WRC2024/09/07

トヨタ悪夢連鎖、ヒョンデがギリシャ1-2-3態勢

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 2024年世界ラリー選手権(WRC)第10戦アクロポリス・ラリー・ギリシャは金曜日のオープニングレグは、速さをみせたトヨタ勢が相次いでトラブルに見舞われてしまい、オイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)が首位に浮上、ヒョンデが1-2-3態勢を築いている。

 アクロポリス・ラリーは2021年の復帰以来、初日は首都アテネで行われるスーパーSSで開幕してきたが、今年は3日間ともサービスパークがおかれるラミアを中心にしてクローバーリーフスタイルでのルートとなった。

 昨年は猛暑のなか中央ギリシャで山火事が多発したあと、一転して嵐のような雨が降り続き、過ごしやすい気温のなかでラリーが行われたが、今年はほとんど雨が降らないまま真夏の暑さが続いており、路面は完全なドライコンディションとなっており、連日36度を超える週末になりそうだ。

 アクロポリス・ラリーの金曜日は、SS1アノ・パヴリアーニ(22.47km)、SS2ダフニー(21.67km)、SS3タルザン(23.37km)といういずれも20kmを超える3ステージのあと、ラミアでミッドデイサービスが行われる。午後も同じ3ステージのループとなり、SS4アノ・パヴリアーニ、SS5ダフニー、SS6タルザンで締めくくられる6SS/135.02kmという1日となる。

 朝のループに向けて、ほとんどのドライバーがハード4本+ソフト2本というハード主体のタイヤチョイスとしたが、セバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)のみがハードとソフトを3本ずつ選んでいる。また勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)のみがスペア1本というギャンブルでステージに向かっている。

 SS1アノ・パヴリアーニはベッドロックも多く、かなり路面にはルースストーンが散らばっている。ピレリは朝のループでもっともラフなステージであり、タイヤのパンクリスクおよび摩耗度についてレベル5だと警告していたが、早くもここでドラマが起きることになった。

 エルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)は、オープニングスプリットで何かの問題があるのかすでにタイムをロスしていたが、ホイール交換のために15.1kmでストップし、早くも2分9秒あまりを失ってしまった。

 チャンピオンシップ争いを挽回するはずが、いきなりのトラブルに見舞われ、エヴァンスはステージエンドでパンクを回避すべきだったとはっきりとした失望感を露わにした。「ベストな走りではなかった。(タイヤに注意すべき)場所はわかっていたが、うまく対処できなかった。(マシンに他の問題があるかどうか)チェックしなければならない」

 エヴァンスはロードセクションでエンジンルームを開けて、エンジニアと携帯電話で話しながら長時間の作業を行っている。タイヤを交換したあともペースが上がってないことからエンジンに何らかの問題が発生しているようだ。

 チームメイトのトラブルを余所に、オープニングSSで素晴らしいペースを見せたのは2番手のロードポジションからスタートしたオジエだ。ベストタイムを奪った彼は「いいスタートになった」と認めながらも、ダストに視界が遮られたと不満をみせている。「埃が舞うのは分かっているのに、なぜか彼らは(ギャップを長くすることに)ノーと言っている。何を考えているんだ?」

 それでも森のなかでは巻き上げられたダストがなかなか消えないため後続のドライバーは彼以上に視界に苦しむことになる。0.6秒差の2番手にオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)が続き、不運にもタイムを失ったエヴァンスが巻き上げるダストに遭遇しながらもアドリアン・フールモーフォード・プーマRally1)が0.8秒差の3番手につけており、勝田は2.7秒遅れの4番手タイム、ダニエル・ソルド(ヒョンデi20 N Rally1)が5番手でスタートすることになった。

 選手権リーダーのティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)は一番手スタートでロードクリーナーを行いながらも序盤はオジエを上回るペースを刻んでいたが、エンジンに深刻な問題を抱えて10.3秒も遅れてしまった。「エンジンパワーに問題があったので、チェックしなければならない。3気筒で走っていたところもあったんだ・・・」

