世界ラリー選手権(WRC)第5戦ラリー・デ・ポルトガルは土曜日、トップを快走してきたオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)がパワーステアリングの問題から3位へと後退、セバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)が首位へと浮上、チームメイトのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)に27.6秒差をつけている。
土曜日は、サービスパークから北東に位置するマラオ丘陵地帯に向かい、2年ぶりに復活するヴィエイラ・ド・ミーニョ(17.69km)、昨年は日曜日に行われたカベセイラス・デ・バスト(19.91km)、この日のハイライトでもある伝統のアマランテ(22.10km)の3ステージが行われる。サービスパークでの44分間のミットデイサービスをはさんで、朝と同じくヴィエイラ・ド・ミーニョ、カベセイラス・デ・バスト、アマランテの3ステージをループ、この日の締めくくりとしてラリークロス・サーキットで行われるおなじみのロウサダ・スーパーSS(3.52km)を走る、7SS/122.92kmという一日となる。
金曜日の朝からトップを維持するタナク、そして2位につけるオジエはわずか7秒差の接戦、さらにその後方では3位の勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)と4位のロヴァンペラもわずか1.2秒差という僅差となっており、興奮の1日になりそうだ。
SS12ヴィエイラ・ド・ミーニョは、雄大なジェレス山脈の麓の高速セクション、花崗岩の岩のなかを走る伝統的なセクションであるセーラ・ダ・カブレイラを駆け抜ける。柔らかい砂地と粘土地のサーフェイスは比較的フラットであり、週前半に降った雨の影響がまだ残り、やや湿り気を帯びているのか、それほどダストは舞い上がらない。
ここでベストタイムを奪ってスタートしたのはオジエだ。7秒だった首位のタナクとの差を2.6秒縮め、4.4秒差に近づいている。「オイットのことは知っている。彼はタフなライバルだ。彼との戦いを常に楽しみにしている。簡単ではないだろう」とオジエは戦いを楽しんでいるように笑みをみせた。
オジエはただ勝利を待つだけのドライバーではない強烈な先制パンチでライバルを驚かせるドライバーだ。しかし、タナクはステージエンドでオジエのタイムを知らされても動じることはない。それでも完全な自信はまだ得られていないのか、ハンドリングに未だに苦戦していることを認めた。「全然驚きはない。これ以上はできない。僕には超複雑で思うような走りができていない。クルマとの一体感が足りていないんだと思う」
注目の3位争いはロヴァンペラが3番手タイムを記録、勝田を抜いて3.4秒差の3位へと浮上する。「悪くはなかった。ここではハードタイヤが思ったほど効果がなかったけど、それでもそんなに悪くない。順位を上げるためにベストを尽くす」
次第にペースをつかんできたティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)が4番手タイム、勝田の後方4.1秒差に迫り、トヨタの一角を切り崩すことを狙っている。
続くSS13カベセイラス・デ・バストでもオジエが連続してベストタイム、それに対してタナクはステージ終盤で左リヤタイヤをパンク、首位を失ったことを覚悟している表情だった。「フィニッシュまであと5〜6kmのところでパンクしたんだ。リムから外れないようにひたすら耐えた。まだ僕がトップに立っているのか? 彼もパンクしたのか?」とタナクは信じられないといった様子で尋ね、笑顔をみせた。
一方のロヴァンペラは、このステージで苦戦を強いられ、最速タイムから4.5秒遅れ、2番手タイムを奪った勝田がふたたび3位を取り戻した。「とにかく自分のリズムを保っただけだ。カッレに何かあったのかな? 速かったのは嬉しいけど、理由は分からない」と勝田は冗談を言った。
ロヴァンペラはステージごとのコンディションの違いで、完全にペースにコミットできていないと認めた。「最初のステージよりもここは少し難しかった。とにかく滑りやすかった。マシンのフィーリングやバランスがうまく取れなかったんだ」
このラリー最長のアマランテ・ステージ、ここまでの2ステージで自身のペースへの手応えもあっただろう、オジエにはついにタナクを捉えることができるかもしれないという期待とともにステージエンドにたどり着く。
オジエは「僕にはハードが1本あったのでよかった。このステージはまあまあだった」と語ったが、後方のタナクが素晴らしいスプリットタイムを叩き出してリードを広げそうだという情報に目を丸くする。彼はステージエンドレポーターからスマホを奪ってタイムを確認、明らかに動揺したように、「ただ僕が遅かっただけだよ」と言い残して走りさった。
オジエはこのステージで、ベストタイムを叩き出したタナクになんと9.8秒も引き離され、その差は11.8秒へと拡大する。先制パンチをお見舞いしたはずが、強烈なカウンターパンチが待っていたというわけだ。
