WRC2019/06/15

波乱初日はソルドがトップ、2位はスニネン

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 2019年世界ラリー選手権(WRC)第8戦ラリー・イタリア・サルディニアはヒュンダイ・モータースポーツのダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)が波乱の初日を終えてトップに立っている。

 よく晴れた朝を迎えたサルディニアの金曜日は、トゥーラ(22.25km)、カステルサルド(14.72km)、テルグ〜オージロ(14.14km)、モンテバランタ(10.99km)というおなじみの4ステージをアルゲーロのサービスを挟んで午後もループする8SS/124.20kmの一日となり、三日間でもっともラフなコンディションだとの情報だ。

 アルゲーロの気温は9時の時点ですでに28度に達しており、朝のループのスタートを前にしてドライバーとチームはタイヤチョイスに頭を悩ませることになる。昼過ぎには36度まで上昇する天気予報は伝えており。この週末の戦いはいつにもましてタイヤの激しい摩耗が懸念されている。

 ルースグラベルが多いスリッパリーな1回目のループにむけて、ミディアムを主体とした選択が多くなる可能性もあることから、昨日のシェイクダウンではミディアムを温存するためにペースを落とすドライバーもいたほか、木曜日の夕刻に行われたSS1イッティリ・アレーナ・ショーでもアグレッシブな走行を控えたドライバーも見受けられた。各ドライバーともこの週末には28本のタイヤを使用できるが、ミディアムの本数は16本に限られているためだ。

 金曜日の朝のループにむけたドライバーの選択は大きく分かれることになった。シェイクダウンでもハードを使った3番手スタートのヌーヴィルはミディアム6本をチョイス、タナクとクリス・ミークはハード2本+ミディアム3本、ヤリ-マティ・ラトバラやMスポーツ・フォードの二人は5本ともハードタイヤを選択だ。そして、オールミディアムを選択するかにも思われていた一番手スタートのオジエさえハード3本+ミディアム2本を選択する。

 さまざまなタイヤ戦略が渦巻くなかで始まったSS2トゥーラでベストタイムを奪って発進したのはスニネンだ。ベテラン・コドライバーのヤルモ・レウティネンとの新コンビでの初戦を迎えた彼は、オーバーナイトラリーリーダーのセバスチャン・オジエ(シトロエンC3 WRC)をはるか遠くに追いやって、いきなりラリーリーダーへと浮上、チームメイトのエルフィン・エヴァンス(フォード・フィエスタWRC)が4.8秒差で続き、Mスポーツ・フォード勢が1-2態勢でスタートする。

 スニネンはさらに続くSS3カステルサルドでも連続してベストタイム、ヤリ-マティ・ラトバラ(トヨタ・ヤリスWRC)がバンピーなセクションであわやコーナーを曲がりきれないかに見えたが2番手タイムで続き、ブレーキバランスに問題を抱えたエヴァンスを抜いて10.6秒差の2位へと浮上してきた。エヴァンスは1.4秒差の3位、ダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)がSS2で左リヤをパンクしながらも4位で続き、選手権2位のオイット・タナク(トヨタ・ヤリスWRC)が2番手走行で路面掃除に耐えながらも5位で健闘している。

 新旧フィンによる首位争いが続くかにも見えたが、SS4テルグ〜オージロでスニネンはスピン、左リヤのエアロを失って15秒あまりをロスすることになり、アグレッシブな走りを続けているラトバラに2.9秒差で抜かれて首位を明けわたすことになる。

 ラトバラは、右コーナーで大きくスライドさせてリヤをバンクにヒットするも、スニネンを逆転して首位に立ったことを知るや、笑顔を見せることになる。「あれほどスリッパリーになると予想していなくて、かなり危なかった。トニ・ガルデマイスターが1997年に同じコーナーで横転しているから、あのコーナーのことは知っているんだ」

 朝のループの最後のステージとなるSS5モンテ・バランタは波乱とともに始まることになった。一番手スタートからペースが上がらず、ここまで首位のラトバラから25秒の遅れを喫して9位と苦しんでいたオジエが、ステージ序盤のオルメド鉱山のセクションでイン側におかれた石に乗り上げてサスペンションを破損、彼はどうにか修理を行うとするもアームが折れただけでなく、足回りは粉々に壊れており続行を断念することになってしまう。

 オジエの横をすり抜けるように通過したタナクはここから一番手でコースオープナーを務めることになるが、なんと彼はここでベストタイムを刻み、スニネンを抜きさって首位のラトバラの2.8秒後方の2位へと浮上することになった。

 ラトバラはヘアピンでエンジンをストールさせたものの、大きくタイムを落とすことなく首位キープに成功、「ストールしていなかったら、きっともっといいタイムが出せた」と上機嫌だ。「いい朝になった。僕らはハードタイヤを5本持っていて、これは素晴らしい選択だったと思う。今朝のテームは僕より早かった。どれだけプッシュしてどれだけタイヤを節約するかを知るのは難しいが、午後もすべてハードでいくつもりだ」

 朝のヒーローとなったスニネンは、このステージでは8.4秒をロス、タナクだけでなく、ソルド、エヴァンスに抜かれて5位まで後退、前ステージのスピンで自信がもてなかったと告白することになった。「新しいコドライバーとのスタートは最初の2つはよかったが、残念ながらいくつかミスを犯してしまい、最後の1つでは自信がなかった。慎重に行き過ぎたんだ」

 とはいうものの、スニネンから首位のラトバラまでは7.7秒、2位のタナクも4.9秒差でしかない。タナクと3位のソルドも0.7秒差という大接戦だ。

 朝のループを終えて、首位から14.1秒遅れの6位につけるのはヌーヴィル。彼はミディアムタイヤ6本の選択を後悔することになった。「朝の時点では6本のミディアムをチョイスしたことに自信をもっていたが、ベストではなかったね。外側に石だらけの狭いステージで1本余分に重りを積んでいたからね」

