WRC2022/10/23

オジエが首位堅持、今季初勝利に向け20秒をリード

(c)Toyota

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 2022年世界ラリー選手権(WRC)第12戦ラリー・デ・エスパーニャは22日土曜日に行われたレグ2を終えて、トヨタGAZOOレーシングWRTのセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)が強力なペースを見せて首位をキープ、最終ステージでカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)を1.4秒差でかわして総合2位に浮上したティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)に対して20.7秒差を築いている。

 土曜日はサロウ東北エリアのよく知られた伝統的なステージが舞台となる。サヴァヤー(13.93km)、ケロール〜レス・ポブレ(20.19km)、ラリー最長のステージのエル・モンメル(24.18km)の3ステージを走ったあと、ポート・アヴェンチューラのサービスをはさんで午後も同じ3ステージをループ、ホストタウンのサロウに戻って2.15kmのサロウ・スーパーSSで1日を締めくくる、7SS/118.75kmの一日となる。

 朝はノーサービスとなり、タイヤフィッティングゾーンでフレッシュタイヤに交換してドライバーたちはステージへ向かう。雨の心配がなく、昼までに25度まで気温が上昇するとの予報もあるため、すべてのドライバーがオールハードタイヤをチョイスした。

 オープニングステージのSS9サヴァヤーでベストタイムを奪ったのは、初日トップから12.5秒遅れの3位につけていたヌーヴィルだ。ヒョンデのマニュファクチャラータイトルの可能性を最終戦に持ち越すためには、チームとしてトヨタより30ポイント以上の選手権ポイントを持ち帰らなければならないため、もうあとがない状況だ。土曜日のステージは、昨年、スペインで勝利を飾ったヌーヴィルがほぼパーフェクトな走りで締めくくって勝利を確実なものとしたっときとまったく同じルートとなる。

 ここでオジエまで11.6秒差、2位のロヴァンペラまで6.2秒差に詰め寄ったヌーヴィルは、トヨタの二人を切り崩すことへの闘志をみせたが、まだマシンのフィーリングは昨年のような完璧な調和を得られてないことを打ち明ける。

「戦いはまだ終わっていない、それは確かだ。しかし、プッシュしている感じはあるが、安心感はない。去年はもっとすべてにおいて確信が持てたのに、ここではちょっとオンとオフがある。グリップの感触を得るのが難しいし、アンダーステアがかなりあった、だからそこを改善していきたい」

 首位のオジエはヌーヴィルのペースから0.9秒遅れた2番手タイム、2位のロヴァンペラとの差を5.4秒へと広げてみせたが、まだすべてを出し切ったわけではないことを示唆した。「正直なところ、まだ最大限の力を発揮できていない」とオジエは語った。それでも「午前中はフィーリングを掴んで、リスクレベルをマネージメントする必要がある。でも悪いスタートではないよ」

 オジエはその言葉どおりにSS12ケロール〜レス・ポブレでベストタイム、リードを9.7秒に広げている。3番手タイムにとどまったロヴァンペラはここまでの自身のペースに満足していると語りながらも、引き離しにかかっているオジエと4.5秒差の背後に迫ってきたヌーヴィルの二人の速さは、このあとにラリー最長ステージが控えるだけにリスクを冒しているように見えている。

「他の皆がもう少し速いのは確かだけど、僕はクリーンな走りができているし、大きなリスクを負わなければならないから、僕たちはまだ快適なペースなんだ」。

 それでも、ブラインドコーナーの真ん中にまるでレンガのような茶色の物体が現れ、ロヴァンペラは思わずブレーキを踏んだと明かしている。「最終コーナーで怖い思いをした。道の真ん中にブロックのようなものがあって、クルマが壊れるんじゃないかと思ったけど、幸いにも柔らかかったんだ。何がなんだかわからず、怖くてブレーキをかけたよ」

 続くSS11エル・モンメルは24.18kmというこの週末でもっとも長く、そして最速ステージになる可能性をもっている。気温は24度まで上昇しており、当然のことながらタイヤにとっては厳しいステージになるはずだったため、最初の2つのステージではタイヤを温存したのはロヴァンペラだけではなかっただろう。

