WRC2018/10/28

タナクに波乱、スペイン首位はラトバラに

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 2018年世界ラリー選手権(WRC)第12戦ラリー・デ・エスパーニャは、雨となった土曜日のレグ2を終えてフルウェットのタイヤ・ギャンブルを成功させたトヨタGAZOOレーシング・ワールドラリーチームのヤリ-マティ・ラトバラ(トヨタ・ヤリスWRC)が首位に浮上、明日の最終日は昨年のスウェーデン以来となる勝利に挑むことになるが、セバスチャン・オジエ(フォード・フィエスタWRC)が4.7秒差の2位につけているほか、トップ4が10秒以内にひしめく大混戦となっている。

 雨の朝を迎えた土曜日のスペイン、黒い雲にすっぽり包まれた山岳地帯は昨夜からかなりの雨が降り続いており、ドライバーたちはウェットコンディションのターマックへと立ち向かうことになった。だが、オープニングステージ、SS8サバヤー(14.12km)が「安全上の理由」からキャンセルとなり、チームのタイヤ戦術にとっても微妙な誤算が生じることとなった。

 朝のループのなかでもSS8はもっともウェットコンディションだとの情報のもと、ラリーをリードするオイット・タナク(トヨタ・ヤリスWRC)はラトバラとともにフルウェット・タイヤ5本を選択、これに対してドライバーズ選手権をリードするティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)とオジエはソフトコンパウンド・タイヤ5本を選ぶことになった。

 朝のループはこのステージのキャンセルがなければ60km近い距離があった。そのためフルウェットのみのチョイスはリスキーすぎると判断したドライバーたちは止むなくソフトを選んでステージへ向かうことになったわけだが、時すでに遅しだ。SS9ケロル(21.26km)は路面は予想以上にウェットとなっており、フロントガラスに大粒の雨があたるコンディションとなるなかでソフト勢は失速、トヨタのタイヤギャンブルは完全に成功することになった。

 26.8秒をリードしてこの日を迎えたタナクは、このステージでベストタイムを奪ってリードを32.9秒へと広げ、前日のパンクで一時10位まで後退したラトバラも2番手タイムで追従し、セバスチャン・ローブ(シトロエンC3 WRC)を抜いて4位へと浮上、3位のエルフィン・エヴァンス(エルフィン・エヴァンス)に2.2秒差に迫ることになった。

 だが、SS10エル・モンメル(24.40km)で予想もしなかった事態が発生する。このままのポジションをキープすれば、選手権をふたたび振り出しに戻すことができたはずのタナクがパンクした左フロントタイヤを交換するためにマシンストップ、1分43秒をロスして9位へと後退することなる。

 選手権にとって痛恨の一撃を食らったタナクは、レポーターの「がっかりですね?」という無神経な問いかけにも表情を変えず、「とても満足だよ」と、ベストを尽くした戦いが終わったことを静かな口調で認めることになった。「どうしてそうなったか分からない、バンプがあったくらいで、特に変わったことは何もなかったんだ・・・」

 この波乱のドラマで首位に浮上したのは、ダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)だ。彼もステージエンドでパンクしたように感じてここでは5番手タイムに終わったが、幸いなことにタイヤは問題なかった。「ステージの終わりの方は、パンクしたような感じがしたからタイムを落としたんだ。すごくスリッピーだという情報が入った。自分のラリーを走ろうとしていただけだよ」

 ソルドには母国戦での悲願の初優勝が期待されるが、その後方には2連続ベストタイムを奪ってエヴァンスを抜いたラトバラが0.3秒差に迫ってきた。「今朝はタイヤ選択がうまくいったし、すごくハッピーだ。オイットのパンクは残念だ。タイヤが成功するときもあれば、パンクすることもある。このあとも選手権のためにも集中しなければならない」

 朝のループを終えてシトロエンのローブが4位へと浮上、難しいコンディションのなかでベテランはじわりとポディウム圏内へと近づき、彼の2秒差後方の5位にはオジエが続いている。だが、彼は選手権を争うヌーヴィルを突き放すはずが、19.3秒後方の6位にはポジションを上げたライバルが迫っており、オジエはソフトタイヤの選択を後悔することになった。「トヨタの強さを見て、どのタイヤが正解なのかはっきりした。選ぶのもちょっとした賭けだが、僕たちは間違った選択をしたよ」

