WRC2021/12/29

【TOP10-第5位】クレイグ・ブリーン

Craig Breen

(c)Hyundai

Hyundai Motorsport

 悲願だったフル参戦のチャンスを掴み、さらにワールドチャンピオンを目指す体制で走りたいという夢を叶えることになった。目標を達成したという意味において、クレイグ・ブリーンを上回る成功を遂げたドライバーはいなかっただろう。

 ブリーンは今シーズン、またもや3台目のヒュンダイi20クーペWRCをダニエル・ソルドとシェアし、5戦にしか参戦していない。シーズン最初の一戦となったアークティックでは4位、クロアチアのターマックで5位となり、おおむね良好なパフォーマンスを見せてシーズンをスタートしたが、いずれもスタート直後はリズムの悪さに思い知らされ、トップ争いに食い込むパフォーマンスではなかったことに彼は苛立ちをみせていた。

「限定的な参戦では世界のトップレベルで争うことは困難だよ」とブリーン。それは当然のことだろう。常にマシンに乗り続けることができるドライバーとそうではないドライバーには差がでてきて当たり前のことなのだ。

 しかし、彼はシーズン3戦目となったエストニアで勝負を賭ける。まさしく1年前のエストニア以来のグラベルラリーだったにもかかわらず、カッレ・ロヴァンペラとの優勝争いの末に2位でフィニッシュ、ブリーンはラリー後の記者会見で、熱い思いを訴えている。「僕はワールドチャンピオンになりたいと思っているが、シーズンの半分のラリーでチャンピオンになれないことは数学者でなくてもわかる。この結果がフルタイムのシート獲得に向けて、チームの上層部に伝わるメッセージになることを願っている」

 ブリーンがここで優勝争いをしても、ヒュンダイは来季もティエリー・ヌーヴィルとオイット・タナックがフルシーズンを戦うことを決めており、残されたシートには若きオリヴァー・ソルベルグを座らせることが既定路線とされていた。来季もまた限定的な参戦になることは変えられない現実であり、チームを外れるしか彼の道はなかったのだ。

 そして、ヌーヴィルのホームイベントだったイープルでは、トリッキーなターマックに誰もが苦戦するなか、ブリーンのみが首位を快走するヌーヴィルを激しく追い立てる。ヒュンダイは1-2勝利を確実なものとするため、土曜日の朝、チームオーダーを発令することになった。2位をキープすることを命じられたブリーンは、「マニュファクチャラーズ選手権のためには、最後まで2台のマシンを走らせることが重要だ。しかし、とても良い走りができると感じていたので、とても辛いよ」と悔しさをにじませた。

 そしてフィンランドでブリーンが3戦連続表彰台となる3位のフィニッシュをするのを待ち構えていたかのように、Mスポーツ・フォードは、2022年にブリーンをチームに迎えることになったことを正式に発表した。ブリーンの契約期間は2年となり、新しいフォード・プーマ・ハイブリッド Rally1で初めてシーズンにフル参戦するチャンスを掴むことになった。

 きわめて異例ではあるが、これより1カ月前、WRCがギリシャ・ラウンドを戦っているとき、すでにブリーンは英国で初めてプーマRally1をテストしており、シーズンの残り期間をヒュンダイで過ごすのではなく、新天地でマシン開発に充てることを願っての早期のチーム離脱となった。

 ブリーンは未知なるマシンで誰よりも多くのテストをこなして、来年のモンテカルロから新シーズンを迎える。「2年前には、僕の世界選手権でのキャリアは終わったと思っていた。でも、ありがたいことにそうはならなかった。最高のシーズンを過ごし、来年は新たな冒険に向かっている。しかも、これは僕たちが中心になって仕上げてきたマシンなんだよ」

 ここまでは苦難の道のりだったが、ブリーンの目の前には輝かしい未来が広がっている。

■クレイグ・ブリーン
生年月日:1990年2月2日(31歳)
選手権ランキング:8位
獲得ポイント:76点
ベストリザルト:2位
優勝回数:0回
2位の回数:2回
3位の回数:1回
表彰台回数:3回
出場回数:5回
ベストタイム回数:8回
リードしたステージの数:5SS
リタイア数:0回
リスタートの回数:0回
パワーステージ勝利数:0回
パワーステージ獲得ポイント:9点