WRC2021/12/30

【TOP10-第3位】ティエリー・ヌーヴィル

「萎えることのない精神力。」

(c)Hyundai

Thierry Neuville
Hyundai Motorsport

 セバスチャン・オジエとエルフィン・エヴァンスのワールドチャンピオン争いが佳境となった最終戦モンツァでは、まるで忘れられていたかのように戦いの片隅におかれていたティエリー・ヌーヴィル。敗北のシーズンになったことはたしかだが、彼の選手権をどう評価するか判断がわかれるところだろう。

 ヌーヴィルの2021年シーズンは開幕前からもたつくことになった。モンテカルロの数日前に、長年のコドライバーだったニコラ・ジルスールが離脱し、マルテイン・ウィダーゲがぶっつけ本番で代役を務めるという予測外の状況でシーズンをスタートしたにもかかわらず3位でフィニッシュしたことは不完全なパートナーシップで走ったなかで完璧な結果だったと言えるだろう。

 ヌーヴィルとウィダーゲはともにベルギー人だが、ヌーヴィルはフランス語、ウィダーゲはフラマン語(オランダ語)を話すことから発音の聴き取りに問題があるなかで、アークティックではインターコムの問題から2位に届かず3位となっている。そして続くクロアチアでは初日からラリーをリードして、このコンビによる初勝利が期待されたが、2日目にヒュンダイ・チームのタイヤ戦略のミスから失速して3位に終わっている。

 不完全なペースノートの問題からシャシーにもダメージが及んだポルトガルのクラッシュはヌーヴィルのミスに起因したものだが、再び表彰台に上がったサルディニアのあと、初日からリードしたサファリでは1分近くをリードして迎えた最終日の朝、突然のリアダンパー破損によってヌーヴィルは今季初優勝を逃している。

 ヒュンダイが原因不明のサスペンショントラブルでリードしていたラリーを失ったのはこれで3戦連続であり、ヌーヴィルと選手権をリードするセバスチャン・オジエとの差は20ポイント以内に縮まるどころか、一気に56ポイント差へと広がってしまった。

 それでもヌーヴィルは、ホームの大きなプレッシャーにさらされたイープルで初勝利を飾り、前戦エストニアに続いてオジエを破り、今季残り4ラウンドとなった現時点でエルフィン・エヴァンスと並んで選手権の2位へと浮上、オジエの38ポイント差まで追い上げることになった。

 だが、いい流れはなかなか持続しない。アクロポリスではパワーステアリングの故障により悪夢のような1日を過ごしたことで8位にとどまり、フィンランドではラジエータからの水漏れのためエンジンを壊してリタイアとなり、ヌーヴィルの選手権はここで万事休すとなった。

 タイトル争いから脱落していたためか、ヌーヴィルのスペインでの圧勝は脚光を浴びなかったのは残念なことだ。全17ステージ中10ステージで勝利を飾ってリードした彼は、パワーステージの直前で、マシンのスターターモーターに問題が発生してリグループエリアの手前で停止したまま動かなくなり、挙げ句、小さな出火でひやりとさせることになったが、シーズン2勝目を飾ることになった。

 過去5度、ドライバーズ選手権で2位となっており、そのうち、4度のオジエの後塵を拝し、残りのシーズンはオイット・タナクに選手権で敗れている。そして2021年シーズン、彼は選手権で3位に敗れることになったが、トヨタの二人に比べて足りないものとなったのは何だったろうか? よりミスを犯しがち? 不運なマシントラブル? それとも決定的な速さ? 

 ベストタイムの回数もリードしたステージの数もオジエより多かったにもかかわらず、ヌーヴィルの勝利数は2回にとどまった。かつては冷静さを欠き、無理な走りでミスを犯すこともあったためワールドチャンピオンを獲得できていないが、いまはいかなるプッシャーにも萎えることのない剛胆な精神力と勝利を追い求める強い意志を身につけている。

 スペインの勝利はその象徴でもあり、今季のヌーヴィルのベストパフォーマンスとも言えるものだった。危険なまでの走りを維持し続け、エヴァンスに打ち破った戦いをふり返ったとき、それはまるでオジエ不在となる来シーズンのシミュレーションだったように思う。

■ティエリー・ヌーヴィル
生年月日:1988年6月16日(33歳)
選手権ランキング:3位
獲得ポイント:176点
ベストリザルト:1位
優勝回数:1回
2位の回数:0回
3位の回数:5回
表彰台回数:7回
出場回数:12回
ベストタイム回数:45回
リードしたステージの数:49SS
リタイア数:3回
ラリー2の回数:1回
パワーステージ勝利数:2回
パワーステージ獲得ポイント:35点