TOYOTA GAZOO Racing WRCチャレンジプログラムの2期生である小暮ひかると山本雄紀、3期生である後藤正太郎と松下拓未が、2月13日から16日に開催されたラリー・スウェーデンに出場、WRCで唯一のフルスノーイベントで、山本はWRC2部門で9位、小暮は17位で完走した。松下はWRC3部門4位を獲得したが、後藤はメカニカルトラブルにより残念ながら完走を逃した。
ラリー・スウェーデンの舞台となる北部の都市ウーメオの周辺の森林地帯のステージは雪と氷に覆われ、今年はとくに氷の層が厚く、気温もマイナス10度以下になるなど理想的ともいえる路面コンディションで4日間にわたりラリーが行なわれた。森林地帯の氷雪ステージは全体的に非常にハイスピードで、特殊な金属製のスタッド(=スパイク)が多数打ち込まれた、雪道専用のスタッドタイヤは氷に食い込んで高いグリップ力を発生する。
WRCの中でも屈指のハイスピードラリーとしても知られ、若手ドライバーたちにとっては挑戦し甲斐がある一戦となった。
WRCのサポート選手権であるWRC2カテゴリーには、WRCのトップカテゴリーであるRally1カーに次ぐパフォーマンスを誇るRally2カーが多数エントリー。スウェーデン人のオリヴァー・ソルベルグや、フィンランド人のローぺ・コルホネンなど雪道育ちの強豪北欧ドライバーたちが速さを競う中、このラリーへの出場3年目の小暮と山本は、これまでの経験を活かしながら競争力のあるペースを発揮するべくラリーに臨んだ。
昨年に続き彼らはGR ヤリスRally2で出場。しかし、今年からタイヤサプライヤーがハンコック・タイヤに変わったことで、新しいタイヤの特性を理解し、ドライビングを合わせ込みながらの走行となった。
トピ・ルフティネンとコンビを組む小暮は順調にラリーをスタートしたが、金曜日のSS6で雪壁に当たりスタック、デイリタイアとなってしまった。一方、今年からジェームズ・フルトンをコドライバーに迎えた山本は、SS3でやはり雪壁でスタックし50秒程度をロス。WRC2部門11位で金曜日を終えている。
山本は土曜日のSS11でもスタックしてさらに多くのタイムを失ったが、用意されたステージは全て走行。一方、再出走を果たした小暮は7番手タイムを2回記録するなど安定した走りで土曜日を走破した。最終日の日曜日は、両者ともトップ10以内のタイムを刻み、山本はWRC2部門9位でフィニッシュ。小暮は17位で完走した。
山本雄紀:「簡単な週末ではありませんでしたが、完走し、全てのステージを走破できたのは本当にポジティブなことです。ステージのコンディションは、レッキの時にはほぼ完璧に見えたのですが、実際は思っていたよりもトリッキーでした。ラリー中は刻々とコンディションが変わっていきましたが、新しいタイヤを学ぶ上では良い経験になりました。雪壁に当たるなど、今週末のスタートはあまり良くなかったのですが、最終日にはタイヤをもっと理解しようとセットアップを変更し、それが上手くいきました。クルマをさらに信頼できるようになりましたし、速いペースに近づくこともできたので、良かったです」
小暮ひかる:「まずまずのスタートを切り、金曜日の午後はもっとプッシュしようとしたのですが、予想以上にタイトなコーナーがひとつあり、スピードが速すぎて雪壁にハードにぶつかってしまいました。土曜日に再出走した時はリズムを掴むのに苦労しましたが、その後はどんどん良くなり、タイムも上がって行きました。昨年の自分のパフォーマンスと比較すると、確かに改善が見られましたが、新しいタイヤにドライビングを合わせるのにまだ苦労しているので、今後に向けて分析する必要があります」
また、今回がWRCイベント初出場だった3期生の松下と後藤は、有望な若手ドライバーが集結するWRC3カテゴリーに、ルノー・クリオRally3で初挑戦。今回は彼らにとっては最も長い距離を走行するイベントとなった。
