WRC2020/12/05

ソルドが大雨モンツァをリード、ラッピが2番手

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 2020年世界ラリー選手権(WRC)最終戦のACIラリー・モンツァの金曜日は、強い雨が降り続く滑りやすいコンディションのなかで行われ、この日の最終ステージでダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)がエサペッカ・ラッピ(フォード・フィエスタWRC)を1秒差で抜いてトップに立っている。

 みぞれ混じりの大粒の雨が降る寒い朝を迎えたモンツァ・サーキット。旧高速オーバルの象徴的なバンクコーナーやメインサーキットの滑らかなターマックと施設内のバンピーなグラベル路を組み合わせたステージは、ラリー・モンテカルロとラリーGBの危険なところをミックスしたコンディションとなってドライバーたちを待ち受けていた。

 オープニングSSのスコーピオン(13.43km)はまだ薄暗いなか、選手権リーダーのエルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)を先頭にしてスタート、彼はいきなりシケインで一瞬エンジンを止めてしまうが、選手権を争う後続のライバルたちにはもっとひどい出来事が待っていた。

 首位で2日目を迎えたセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)はマシンをスライドさせて巨大なヘイベイルに左リヤをヒットしてマシンストップ、ベイルをなぎ倒すほどの衝撃がリヤにあったが、どうにか走行を続け、10秒遅れの4番手タイム、3位まで後退してしまった。

 さらに酷い仕打ちを受けたのはティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)。彼もまた、同じ位置のベイルにヒット、水たまりでアクアプレーニングを起こしたために激しくオーバーシュート、メッシュのフェンスにマシンがひっかかってしまい脱出に手間取ってしまう。彼はオジエより20秒あまりをロスしてしまい、逆転タイトルを狙うはずがいきなりリーダーボードのトップ10から外れて13位へと後退することになった。

 上位陣の混乱でこのステージの危険性をすぐに知ることになり、後続はやや慎重にスタートを切ることになったが、そのなかで、後方の8番手のポジションからスタートしたソルドがベストタイムで新しいラリーリーダーへと浮上、同じく7番手からスタートしたエサペッカ・ラッピ(フォード・フィエスタWRC)が2番手タイムを奪って4.6秒差の2位へと付けることになった。オジエは完全にエンジンを止めたにもかかわらず7.1秒差の3位にとどまっており、彼の後方0.8秒差の4位にはカッレ・ロヴァンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)、エンジンを止めたあとは木曜日のオープニングステージ同様に慎重な走りを心がけたエヴァンスが4位から5位へとポジションダウン、走行中にドアが開くトラブルに悩まされたオイット・タナク(ヒュンダイi20クーペWRC)が続いている。

 続くSS3はスコーピオンの2回目の走行となる。ラリー・モンツァでは特別なルールのなかで行われており、サーキットのステージはすべてステージ後に各15分間のサービスが設定されている。そのためドライバーたちはコンディションにあわせてマシンのセッティングやタイヤの変更を行って新しいステージに挑むことが可能となる。

 激しい雨によってあらに多くの水たまりができたSS3では、10位につけていたガス・グリーンスミス(フォード・フィエスタWRC)がゲートポストにクラッシュしてリタイアするなどさらに危険なコンディションとなっているが、このステージでラッピがただ一人、スタッドなしのスノータイヤを選択するというギャンブルを成功させてベストタイム、ソルドを抜いてトップに躍りだした。ソルドは3.3秒差の2位で続いているものの、SS3のフィニッシュ後にマシンがストップし、なかなかリスタート出来ずにひやりとさせたが、なんとかサービスにたどり着いている。

「大きな賭けだ!タイヤがどのくらい摩耗したか見てみないといけないが、どうやら上手くいったようだ!」とラッピは語っている。FIAはラリー・モンツァが雪になる可能性があることから急遽、スノータイヤの追加登録を認めたが、各ドライバーとも使用できるのは8本のみだ。

 モンツァ・サーキットでは大雨だが、すでに明日のアルプスの麓で予定される標高の高い明日のステージでは雪が降りしきっているという情報がもたらされているため、スノータイヤをここで完全に使い切るわけにはいかない。

 総合リーダーボードではトリッキーなステージでナローボディのシュコダ・ファビアRally2エボを駆るアンドレアス・ミケルセンが、オジエに0.2秒差をつけて3位へと浮上するというサプライズをみせるなか、オジエはエンジンを止めたSS2よりもさらに10秒近く遅れてフィニッシュした。

 オジエはウォータースプラッシュのあとでウインドウスクリーンが曇って完全に視界が失われるなかで奮闘、ジュリアン・イングラッシアがエアベントを調整して問題が解決したときにはすでに終盤だった。それでも彼はライバルのエヴァンスには0.8秒差をつけてその差を4秒へと引き離している。「まるでラリーGBを、スリックタイヤで走っているようだった!スリッパリーだ!」とオジエはステージエンドで訴えている。

 エヴァンスは「マシンをまっすぐに保つのが難しい」と首を横に振るが、安定したアプローチを続けるという戦略はここまでうまくいっている。タナクに0.9秒差で抜かれたが、トリッキーなステージにてこずったロヴァンペラが後退したため、5位をキープした。

 チンチュラート・ステージの1回目の走行となるSS4では、ラッピの快進撃を見たすべてのドライバーがスタッドなしスノータイヤ4本を選択してステージに臨むことになった。

