2025年世界ラリー選手権(WRC)最終戦ラリー・サウジアラビアの金曜日は、タイトル争いをするドライバーとともに優勝争いをするすべてのドライバーがタイヤトラブルに見舞われるという大混乱の一日となった。それでもアドリアン・フールモー(ヒョンデi20 N Rally1)が最終ステージでトップを奪還、マルティンシュ・セスクス(フォード・プーマRally1)に2.4秒差をつけて一日を終えることになった。
だが、波乱の一日はそれだけで終わらず、フールモーは最終サービス前のタイム・コントロールに早着するミスによって4位へと後退してしまった。これでセスクスが首位、ティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)が3.4秒差の2位、勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)が3位につけて最終日を迎えることになった。
金曜日は、いつものルースサーフェス・イベントとは異なり、ジェッダ・コーニッシュ・サーキットでの15分間のモーニングサービスから始まり、アルガラー(11.69km)、ウム・アル・ジェルメ(30.58km)、ワディ・アルマトウィ(24.90km)の3ステージが朝のループとして行われる。ミッドデイサービスをはさみ、午後も同じ3ステージをループする6SS/134.34 kmの一日となる。
WRC初開催のサウジアラビアは木曜日を終えて、これまでWRCで優勝経験のない若手ドライバーがトップ3を占める異例の展開となっているが、金曜日のオープニングステージのSS9アルガラーでも上位勢が好タイムを記録してスタートすることになった。
ラリーリーダーとして金曜日を迎えたフールモーは、2位につけるサミ・パヤリ(トヨタGRヤリスRally1)に1.8秒差をつけるベストタイム、リードを7.8秒に拡大することになった。それでもサンディな路面は驚くほど柔らかいため深いわだちが刻まれ、路面には大量の石が散乱している。そのためフールモーはペースをコントロールしなければならなかったと説明した。
「もちろんスタートポジションが有利に働いたことは確かだが、路面はいたるところに石が散乱していたよ。グリップが刻々と変化する中で、決して楽なステージではなかったが、クリーンに走ったよ」
金曜日に4つのベストタイムを奪うセンセーショナルな走りで3ステージにわたってラリーをリードしたセスクスが3番手タイム、首位のフールモーとの差は9.8秒、パヤリとの差も0.9秒から2秒へとやや広がっている。「まだ良いフィーリングではなかったよ。もっとプッシュしようとしたが、路面には轍がたくさんあり、小さなミスもいくつかあった。もう少し落ち着く必要があるよ」とセスクスは自らを戒めた。
トップから18秒遅れの4位にはオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)、さらに1.9秒差でチームメイトのヌーヴィルが続き、勝田も着実なペースで6位につけている。
SS10ウム・アル・ジェルメでもこれまでラリーの主導権を握ってきたトップ3が引き続き素晴らしい戦いを続けているが、なかでもここでもっとも素晴らしいパフォーマンスをみせたのはセスクスだ。2番手タイムを奪った彼は、パヤリを抜いて2位に浮上する。それでも右フロントと左リヤをスローパンクしており、次のステージへの影響は必至だ。
フールモーはここではタイヤを守るかのように5.7秒遅れとややペースを落として首位をキープ、セスクスに対するリードを4.2秒としている。
それでもこのステージで最速タイムを記録したのはタナクだ。パヤリまで7.1秒差まで近づいてきた彼は、さらにSS11ワディ・アルマトウィでも連続してベストタイム、表彰台圏内まで4.7秒、ラリーリーダーのフールモーにもわずか9.2秒差に迫って朝のループを終えることになった。「このステージの最後の区間は石がかなり混じっていて、ほとんど運任せだった。だから、今日一番難しいステージだし、2回目はもっと荒れるだろう」
朝のループの最後のこのステージではトップ3の順位変動はなかったが、フールモーはここでもペースを落とし、後方の勢いに優るセスクスがその2.9秒差に近づき、パヤリもまた4.5秒差に迫った。
それでもフールモーはナーバスになりすぎたわけではなく、むしろペースを完璧にコントロールできていると笑みをみせた。「完璧にいっている。うまくコントロールできているんだ。もちろんリスクは避けているが、あちこちに岩がゴロゴロしている。時々、岩に巻き込まれてタイムロスしてしまうこともあるが、それがこのラリーへの僕のアプローチだ。午後は何かが起こると予想しているので、このまま走り続ける」。ミッドデイサービスではフールモーのサスペンションにはダメージが見つかったことがチームから明らかにされており、フールモーの笑みは致命的なダメージを回避した安堵でもあったようだ。
