2022年世界ラリー選手権(WRC)第12戦のラリーRACC-ラリー・デ・エスパーニャは、トヨタGAZOOレーシングWRTのセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)が今季初勝利、通算55勝目を飾ることになった。トヨタは前戦の既に決まっているドライバーとコドライバーのタイトルに続き、最終戦を待つことなくここでマニュファクチャラータイトルを獲得、2年連続での3冠に輝いている。
スペイン最終日は夜明け前の暗闇のなかでのタイヤフィッティングゾーンで始まることになり、ナイトポッドランプを装着したラリーカーが決戦の舞台となるサロウ西部エリアへと向かって行った。
スペインの最終日はプラットディップ(12.15km)とリウデカニエス(15.90km)という2つの伝統的なステージをミッドデイサービスをはさんで2回ループする4SS/56.10kmという短い1日だ。オジエは、昨シーズンのラリー・モンツァ以来の勝利に向けて安泰ともいえる20.7秒のリードを築いているが、その彼ですら2015年のスペインでは勝利目前の最終ステージでクラッシュしているため、まさしく最後まで何が起きるかわからない。
一方の2位争いは接戦だ。土曜日の夕方、サロウ・スーパーSSで追い上げたティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)とカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)との差はわずか1.4秒にすぎない。エル・モンメルのハイブリッド・モードの切り替えがうまくいかなかったことによる悪夢のようなタイムロスを挽回すべく、新チャンピオンは最終日の逆転を賭けて、オープニングステージのSS16プラットディップで猛攻を仕掛ける。
だが、ステージにはインカットでかき出されたおびただしい量の砂利がちらばっており、1秒を縮めるチャレンジすらあまりにもリスキーだ。それにもかかわらず、ロヴァンペラはセカンドスプリットではヌーヴィルと同タイムで並ぶまさしく全開モード。だが、最終的にはライバルに0.1秒差を付けられてしまい意気込みに反してタイムを縮めることができない。
「ティエリーを追いかけるのは簡単じゃない、僕は十分なポイントを取れるようフィニッシュしてクルマを帰還させたい。彼は僕らを強くプッシュしてくると思うけれど、僕らが何ができるか見てみよう」。しかし、ロヴァンペラはヌーヴィルの揺さぶりを理解している。無理してヌーヴィルを追わなくても、このポジションでフィニッシュしてもトヨタのタイトルには揺るぎはないからだ。
オジエはこのような危ないコンディションではリスクを避けて完全にセーフティなペースで走行する。3.5秒遅れの8番手タイムにとどまり、ヌーヴィルに対するリードは17.5秒へと縮まったが、少しもプレッシャーはなさそうだ。「僕たちにとってイージーなスタートだった。カット一つ一つ、そしてコース上すべての石に気をつけながら走ったよ。なんとかコントロールしていけるように頑張るよ」
プラトディップで最速を記録したのは5位につけるダニエル・ソルド(ヒョンデi20 N Rally1)だ。後方のエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)との差を16.2秒に広げることになった。エヴァンスのマシンはフロントに小さなダメージがあったが、これは暗闇のなかを飛びだしてきた農家の豚の群れを避けるためだったようだ。
「かなりスピードを落とさないといけなかったんだ。そのうちの1匹にぶつかったんだと思う。トップのペースからそんなに遅れていないし、何ができるか考えて改善を続けていきたい」
SS17リウデカニエスでは予期せぬ波乱が待っており、多くのドライバーが左フロントタイヤに問題を抱えるステージとなった。クレイグ・ブリーン(フォード・プーマRally1)は、突然、左フロントのホイールがバラバラになったあとバンクに乗り上げて50秒近くを失ってしまう。この結果、勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)が7位にポジションを上げることになった。
ブリーンの問題を引き起こしたのは、左コーナーのイン側に埋まっている排水溝のふただ。道路の補修によるせいか大きな段差がついてしまっており、インカットしてきたマシンがことごとくこの罠の餌食となる。エヴァンスも同じく左フロントをパンクして10秒あまりをロス、ポジションはキープできたものの、ソルドとの差は33秒に広がってしまった。
さらに3位につけていたロヴァンペラもまったく状況で左フロントをパンクして13秒をロス、ヌーヴィルとの差は14.7秒に広がってしまい、2位争いの望みが絶たれてしまった。