 だが、ステージははじまってすぐにチームメイトのアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)と9位を争っていたガス・グリーンスミス(フォード・プーマRally1)が連続する高速コーナーでアンダーステアを出してしまいガードレールに激しくクラッシュ、リヤタイヤを吹き飛ばしたマシンがコースをふさぐことになってしまう。

 幸いにもクルーは無事だったが、コースには赤旗が出されたあとキャンセルとなり、後続のマシンはロードセクションとして通過、サービスパークへと戻ることになる。

 朝のループを終えてオジエがトップ、9.7秒差でロヴァンペラ、さらに4.5秒差の3位のヌーヴィルが続いている。昨年はクラッシュしたため朝のケロール・ステージを走ってなかったタナクはペースを落とし、チームメイトのヌーヴィルとの差は7.5秒から13秒へと広がっている。

 5位につけているダニエル・ソルド(ヒョンデi20 N Rally1)はこのタイヤにタフなループではいつもタイムを落とすため、朝の2つのステージではペースをコントロールしたようだ。「毎年、ここでは負けてしまうんだ。タイヤへの負担が大きいから、少し気をつけていくよ」と彼は語り、明らかに長いエル・モンメルにむけてタイヤを温存したが、それは無駄になってしまった。10.3秒あった後続のエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)に3秒差まで迫られることになった。

 クレイグ・ブリーン(フォード・プーマRally1)はエヴァンスから2.5秒遅れの7位で土曜日をスタート、オープニングSSでは1.8秒差に迫り、「このステージは初めてだったけど、今日はマシンがすごくいい」と語っていた。だが、気温が上昇し始めると、彼はアンダーステアに苦しみ、タイムは伸びず、その差は6.2秒に広がった。「フロントがオーバーヒートしたような感じだった」と口が重くなってしまう。ブリーンの後方の8位には明らかに初日よりペースが改善した勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)が続いている。慎重なスタートとなった初日の朝はトップから1kmあたり0.8秒もの遅れの喫していたが、いまではコンスタントに1kmあたり0.3秒台のタイムを刻み、しかもペースはブリーンにもまったくひけを取らない。

 サロウのミッドデイサービスのあとの午後のループの最初のステージとなったSS12サヴァヤーでも速さを見せたのはオジエだ。連続してベストタイムを奪った彼は2位のロヴァンペラに対するリードを12秒へと拡大した。

 ロヴァンペラはデイサービスでオジエを追い詰め、ヌーヴィルと競り合うたためにリスクを冒すつもりはないことをすでに示唆していた。「もっと速く走ることはできるけど、そのぶんクレージーなリスクが必要になる。パンクのリスクもかなり高いと思う。みんながステージを知っていると、誰が一番大きなカットをするか、カットのリスクを取るかになってしまう。これ以上(リスクを)取るのはあまり気が進まないよ」

 しかし、オジエはこれだけのリードでは手を緩めるわけに行かないとさらなるプッシュを宣言した。「とても良いリード? 10秒の僅差だ。まだ終わっていないよ。正直なところ、これまでと同じようにやっていくしかない」

 オジエは続くSS13ケロール〜レス・ポブレでも連続してベストタイム、「いいフィーリングで走り続けている。トラブルさえなければ大丈夫。でも、何が起こるか分からないから、この走りを続けなければならないよ」

 朝のループで4.5秒差に縮まったロヴァンペラとヌーヴィルによる2位争いは、ヌーヴィルの必死のプッシュにもかかわらず、5.7秒差へとやや広がり、やや行き詰まった状況となっている。「ステージごとにセットアップを変えているが、これ以上速くなるものは見つからない。次のステージで再挑戦するつもりだが、今のところこれ以上できることはない」

 そして迎えたラリー最長のステージのエル・モンメルでは、この朝に猛攻する予定がキャンセルによって計画変更となってしまったソルドがベストタイムを奪ってみせた。終盤ではグリップはもういくらも残っていないため、彼は最後のコーナーでリヤを大きく膨らませ、あわやクラッシュ寸前になりながらも、チームメイトのヌーヴィルを5秒も引き離す圧巻の速さをみせることになった。「必死でプッシュしたよ!このステージは大好きなのでただひたすら走った。ここはクリーンだし、友達と今日は最速タイムを出すと約束したんだ!」