 エヴァンスと同様、ヌーヴィルもまたロードセクションでエンジンフードを開けて修理を行ったが、彼もまたトラブルの原因を特定できないまま次のステージへと向かっている。チャンピオンシップを争う二人が揃って、受難のスタートだ。

 SS2ダフニーは路面の石や岩は最初のステージより少ないが、滑りやすいソフトなグラベルが大量に覆っている。首位のオジエはこのステージでは走行のインターバルが3分から4分へと拡大されたことを喜びながらも、路面掃除に苦しみ3番手タイム、首位は失ったが1.4秒遅れの3位で続いている。「幸運にも(出走間隔は)4分あったが、それでもダストが舞っていた。道掃除が多かったので、出走順が後ろのマシンはもっと速くなるだろう」

 タナクはオジエよりも2秒速いタイムを叩き出して総合首位に浮上したが、彼もひどいダストに苦しんでいると認めた。「悪くない。リズムはまだそこそこだが、とにかく道掃除が多い。もう少しソフトにするべきだったが、最大限の結果を得ようと努力している」

 ダスティなこのステージでトップタイムを奪ったのは勝田だ。タナクから0.2秒遅れの総合2位に浮上した彼は、それほど攻めているわけではないと認めながらも、ここまでタイヤ戦略が成功していることを喜んだ。「少しスリッパリーだったが、全体的にそれほどプッシュしていないのでかなり快適だった。ここまでは順調だ。これがアグレッシブな戦略かどうかは分からないが、スペアタイヤを1本か2本で選ばなければならないとき、1本のほうが上手くいくことがある」

 ラフなアクロポリスの象徴となってきたタルザン・ステージ。多くの路面がWRC復帰にあたって数年前に整備されたとはいえ、かつていくつものドラマを呼んだ凶悪な石が雨に流されてあちこちで露出しており、無数のルースストーンが転がっている。

 前ステージでベストタイムを奪ってトップ争いが期待された勝田だが、2つめのスプリットでは首位のタナクを抜いて暫定トップに躍り出すペースをみせていたが、森のなかのセクションでオーバースピードのため岩だらけのバンクに右のリヤをヒット、ホイールを失い6.9km地点でストップしてしまった。

 ここでベストタイムを奪ったのはオジエ。誰よりも多い、3本のソフトタイヤを選んでループに臨んだ彼は、ここではけっしていいフィーリングではなかったと認めながらも、あまりにもルースグラベルが多い路面だったため、ハードタイヤのライバルたちより明らかにグリップで助けられたのだろう、タナクから首位を取り返して朝のループを終えることになった。「タイヤは異なる戦略を取っていたので、ドライブしていてあまり良いフィーリングではなかった。それでも朝のループには満足している。出走順から考えて、これ以上に良い結果は出せなかった。このあとも全力を尽くすよ」

 フールモーは、ロードモードのようなペースで走るエヴァンスが巻き上げるダストに2ステージ連続して視界を阻まれ続け、さらにここではハイブリッドブーストを失いながらも、ここではオジエに続く2番手タイム、5.9秒差の2位へとポジションを上げて朝のループを終えている。それでも彼は憤ることなく冷静に状況を見つめている。「今朝は自分に出来ることをすべてやった。このステージのすべてをハイブリッドなしで走行した。それに今日のように風がないと、木々の下にダストがかなり舞っており、そのせいで多くのタイムを失った。それでも長いラリーだし、なんとか続けたよ」

 オールハードタイヤのタナクはでグリップに苦しみ9.8秒遅れの3位、彼の9.6秒後方には勝田が消えたことでソルドが4位で続いている。それでも、6月のサルディニア以来のWRC参戦となる彼は、なぜ自分が上位陣のペースについていけなかったのか理解に苦しんでいた。「わからない。(調子を掴むために)もう少し距離を走らなければならないが、フィーリングはいいので、もう少しプッシュすることは可能なはずだ」

