WRC2021/11/21

5度の首位交代劇、オジエが0.5秒差でリード

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 2021年世界ラリー選手権(WRC)最終戦ACIラリー・モンツァのDAY2もドライバーズタイトルを争うトヨタGAZOOレーシングWRTの2人が激しく首位を争い、この日行われた6ステージで5回もトップが交代する息詰まる攻防となり、選手権リーダーのセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)がエルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)に0.5秒差をつけてオーバナイトリーダーとなっており、8度目のドライバーズタイトルを賭けて明日の最終日に挑む。

 ラリー・モンツァのDAY2は、初日と同様に早朝にサーキットを離れて北イタリアのベルガマスク・アルプスの麓にある山岳ステージへと向かう。新しいサン・フェルモ(14.80km)と昨年も行われたセルヴィーノ(24.93km)の2ステージをノーサービスで連続して走行したあと、モンツァ・サーキットへと戻り、午後は前日同様にモンツァ・サーキットのなかに複雑にレイアウトされたソットゼロ(14.39km)の2回の走行が行われる。

 金曜日を終えて首位のエヴァンスと2位につけるオジエとの差はわずか1.4秒にすぎない。土曜日のオープニングステージのSS8サン・フェルモの路面は朝霧で湿ったところもあるが、ほぼドライ。3位につけるティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)がベストタイム、2番手タイムを奪ったオジエがエヴァンスに1.5秒差をつけてふたたび首位に立つことになった。

 オジエはサーキットのトリッキーなステージより明らかに山岳ステージと相性がいいようだが、ここでは完全な調子ではなかったと語っている。「新しいステージだったので、あまりプッシュはしなかった。あまりリスクを冒したくない。完璧ではないが、クリーンなステージだった」

 前日の山岳ステージでもやや遅れをとったエヴァンスだが、この日も思ったほどペースが上がらない。「グリップに苦労して、予想以上にスライドしてしまったようだ」。どうやったら速くできるか聞かれた彼は、「そのことについて話すこともできるが、僕はもう少し我慢強くなる必要があるのかもしれない」と付け加えた。

 この日は全ドライバーがハードコンパウンドタイヤ5本でスタートしており、前日にスペア2本を選んだヌーヴィルは軽くなったマシンでさっそくベストタイムを奪って反撃開始だ。彼はチームメイトであるダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)に3秒差をつけてスタートしたが、ここで一気にその差を6.4秒へと広げてみせたが、もちろん照準は3位をキープすることではない。「プッシュしたよ。なんとか挽回したいんだ。正直なところ、昨日と同じようなフィーリングだが、セットアップの変更をするので、このあとパフォーマンスが向上することを期待している」

 だが、意気込みと期待に反してヌーヴィルは次のSS9セルヴィーノで大きなミスを犯してしまう。右のロングコーナーでマシンをスライドさせてしまった彼は、フロントをガードレールにヒット、フロントバンパーを失ったマシンで24秒をロス、ソルドから17.8秒遅れの4位へと後退することになってしまう。

 ステージエンドに到着した彼のマシンはラジエータがむきだした状態だが、大きな衝撃だったにもかかわらず、幸いにも水が漏れるなど冷却系に問題を抱えている様子はない。「タイヤが100%温まっていなかったために滑り始めてしまったんだ」とヌーヴィルは語った。

「あと少しでコーナーを抜けられそうだったのにダメだった。基本的にはタイムの遅れはマシンをリスタートさせるのに時間を費やしてしまったもので、ダメージはあるけど走行できている」

 一方、前のステージで4.6秒を失って首位から陥落したエヴァンスは、ここではオジエに3.8秒の差をつけるベストタイム、2.3秒で首位を奪い返した。「正直かなりいいステージのように感じた。すべてがうまく機能していたから、最初のよりも良くなっている」

 しかし、オジエはこの順位変動にも落胆してはいない。「すべてが順調で、自分のことだけに集中できている。ビッグプッシュするかって? クリーンなドライブで行くよ」

 しかし、オジエは2回目のループでふたたび速さをみせることになった。SS10サン・フェルモでベストタイムを奪ってエヴァンスをふたたび抜き返すや、SS11セルヴィーノでも連続してベストタイムを奪い、エヴァンスに5.2秒差をつける首位に返り咲いて朝のステージを終えることになった。

 それでもオジエは首位に立ったことには興味はなさそうだ。少なくとも表彰台のポジションをキープすれば栄冠が約束されているため、このバトルは彼が意図しているものではないと強調する。「外から見るとバトルのように映るかもしれないが、僕は自分の走りだけに集中するだけだ。今回のステージはどちらかというとバランスと格闘していたが、すべて順調だ。この山岳ステージはとても美しく、すごく楽しむことができたのは間違いない」

 エヴァンスは、自分がこれほどまでに順位を落としたことを不思議に思っていたが、多くのドライバーたちが気温が上昇したことでタイヤの摩耗に苦しんだように、彼もまた後半でタイムを落としていた。最初のスプリットでオジエに追いついたとき、彼は、「正直なところ、かなりいい感じだった」と認めた。「スムーズだったが、終盤になってマシンがかなりスライドしてしまって苦労したよ」

