、2戦連続のノーポイントの恐れもあったが、見事にパワーステージのボーナスポイントを狙うチャレンジを成功させて最大ポイントの5ポイントを獲得している。また、ブリーンもスペアタイヤを持たないという勇気ある決断をし、完全なスローモードでの走行によってパワーステージのためにスタッドタイヤを温存、一番手走行というハンデもあるなか5番手タイムで貴重な1ポイントを獲得した。

 第2戦スウェーデンを終えて、ドライバーズ選手権ではロヴァンペラが46ポイントを獲得して選手権をリード、ヌーヴィルが32ポイント、セバスチャン・ローブが27ポイント、グリーンスミスが20ポイントと続いている。

 また、マニュファクチャラー選手権では、ダブルポディウムを達成したトヨタGAZOOレーシングWRTが83ポイントを獲得してトップに立ち、Mスポーツ・フォードが59ポイント、ヒョンデ・モータースポーツが47ポイント、トヨタGAZOOレーシングWRT NGが22ポイントとなっている。

 WRC次戦は4月のラリー・クロアチア。世界でもっとも複雑な路面と評されるザグレブ周辺のターマックステージが舞台だ。