2025年世界ラリー選手権(WRC)第12戦セントラル・ヨーロッパ・ラリーが10月19日にゴールを迎え、カッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)が今季3勝目を飾り、トヨタGAZOOレーシング・ワールドラリーチームが通算9度目、5年連続となるマニュファクチャラー・タイトルを獲得することになった。
セントラル・ヨーロッパ・ラリーの最終日は、サービスパークがおかれるパッサウからオーストリアへと至る「国境を越えて」と名付けられたおなじみのビヨンド・ボーダーズ(15.57km)、そしてオーストリアのミュールタール(26.52km)の2ステージを連続して2回ループする4SS/77.78kmの一日となる。
さまざまなドラマが連続したセントラル・ヨーロッパ・ラリーは最終日もショッキングなシーンで幕を開けることになった。トップから2分30秒遅れの7位につけていたティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)が、4.2km地点のドイツから国境を超えてオーストリアのフクゼート村へと至る、まさに国境となった川にかかる橋の欄干に激しく激突。橋の入口におかれていたストローベイルは衝撃で吹き飛び、マシンはノーズが欄干にめり込んだ状態でストップ、リタイアとなってしまった。
ステージの気温は1度と極めて低く、上空のヘリコプターの映像は牧草地帯には霜が下りたようにうっすらと白くなっているのを映し出しており、低温のためグリップはかなり低いレベルだったと見られる。ヌーヴィルは、路面にブラックアイスはなかったと認め、「ノートが速すぎたと思う。アンダーステアになって、コーナーが予想以上に曲がっていた」と短く説明した。
これでわずかに残されていたヌーヴィルのタイトル防衛のチャンスは消え去るとともに、ヒョンデの生き残りは5位につけるアドリアン・フールモー(ヒョンデi20 N Rally1)のみとなってしまったことから、チームがマニュファクチャラー選手権でトヨタに追いつくという望みはほぼ断たれることとなった。
ヌーヴィルのクラッシュしたマシンは橋を塞ぐように止まったため、ステージは中断、セバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)、グレゴワール・ミュンスター(フォード・プーマRally1)、ジョシュ・マクアリーン(フォード・プーマRally1)の3台が完走したところでステージはキャンセルとなった。
オジエにとってはこのキャンセルは誤算だっただろう。土曜日のクラッシュのあと最終日にリスタートに回った彼にとって、ドライバーズ選手権のトップを失うことは確実となり、大差をつけられないためにもスーパーサンデーとパワーステージで最終日の最大ポイント10ポイントを奪う必要がある。しかし、SS15を走りきった彼のタイヤはライバルたちより確実にすり減っている。
26kmを超えるロングステージとなるSS16ミュールタールのステージエンドに到着したオジエは、ひたいから汗をしたたり落としており、これが全身全霊の走りだったことをその上気した表情がものがたっていたが、彼はポイントへの挑戦は厳しくなってきたと認めた。「これ以上できることはない走りだった。場所によっては路面にほこりがあって、路面はあとからもっと良くなっていくだろう。ステージがキャンセルされたことは仕方ないが、後ろのドライバーたちのタイヤは僕より確実にいいだろう」
それでも後続のドライバーたちはオジエのタイムを上回ることができない。3位で最終日を迎えたエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)が1.0秒差の2番手タイム、2位につけるオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)との差を5.2秒へと縮めてきた。
