WRC2025/06/07

波乱続出のサルディニアをオジエがリード

(c)Toyota

(c)Hyundai

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 2025年世界ラリー選手権(WRC)第6戦ラリー・イタリア・サルディニアは金曜日の初日、トップ争いをしていたティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)がアクシデントでリタイアする波乱のなか、セバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)がトップに立っている。
 
 サルディニアの金曜日は島の北東に位置するオルビアのサービスパークから北部のガッルーラ・エリアへ向かい、アルツァケーナ(13.97km)のあと島中央部のモンテ・アクートのエリアへと向かい、テルティ〜カランジャーヌス〜ベルキッダ(18.43km)、サ・コンケッダ(27.95km)を走ったあとミッドデイサービスが行われ、午後も同じ3ステージをループする6SS/120.70kmの一日となる。

 朝9時の気温は22度、日中は内陸部は30度を超えると天気予報は伝えている。SS1アルツァケーナのコースは起伏もゆるやかであり、高速で流れるようなステージは狭く、滑らかなリズムで駆け抜ける。路面に転がる石はそれほど多くないようだ。
 
 一番手スタートのエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)、そして2番手スタートのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)が路面を覆うルースグラベルに阻まれて出遅れるなか、3番手の走行順ながらもオジエが二人に10秒以上引き離す驚異的なペースでラリーはスタートすることになった。

「何度かグリップ限界に近づいた。これまで何度もリードを奪ってきたので、こういう走りには慣れている。とにかくクリーンな走りで、コーナーリングでスピードを維持するだけだよ。でも後続はどんどん速くなっていくだろう」とオジエは語ったが、後方のドライバーは彼のタイムを破ることができずに、彼はラリーリーダーとなった。

 0.8秒差の2番手タイムで続いたヌーヴィルは、オジエからそう遅れていないことに驚いていた。「驚いたよ。それほど良いフィーリングではなかったからね。それでも、良いスタートだ。まだまだやれることはたくさんあると分かっている」

 オープニングステージでオジエからわずか1秒遅れの3番手タイムという素晴らしいスタートを切ったのは8番手という走行順を味方にしたサミ・パヤリ(トヨタGRヤリスRally1)だ。「スタートポジションが有利に働くのは明らかだ。かなりうまくいった。完璧なリズムを見つけるのは簡単ではない。グリップが良い時もあれば、そうでない時もあったので、クリーンな走りを心がけた」

 アドリアン・フールモー(ヒョンデi20 N Rally1)は、チームメイトのオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)を抑えて4番手タイム、後方スタートのMスポーツ・フォード勢はクリーンな路面のおかげでジョシュ・マクアリーン(フォード・プーマRally1)が6番手、マルティンス・セスクス(フォード・プーマRally1)が7番手で続いている。

 だが、SS2テルティ〜カランジャーヌス〜ベルキッダは好スタートを切ったかに見えたMスポーツ・フォード勢にとって悲惨なステージとなった。セスクスが4.2km地点のハイスピードのジャンプのあとの着地で姿勢を乱してフェンスを突き破って横転、リタイアに追い込まれた。さらにマクアリーンも10km地点の高速左コーナーでリヤをスライド、石の崖にヒットしてスロー走行したあとマシンを止めている。

 それだけではない。グレゴワール・ミュンスター(フォード・プーマRally1)が右リヤサスペンションを壊してしまいタイヤが真っ直ぐ回転しない状態のマシンでスロー走行でフィニッシュしたが、修理不能のためロードセクションでリタイアを余儀なくされている。
 
 しかし、このステージはMスポーツ・フォードと対照的にヒョンデにとって素晴らしいステージとなった。圧倒的な速さを見せたタナクが、チームメイトのヌーヴィルに3.3秒差をつけてトップタイムをマークした。総合順位ではヌーヴィルが首位へ、1秒差でタナクが続く展開だ。それでも二人はそれほどステージには満足していない様子だ。

