WRC2021/05/23

首位タナクに悪夢、エヴァンスが新リーダーに

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 世界ラリー選手権第4戦ラリー・デ・ポルトガルは土曜日にレグ2を迎え、首位を快走していたオイット・タナク(ヒュンダイi20クーペWRC)がクラッシュでリタイアとなる波乱のなか、トヨタGAZOOレーシングWRTのエルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)がトップに立つことになった。また、ヒュンダイの唯一の生き残りとなってしまったダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)が10.7秒差の2位で続く展開となっている。

 今回のポルトガルでは、各ドライバーともソフトタイヤの使用は8本に制限されており、金曜日までのタイヤマネージメントの結果が土曜日以降の勝負を左右すると言われてきた。選手権リーダーのセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)は初日の金曜日に1番手のポジションで走行したため、ルースグラベルでタイムをロスして24秒遅れの5位にとどまることになったが、「おそらく僕は他のドライバーよりもコンディションのいいソフトタイヤを多く持っていると思う。あとはそれをベストな状態で使うだけだ」と土曜日のステージを前にして自身の戦略を明かすことになった。

 土曜日の朝にループにむけてトップ5につけるドライバーはみな、ソフト4本+ハード4本というチョイスだ。しかし、同じソフト4本とはいえ、誰もがフレッシュを抑え気味に中古タイヤを再使用しており、中古ソフトでも摩耗とダメージの頻度は人それぞれだ。うまくソフトを残せなかったロヴァンペラはハード3本で我慢するしかない。

「昨日は一日中、コースオープナーだったことで、誰よりもタイヤをセーブするチャンスがあった。だからこそ、最後のロングステージでは、よりフレッシュなタイヤで走ることができた」と、オジエは金曜日のモルタグア・ステージのベストタイムを叩き出した秘密を明かすとともに、まだまだ波乱が続けば、この日、トップを脅かすチャンスはあるだろうと期待を込めて語った。 

 だが、土曜日のオープニングステージとなるSS9ヴィエイラ・ド・ミーニョ(20.64km)に有利なタイヤをもって臨んだはずのオジエのタイムが伸びない。小雨がフロントガラスにときおり当たり、路面はやや湿ったコンディションのなか、5番手という走行順で臨んだオジエは、勝田貴元(トヨタ・ヤリスWRC)を0.1秒差でかわしてポジションをアップ、ステージエンドで「グリップが不足していて、とても快適には感じられなかったが、それはみんなも同じはずだ」と、自身を納得させるようにつぶやいたが、後続のマシンは次々と彼のタイムを塗り替えてゆく。オジエは、ベストタイムでリードを広げたタナクから11.5秒遅れの4番手タイム、首位からは早くも35.5秒遅れとなった。

 エヴァンスに6秒の差をつけて土曜日をスタートしたタナクは、初日、マシンのフィーリングにあまり満足した様子ではなかったが、SS9では2番手タイムのエヴァンスでさえ7.5秒も引き離し、13.5秒ものリードを築くことに成功する。「このステージではいい感触が持てた。今日はクルマの仕上がりにずっと満足できるようになったし、ずっとナチュラルに感じた、いい状態だ」

 エヴァンスもまた3位につけるソルドとの差を3秒差から4.5秒差へと広げ、タイヤに問題を抱えるまで初日をリードしたソルドはなんとか首位の奪還を目指したいところだが、ここでも2人につづいて3番手タイムにとどまり、エヴァンスとの差は3秒から4.5秒差へと広がってしまった。「ステージ中盤は霧が出ていたので少し道を見失いそうだった。その後、ペースの速い場所で小さなミスをしてしまったが、それ以外は最大限にプッシュしているよ」

 SS10カベセイラス・デ・バスト(22.37km)でもタナクが畳かけるように連続してベストタイム、エヴァンスとの差を18.3秒に広げることに成功、後続のドライバーたちを引き離しにかかる。ソルドはここでも4.9秒差をつけられて、首位からは22.9秒遅れとなり、「オール・ソフトタイヤで行ってしまったので、路面でタイヤを酷使しそうだったので、タイヤをキープするために躊躇して踏めなかった。失敗だよ」と天を仰ぐ。

 オジエもステージをスタート早々にハーフスピンを喫してしまい、首位のタナクからは57.1秒の遅れとなってしまい、4番手タイムを刻んだ勝田にふたたび4位を明けわたす。「ここではクルマでもっといい感触を得ることができた。エンジニアと話をして、セットアップも少し変えてみたのがうまく機能した。大きなリスクを負うこともなかったが、速さは十分だった」とタイムにも満足そうに笑みをみせる。

 続く、ラリー最長となるSS11アマランテ(37.92km)を前にして、この日を一番手のポジションでコースオープナーを務めてきたティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)が16分遅れでチームメイトのソルドの直前のポジションでチェックイン、トヨタ勢のスタートポジションを不利にするための戦略を疑われることになったが、結局、彼はこのステージのあとのサービスで前日のクラッシュのダメージを修理するためにリタイアすることになってしまった。

 ヌーヴィルのスタートポジションをめぐって、にわかに最前線がざわつくなか、このロングステージではタナクがこの日3つめとなるベストタイムを叩き出し、エヴァンスに19.2秒差、チームメイトのソルドには25.3秒の差をつけて朝のループを終えることになる。「間違いなく昨日よりも楽しいよ。最初のループは非常に順調だった。タイヤを生かすためにスムースに走ろうとしたんだ。今のところフィーリングはOKみたいだ」