 ポルト・アヴェントゥーラのサービスは雨が上がって空は明るくなっていたが、天気予報は午後にはふたたび雨が降ると伝えており、さらにグラベルクルーたちも路面はまだかなり濡れているとの情報をもたらしている。

 だが、午後のループの最初のステージとなったSS11サバヤー(14.12km)は路面は湿っているものの、雨が降る気配はまったくない。ソフトタイヤのヌーヴィルがベストタイムを奪って発進、フルウェットを選んだラトバラは4番手タイムにとどまりながらも、9番手タイムに沈んだソルドを抜いて3.9秒差ながら首位に立つことになった。

 いっぽう、朝のトヨタの速さに心を奪われたわけではないにせよ、ウェットタイヤを選んだオジエはまたもタイヤ選択の失敗を嘆くことになった。やや湿ったSS11サバヤーで彼はローブに0.2秒差まで迫るも、SS12ケロルではさらにドライが加速した路面に苦戦することになる。ソフトタイヤを活かしてベストタイムを奪ったローブはエヴァンスを抜いてついに3位へと浮上、オジエは7.9秒差をつけられて突き放されてしまった。

 さらにオジエはSS13エル・モンメルでもヌーヴィルから0.9秒遅れで、二人のギャップは6.8秒に縮まることになった。オジエは自身のタイムに不満そうに、「残念なことにウェットタイヤは難しかった。僕たちはメテオ(ウェザークルー)の情報を信用したが、全く雨が降らなかった」と天を仰ぐことになった。

 だが、皮肉なことにオジエが走り終えたステージの後方では、突然降り始めた強い雨がこれまでドライタイヤの恩恵を受けていたドライバーたちを直撃することになった。

 首位のラトバラはここで9秒をロス、「かなり泥だらけだった。オイット(・タナク)が朝、このステージでパンクしたので、慎重になり過ぎた。自信が持てなかったんだ」と訴えたが、どうにかポジションをキープ。だが、2位につけていたソルドは22秒を失って6位にポジションダウン。8秒をロスしたエヴァンス、10秒をロスしたローブを抜き去ったオジエは、望外の2位へと一気にポジションを上げることになった。

 大きな順位の変動があったとはいえ、上位はまだ大接戦だ。ホストタウンのサロウに戻って行われる海岸沿いのスーパーSSは大雨によってあちこちに大きな水たまりが生まれたトリッキーなコンディションとなり、ラトバラはここでは堅実なペースで首位をキープすることになったが、オジエはここでも貪欲にタイムを縮めて4.7秒差の背後につけることになった。オジエの3.3秒後方の3位にはローブ、1.8秒差の4位にエヴァンスが続き、5位のヌーヴィルでさえ首位からはわずか12.7秒差で最終日を迎えることになる。

 6位には一瞬のうちに母国戦勝利への夢を失うことになったソルド。エサペッカ・ラッピ(トヨタ・ヤリスWRC)はSS10の2番手タイムをはじめとしていくつかいいタイムを出してヌーヴィルの5秒後方まで迫ったが、SS13の高速コーナーでヒヤリとさせるスピンを喫して7位となっており、最終ステージでこの日2つめのトップタイムを奪ったタナクが8位で続いている。

 また、前日の最終ステージでスピンのためにリヤウィングを破損したクレイグ・ブリーン(シトロエンC3 WRC)は、ウェット路面のSS9でブレーキをロックさせてスピン、またもリヤウィングを破損することになり、さらに午後のステージでもスピンを喫して、ターマックでポジションを挽回したいという期待に反して9位となっている。

 明日の最終日は、リウデカニエス(16.35km)とサンタ・マリーナ(14.50km)の2つのステージを2回走行するわずか4SS/61.70kmの一日だ。だが、昨年もサンタ・マリーナのステージではヌーヴィルがサスペンションを壊してドライバーズ選手権で致命的ともいえるノーポイントを喫しているだけに、最後までどんなドラマが起きるかまだまだ予断は許されない。