このワディ・アルマトウィは、スタート前からもっとも危険なステージだとドライバーたちから批難されてきた。そのため当初予定された28.59kmは終盤の狭い崖っぷちを走る危険な高速ダウンヒルを回避するために24.90kmに短縮されている。
それでも1回目の走行からすでに危険な石がごろごろ転がるセクションが至るところにあり、選手権リーダーのエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)がスタートから4.1km地点で早くもタイヤ交換を強いられてしまう。
エヴァンスは、木曜日の路面掃除とパンクでタイトルを争うセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)に41秒も遅れた9位で金曜日をスタートしたが、これでグレゴワール・ミュンスターにも抜かれて10位へ後退、選手権のライバルとの差は2分36秒へと拡大、初タイトルへのチャレンジはますます困難になってしまった。
「ステージのかなり早い段階でパンク警告が出たが、それまで何も兆候がなかったんだ」と、エヴァンスは冷静さを保ちつつも首を横に振る。「まだかなりの距離があったにもかかわらず、空気圧が急激に低下したので、タイヤ交換が賢明な選択だと判断した。当然のことながら、そのことで多くの時間を失ったが、今は全力を尽くしてやり続けるしかない」
7位につけるオジエは、エヴァンスに何が起こったのかを知らされ、この難関ステージを非常に慎重に走行、そのため8位につけるカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)が終盤に左フロントタイヤの空気圧が低下したにもかかわらずオジエとの差を32.1秒からわずか19.9秒まで縮めることになった。
「非常に慎重に走った。路面は本当に柔らかく、至る所に岩があるので、リスクを取ることが全てだった」と、オジエは荒れたステージを批難した。エヴァンスのトラブルは当然ながらオジエをタイトルを近づけたが、もちろんそのことを彼は楽しく思っていない。
「誰もパンクしたいとは思っていないのは確かだ。まるで宝くじのようなステージは、全く楽しくない。しかし、結局のところ、僕らは依然として走り続けなければならない。それが午後の目標だ。たとえこれから先、さらに荒れた路面になったとしても、現実はそういうものだ」
ミッドデイサービスのころには気温は34度まで上昇。午後のループの最初のステージであるSS12アルガラーは激しく路面が荒れており、これまでタイヤトラブルを免れてきたオジエがついにここでパンクを喫してしまう。
オジエは幸いにもスローパンクだったため、そのタイムはロヴァンペラとエヴァンスを上回り、タイムロスは大きくならなかった。それでも、残りのループステージに向けて、スペアタイヤは1本しか残っていない。
勝田は2.4km地点のジャンクションでオーバーシュート、コースを逸れて巨大な岩に向かって滑り落ちたが、岩にぶつかる直前でマシンはストップ、どうにかコースに戻ってそのまま走行を続けている。彼もまたステージ終盤にスローパンクに見舞われたものの、オジエに17.4秒差をつけて6位を維持している。
上位勢はさらに接戦となっており、フールモーがリードしているが、セスクスとの差はわずか1.9秒に縮まり、パヤリも6.9秒遅れで3位をキープしている。そして、このステージでもベストタイムを奪ったタナクはついにパヤリと同タイムで3位に並び、優勝争いに加わることになった。
サウジアラビアのあと、しばらくWRCから離れることを宣言しているタナクとしては節目の一戦で勝利を飾りたいところだが、このコースでこれ以上ペースを上げるのは困難だと訴える。「本当に石が多かった。パンクとスピードアップのバランスを取るのは非常に難しい。全力で攻めるわけではないが、良いリズムが必要だ」とタナクは語った。それでもトップが見えてきたせいか、上機嫌だ。「それにしても若いドライバーたちはずっと速く走っているが、それは彼らがあまり気にしていないか、リスクが何かを知らないからだ」とタナクは冗談を言って苦笑した。だが、皮肉なことにトラブルはタナクとともに若いパヤリに同時に襲いかかり、二人ともに優勝のチャンスを失ってしまう。
タナクはSS13ウム・アル・ジェルメの9.3km地点でタイヤ交換のためにマシンストップ、1分30秒を失って5位へと後退してしまう。さらにその直後、こんどはパヤリも18.7km地点でパンクのためにマシンを止めたものの、交換作業はタナクほどはかどらず、8位へとポジションを落とすことになった。タナクはステージエンドで「パンクだよ」としか語らず、パヤリも落胆したように「5速全開で空気が抜けてしまった」と声を落とした。
ラリーリーダーのフールモーもまさかのドラマに遭遇した。彼はパヤリが巻き上げたダストに阻まれてジャンクションで判断をミス、異なる道に侵入してしまい20秒あまりをロスしてしまった。「サミのダストの中を走っていたので、ジャンクションがよく見えず、コーナーをオーバーシュートしてしまった。ひどい埃で何も見えなかったんだ」