 午後のループは朝のループで輝いた主役が波乱に見舞われて始まることになった。なんと首位のラトバラが16.5km地点の下りの左ヘアピンで横転、数台に抜かれたあとどうにかコースに復帰するもフロントガラスを破損しているだけでなく、真っ直ぐに走れない状況だ。

 彼はエサペッカ・ラッピにも抜かれ、8分30秒あまりも遅れてゴールにたどりつくや疲れ果てた様子でその場にへたりこんでしまう。「横倒しになったマシンを元に戻すのに、非常に力を使った。誰も手助けしてくれなかった。ヘアピンをタイトにカットしすぎたんだ」と彼は息も絶え絶えに答える。熱中症のような症状をみせたことから彼はステージエンドで治療を受けたあとどうにか次のステージへと向かっている。

 ラトバラのドラマで首位にはタナクが浮上、2番手タイムのソルドもここでタナクを捕らえて二人は首位で並ぶことになる。だが、このステージでは朝のループで5位まで落ちたスニネンがベストタイム、首位の二人に0.8秒差に迫ってみせ、「よかったね。これを続けられたらいいね」とステージエンドで笑顔をみせた。ゲームは再開だ。

 さらにこのステージでは、ペースノートの聞き違いから6位につけていたヌーヴィルが残り750m地点でオーバーシュート、ノーズからバンクにヒットしてしまう。ヌーヴィルは18秒程度の遅れでステージをフィニッシュしたが、ラジエーターには2箇所の破損があり水が漏れており、彼はロードセクションで修理を行って次のステージへと向かっている。

 首位に立ったとはいえ、いまやランニングオーダーのトップとなったタナクは残された3ステージで試練が待ち受けていることをこのステージで覚悟したようだった。

 SS7カステルサルドでは路面掃除に苦しむタナクに続いて走行したヌーヴィルがフロントを大きく壊したマシンながらタナクを5秒上回るベストタイムを奪い、その後、エヴァンスが走行した段階で観客に急病人が出たためにステージはキャンセルとなった。

 ソルドはステージが再開したSS8テルグ〜オージロでもタナクに4.7秒差をつけるベストタイムで単独でラリーをリード、SS9モンテ・バランタでも6.5秒差をつける3番手タイムを奪ってトップでサービスへと帰ってきた。

「僕らにとって本当に良い日になった。ずっとタイムがよかったし、多かれ少なかれ常にペースに乗っていた」とソルドは語った。前戦ポルトガルでは燃料系のトラブルで首位を失っただけに、彼はいいリベンジができたことを喜んだ。「もちろん明日はまた別の日だ。でも、僕らは今日のようにやろうとするだけだ」

 朝のループでのスピンのあとは着実な走りを目指したというスニネンが最終ステージでタナクを0.4秒差ながら抜き返してソルドから10.8秒差の2位でフィニッシュ。後続のドライバーより1つステージを余分に走ったタナクは、ゴールしたときにはタイヤはぼろぼろに擦り切れている状態だったが、一番手の走行になったこともこの順位でゴールできたことも予想外だったと満足げにふりかえっている。「セブは残念だった。一番手の走行になるなんて予想とは異なっていたが、どうしようもない。でも、この順位もまた僕の期待を超えたものだ」

 アンドレアス・ミケルセン(ヒュンダイi20クーペWRC)は朝のループでミディアムタイヤ4本を選択したことを悔やみながらも、午後のループでは8位から4位までポジションを上げて首位から20.2秒差で続いている。好ペースをみせて4位につけていたエヴァンスはSS8でタイヤのグリップを失ってコーナーでオーバーシュート、幸いにもコースに復帰できた彼はミケルセンから0.1秒差の5位で金曜日を終えることになった。

 クリス・ミーク(トヨタ・ヤリスWRC)はSS5でスピンによるエンジンストールもあったが、慎重な走りをキープして6位につけている。ヌーヴィルはフロントバンパーも失い、完全にタイヤが擦り切れてしまったマシンでスピンとオーバーシュートに耐えながらも57.7秒差の7位で続いている。

 シェイクダウンのいい走りが姿を潜めてしまったエサペッカ・ラッピ(シトロエンC3 WRC)。「狭くてツイスティなセクションでマシンがまったく曲がらない」と首をひねりながら朝のループでずるずると50秒近くの遅れを喫してしまった。SS5ではベストタイムを奪ったほか午後のループではトップ3のタイムを3回奪うなどペースを取り戻しているが順位は8位。「ギヤボックスの交換で残念なミスがあったと思う。センサーがオープンのままだったんだ。いいタイムが出ているのに、明日はいいポジションで走れないのでがっかりだよ」と彼は肩を落としていた。

 また、1年半ぶりにWRCに帰ってきたユホ・ハンニネン(トヨタ・ヤリスWRC)が2分38秒遅れの9位で初日をフィニッシュ。SS6の横転で27位までポジションを落としていたラトバラは最終ステージの8.7km地点で突然リヤのグリップを失ってコースオフ、リタイアとなってしまった。

 波乱の一日を象徴するように、この日最後のサービス前のタイムコントロールに向かう直前でFIAによる抜き打ちの燃料チェックが行われ、スニネンとミークはエンジンを止めたあと再始動ができなくなってヒヤリとさせたが、どうにか押しがけに成功してチェックインすることになった。

 明日の土曜日は、ミッキーズ・ジャンプで有名なモンテ・レルノをはじめとした6SS/142.42kmの一日となる。オープニングSSのコイルーナ〜ローレは現地時間8時8分(日本時間15時8分)のスタートが予定されている。