WRC2018/12/25

【TOP10-第10位】勝田貴元

(c)Toyota

 3年半にわたるヨーロッパ修業を経て、ラリー・スウェーデンで勝田貴元が見せた輝く走りは、日本のラリーファンだけでなく、世界に衝撃を与えることになった。FIA WRC2選手権というサポートカテゴリーではあるが、若武者がたくましい成長を自らの力で証明することになった勝利を、2018年の世界ラリー選手権における記憶に残るシーンとしてトップ10に挙げたいと思う。

 FIA WRC2選手権には毎年、次から次へと強力な若者たちが明日のトップドライバーを夢見て世界中から押し寄せてくる。各国の選手権を勝ち上がってきたチャンピオンたちでさえ叩きのめされるほどのレベルの高い戦いがここでは繰り広げられている。もちろん、この熾烈なカテゴリーにおいて勝てなかったら、たとえステップアップしたところで相手にもされないほどその上はさらに厳しい世界が待っている。

 ウィンターコンディションで行われるラリー・スウェーデンはスノーイベントでありながら世界屈指の高速ステージをもつがゆえ、この特殊なイベントで圧倒的に北欧勢が速さを見せてきた。今回もシュコダ・モータースポーツのワークスマシンを駆る地元出身のポントゥス・ティデマンドの勝利は揺るがないかにも見えたが、勝田はまるで突然壁を突き抜けたかのように、金曜日の朝のロングステージでポンッとトップタイムを奪って世界を驚かせることになった。

 しかし、勝田の残したインパクトはそれだけで終わったわけではない。彼は一度、首位を譲ったあとも、追撃の手を止めずに並みいる北欧勢を抜き返してふたたびトップに立ち、前年度のWRC2チャンピオンであるティデマンドの激しいプレッシャーなどまるで感じてないかのように、淡々とした走りで首位を守りきって勝利を飾ることになった。

 勝田にとって、次にWRカーにステップアップできる若手ナンバー1と見られていたティデマンドを真っ向勝負で破った意味は大きい。シーズンをとおしてみれば、自らのミスやメカニカルトラブルも多く、まだまだ成績にもばらつきがあった一年にはまだまだ課題も残すことになった。しかし、すべてのイベントにおいて経験をつめば、どこでも2月と同じ走りができる可能性があることを、彼の手足や体はリアルな感触として記憶しているだろう。

 来季、勝田は世界ラリー選手権の12戦にふたたびフォード・フィエスタR5で参戦するとともにフィンランド選手権2戦にトヨタ・ヤリスWRCで参戦する。彼は厳しいチャレンジがそこには待っていることを覚悟しつつも、新しいシーズンはさらに一段上へと突き抜けたいと願っている。「これまで以上に厳しい世界が待っていますが、限界までやりきる覚悟と共に、さらに大きく成長できるという自信を持って臨みます」

 今後の勝田にとって、同じようにカートから競技の世界に入ったエサペッカ・ラッピがベンチマークになるかもしれない。ラッピはトヨタのWRカーに乗るまでにR5マシンで52戦/10,275km/104時間37分53秒を走っている。これはラリー2およびペナルティを含まない純粋にステアリングを握っていた時間と距離だ。これらが4WDのマシンとタイヤ、そして世界選手権のコースの特性を掴み、ペースノートに磨きをかけるのに必要な学びの時間と考えるなら、すでにR5マシンで30戦/4,595km/46時間53分55秒の経験値をもつ勝田は、2019年のプログラムを着実にこなせば、2020年にはWRカー参戦の準備を十分に整えることができるはずだ。

 トヨタが目標に掲げる日本人WRCドライバーの誕生の瞬間は、そう遠くない未来に待っている。