「あまり良いフィーリングではなかった。いつもよりプッシュしていたのは確かだ。それでも、今はマシンを楽しんでいない」とタナクは不満そうに語った。ヌーヴィルもまさか自身がリーダーになるとは予想してないかのように渋い表情だ。「エンジンが突然ストールした。そうなる理由は全くなかったので、なぜだか分からなかった。数秒のロスをしてしまったよ」

速さをみせたのはタナクとヌーヴィルだけではない。フールモーが右フロントのエアロを壊しながら3番手タイムで続き、このステージではヒョンデが1-2-3番手タイム。フールモーはパヤリと並んで3位にポジションを上げてきた。「フロントをヒットしたが、損傷はないと思う。かなり厳しいステージだった。林の中はまだダストがかなり残っていたが、正直、それほど気になるものではなかった」とフールモーは笑顔をみせた。

 前ステージでトップタイムをマークしたオジエは、首位のヌーヴィルから6.1秒遅れの5位へと後退、ステージエンドに到着した彼の顔は苦闘で汗ばんでいた。「本当に難しかったよ。ステージは非常に狭く、グリップもほとんどなかった。これ以上のことはできなかった」

 オジエの7.7秒後方にはここでトヨタ勢最速タイムの4番手タイムをマークした勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)が7位で続いているが、先頭スタートのエヴァンスはここでも11秒遅れの8番手タイムで首位から17.3秒遅れの8位、ロヴァンペラは17.5秒遅れの9位に沈んでいる。「ルースグラベルが多かったんだ。ステージのほとんどが非常に狭く、あのセクションではマシンに自信が持てなかった。マシンが思い通りに動いてくれないんだ」とロヴァンペラは説明した。

 モンテ・アクートの中心部を縦断するSS3サ・コンケッダは27.95kmというラリー最長のステージであり、2回目の走行ではこの日最も過酷なコンディションになりそうだと恐れられていたステージだ。

 ここではこれまで好調な走りをみせて3位につけていたパヤリが、右フロントタイヤをスローパンクさせてフィニッシュすることになった。幸運なことに、この出来事はステージの終わり近くに起こったため、彼はあまりタイムを失うことはなかったものの5位へと後退してしまった。「岩にぶつかっただけだ。よくある状況だ。最後の最後で起きたことだから、それほど劇的なことはなかった」

 パヤリの不運とは対照的に同じく3位につけていたフールモーがベストタイム、一気にトップに浮上してきた。とはいうものの、彼は闇雲に攻めたわけではなく、慎重なアプローチだと釘を刺す。「トラブルを避けようと努め、特に最初のステージではリスクの高い場所ではスローダウンを優先した。その後は少しプッシュすることができたが、この長いステージでもコースの中央には石やグラベルがたくさんあったのでリスクを避けながらクリーンに走った」とフールモーは笑顔をみせた。

 前戦のラリー・デ・ポルトガルでは金曜日の朝、初優勝が期待されるペースを見せながらも不運なメカニカルトラブルで戦列を去っていただけに、彼はラリーがまだまだ始まったばかりであることを理解している。「マシンが少し鈍いと感じたので、ステージの合間に常に硬めに調整したところ、良い方向に進んだんだ。午後に向けて何ができるか見てみよう。でも、ラリーは長い。トップ5になるのさえも厳しいラリーだ。落ち着いてベストを尽くすだけだ」

 チームメイトのヌーヴィルは2.9秒差の2位へと後退、オジエがタナクを抜き返して3位へポジションを上げてきた。

 朝のループでトヨタ勢がソフトコンパウンドタイヤを3本選んだことに対してヒョンデ勢は4本のソフトを選んだが、ヌーヴィルはまだハンコックのタイヤがこのようなコンディションでどのようなグリップと耐久性をみせてくれるのかわからなかったので、なかばギャンブルだったと認めている。「ステージは非常に滑りやすかったが、ペースは良かった。タイヤについてはギャンブルもあったが、満足しているよ。それでも路面状況からのフィードバックがもう少しほしいので、マシンのセッティングを少し調整するつもりだ。あとは良いタイヤ選択をして、基本的に朝の走りを繰り返すだけだ」