 だが、ステージはマシンを止めてしまったヌーヴィルによって中断することになる。彼は朝の遅れを挽回すべくハードにプッシュしていたが、バンクに設けられたコンクリート製のシケインに右フロントをヒット、しばらく走行を行うもののサスペンションが壊れており8.7km地点のグラベルセクションに入ったところで道路をふさぐ形でストップ、エンジンも水をかぶってしまい再始動することはかなわず、彼のタイトルへのチャレンジはここで終わることになってしまった。

 ヌーヴィルと同様にオジエもバンクセクションの終盤で右のコーナーをオーバーシュート、幸いにもプラスチック製のボラードにぶつかっただけで事無きを得たが、貴重な時間を費やしてしまい、ベストタイムを奪ったエヴァンスがタナクを抜いてオジエの3秒後方へと浮上してきた。エヴァンスはタイトルを争うライバルのすぐ背後につけることができたことに満足したように、「ずっと良かったのは確かだ。少し慎重になり過ぎた、でもそれと同時に溜まり水がとにかくひどかった」と語っている。

 タナクにとっては不運だった。エヴァンスを2.7秒リードしてこのステージを迎えた彼は、コースをふさいで止まってしまったヌーヴィルの影響を受けた1台として首位のラッピや2位のソルドとともにノーショナルタイムが等しく与えられたが、これはエヴァンスのタイムの3.3秒遅れであり、0.4秒差の5位へとポジションを譲ることになった。

 朝のSS3でこそスノータイヤのギャンブルを成功させて一歩飛び抜けたラッピだが、チンチュラートの2回目の走行となるSS5ではいまやすべてのドライバーがスノータイヤを装着して臨んでおり、スノータイヤを温存してレインを選択したためにスピードを鈍らせることになった。彼とソルドとの差は2.8秒とわずかに縮まったにすぎないが、ここでベストタイムを刻んだ3位のオジエは、20.1秒あったラッピとの差を10.5秒へと縮めることに成功することになった。

 モンツァ・サーキットの1日を締めくくるのは10.31kmのグランプリステージだ。ラッピはまたしてもウェットタイヤを選択、ストレートでブレーキングが間に合わずにシケインにヒットしてしまう。幸いにもそれはコンクリートではなくプラスチック製だったために事無きを得たが、ベストタイムを叩き出したソルドに3.8秒の差をつけられ、総合では1秒差で2位に後退することになった。

「スノータイヤをセーブしたかったことはたしかだが、あれがここでベストな選択だったかどうかは自信ないよ。スノータイヤでも水溜まりではアクアプレーニングになることが多かった。首位は失ったが、明日がトリッキーなコンディションであればチャンスはある。みんな雪を期待していると思うので、スタッドレスで完全なモンテの戦いだね」とラッピは語っている。

 1秒差ながら首位に立ったソルドは、雪になる明日のステージのためにポジションを上げてゴールしたかったと語った。「本当にタフな一日だった。スタートは良かったが、泥だらけの場所でタイムをロスしてしまった。最後は、明日のためにプッシュしようとした。このようなコンディションでは、良いクルマを手に入れるのは難しいが、今日は問題なかったよ」

 オジエは首位から12秒差の3位でフィニッシュ。すこしでも勝利に近づくことが、チームメイトとのタイトル争いの鍵を握っているだけに、初日を首位で終えたかったのが本音だろう。「残念ながらいくつかミスをしてしまったからね。けど、僕らはまだ優勝を目指して戦っているし、それが一番大事なことだ。今日ミスをしないようにするのは大変だったが、明日もこれより楽になることはないだろう」と彼はタイトル争いは終わってないと強調した。

 エヴァンスはオジエから5.1秒離されたものの、タナクを0.6秒抑えて4位につけてこの日をフィニッシュ、初タイトルにむけてここまでは計画どおりに進んでいるように見える。

 一日に満足しているかと聞かれたエヴァンスは、「見ての通り、アクアプレーニングが多くて非常に難しい一日だった。シェイクダウンで何度かミスをしてしまい、ミスをすることがいかに簡単かを痛感したんだ。僕らは今日、目を見張るような速さではなかったが、ミスは最小限に抑えることができた。悪い一日ではなかったし、完璧な一日でもなかったが、すべては大丈夫だったよ」と答えている。

 タナクの7.1秒後方の6位にはロヴァンペラ。SS3まで総合3位と速さをみせたミケルセンは総合7位でこの日をフィニッシュ、R5/Rally2マシンのRC2クラスではもちろんトップとなっている。WRカーデビュー戦のオーレ・クリスチャン・ヴェイビー(ヒュンダイi20クーペWRC)にとっては試練のコンディションとなったが、8位でこの日を終えている。

 また、木曜日のオープニングSSでクラッシュした勝田貴元(トヨタ・ヤリスWRC)は総合46位となっているが、SS5で4番手タイム、SS6では2番手タイムをマークしてターマックでの速さを証明している。

 朝からエンジンにミスファイアが発生していたテーム・スニネン(フォード・フィエスタWRC)はチームが問題を解決できないまま走行をつづけてきたが、SS4のあとにリタイアを余儀なくされている。彼のエンジンには深刻なダメージがあるため、ここでシーズンを終えることになっている。

 明日の土曜日にベルガマスク・アルプスの麓で行われる標高の高いステージが舞台となる。この日、40cm以上の積雪があったセクションもあるとの情報もあり、冬のラリー・モンテカルロのようなトリッキーなコンディションとなってドライバーたちを待ち受けていることだろう。

 ミシュランは各ドライバーに許されたスノータイヤの本数を8本から10本へと増やすことを急遽決めているが、いずれにしてもこれらはスタッドをもたないサイプを切っただけのスノータイヤであり、完全に凍結した路面では試練が待つことになりそうだ。