WRC2022/12/29

【TOP10-第5位】勝田貴元

「見えてきた目標地点」

■勝田貴元

Katsuta Takamoto
Toyota GAZOO Racing WRT Next Generation

若きサムライは2015年からヨーロッパに居を移してラリーに挑んできた。勝田貴元のラリー・ジャパンにおける表彰台は、そのたくましい成長を見るようだった。

勝田の2022年は、凍結したフォンベル峠に向かうコーナーでオフする、きびしい開幕となった。ポルトガルでは最終ステージでヨーロッパ・ラウンド初の表彰台を逃して4位となったのは悔しい経験だったが、そのあとのサファリでも3位でフィニッシュ、キャリア2度目のポディウムに立つことになった。

勝田はシーズン前からエストニアやフィンランドの高速ステージで表彰台を狙いたいと語ってきたが、お気に入りのステージでも走りきった経験が少なければスタートからスピードに乗せられない。エストニアでさえ4度目の挑戦で初完走、それが5位にとどまった理由であり、フィンランドでも2度のスピンが彼の自信にブレーキを掛けることになったのだろう。それでも彼は、このミスを受け入れ、自身のペースを見失うことなくポイント圏内でゴールした。

勝田はシーズン終盤まで全戦ポイント獲得したたった一人のドライバーだったが、ニュージーランドで今季初のリタイアを喫してしまった。スローな左コーナーでワイドになってコースオフ、ゆっくりとバンクを転がり落ちたマシンは静かにストップしたが、ロールケージにダメージ・・・。珍しいミスだったが、その直前のステージでは4番手タイムを刻み、安定したドライバーという評価から脱却しようと新しいトライを始めたようだった。

母国ジャパンのWRCのスタート前、彼は「最初の自分ができるすべてを出し切りたい」と印象的な言葉を残している。これは最初のステージから全開を出して攻めるという意味ではない。ジャパンの狭い林道のステージには側溝や縁石といったヨーロッパでは経験したことがない罠がいくつも待ち受けており、どこで攻めるのか、がまんしなければいけないのか、これまで経験して蓄積したことのすべてを出し切ってそれを見極めようという決意の言葉だった。

勝田は2022年、トップドライバーのなかでもっとも安定していたとの評価を得ており、トヨタが新シーズンに向けてセバスチャン・オジエが出場しないイベントではマニュファクチャラーズ選手権のノミネートドライバーとして彼を指名したのは、今年の信頼性の高さを考えれば当然のことだろう。しかし、勝田は「ミスター・コンシスタンシー(安定感)」と呼ばれることに満足しているわけではない。

勝田はシーズン中、安定したスピードを評価されるシーンでも、むしろ思うようにペースが上がらないことに少し苛立ち、「もっといいタイムを出すためには、もっとペースを上げる必要がある。それにはもっとリスクを負う必要があり、それが僕の目標になる」と語ってきた。

勝田が言うように、彼はいつかもっと速くなる必要がある。しかし、その日は必ず来る。あとは世界の道路のあらゆる路面コンディションやその変化に対応してすぐにトップレベルのペースを発揮できるかどうかだ。これは守りのなかで学べるようものではない。トップ争いのプレッシャーのかかる局面でのスピード領域で己を磨き、経験を積まなければ、身につくことはない。

勝田は自身が向かうべき目標地点を最初から世界一高い頂きへと定めてきた。ここまで長い道のりだったが、すでに彼は稜線の先の頂きを視界に捕らえているだろう。この壁を越えるためには、これまで以上に苦しむこともあるだろう。が、安定性とスピードを高い次元で武装したとき、勝田はきっと恐ろしい存在になるはずだ。

生年月日:1993年3月17日(29歳)
選手権ランキング:5位
獲得ポイント:122点
ベストリザルト:2位
優勝回数:0回
2位の回数:0回
3位の回数:2回
表彰台回数:2回
出場回数:13回
ベストタイム回数:2回
リードしたステージの数:0SS
リタイア数:1回
リスタートの回数:1回
パワーステージ勝利数:0回
パワーステージ獲得ポイント:7点