それでも初めて走行するスウェーデンのスノーロードでふたりとも高いパフォーマンスを発揮。金曜日には何度か3、4番手タイムを記録し、ユッシ・リンドベリと組む後藤は4位で、ペッカ・ケランダーと組む松下は5位で金曜日を終えることになった。
土曜日のステージでは松下が速さを示し、2番手タイムを2回記録。一時的に3位まで順位を上げている。一方、後藤もオープニングから3ステージ連続で3位につけるなど好調を維持。しかし、午後のステージで雪壁に当たりタイムを失ってしまった。それでも、土曜日が終了した時点で松下が4位、後藤が5位と、両者とも上位争いができる順位につけていた。
日曜日は後藤にとってアンラッキーな最終日となり、ラリー最長ステージのSS16で松下を抜き4位に順位を上げるも、続くSS17でメカニカルトラブルによりリタイアを喫することに。一方、松下はSS17で4位に順位を戻し、初のWRCイベントをWRC3クラス4位という好成績で終えている。
後藤正太郎:「全体的には、自分にとって驚くほど良いラリーになりました。ペースは アークティック・ラップランド・ラリーの時よりもずっと良かったですし、ペースノートもドライビングも大幅に改善したと思います。ラリー序盤はタイヤに慣れるのにやや苦労しましたが、その理由の一つはシェイクダウンでクルマに問題が発生し、タイヤをあまり試せなかったことです。最初のステージではブレーキをロックさせて、エンジンが止まってしまいました。しかし、その後はとても良いペースで走ることができました。土曜日の午後にはもう少しペースを上げようと試み、何度か危ない場面もありましたが、幸いにも走り続けることができました。日曜日にクルマに問題が発生したため残念ながら完走できませんでしたが、全体的にはとても満足のいくラリーでした」
松下拓未:「自分にとっては素晴らしいWRCデビュー戦になったと思いますし、このイベントに出場できたことを本当に嬉しく思います。最初のステージから最後のステージまで、安定したペースを維持できたと思います。もちろん、ハンコック・タイヤという違いはありますが、アークティック・ラップランド・ラリーに出た時と比べると、クルマのフィーリングはかなり良く感じられました。夜のウーメオ・スプリントステージはとても楽しく、さらにプッシュできると感じましたし、ペースも悪くありませんでした。また、自分のドライビングに関しては改善すべき点が多く見つかりましたが、それもまた将来に向けてはポジティブな要素です」
WRCチャレンジプログラムのチーフインストラクターを務めるユホ・ハンニネンは、ラリー・スウェーデンにおける4人のラリーを次のようにふりかえっている。
「ひかると雄紀については、全体的にまずまずの週末だった。ひかるは金曜日にコースオフを喫したことで好結果の望みを断たれ、雄紀はいくつか小さなミスを犯してタイムを失ったが、ほとんどのステージは彼らにとって良いものだったと言える。ただし、彼らが良いペースを発揮しながらもクリーンにラリーを走り抜けられるように、我々はさらに一貫性を高めるべく改善を進める必要がある。タイヤも彼らにとっては新しい要素であり、ほとんどのドライバーにとってそうだったように、ラリー全体を通して彼らは適応を試みていた」
「一方、正太郎と拓未にとってはポジティブなWRC初挑戦となった。残念ながら正太郎は日曜日に技術的な問題に見舞われてしまった。彼らにとって重要なのは、できるだけ多く走行距離を稼ぐことだが、それほど多くの距離を走り損ねたわけではない。また、経験が不足していたにもかかわらず、ふたりともミスなく、安定したスピードを維持していたので、将来有望だと思う」
小暮と山本にとっての今シーズンのウインターラリーは今回で終了したが、後藤と松下のチャレンジはさらに続き、3月7日から8日にかけて開催される、フィンランド・ラリー選手権のサヴォンリンナ・ラリーに出場。また、コドライバーである前川富哉も、ヤルコ・ニカラと組みRally4クラスに出場する。