WRC2018/12/31

【TOP10-第1位】セバスチャン・オジエ

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 2018年ウエールズ・ラリーGBの最終日をセバスチャン・オジエは2位以下に4.4秒差をつけてスタートした。だが最初のステージ、エルシーで「全開でプッシュした」というヤリ-マティ・ラトバラに首位を譲ることになった。さらに続くグイデイルでもラトバラはオジエのタイムを上回って、差は3.6秒に広がる。タイトル争いを考えれば喉から手が出るほど欲しい勝利だった。そして、ここからオジエのギアが一段上がる。8.03kmのトリッキーなショートステージ、グレートオームで、オジエはラトバラを3.4秒上回るベストタイムで反撃。続く2回目のグイデイルでもベストタイムを刻んでラトバラを逆転。そのまま勝利のポディウムに駆け込んだ。今季オジエが獲得した4勝のうち、ウエールズ・ラリーGBの勝利こそタイトルを決める鍵だった。

 どこまでも勝利にこだわったオジエの心理の原点には、サルディニアでティエリー・ヌーヴィルに食らった逆転劇が影響しているのではないか。互いにフルアタックの応酬を繰り返した末、0.7秒差で逃げられた。その後のシーズンの流れを考えれば、まさに惜敗だったと言える。だからこそ、必ず雪辱を晴らす。その誓いをもっとも必要とされた正念場で実現したことが、王者の強さだ。

 この世界では”速さだけでは足りない。強さこそがチャンピオンの条件だ”とまことしやかに言われてきた。たしかにいくつかの例外はあるが、少なくとも複数回タイトルを獲得しているドライバーはみな、スピード以上の何かを持っていたことがわかる。

 今季を含め過去3年のオジエのリザルトを振り返れば、圧倒的なスピードこそ見られなくなった。だが勝利に直結する速さという点ではどうだろう。彼のスピードは実に効率よくポイントに結びついていないだろうか。

 シーズン中盤以降、オジエはヌーヴィル同様に出走順のハンディに悩まされることになった。ヌーヴィルの快進撃はトーンを落とすことになるが、オジエは低迷の中にもしぶとさ、粘り強さを感じさせた。運に恵まれずとも、やがて来るだろうわずかなチャンスの光芒を逃さないように雌伏する挑戦者のように。5連覇を果たした王者はいつでも挑戦者の心に戻ることができる。その強みがプレッシャーを糧に結果に結びつける原動力となった。

 ラリーを戦略的に走るという意味では、Mスポーツ・フォードというチームにいたことも影響している。フィエスタWRCはバランスに優れたラリーカーだが、トヨタやヒュンダイに比べれば圧倒的だとはいえない。そうした条件を机上に並べて、何ができないか、何ができるかを取捨選択したことで、タイトルへと続く道がはっきりと見えてきた。もちろんラリーはゴールするまでどんなドラマが待ち受けているかわからないスポーツだ。だからこそ時には頭を低くして耐えることが必要だ。現代のラリーではパンクひとつ、スピンひとつで勝利が逃げていく。だがもっと長い目で見れば、それでもまだチャンスは残されているのだ。オジエの長く、苦しい、しかし報われた2018年がそれを証明しているではないか。

 6連覇の王者は、来季、古巣シトロエンへと戻る。そしてこの2年が彼がWRCを走る残されたシーズンになるとされている。幾度となく進化、覚醒する王者が、次は何を見せてくれるだろうか。

■セバスチャン・オジエ
生年月日:1983年12月17日(35歳)
選手権ランキング:1位
獲得ポイント:219点
ベストリザルト:1位
優勝回数:4回
2位の回数:2回
3位の回数:0回
表彰台回数:6回
出場回数:13回
ベストタイム回数:38回
リードしたステージの数:65SS
リタイア数:1回
ラリー2の回数:1回
パワーステージ勝利数:2回
パワーステージ獲得ポイント:35点