 ソフトタイヤをマネージメントしてきたはずのオジエは切り札を生かし切れずにここでも7.8秒を失い、首位のタナクからは1分4秒遅れとなってしまった。「前の2つのステージではうまくペースを上げられず、ここでもタイヤの選択をミスしてしまった。でも、僕らは戦い続けるよ」と、オジエは朝のループのセットアップがしっくりこなかったと認めながらも、追撃を諦めるつもりはない。

 勝田は0.5秒差ながらオジエを抑えて4位で朝のループを終えている。「ターマックセクションではタイヤを温存して走るようにした。リズムが変わって、かなりタイムロスしている。今日はなんとか生き残るようにしなければならない」と、彼はポジション争いが目的はないと語ったものの、ワールドチャンピオンを相手に一歩も引かない戦いを楽しんでいるかのようだった。

 6位につけるカッレ・ロヴァンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)は、金曜日にソフトタイヤを消耗してしまったためにソフト3本とハード3本という変則的の組み合わせに苦戦、前を行く2人のチームメイトに追いつくことができず、オジエとは4.9秒差でこの日をスタートしたはずが、その遅れは40秒まで広がってしまった。

 午後のループは、このままタナクの独走を許さないかのようにエヴァンスが最初のステージであるSS12ヴィエイラ・ド・ミーニョでベストタイムを奪って始まる。エヴァンスは0.6秒ながらタナクとのタイムを縮めて反撃を試みる。タナクはSS13カベセイラス・デ・バストでキャリア通算250回目のベストタイムを奪い、ついにエヴァンスに対するリードを22.4秒へと広げてみせた。

 すでに十分すぎるリードを築いたにもかかわらず、タナクは続くSS14アマランテでもスピードを緩めない。中間のスプリットでもエヴァンスを2秒近く引き離すハイペースで走行していたが、ゴール間際の34.1km地点でまるで前日のヌーヴィルのドラマの再現を見るかのように右リヤタイヤが外れてしまいマシンを止めることになった。

 タナクがサスペンションを破損した原因は明らかにされてないが、WRC TVのヘリコプターは、i20クーペWRCが走行中にホイールアーチの中でタイヤが揺れ出して、どんどん暴れて真横を向いてしまう映像を捉えていた。

 そのころステージのフィニッシュラインにはエヴァンスが到着、タナクのストップを知らされることになる。「彼は今まで素晴らしいラリーをしてきたし、ペースも素晴らしかったから、それを奪うことはできないよ。でも、自分のステージには満足している」。エヴァンスはここでソルドに5.1秒差をつけるベストタイム、16.4秒差をつけて新たなラリーリーダーとなった。

 この日最後のポルトの市街地ステージは海岸沿いの3.3kmを走る。ソルドがi20クーペWRCのスターターモーターに問題を抱え、リスタートできない恐れがあるなか、エンジンをどうにかストールすることなく走りきり、エヴァンスとの差をなんと5.7秒も縮める最速タイムを記録、二人の差を10.7秒差へと縮めてこの日のゴールを迎えている。

 エヴァンスは波乱の一日をトップで終えたが、ソルドがこれほどまでにタイムを縮めることが予定外だったと認めた。「かなりいい感じだった。ダニがこのステージでこれほど強かったことに衝撃を受けている! 明日もやはりトリッキーな一日になるだろうが、今日はかなりうまくいった」

 ソルドの50秒近い後方ではオジエと勝田の息詰まる攻防が続いている。勝田はSS14アマランテで素晴らしいペースを刻み、オジエを抜いて3位になるかと思われたが、左リヤをバリアにヒット、さらにステージエンドに辿りついた彼の右リヤフェンダーはさらに何かにヒットしたかのように壊れて失われている。「タイトな左コーナーで、地面に岩盤があったのでワイドになってしまった。そこに木があって、わずかにぶつかった。幸運にも生き延びることができた」。

 勝田は難を逃れてそれでもオジエからはまだ2.5秒遅れで続いているが、最後のポルトのスーパーSSではラウンドアバウトで今度はオジエがエンジンを止め、勝田が1.5秒差と迫り、初表彰台のチャンスにまた近づくことになった。

 また二人の後方につけていたロヴァンペラはアマランテ・ステージに向かうロードセクションで技術的な問題のためにマシンを止めることになった。チームによれば、このロングステージを走ってダメージを広げるリスクをとるべきではないと判断から、彼はリタイアを決意し、自走でサービスに戻っている。

 Mスポーツ・フォードのガス・グリーンスミスとアドリアン・フールモーはともにフィエスタWRCのスロットルに問題に見舞われた一日となってしまった。タナクとロヴァンペラのリタイアでフールモーは5位で土曜日を終えたが、首位からは4分21秒もの遅れとなっており、グリーンスミスは断続的にパワーが落ちる問題に悩まされてすっかりリズムを取ることができなくなってしまい、最後のステージでフールモーに抜かれて6位でこの日を終えている。

 明日の最終日は、有名なジャンプをもつファフェのステージを含むわずか5SS/49.47kmの一日となる。エヴァンスとソルドの10秒差の首位争いとともに、オジエと勝田の1.5秒差の3位争いからも目が離せない一日となりそうだ。