WRC2024/09/28

タナクが首位発進もエヴァンスが0.4秒差

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 2024年世界ラリー選手権(WRC)第11戦ラリー・チリ・ビオビオは初日を終えて過去2大会連続して優勝経験をもつオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1ハイブリッド)がリードするものの、エルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1ハイブリッド)が0.4秒という僅差で続いている。

 ラリー・チリの金曜日は、昨年と同じくプルペリア(19.72km)とレレ(13.34km)を走ったあと、昨年のリオ・クラロとほぼ同じルートを走るサン・ロセンド(23.32km)のあとコンセプシオンでミッドデイサービスが行われる。午後も同じ3ステージのループを走る、6SS/112.76kmの一日となる。

 オープニングステージのプルペリアは、一番手走行のティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20N Rally1ハイブリッド)、それに続いてタナクとセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1ハイブリッド)の3台が走り終えたところで観客の安全性の問題からキャンセルされるという波乱の始まりとなった。

 選手権リーダーのヌーヴィルがほぼドライコンディションの路面でのクリーニングのために大きく遅れてしまうなか、オジエは2番手タイムのタナクに9.1秒もの大差をつけるベストタイムを奪ってラリーをスタートする。だが、気持のいい走りを披露したにもかかわらず、彼はステージエンドレポーターの称賛にも返事はそっけない。「すべてが順調、いいスタートだった」

 オジエは前戦アクロポリス・ラリーの最初のステージで、ひどいダストのなかで走行を強いられたことについて不満を述べていたが、このときの発言が不適切だったとしてラリー後に猶予付きの3万ユーロの罰金を言い渡されている。彼はチリのスタート前にこのペナルティについて触れ、「このような問題で我々を黙らせようとするのは悲しいことだ。FIAとスチュワードに会ったときにも、侮辱したことはなかった。自分の表現がよくなかったかもしれないね」と語っており、この週末、余計な発言をしないつもりでいるようだ。

 一方、この週末は選手権のためにもリスクを避ける戦略で行くと語っていたヌーヴィルはトップタイムのオジエからは10.5秒遅れ。このステージがまるで氷の上を走っているようなグリップしかなかったと訴えた。「正直に言って本当に大変だった。グリップは基本的にゼロだ。序盤は氷の上をドライブしているようだった。でも、自分たちの目標は分かっているので、ここではあまりリスクを冒さなかった」。

 オジエまでの3台が走り終えたあと、赤旗が出されたたために残りのマシンはロードスピードでステージを走行、ノーショナルタイムが与えられることになった。クリーンになったステージで追い上げるはずだったにもかかわらず、後続のマシンには不運なことに走りきったマシンのなかでもっとも遅かったヌーヴィルの10分08.2秒のタイムが与えられ、彼らはいきなり10.5秒もの出遅れとなってしまったが、もちろんこのタイムは午後のループの2回目の走行の際に訂正される可能性は高い。

 牧草地帯を駆け抜けるSS2レレは、フラットでローラーコースターのような高速ステージだ。ここではエヴァンスがベストタイムを奪い、首位のオジエから6.6秒遅れた2位へと浮上、2番手タイムのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1ハイブリッド)が3位へとポジションを上げ、トヨタが1-2-3態勢を築くことになった。

 エヴァンスは素晴らしいタイムを叩き出したにもかかわらず、クリーンにも見えるステージは路面のグリップの変化が厄介だったと認めている。「かなりルーズな場所もあり、グリップもそれに合わせて変化するのでかなり難しかった」。実際、ラインを外すとそこには小石とルースグラベルが残っており、彼と同様にロヴァンペラもここが最初のステージだったため、慎重なペースでのスタートだったと言葉を揃える。

 タナクはルースグラベルに阻まれて4位へとポジションを落とし、その後方、0.2秒差には新星サミ・パヤリ(トヨタGRヤリスRally1ハイブリッド)が迫っており、トップ5にトヨタが4台を占めている。

 この13.34kmのステージでエヴァンスから3.9秒遅れのタイムに終わったオジエは、23.32 kmのSS3サン・ロセンドでさらにペースを上げようとしたのだろうか。スタートして4.4km地点の右コーナーでワイドになってリヤを激しくバンクにヒット、パンクしたタイヤを交換するためにマシンをストップ、1分48秒をロスしてトップ10圏外へと転落してしまった。ステージエンドでマシンを止めたオジエは、「ああ、パンクした」と語ったものの、ここでも何が起きたのか説明を拒絶する。「不運だね」

