WRC2023/05/15

ロヴァンペラ独走で今季初勝利、選手権リーダーへ

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 2023年世界ラリー選手権(WRC)第5戦のラリー・デ・ポルトガルは、5月14日(日曜日)にすべての行程を終了し、トヨタGAZOOレーシング・ワールドラリーチームのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)が昨年のラリー・ニュージーランド以来となる今季初優勝を獲得、ドライバーズ選手権のランキングトップに立つことになった。

 最終日のレグ3は、4SS/55.42kmと短い一日、11.05kmのパラデスから始まり、ペドラ・センタダの大ジャンプで知られる伝統のステージ、ファフェ(11.18km)、美しいカベセイラス・デ・バストのステージ(22.01km)を走った後、ファフェの再走となるSS19がパワーステージとして行われる。

 ラリーは土曜日の7ステージのうち5つのステージを制したロヴァンペラが57.5秒へとリードを広げて独走状態にあるが、その後方ではヒョンデ・モータースポーツの3人による一歩も引かない激しい2位争いが続く接戦のまま最終日はスタートしている。

 オープニングステージのコースの一部がシェイクダウンステージと重複しているパラデス。緩やかなダウンヒルの後、森の中を走るテクニカルでハイスピードのダウンヒルをこなし、再び丘を駆け上がった後にラリークロス・サーキットでゴールとなる。シェイクダウンで使ったルートは整備が入って轍も埋まりフラットでクリーンなコースとなっているが、そのほかのセクションはルースグラベルが路面を覆っており、森の中は巻き上げられたダストがなかなか消えずに視界を妨げることになった。

 このステージでベストタイムを奪ったのは、勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)だ。 路面の荒れを懸念していたが、「シェイクダウン後に主催者がとても良い仕事をして道路を修復してくれた。轍もあまりなくて楽しめたよ」とロヴァンペラを1.8秒上回ってみせた。

 一方、スタート前までメディアルルームではタイトル戦線を睨んで、ヒョンデが3位につけるティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)のためにチームオーダーを発令するかが話題となっていたが、ヌーヴィルはこのステージでターボにトラブルが発生し、まるでロードモードのようにスピードが上がらない。1分半以上も遅れてしまった彼は、エサペッカ・ラッピ(ヒョンデi20 N Rally1)だけでなく、ハイブリッドシステムに問題を抱え思ったほどペースが上げられなかったオイット・タナク(フォード・プーマRally1)にも抜かれて5位にポジションを落としてしまった。

「終わったよ・・・」とヌーヴィルはステージエンドで力なくコメントした。何が問題なのかと問われたが、「昨日の夕方と似たようなものだ、解明しなければ」と言葉少なく語っただけだ。ヌーヴィルは土曜日の最後のスーパーSSのあと、エンジンルームから煙が上がっているのを目撃されており、チームは夜のサービスで新しいターボに交換済みのはずだった。

 ロヴァンペラはこのステージを2番手タイムで発進、大きなマージンを得ているため攻める必要はまったくないが、ペースを落としてリズムを乱すことを彼は恐れているようだ。「まだスピードが出過ぎているようだ! どれくらい落として走ればいいか分からないんだ、遅すぎるように感じてしまうからね。それでもタイヤを温存していたよ」

 2位のダニエル・ソルド(ヒョンデi20 N Rally1)はトップからは58秒遅れとなっているが、チームメイトのラッピに21.1秒の差をつけてがっちりと2位をキープ、チームの選手権のためにもこのポジションを守ってゴールしなければならないと語っている。「ティエリーのことは本当に残念だ。こんなプランではなかった。次のステージまでに彼が解決できることを願っているが、僕たちとしては計画通りにラリーの完走を目指さなければならない」

 ラリー・デ・ポルトガルだけでなく、WRCを象徴するステージのひとつでもあるファフェ。コロナ禍を脱した今年、10万人近いラリーファンがコース周辺を埋めた。大歓声の中、ロヴァンペラがベストタイムを刻み、これでリードは59.4秒となった。もちろん無理したペースでリードを広げる考えはなく、2回目の走行として行われるパワーステージを照準にしたハイスピードのシミュレーションであることは明確だ。「ステージは予想していたよりもずっとスリッピーに感じた。午後はどれほど滑りやすいか見てみよう、でももちろん、僕たちの計画はパワーステージを勝ち取ることだ」

 昨年、このラリーの最終日に勝田と激しいポディウム争いを展開したソルドは、「昨年のようにフルアタックでステージに臨むことはない。2台しかいないから前の時よりも複雑だ、しっかりケアしていく」と自分のペースを掴んで走ることを意識している。3位のラッピは、「常にグラベルバンクがたくさんあるから注意が必要だ。どこもワイドに走れる様なスペースなんてない」と気を引き締める。すでに2位のソルドとは19.9秒、後続のタナクは1分以上離れているためあとはタイヤを温存して最終ステージに向かうだけだ。

 ターボに問題を抱えたヌーヴィルは、ロードセクションでターボホースの緩みを確認したものの、為す術もなくここでも1分30秒余を失ってしまった。「全然パワーがない。昨夜はまだパワーがあったが、今は何もない。話すことはほとんどない」と振り返る。後続は5分以上離れているため、なんとか5位のポジションを落とさずゴールを目指したいところだ。

