2025年世界ラリー選手権(WRC)第11戦ラリー・チリ・ビオビオは9月15日に最終日を迎え、トヨタGAZOOレーシング・ワールドラリーチームのセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)が圧巻の走りでシーズン5勝目を飾るとともにスーパーサンデーとパワーステージも制して、選手権リーダーに立つことになった。また、トヨタはこれで通算103回目のWRC優勝を達成、シトロエンが長年誇っていたWRC通算最多勝マニュファクチャラーのレコードを塗り替える歴史的勝利を飾ることになった。
晴れ上がった朝を迎えたラリー・チリの最終日は、前日同様にビオビオ川の南のラウコエリアの山岳地帯を舞台に、ララケッテ(18.62km)、ビオビオ(8.78km)の2ステージをノーサービスで2回ループする4SS/54.80kmの短い一日で争われる。
ラリーは土曜日の午後のループで3連続ベストタイムを奪ったオジエがリード、6.3秒差の2位でエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)が続き、トヨタが1−2態勢を築いている。ドライバーズ選手権ではエヴァンスがオジエに9ポイント差をつけてチリを迎えたが、土曜日までの暫定ポイントではオジエが2ポイント差まで肉薄している計算だが、もちろん最終日にはスーパーサンデーとパワーステージのボーナスポイントとして最大で10ポイントがかかっており、タイトルを争う二人の直接対決に注目が集まる。
日曜日のオープニングステージは、二人がまったく手加減するつもりがないことを証明することになった。9度目のワールドチャンピオン獲得に激しい闘志をみせるオジエは、スーパーサンデーの最初のステージでエヴァンスに0.9秒差をつけるこの週末5回目のベストタイムを叩き出し、リードを7.2秒に広げるとともに、スーパーサンデーをリードすることになった。
「一日中、非常に接戦になることは分かっていたので本当に思い切りプッシュしたよ」とオジエは語った。いきなり強烈な先制パンチをお見舞いされることになったエヴァンスは、「ところどころで少し苦戦したが、全体的には大丈夫だった」と冷静さを保とうとしていた。
土曜日の朝を1−2態勢で迎えたヒョンデ勢は、アドリアン・フールモー(ヒョンデi20 N Rally1)がチームメイトのティエリー・ヌーヴィルに14秒差をつけて3位を維持しているが、オープニングステージで5番手タイムを奪ったサミ・パヤリ(トヨタGRヤリスRally1)がヌーヴィルの7.4秒後方に迫ってきた。
金曜日のパンクによる遅れてしまったカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)は上位浮上のチャンスをつかむことができずにここまで6位と低迷しており、日曜日のボーナスポイントはチャンピオンシップのためにも重要となる。
「今日はまだ路面に少しルーズグラベルが残っているだろう。スタートポジションが後方であれば十分に戦えるだろう。全力でプッシュした」とロヴァンペラは説明したが、ルースグラベルは明らかに彼のスピードを奪っており、オープニングステージで3番手タイムを奪ったもののオジエのトップタイムからは3.3秒も遅れてしまい、スーパーサンデーでの厳しい戦いを予感させることになった。
金曜日にエンジンを壊したことで総合38位と大きく遅れているオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)にとってはなんとしてもライバルたちより多いポイントで最終日を終える必要があるが、条件はさらに悪い。3番手という走行ポジションでコースに入ったタナクはそこまでのベンチマークとなっていた地元のヒーロー、アルベルト・ヘラー(フォード・プーマRally1)のタイムを23.9秒も上回る会心の走りをみせたが、彼はステージエンドで厳しい表情を浮かべている。「このクルマがどこまで走れるのか分からない。(交換したスペアのエンジンは)すでにパワーを失っているし、オーバーヒートしているんだ」。よりクリーンになる路面を走る後方のドライバーにはまったく刃が立たず、彼は4番手タイムもトップからは4.8秒遅れてしまった。
SS14ビオビオでは、エヴァンスがオジエにプレッシャーをかけるべくベストタイムを記録することになった。このステージの2回目の走行はパワーステージとして行われるため、エヴァンスはいわばパワーステージのウォームアップでオジエに1.3秒差をつけ、2つのステージを残して、トップとの差を5.9秒まで縮めることになった。