これでこのステージでベストタイムを奪ったセスクスがフールモーを一気に逆転、22.1秒もの大差をつけてリーダーを奪い返した。「難しいステージだった。プッシュできそうな場所もあったが、実際にはできなかった。少なくともトライはした」とセスクスは語ったが、初優勝の可能性については首を横に振って口を閉ざした。彼の右フロントタイヤのブロックはいくつか失われて再使用は不可能なほどにダメージを受けており、左フロントのサイドウォールにも小さな裂け目ができているため、事態を楽観視する余裕はどこにもない。
これで総合順位は大きく変動した。朝のループでダンパートラブルに見舞われていたヌーヴィルも大きく順位を戻してフールモーから28.2秒差の3位へ、さらに34.8秒差で勝田が4位に、9.9秒差でタナク、オジエも6位へとポジションを上げてきた。ロヴァンペラとパヤリを間に挟んで9位にはエヴァンスが続く。
この日の最終ステージとなったSS14ワディ・アルマトウィは、タイヤダメージ続出のまさしく悪夢のステージとなり、タイヤにダメージがないまま走り切ったドライバーはほとんどいなかっただろう。そうしたなかでロヴァンペラが驚異的タイムでステージウィンを獲得、オジエを抜いて5位にポジションを上げることになった。
オジエは当初、コース上でタイヤ交換のためストップしたという情報が流れた。この情報はチームからエヴァンスにも伝えられ、スプリットタイムにもオジエが2分あまりをロスしたことが表示されていた。しかし、その後、これはまったく奇妙な誤報だったことが明らかになっている。それでもオジエはステージ終盤、リヤタイヤの片方が確かに空気圧低下があったため、まるでタイヤ交換を認めたかのようなやりとりがステージエンドでなされている。「ステージの最後でパンク。まあまあだ。どうしようもないね」。タイヤ交換は一度も行われず、彼はロヴァンペラより23.8秒遅れて6位でこの日を終えている。
7位のパヤリを挟んで、エヴァンスが総合8位につけているため、オジエはここまでの順位での暫定ポイントでエヴァンスを選手権で1ポイント上回った計算であり、タイトルの行方は最終日のスーパーサタデーにすべてがかかる。
タナクがまたしてもタイヤ交換のためにストップしたが、サスペンションにも問題を抱えてペースが上がらず、後続のパヤリのためにマシンを止めてパスさせている。彼はステージを5分あまりも遅れてどうにかフィニッシュ、「WRCのフィナーレとして全く信じられないようなものになっている」と言い残して走りさったが、けっきょく、ロードセクションでマシンを止めてリタイアとなっている。
だが、これほど多くの波乱が起きたあと、このステージの最大のドラマがラリーリーダーのセスクスに襲いかかる。彼は左リヤタイヤを完全にブロー、吹き飛んだゴムがリヤフェンダーを壊して満身創痍の状態でどうにかフィニッシュする。「どうしようもない。どうなるか見ていこう・・・」と、セスクスは元気なくうなだれる。
セスクスはロヴァンペラのトップタイムから54秒も遅れ、トップ陥落だけでなく、優勝争いから完全脱落するかにも思われた。だが、彼にとって幸運だったのは、フールモーもパンクに見舞われていたことだ。
フールモーは左フロントタイヤをリム落ち状態でスローペースでフィニッシュ、ラリーリーダーに浮上することになったが、セスクスとの差はわずか2.4秒差にすぎない。「ヒュー!すごかったよ。あちこちに石だらけで、どこでパンクしたのかも分からない、まさにクレイジーなラリーだ。リードを失ったかと思ったら、また戻ってきたよ。(タイヤ交換のために)ちょっと止まろうか迷ったけど、いや、絶対なんとか走り切るって決めたんだ」
これで明日の最終日はフールモーと2.4秒差で続くセスクスの優勝争いになるかにみえた。
だが、さまざまな混乱のあった金曜日のドラマはこれだけで終わりではなかった。フールモーは最終サービス前のタイム・コントロールに早着するミスによって1分のペナルティが課せられて4位へと後退してしまう。これでセスクスが首位、3.4秒差で2位のヌーヴィル、さらに38.1秒差で勝田が3位につけて最終日を迎えることになった。フールモーは首位から57.6秒差の4位に後退してしまい、悲願の初優勝は来年にお預けとなってしまった。
最終日は、まるでアルゼンチンのエル・コンドル・ステージを彷彿とさせる巨岩を縫うようなセクションをもつタバン・ステージからスタートする3SS/65.86kmを走る一日となる。ステージのスタートは現地時間の9時5分、日本時間の15時5分が予定されている。
はたしてセスクスが逃げ切って初優勝を飾るのか、それともヌーヴィルが今季初優勝を飾るのか。そしてチャンピオンの行方はどうなるのか。最終日にはラリー最長のステージも待ち受けるため、まだまだその行方はわからない。