 SS18のカベセイラス・デ・バストは、ルートのほとんどがワイドでハイスピードだが、各々のタイム差が開いており、ほとんどのドライバーがポジションキープのペースに切り替えていることと、次に待つパワーステージのためのタイヤをマネージメントすることに留意しており、ポジションに変化はない。

 ここでベストタイムを奪ったのがハイブリッドのブーストを失ったまま走ったタナクだったこともその証だろう。彼は本来ならばパワーステージのためにタイヤをマネージメントする計画だっただろうが、ハイブリッドを失ってポイントも絶望的であるだけに半ばヤケになって走ったと認めた。「速く走ること以外に僕たちはもう他にやることがないんだ・・・。あとはフィニッシュに向かう高速な道だけだ」

 首位のロヴァンペラもこれまでになかったほどにゆっくりとしたペースでステージを走ったため21秒を失い、最終ステージを残してソルドに対するリードは47.8秒に減ってしまった。それでも彼はただの勝利だけでなくボーナス5ポイントへの野心をみせている。「もちろんあとはパワーステージだけだ。楽しんでいくよ!」

 2時間ほどのインターバルを挟んで昼過ぎから始まった最終SS、パワーステージとなるファフェは久しぶりの大歓声に包まれることになった。ロヴァンペラは、満を持したように左フロントにフレッシュなソフトタイヤを装着、ここでも圧巻のベストタイムを奪い、昨年の自身のタイトルを決めたラリー・ニュージーランド以来のWRC9勝目を挙げることになった。「ここまで長かったけど、やっと(表彰台の最上段に)戻ってこれた。ヨンネとチームのみんなに感謝しなければならない。彼らがずっとプッシュを続けてくれたおかげで前進してきたんだ」

 2位でフィニッシュしたソルドは4年連続でポルトガルの表彰台を達成、フィニッシュ地点で、この週末どうしてこれほどまでにプッシュできたのかその決意を明かした。「とてもいい走りができたと思う。クレイグに感謝したい。ラリーの間、彼はずっと僕と一緒にいて、僕を限界に導いてくれたんだ」と彼は語り、ヘルメットを指差した。左半分は自身の昔のカラーリング、右半分はアイルランドの国旗が疾走するように風になびいているカラーリングだ。

 3位にはラッピが続き、ヒョンデはWポディウムを達成することになった。彼はクロアチアに続く2戦連続の3位をステージエンドでゆっくり祝うはずだったが、エンジンルームからは煙が上がっており、急いで走り去っている。「ターボのせいかな!煙が匂う・・・」。それはチームメイトを悩ませた問題と同じ原因であるようにも見えた。

 タナクは4位でフィニッシュも、問題となっていたハイブリッドブーストはやっと目覚めたかのようにここでは彼のプッシュを味方し、ロヴァンペラに続く2番手タイムでボーナスを獲得することになった。「大変だったし、現時点で我々には大きな弱点がいくつかあるので、それを整理する必要があると思う。これらを達成するのは今後2週間の大きな課題だ。とくに荒れたコンディションではうまく機能していない。エンジニアに任せて作業してもらうつもりだ。自分のタフネスは管理したので、あとは彼ら次第だ」とマシンのアップデートが不可欠だと振り返る。

 パワーを失い、我慢のラリーとなったヌーヴィルは、「ラリーとは世界で最も残酷なスポーツのひとつであり、時にはこのような状況に直面しなければならない。それでも素晴らしい仕事をしてくれた主催者と観客に大きな拍手を送りたいと思う」としぶとく耐えてみせ5位で完走した。

 また、勝田は金曜日のリタイアのあとは路面掃除に苦しむ展開となったが、最終日にはトップタイムをマークするなど、この試練にもわずかな突破口を見いだしたようだ。首位から1時間遅れのためポイント圏外の順位となったが、このパワーステージでは4番手タイムのボーナスを加算、マニュファクチャラーポイントでもチームに貢献することになった。「正直なところ、ジャンプの前は少し臆病になった! 金曜日のトラブル後は、ロードオープナーとして道掃き役となり簡単ではなかったが、マシン自体は素晴らしく、チームも本当によくやってくれた」

 第5戦ポルトガルを終えて、ドライバーズ選手権では今回欠場のセバスチャン・オジエと金曜日にリタイアとなったエルフィン・エヴァンスの二人のリーダーはともに69ポイントのまま足踏み状態となるなか、完全勝利のロヴァンペラが98ポイントを獲得して新しいリーダーへと浮上、問題の多い週末となったタナクが81ポイント、ヌーヴィルも68ポイントとそろってやや離されてしまい、混戦状態だった選手権はロヴァンペラが一歩リードする結果となった。

 また、マニュファクチャラー選手権ではトヨタが201ポイントでリードをキープ、Wポディウムのヒョンデ・モータースポーツが169ポイントへと伸ばしたものの、リーダーとの差は29ポイントから32ポイントへと広がっている。Mスポーツ・フォードが134ポイントで続いている。

 次戦ラリー・イタリア・サルディニアは6月1日にスタートする。