「僕たちにはまずまずのステージだったけど、こういう非常に硬く締まった路面コンディションな簡単ではないね。これはオジエ向けのステージだ、どうなるか見てみよう、この硬い路面は彼に合うはずだ」とエヴァンスは振り返った。
ステージには大きな岩がたくさん転がっており、オジエはあまりにもタイヤに攻撃性の高い路面だと考えてアタックを控えたのだろう。「いいステージだったけど、自分のベストパフォーマンスではなかった。タイヤを摩耗したよ。とても荒い路面だったからね」
今年は昨年とまったく同じステージ構成となるが、昨年のチリを欠場している勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)にとって半分以上が新しいステージとなるため、ペースノートをなかなか信頼できずにペースにコミットできない週末となってきた。それでもここではこの週末のベストとなる2番手タイムを奪い、パワーステージに向けて期待させる走りをみせることになった。「ジャンプは良かった。昨日と同じセクションなんだけど、なんとかもっと行けるよう解決策を見つけないとね、本当に苦戦しているんだ」
ララケッテの2回目の走行となるSS15ではオジエがベストタイム、最終ステージを前に2位のエヴァンスに対するギャップを10.3秒に拡大した。またスーパーサンデーの順位でもエヴァンスに4秒の差をつけて再び首位に返り咲いた。これでここまでのスーパーサンデーの暫定ポイントを加えた選手権ポイントでエヴァンスとオジエは完全に同ポイントで並び、勝負はパワーステージに委ねられることとなった。
そして迎えたビオビオ・パワーステージ、オジエはこの週末になかったほどアグレッシブな走りをみせて圧倒、パワーステージとともにスーパーサンデーを制して完全勝利を達成することになった。
オジエは前戦パラグアイでは最終ステージで突然の雨に見舞われたことで、手にしたかに見えた日曜日のポイントを奪われたことに怒りをみせていたが、まるで2戦ぶんの勝利を飾ったかのように感極まっていた。「これこそまさに僕たちが望んでいた通りの結果だ。パラグアイでは天候のせいで失ったポイントも取り返すことができた。神様のおかげだよ」とオジエは青空を見上げた。
最後まで気迫の走りを続けてきたエヴァンスは、11秒差の2位に終わり、オジエを倒せなかったことにくやしさをにじませた。「セブに勝てなかったのはやはり少し残念だ。正直に言えばもう少し上の結果が欲しかった。でもパラグアイよりいいからね。前向きな結果だ。かなり満足している」
金曜日に一時は1−2−3態勢を築いていたヒョンデはまたしても苦戦を強いられた週末となった。チームの最高位となった3位のフールモーは、金曜日の時点でラリーをリードして初勝利に向けて気迫の走りをみせていたものの、けっきょくオジエから46.5秒も引き離されることになった。
パヤリは最終日の朝から素晴らしいパフォーマンスを見せて、4位につけるヌーヴィルに3.2秒差に迫ったが、ペースを落としてタイヤを温存していたヌーヴィルがパワーステージでオジエから0.4秒差の2番手タイムを奪い、パヤリの挑戦を4.4秒差で突き放した。
ロヴァンペラはパヤリから32.3秒遅れの6位でフィニッシュ、パワーステージでは5番手タイム、スーパーサンデーではどうにか3番手タイムで続いたものの、「今週末も何も良いことはなかった」と静かにつぶやいて走りさった。
勝田は試練のチリを7位でフィニッシュ。パワーステージでも猛アタックを敢行したが、ダスティな路面に阻まれてしまい、日曜日はノーポイントで終えることになった。「このステージでもまだ道を掃く必要があった。僕たちにとってはかなり難しいラリーになった。ようやく最終日は少し良くなったが、最初の2日間でもっと良い走りを目指す必要がある」
あまりにパワーがないスペアエンジンに、タナクは「まるでRally2カーだ」と皮肉な笑みを浮かべていたが、パワーステージでは8番手タイムでノーポイントも、からくもスーパーサンデーで1ポイントを奪っている。
第11戦ラリー・チリ・ビオビオを終えて、ドライバーズ選手権ではオジエがエヴァンスに2ポイント差をつけて、ついに選手権リーダーとなった。ロヴァンペラは21ポイント差の3位に後退、厳しい週末となったタナクは43ポイントのビハインドとなってしまい、チームメイトのヌーヴィルも58ポイント差となっている。
マニュファクチャラー選手権では、トヨタがヒョンデとの差を100ポイントから125ポイントへと拡大、10月16〜19日に行われる次戦のセントラル・ヨーロッパ・ラリーで9回目のタイトルを決める可能性がでてきた。