トップのロヴァンペラも1.8秒遅れの3番手タイムで、タナクに38.7秒差をつけてリードを保っているものの、多くのマシンのインカットで路面が想像以上に汚れているため、選手権のためにもスーパーサンデーのボーナスポイントを貪欲に狙っていくのはクレージーな挑戦だとふりかえった。「まずまずだった。路面は予想以上に汚れていたよ。最後に走るクルマとしては簡単じゃない。自分の走りにも満足していないし、速さが足りなかったのも感じている。でも、こんなクレイジーな状況で大きな成果を上げるのは容易ではない」
さきほどキャンセルとなったビヨンド・ボーダーズのリピートとなるSS17では、一度走った経験が明らかにオジエに有利に働くことになり、彼は驚異的なベストタイムを記録することになった。スーパーサンデーではわずか2ステージを終えて2番手のエヴァンスに5.7秒もの大差をつけることになり、ロヴァンペラも6.4秒遅れ、勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)も12.9秒遅れで続くが、選手権のためにもふんばりどころであるはずのタナクは、今朝、ヌーヴィルがクラッシュした欄干のあるコーナーでオーバーシュート、スーパーサンデーでは13秒遅れの5位という厳しい状況に追い込まれるとともに総合でもエヴァンスに1.1秒差に迫られることになった。
もちろんエヴァンスとしてはタナクを抜き去るだけでなく、スーパーサンデーでもトップを奪うことが最大のターゲットだが、さきほどすでに1回走った経験をもつオジエには叶わなかったと認めた。「経験があったほうが間違いなく良いと言えるよ。もちろん僕らも最高の走りではなかったが、経験があればどんな場所でも把握できるはずだ」とエヴァンスは付け加えた。
そして迎えたミュールタールのパワーステージ、ロヴァンペラが最終的にリードを43.7秒へと拡大して今季3度目の勝利を飾ることになった。2位にはタナクを抜き去ったエヴァンスが続き、トヨタは1-2勝利で5年連続、通算9回目のマニュファクチャラータイトルを飾ることになった。
「ターマックに戻ってとても楽しかった。本当に良い仕事ができたし、チームの皆にもおめでとうと言いたい。間違いなく最高のチームだ。タイトルは絶対に獲りたい。チャンスはオープンだが、まだ簡単ではない。このあとも挑戦を続けるつもりだ」とロヴァンンペラはふりかえった。
エヴァンスがタナクに5.6秒もの差をつけて2位を奪うとともに、スーパーサンデーとパワーステージではともに2番手タイムを奪い、タイトル争いにおいて重要なポイントを獲得した。「フィニッシュはそれほど良くなかった。重要なのはマニュファクチャラーズチャンピオンシップを獲得できたことだ。素晴らしいマシンを提供してくれたチームに心から感謝する。タイトル争いがどうなるか見守ろう」とエヴァンスはコメントした。
オジエは最終的にスーパーサンデーではエヴァンスに8秒もの大差をつけて制し、パワーステージでも2.3秒もの差をつけたベストタイムを奪い、見事、日曜日の最大となる10ポイントを持ち帰ることに成功した。「一日中プッシュしようとした。どれだけポイントを獲得できるか見てみようと思ったんだ。人生とはあのようなこともある。昨日は自分のコントロールできないことが起こった。今はただ前を見るだけだ」とオジエは語った。
また、勝田は土曜日に2つのベストタイムを奪うなどいいフィーリングを掴んでジャパンにつなげる4位でフィニッシュした。
第12戦セントラル・ヨーロッパ・ラリーを終え、ドライバーズ選手権でエヴァンスが247ポイントでトップを奪還、オジエとロヴァンペラが13ポイント差で並んでいる。ロヴァンペラは勝利を奪ったとはいえ、スーパーサンデーとパワーステージではともに3番手タイムに抑え込まれ、最終日に爆発的な速さをみせたオジエを抜き去るまでには至らなかった。3位に後退したタナクは最終日にわずか1ポイントの獲得にとどまり、選手権でも50ポイントのビハインドという絶望的な状況となってしまった。
マニュファクチャラー選手権ではトヨタが632ポイントへと伸ばしてヒョンデとの差を168ポイントへと拡大することに成功、残り2戦で獲得できる最大ポイントは120ポイントのため、ここでトヨタのタイトルが確定することになった。
次戦は3週間後のラリー・ジャパンだ。マニュファクチャラータイトルは決まったとはいえ、ドライバーズタイトルをめぐる争いはいっそう激しくなっており、4人のドライバーの対決に注目が集まりそうだ。