 朝の山岳ステージを終えて、エヴァンスから28.2秒遅れの3位にはソルド。ヒュンダイ勢全員が路面温度が上がったこのステージで苦戦しており、とくにフロントバンパーを失って空力にダメージを受けたためにペースが上がらなかったヌーヴィルはタイヤをすり減らして、チームメイトの18.5秒後方に甘んじている。

 土曜日の午後に行われるのはモンツァ・サーキット内で行われるソットゼロの2回の走行だ。モンツァ・サーキットのなかに複雑にレイアウトされたコースはGPサーキットとバンク付きオーバルを使用し、金曜日に行われたチントゥラート・ステージとは逆方向での走行となる。

 山岳ステージでリードを奪ったオジエだが、前日同様またもモンツァ・サーキットではエヴァンスの速さの前に首位を譲ることになる。エヴァンスはSS12ソットゼロでオジエを5.5秒上回り、0.3秒の差をつけてラリーをリードすることになった。どこも完璧ではないし、ある場所ではバリアに少し触れてしまった。そのあとはちょっとフィーリングが変だったが、全体的にはオーケーだったよ」

 しかし、日が暮れたあと、暗闇のなかで行われたこの日最後のSS13ソットゼロではまたも首位戦線が動くことになる。ライバルとは異なりソフトとハードをクロスに装着したオジエが、ハード4本を選択したエヴァンスを0.5秒差ながら抜いて首位でDAY2を終えることになった。この日5回目の首位交代劇だ。

「このステージでは、1回目の走行で苦労したので、ここではタイヤを少し異なるものにしたが、そのおかげで差をつけることができたかどうかはわからない。どちらにしても勝利は僕の計画にはない。選手権がもっとも重要になる」とオジエは語った。

 2位へと後退したエヴァンスは、暗闇のなかでのナイトポッドランプの調整がうまくいってなかったと明かした。「視界が非常に厳しかった。いくつかの場所では、自分がどこに向かって走っているのかわからないので、ブレーキをかけるのが早すぎた」

 土曜日の最終ステージでは、ソルドとヌーヴィルのヒュンダイが最も速く、ソルドは前夜のナイトステージに続いてここでもベストタイムを奪い、チームメイトに19.2秒のアドバンテージを保って3位をキープした。

 ヌーヴィルはポディウムでシーズンを終えることを狙っていたが、明日のサーキットでのステージでは、「チームメイトを捕まえるのは不可能」と認め、このWRカーでの最後の1日を楽しむつもりだと語った。

 ヌーヴィルから34.6秒差の5位で続くのはオリヴァー・ソルベルグ(ヒュンダイi20クーペWRC)はタイヤのオーバーヒートに悩まされて摩耗させないようにケアしながらの走行となったが、今回も大きなミスはなく堅実なペースを維持している。

 勝田貴元(トヨタ・ヤリスWRC)はグリップの問題を抱えて、なかなかソルベルグとの差を縮めることができなかったが、4番手タイムを2回奪って、ソルベルグの後方17.6秒差で2日目を終えている。「どんどん良くなっているしクルマはとても調子がいい。いくつかのステージではいい走りもできたが、このステージでは少しプッシュし過ぎてちょっとタイムロスしてしまった。もちろん、まだ改善しなければならないことはたくさんあるが、良くなってきている。明日はできる限りプッシュしたい」

 ヒュンダイi20クーペWRCでの初戦に臨んでいるテーム・スニネンは、じょじょにペースをアップ、SS10サンフェルモでは3番手タイムを叩き出して、ガス・グリーンスミス(フォード・フィエスタWRC)を抜いて7位へと浮上する。彼は19.6秒前につけていた勝田へとターゲットを移そうとするも、SS11セルヴィーノでガードレールにリヤをヒットしたあとは慎重な走りに徹している。

 この日のオープニングステージでブレーキに悩まされたグリーンスミス(フォード・フィエスタWRC)は、問題がさらに悪化したマシンで朝のステージを走ることになり、スニネンにポジションを譲ったことを悔やんでいた。それでも、サーキットのステージではタイトターンでミスしてマシンを止めたにもかかわらず、連続してスニネンを上回り、10.5秒差を7.7秒遅れまで挽回して最終日を迎えることになった。「(スニネンとの)ギャップは何秒? ステージはあと3つだ、なんとかなるかもしれない。何ができるか見てみよう」

 トヨタのマニュファクチャラー選手権の保険としてリスクを冒さない走りを命じられているカッレ・ロヴァンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)は、たいくつで重要な役割を「おばあさんを教会に連れて行くようなもの。かなりスローではあるが、こういうプランなんだ」と表現していた。彼は首位から3分39秒遅れの9位につけている。

 ラリー最終日は、すべてモンツァ・サーキットを舞台としたステージで争われ、金曜日の夜に行われたグランプリ(10.21km)ステージの2回目の走行のあと昨年の最終日と同じくセッラーリオ(14.62km)の2回の走行が計画されている。果たして、オジエとジュリアン・イングラシアがグランドスタンドの観客の前で勝利のトロフィーで8度目のタイトルを祝うことになるのか、それともエヴァンスが意地をみせるのか。

 オープニングステージのグランプリは、現地時間7時48分(日本時間15時48分)のスタートとなる。