 ヌーヴィルは、ステージエンドでこれ以上セッティングを変えても速くならないことに苛立っていたが、ロヴァンペラが不可解とも思える失速をみせたためその差はわずか0.4秒に縮まることになった。ロヴァンペラは遅れた理由を聞かれたものの、何が悪かったのかについてはここでは詳しく語ろうとしない。この日のゴール後、彼は「スタートラインでマシンのセッティングがおかしくなっていたのを直すことができず、さらにステージの序盤ではハイブリッドシステムの問題でタイムを失ってしまった」と明かしている。

 オジエはここでは3番手でまとめ、2位のロヴァンペラとの差はいまや21.1秒へと拡大、昨シーズンのモンツァ以来の勝利に近づいたように見える。「いいリードだ。とてもいい一日になっているが、まだ終わっていない。(サロウの)ミッキーマウスステージが残っていて、そこは簡単じゃない。でも今のところ、とてもいい一日だ」

 土曜日を締めくくるのはサロウ市街地で行われる伝統的なスーパーSSだ。サロウの海辺に沿ったテクニカルなストリートコースは、コンクリートウォールや高い縁石でレイアウトされるため狭くトリッキーであり、海風が運ぶ砂によって滑りやすく危険なコンディションだ。

 オジエはここで無難に3番手タイムで悠々と首位を守りきったが、ここでベストタイムを叩きだしたヌーヴィルがロヴァンペラを抜き去って20.7秒差の2位で続くことになった。

 ロヴァンペラとの差はわずか1.4秒とにすぎないため、最後まで戦いの行方はわからないものだが、ヌーヴィルはトップを狙うにはすでにタイム差がつきすぎてしまったと認めている。「厳しい一日だった。午前中はスピードがあったが、午後は少し落ちてしまった。このまま競ってペースを上げられると思っていたが、オジエは朝のギャップをほぼ倍にし、僕たちにできることはほとんど無かった」

 ヌーヴィルとベストタイムを分け合ったオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)は、前日のハイブリッドブーストやオルタネーターベルト破損という問題もあって表彰台争いから一歩離れたかに見えたが、午後のループではじわじわと追い上げ、ロヴァンペラの14.5秒後方の4位で土曜日を終えることになった。

「まあまあの一日だった。技術的には何の問題もなかった。ただ、ペースとマシンのフィーリングが少し足りなかった」とタナクはふりかえった。

 前ステージのエル・モンメルではラジエータグリルがたくさんの草木に覆われ、どこかで引っかけた草がブレーキで引火して燃え上がろうとしたが、それはかなり危険な冒険だったと彼はふり返っている。「午後はコンフォートゾーンの外でかなりプッシュしていたんだ。でも、どうにかこうにかコースに復帰することができた。まさに奇跡だった」

 タナクから36.6秒遅れの5位にはソルドが続き、一時、3秒差まで縮まった6位のエヴァンスとの差を14.4秒へと広げてみせた。

 7位につけるブリーンは、エヴァンスに迫るはずが、エル・モンメルの2回目の走行ではフロントタイヤの摩耗でアンダーステアになってしまいタイムが上がらず、12.1秒もの大差をつけられてしまった。後方の勝田も同じようにタイヤの問題に苦しみながらもこのロングステージでは4番手という素晴らしいタイムを奪い、ブリーンに18.9秒差まで迫っている。

「ステージ終盤、タイヤがオーバーヒートしてアンダーステアが大きくなり、最後は楽しくなかった。ターンインがうまくいかず、ハンドブレーキが必要になったほどだった」と勝田は明かしている。

 明日は、夜明け前の薄暗いなかでオープニングステージのプラットディップからスタートする4SS/56.10kmの最終日となる。トヨタは意外なことにこのスペインでは2017年の復帰以来一度も勝利を飾っていないが、ひょっとしたらオジエが今季初勝利でトヨタのマニュファクチャラータイトルに花を添えることになるかもしれない。