オジエは3番手という不利な走行条件ながら金曜日の朝を終えて、トップから8.1秒遅れの3位につけて、優勝を争うことができるポジションに留まることができていることに満足している。「とても良い走りだったと思ったと思う。サルディニアに向けてテストができなかったので、セットアップやタイヤの情報は不足しているのは確かだが、満足しているよ。たしかにヒョンデのように、もう少し多く(ソフトを)積んでおくべきだったかもしれない。しかし、ソフトタイヤはそれほど多くない。今週末のどこかでまだ役に立つかもしれない」
 
 オジエから0.9秒差の4位にタナク、5位へと後退したパヤリの後方4.5秒差の6位にはここで2番手タイムを奪った勝田が続いている。それでも勝田はまだ自身の走りには満足しているわけではない。「今のところ、自分のドライビングにはまったく満足していない。自信もあまり持てていないが、午後は改善すると思う」

 まったくペースが上げられないロヴァンペラは首位から30.6秒遅れの7位、エヴァンスは特に長いこのステージで道路清掃に苦しみ、トップから40秒以上遅れて8位につけている。

「かなり厳しいね。もちろん、ハンドルを握った感触はすごく良かった。後ろの選手たちに大きく遅れを取らずに、なんとか戦い続けることができた時もあったけど、最後のステージでは明らかにかなり遅れてしまった。特にステージ前半でね。だから、確かに厳しい。そして落ち込むよ」とエヴァンスはため息をついた。
 
 オルビアのミッドデイサービスを迎えるころには島の中央部のステージでは気温が30度まで上昇、午後のループに向けたタイヤチョイスにドライバーたちは悩まされる。高温によるタイヤの摩耗やダメージ、さらにタイヤの内圧上昇によるトラブルを避けるためにハード主体になりそうだが、2回目のループでもルースグラベルが多いと予想されるためソフトもほしいところだ。ヒョンデはタナクとフールモーが5本ともハード、ヌーヴィルもハードを4本とハード1本を選択したが、オジエはソフト2本とハード3本という興味深いチョイスでステージへと向かう。

 アルツァケーナの2回目の走行で速さをみせたのはヒョンデ勢だ。2番手タイムのヌーヴィルが、フールモーに0.2秒差をつけてトップを奪い返し、さらにベストタイムを奪ったタナクがオジエを1.9秒差で抜いて3位を取り戻した。これでふたたびヒョンデは1−2−3態勢だ。

 いよいよアタックモードかと聞かれ、タナクはハードタイヤに変えたことでグリップの変化に驚かされたと語った。「グリップが全く違っていた。ステージ序盤はまずまずだったが、その後いくつかのひやりとしたシーンがあった。あまり許容度が高くなかったからね」

 2番手タイムのヌーヴィルもオールハードにタイヤを変えたことで最初はずいぶん戸惑ったと認めた。「正直あまりいいスタートではなかった。ハードタイヤと新しいセッティングに慣れるのに少し時間がかかったけど、終盤はバランスも改善してフィーリングが良くなってきた」

 だが、続くSS5カランジャーヌス〜ベルキッダでラリーリーダーに悪夢が襲いかかる。岩壁に挟まれた村のなかの狭くハイスピードのセクションで高速ジャンプのあとヌーヴィルは左リヤを岩壁にヒット、サスペンションは一瞬のうちに破損することになり、彼はスローダウンしたあとアクセスロードでマシンを止めることになった。

 これで首位にはふたたびフールモーが浮上することになったが、チームメイトのタナクとの差はわずか1.2秒だ。さらに3.4秒差の3位にオジエが続いているが、タナクもこのステージで何かの問題に見舞われていたことを認めており、次のステージへの影響が懸念されるところだ。「何が起こったのかわからない、ステージのかなり序盤だった。クルマのコントロールを失ってしまったんだ。そのあともステージを通してずっとクルマと格闘していた、原因はわからない・・・」