首位のオジエはスタート前にチームから注意するよう知らされていたため事無きを得ている。「最後の方にトリッキーな場所があったが、僕はエルフィンとクレイグが問題を抱えているとスタート前に聞いていた。僕はリスクを冒さないので、とにかく回避しようと思っていた。プッシュモードでそこにタイヤを落としたらダメージがあっただろう」
ヌーヴィルはロヴァンペラを抑えるためにここでもハードにプッシュ、ベストタイムを獲得、オジエから3.4秒を奪いとり、リードを14.1秒に縮めることになった。
天気予報では雨の予定はないと伝えていたが、さらなる波乱を呼ぼうとしているのかミッドデイサービスのころからサービスパークでは小雨が降り始める。「まだこれからだ。何が起きるか分からないから、絶対にプレッシャーをかけ続ける」とヌーヴィルは決意したようにプラディップの2回目の走行へと向かう。
だが、残念ながらヌーヴィルの期待に反して低く垂れ込めた雲間からはまだ雨は落ちてこない。SS18プラディップではオジエがこの日初のベストタイムを奪い、ヌーヴィルとの差は15.8秒となった。オジエは今季初の勝利の瞬間が近づいてきたことを確信したかのように笑みをみせた。「あと1つだ。今朝言っていたように、無理をしないで差をうまくコントロールすることを心がけた。これで最後の数キロを楽しめる余裕が少しできた」
パワーステージとして行われる最終ステージのリウデカニエスはいつもと同様に最後に勝者を出迎えるためにここまでのポジションでのリバースでスタート、クリーンな走りでゴールを迎えたロヴァンペラの暫定3位が確定した瞬間、トヨタのマニュファクチャラータイトルが決まることになった。「僕たちがこのラリーで望んでいた最高の結果ではないが、それほど悪い結果でもないと思う。チームの皆に、おめでとう、そしてありがとうと言いたい。チームがいかに優れているかを証明できたと思う」
週末を通してマシンのセットアップに苦しみながらも最後までヌーヴィルは反撃を諦めなかったが、オジエはパワーステージでもライバルを圧倒する走りをみせた。彼は今年のモンテカルロでは最終ステージでのパンクのために勝利を失うことにもなったが、ここではパーフェクトな走りを最後までみせて、ヌーヴィルに16.4秒差をつけて今季初優勝を飾ることになった。また、引退したジュリアン・イングラシアに代わって今季からオジエのコドライバーを務めてきたバンジャマン・ヴェイヤスにとっては記念すべき初勝利となった。
「ベンジーにとって初優勝なので、とてもうれしいよ! チームにとっても重要な週末だったので、優勝できて本当にうれしい。このような結果は簡単に出せるものではないし、今シーズンは非常に圧倒的だったので、トヨタGAZOOレーシングにおめでとうを言いたい」とオジエは喜びを語っている。
ロヴァンペラが最終日の朝にパンクしたことで、オイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)にも表彰台のチャンスがかすかに見えたが、結局その差はそれ以上縮まることはなく、9.5秒差でポディウムを逃すことになった。「自分自身に少し失望しているとしか言いようがない。マシンを理解することも学ぶこともできず、自分が何をすべきなのかがよくわからない。自分自身に原因があって、うまくいかない。困難だよ」
なかなか母国で勝てないソルドは、昨年のラリー・デ・エスパーニャ以来続いていた連続表彰台を継続することはできず5位でラリーを終えることになったが、この週末には2つのベストタイムを獲得し、まだまだ十分に現役のトップドライバーとしてキャリアを続けることができることを証明した。
エヴァンスは2度のパンクによって表彰台ははるかに遠い6位に終わっている。勝田は後方のMスポーツ・フォード勢を抑えきってチームメイトに続いて7位でフィニッシュ、母国のラリー・ジャパンに向けて少しずつ手応えを掴む週末になった。「序盤はミスが多すぎた。チームとグラベルクルーに感謝したい。マシンは週末を通して素晴らしかった。残念ながら思うようなパフォーマンスができなかったが、日本に向けて改善したい」
今季のドライバーズタイトルはすでにロヴァンペラのものとなっているが、ランキング2位をめぐるヒョンデのチームメイト同士の戦いは最終戦のハイライトの一つになるだろう。タナクが187ポイント、ヌーヴィルは166ポイント、その差は21ポイントとなっている。4位のエヴァンスが124ポイント、勝田が106ポイントで5位で続いている。
マニュファクチャラー選手権は最終戦を待たずにタイトルはトヨタのものとなったが、ヒョンデ・モータースポーツの2位、Mスポーツ・フォードの3位、勝田のネクストジェネレーションの4位がそれぞれ確定することになった。
そして12年ぶりに日本で開催されるWRCの最終戦まですでに20日を切っている!