タナクはオジエとのタイム差を知らされ、「本当? いいステージだったね」と静かに微笑んだ。前のステージでのパンクでスペアはなくなっており、1つ間違えばすべてを失う状況だった。しかも、タイヤは4本ともソフトコンパウンドであり、ほかの多くのドライバーたちがタイヤのオーバーヒートに苦しんだことから考えてもサプライズとしか言えない走りだったと言えるだろう。
「最初のステージでは、まだマシンとの格闘が続いていた。リズムがあまり良くなく、マシンのフィーリングを掴むのに少し苦労した。しかし、2番目のステージでは大きく前進することができた。驚くべきことに、非常に良いフィーリングになった。そこからはすべてがうまくいっている。タイヤのことは忘れ、僕らは勝利を目指して戦っていた。そうだ、それだけだ」とタナクは付け加えた。
ロヴァンペラと勝田の友人同士でありながらも容赦のない真剣なバトルは続いており、ロヴァンペラが左フロントタイヤをパンクした勝田を抜き、チームメイトを0.4秒という僅差でかわして、ふたたび3位に浮上することになった。ロヴァンペラはこのループではハードタイヤを2本もっており、それがうまくいったと認めた。
5位につけるヌーヴィルは二人の戦いに付け入るチャンスを狙っていたが、すべてソフトタイヤを選んだ彼はここではグリップに苦しみ4番手タイムにとどまった。勝田との差は10.4秒だ。「タイヤがオーバーヒートしそうになった。カッレがハードタイヤを多く選択したのは正解だった。ベストを尽くしたが、ステージ序盤でタイヤが温まりすぎたんだ」とヌーヴィルは語った。
トヨタのサミ・パヤリ(トヨタGRヤリスRally1)は、チームメイトのエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)を朝の3ステージすべてで抑え込みその差を15.2秒へ拡大、総合6位をキープしている。
エクスパノールでのミットデイサービスが行われたあと、ラリーカーはこの日の最後のループへと向かう。アマランテでタナクにつけられた衝撃的なタイム差をふりはらい、オジエはふたたび逆転を目指すと言い残した。「もちろん、挑戦し続けなければならない。一度に縮めるのは難しい。いつもはもっとわずかな差での戦いだからね。でも、プレッシャーをかけ続けなければならない。それに、まだ長い」
ヴィエイラ・ド・ミーニョの2回目の走行となるSS15、オジエの思惑を見透かしたかのようにタナクがベストタイム、リードを12.1秒に拡大した。さらにタナクはSS16カベセイラス・デ・バストでも連続してベストタイム、オジエの遅れは13.9秒となった。ヌーヴィルがロヴァンペラと並ぶ3番手タイム、ヌーヴィルは勝田の1.9秒差へと近づいてきた。
そして迎えたこの日の最後の勝負どころとなるアマランテ・ステージでまさかのドラマが待っていた。22.10kmのこのステージのほぼ中間地点までタナクは快調なペースを刻み、オジエを1秒差で上回っていたが、突然、パワーステアリングに問題を抱えてじわじわと遅れはじめる。
ステアリングはやがて完全にアシストをなくし、タナクは両手でステアリングを抑えなければならない状況となった。彼に代わって、コドライバーのマルティン・ヤルヴェオヤがペースノートを読みながらギヤのシフトを手伝い、どうにかゴールすることになったものの、42秒を失ってしまい、オジエとともにベストタイムを奪ったロヴァンペラにも抜かれて3位へと後退してしまった。
これでオジエが首位に浮上、26秒遅れの2位にロヴァンペラが続き、トヨタが1-2態勢を築くことになった。ヌーヴィルが勝田を抜いて4位へとポジションアップしてきた。
タナクはこの日の最終ステージとしてラリークロス・サーキットで行われたロウサダ・スーパーSSでも8秒も遅れ、オジエからは36.1秒遅れとなったがどうにか3位をキープした。
「残念ながら、これもゲームの一部だ。少なくとも、持てる力はすべて出し切った。これ以上は何も言えない」とタナクは観客席のファンたちの惜しみない声援を残念そうに聞いていた。
オジエはロヴァンペラに27.6秒差をつけてトップで土曜日を終え、記録を更新する7度目のポルトガル勝利に近づいたとはいえ、そのことをとても喜ぶ気にはなれないといった、やりきれない表情だ。「こんな形でラリーに勝つのは望ましくない。二人ともお互いにプレッシャーをかけ続けようと、本当にハードにプッシュしていた。でも、このラリーでは何が起こるかわからない。まだ終わっていない。明日も長い一日が待っている」
ロヴァンペラから8.5秒遅れの3位にタナク、さらに8.5秒差でヌーヴィルが続き、ヒョンデが3-4位を守って悪夢の土曜日を終えることになった。それでもヌーヴィルの背後には5位の勝田が2.2秒差で続いている。
パヤリは選手権リーダーのエヴァンスを17.5秒差で抑えきって総合6位を守っている。二人の後方は2分近く引き離され、Mスポーツ・フォードのジョシュ・マクアーリアン(フォード・プーマRally1)が8位、グレゴワール・ミュンスター(フォード・プーマRally1)が9位で続いている。