 また、6位につけていた勝田も序盤ではトップタイムに匹敵するペースを刻んでいたものの、8.3km地点の低速右コーナーのイン側のマウンドに近づきすぎて横転、運転席側のドアから立木にヒットしてルーフを下にしてストップしてしまう。ドアは激しくへこんだものの、衝撃吸収フォームに助けられた勝田にも怪我はなく、観客とマーシャルに助けられてコースに復帰する。フロントガラスにひびが走った状態で1分近く遅れてフィニッシュしたが、彼はステージエンドでマーシャルにミネラルウォーターを要求しており、冷却系へのダメージが懸念されたが、ロードセクションの修理のあとどうにか次のステージへと向かって行った。

 またジョルダン・セルデリディス(フォード・プーマRally1)も勝田とまったく同じ場所で横転、彼もフロントガラスを壊したものの、観客に助けられてラリーを続行している。

 このステージでベストタイムを奪ったのはロヴァンペラだ。前ステージでの4番手タイムに続き、ここではこの週末初のベストタイムにも彼はそれほど喜んではいない。「午後はクルマのセッティングが良くなかったけど、ロードポジションが良くないからあまりできることがないね」。それでも彼は、4位につけるパヤリまで12.7秒差まで迫ってきた。

 そして迎えたこの日の最後のステージは、ラリー最長のサ・コンケッダの2回目の走行だ。道路はルースグラベルがかなり残り、多くの柔らかいコーナーではわだちが深く刻まれている。ここで満を持したかのようにオジエは左リヤに1本だけフレッシュなソフトタイヤを装着、見事なベストタイムを奪い、フールモーとタナクを抜いてトップで金曜日を終えることになった。

「良い一日だった。前のステージは本当に狭く、簡単にミスしそうだったよ。ここでも持てる力を全て出し切ったので、満足できる」とオジエは語った。2.1秒差の2位にフールモー、さらに5.2秒差でタナクが続いている。

フールモーは「グリップが足りず、クルマが石をうまく吸収してくれなかった」とコメント、タナクは「前ステージからダンパーを壊していた」と明かし、それがなければ巻き返しができるほどマシンは素晴らしい走りができると語っていた。

 タナクから9.5秒差の4位には、朝のパンクのあとも厳しいコンディションのなかでクリーンで走りを続けたパヤリが続いている。「僕たちにとってはかなり大変な1日だったが、120km走ってセブから16秒差なら、悪くないと思う」と彼はステージエンドで笑顔をみせている。

この日の鍵は、なんといってもSS2とSS5の2回の走行が行われたカランジャーヌス〜ベルキッダのステージだ。ここではヌーヴィルを含めて4台のRally1カーがリタイアに追い込まれ、さらに勝田も横転のあと続行はできたもののペースは上がらず7位へと転落してしまっていた。

こうした波乱は、朝から路面清掃に苦労したトヨタのロヴァンペラとエヴァンスに思ってもみない恩恵をもたらすことになった。SS6でも2番手タイムを奪ったロヴァンペラは、トップから22.8秒差、パヤリから6秒遅れの5位で初日を終えており、エヴァンスもトップから1分9秒も遅れてしまったが、6位というポジションは悲観するほどではない。

「今はセッティングが良くなったし、路面コンディションも僕たちにとっては良くなってきている」とロヴァンペラはステージエンドで語った。「これは僕の好きなラリーではないが、すべてのステージで全開でプッシュするよう自分に言い聞かせてきた。それが今日僕たちにできる最大限のことだった」

 エヴァンスも明日はよりクリーンな走行ポジションで気持ちよく走れるはずだ。「仕方ない、こうなることはわかっていた。明日はもっと良い走りができることを願っている」と彼は語っている。

明日の土曜日はモンテ・アクート地域のモンテ・レルノなどおなじみのタフなステージが待ち受ける6SS/121.60kmの一日となる。オープニングステージのコイルーナ〜ローレは現地時間9時5分、日本時間16時 5 分のスタートが予定されている。