 これでエヴァンスが新しいリーダーとなり、ベストタイムを奪ったロヴァンペラが2.2秒差で続いている。朝のループをトップで終えたとはいえ、エヴァンスは難しい路面にてこずっていると認めた。「グリップが変わるので、かなりトリッキーで対処が難しい。クリーンな場所もあったが、ルーズな岩が路面に出てきているところもあるからね」

 パヤリがタナクを抜いてトップから6.6秒差の3位へと浮上、トヨタが引き続き1-2-3を維持している。「いくつかの場所では慎重になり過ぎたかもしれないし、もっと集中して正確にスロットルを踏むべきだったかもしれない。課題はたくさんあり、学ぶべきことはまだたくさんある」

 パヤリの後方には、同じくタナクを抜き去ったグレゴワール・ミュンスター(フォード・プーマRally1ハイブリッド)が0.3秒差で続いている。タナクはさらに0.4秒遅れの4位まで後退、その後方、0.1秒差にはアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1ハイブリッド)がぴたりとつけている。3位のパヤリから6位のフールモーまで0.8秒差に4人がひしめいている接戦だ。

 ヌーヴィルはトップから13.8秒差の7位で、チームメイトのエサペッカ・ラッピ(ヒョンデi20 N Rally1)に4.5秒差をつけているが、スイーパーとしてこのあとも苦労することになると予想している。「僕は戦っているが、これ以上できることはあまりない。長い週末になるので、自分たちに集中する必要がある」

 母国のラリー・ラトビアでセンセーショナルな走りで表彰台に迫ったマルティンシュ・セスクス(フォード・プーマRally1)は試練のスタートとなっている。SS3の11.2km地点の右コーナーの出口でオフ、バンクにリヤを激しくヒットした彼は左フロントタイヤをパンク、タイヤ交換後にリスタートしたものの左リヤもパンクしていることが発覚、さらにサスペンションにもダメージを負っていることから5分19秒も遅れてしまった。

 ダブルパンクでスペアタイヤを使い果たしてしまった彼は、空気が抜けたままのタイヤで130kmあまりも離れたサービスへ向けてゆっくりと移動を開始したが、タイヤがリムから脱落してしまい続行を諦めることになった。

 朝のループは全ドライバーがソフトコンパウンド5本でステージへと向かったが、路面がクリーンになって硬い岩盤と石が露出する午後のループでは当初はハードをミックスした選択になるとも見られていた。だが、オープニングSSのプルペリアの1回目の走行はキャンセルされ、まだかなりのルースグラベルが残っていると見られることから、午後に向けたタイヤ選択は悩ましいものとなった。

 プルペリアの2回目の走行となるSS4は5本ともソフトタイヤでスペアを1本しか搭載しないオジエの素晴らしいタイムとともに、始まることになった。彼は朝のパンクで15位まで後退していたが、9位までポジションを戻してきた。

 オジエに続く2番手タイムを奪ったのはタナクだ。彼もまたオジエと同じくスペア1本で素晴らしいペースをみせて、ロヴァンペラを抜いて2位へと浮上、首位のエヴァンスに2.5秒差に迫ってみせた。

 ロヴァンペラはスローなコーナーでワイドになってオーバーシュート、ゲートにヒットしたものの大きなダメージはなかったがリバースギヤを使ってコースに戻らなければならず、首位のエヴァンスから10秒近く遅れてしまい、3位へと後退している。「低速コーナーで一瞬少しワイドにふくらんだ。そんなにドラマチックなものではなかった」。さらに彼は、キャンセルされたこのステージの1回目の走行のノーショナルタイムをこの2回目の走行でのパフォーマンスに基づいて再調整される可能性があることを懸念しており、「朝のタイムにも影響するステージでこのようなことをすべきではなかったね」と付け加えた。

 エヴァンスは3番手タイムで首位を維持してはいるが、明らかにタナクのタイムにプレッシャーを感じた様子だ。「(タイムは)それほどではないし、コンディションはトリッキーだ。やるべきことがいくらかあるようだ」

 エヴァンスはそう巻き返しを誓っていたが、次のSS5レレではタナクの猛攻を防ぐことができず、さらに5.2秒を失い、2.5秒差の2位へと後退することになった。彼はタナクより多い2本のスペアを積んでいるせいか、朝とはフィーリングが変わってしまったと首を横に振る。「今朝はうまくいっていたんだけど、2回目の走行ではあまりいいフィーリングが得られていないんだ・・・」

 ラリー・チリで優勝した経験をもつ唯一のドライバーであるタナクはここでエヴァンスから首位を奪うことになったが、たしかにいつものラリーほど朝からマシンへの不満を語ってこなかった。「クルマは朝からすべて順調だからね!」

 それでもこの日の最終ステージ、SS6サン・ロセンドではエヴァンスがタナクを2.1秒上回り、その差をわずか0.4秒に縮めて明日に臨むことになった。「少なくとも前のステージよりは良くなっている。今のところクルマに乗っている感触はあまり自然な感じではない。明日に向けて様子を見ていくよ」

 タナクはステージ終盤にはグリップの問題かペースを落とすことになったが、スペア1本を守り切って首位をキープした。「今日はいい1日だったし、本当に喜んでいいはずだ」

 タナクはステージエンドで本心を明かさなかったが、サービスに戻った彼は非常に苦しいマシンフィーリングだったとコメントしている。「朝から苦しいスタートだった。信じられないほど過酷で、マシンのフィーリングを感じることが一切できなかった。午後はグリップもマシンも改善されたが、必要なフィーリングにはほど遠かった。ステージの度にチームと携帯で話していい方向を見つけようと試みた。明日はマシンバランスが絶対的に必要だ」

 首位から7.1秒遅れの3位にはロヴァンペラが続くも、彼はマシンのフィーリングに不満を抱いているかのように、首を振っている。「マシンのフィーリングと走りがうまくつかめないで終わる、そういう日だったのかもしれない。とにかくトラブルは回避して残念な1日をなんとか乗り切ることだった。僕のことだから、もっとよくなるはずだ」

 オジエ、タナクとともにスペア1本で午後のループに臨んだ、もう一人のドライバーが4位につけるフールモーだ。彼はSS5で3位に浮上するチャンスがあるかに見えたが、ステージの前に見つかった問題のためにスタート前のTCに6分遅れ、1分のペナルティが課せられている。それでも彼はここではオジエに続く2番手タイムを叩き出す。「オルタネーターに問題があったんだ。ファンを戻し入れた時にパイプを傷つけてしまった。そして今度はパイプを修理しないといけなかったんだ。僕らはまだゲームの中にとどまっているよ!」

 彼は8位まで後退してしまったが、まだ上位フィニッシュを諦めたわけではない。フールモーは悔しさを晴らすような走りでこの日の最終ステージではオジエを1.8秒上回るこの週末初のベストタイムを奪ってみせた。

 フールモーがポジションを落としたあとは、ミュンスターとパヤリの激しい4位争いが注目されることになった。昨年のチリでRally1デビューを果たしたミュンスターは、今季初めてRally1カーでの参戦を経験しているこのラリーで朝からペースをみせており、SS3で3番手タイムを奪ったほか、SS5でも4番手タイムを奪ってパヤリを捕らえたが、最後のステージで惜しくも右リヤタイヤをパンク、パヤリに抜かれて5位へと後退することになった。

 パヤリは大きなミスもなく、1日を通して安定した走りをキープして、ロヴァンペラから2.2秒差の4位につけている。「クリーンで基本的にミスもなかった。少しい慎重すぎたかもしれない。学ぶべきことはたくさんあるけど、クリーンな走りを続けることができた」

 ミュンスターの後方19.6秒差の6位には、路面掃除の厳しい一日に耐えたヌーヴィルが続いている。彼はステージごとにセットアップを微調整して少しでもペースを上げるために全力を尽くしていたが、かならずしもそれはうまくはいかなかったようだ。「チャレンジングな1日だった、全然速く走ることはできなかったし、プッシュしようとすると、グリップを失いそうになる。セットアップでミスしてしまったと思う。明日は何ができるか見ていこう。少なくともロードポジションはもっと良くなるはずだからね」

 ラッピは午後になって好ペースを刻んでいたが、SS4の終盤で右リヤタイヤにデラミネーションで大きく遅れてしまい、ヌーヴィルの後方5.8秒差の7位で初日を終えている。

 土曜日はビオビオ川の南が舞台となり、昨年もタイヤトラブルが続出した28.31kmのラリー最長のマリア・ラス・クルーセスを含む6SS/139.20kmというタフな一日となる。オープニングSSのSS7ペルンは現地時間9時7分、日本時間21時7分のスタートが予定されている。