 ミスファイアの問題に苦しめられたヌーヴィルは、タイトル争いのライバルとなったオジエから35.7秒遅れの5位にとどまった。「いろいろ試したが、技術的な問題に苦しめられてきた。このような路面掃除をしなければならないコンディションでは災難だよ・・・」

 それでも彼はタイトルを争うライバルの問題に比べたらまだマシなスタートだ。エヴァンスはオープニングステージのパンクとともにターボ周辺とみられる技術的な問題から9分近くもタイムを落とし、総合58位までポジションを落として朝のループを終えている。

 いくつものドラマが続いたあとラミアのミッドデイサービスを迎え、朝のループでトラブルに祟られたドライバーたちもマシンをリフレッシュして午後のループへと向かっていった。だが、最初のステージからふたたび波乱が発生する。

 アノ・パヴリアーニの2回目の走行となるSS4の路面にはおびただしい石が転がり、きびしいコンディションとなってチャレンジャーを待ち受ける。朝のループで2位につけて初優勝への望みをつないでいたフールモーは、バンピーなセクションで跳ね上げられてしまい、カットしてはならない岩がむき出しになったイン側の土手に激突、右フロントのサスペンションとステアリングアームにダメージを受けてストップすることになった。彼は続行を諦めずに必死に修理していたが、無念のリタイアとなってしまった。

 ここでもオジエが速さを維持して3つめのベストタイムで首位をキープ、タナクはステージの途中までオジエをスプリットタイムで上回っていたが、20km地点あたりからペースが落ちてしまい、1.9秒遅れの2番手タイム。彼はフールモーのリタイアで11.7秒遅れの2位に浮上することになったが、「パーフェクトなフィーリングにはほど遠い」と相変わらず不満げだ。

 ソルドは29.7秒差の3位へと浮上してきたが、ストップしたフールモーをパスしたあと、朝のループでフールモーが見舞われたトラブルを引き継いだかのようにハイブリッドのブーストを失ってしまっている。「ハイブリッドが動かない。マシンはとてもよく動いているが、ハイブリッドの会社(コンパクト・ダイナミクス)はチェックが必要だ!」

 選手権リーダーのヌーヴィルは、ロードスイープに苦戦を続けているが、朝のループで悩まされたミスファイアの問題が解消しただけに表情は明るい。彼は48.9秒遅れの4位で続き、ヒョンデが2-3-4を占めるオーダーとなった。

 オジエがラリーをリードしているとはいえ、マニュファクチャラー選手権での逆転を目指していたトヨタにとってここまでは明らかに想定外の展開となってきた。だが、頼みの綱だったオジエが次のステージでペースが上がらない。じわじわとタイムを落とした彼は最終セクションで突然10秒近い遅れを喫してしまう。

 ステージを走り終えたオジエは平静を務めながらも「何が問題かチェックしなければならない」とコメントして慌ただしく走り去る。彼はここで16.7秒をロスして2位へと後退、タナクが5秒差で首位に立つことになった。

 オジエはロードセクションでマシンを止めて、トラブルの原因を突き詰めるべくボンネットを開けてチェックを開始する。金色の耐熱シールが貼られたインテークダクトとエアボックスを取り外してその奥へと手を伸ばしてチームと無線でやりとりをしている。そこにあるのは明らかにターボだ。朝のループでエヴァンスが見舞われたトラブルの再現だ!

 この日、最後のタルザン・ステージの2回目の走行でもオジエのペースは上がらない。ナローなタイトターンが連続し、加速と減速を繰り返すこのステージで彼は奮闘するも2分20秒あまりも遅れてしまい、トップから陥落してしまい、ヒョンデが1-2-3態勢を築いて初日を終えることになった。「ターボが壊れてしまった・・・、これ以上僕たちにできることはなかった。それもモータースポーツなんだ。望んでいたような1日ではなかった」とオジエは首を横に振った。

 タナクはトップに立ったとはいえ、あまりにライバルたちに多くのことが起きたため、笑みを浮かべることもなく、ますます気を引きしめなければならないと考えているように厳しい表情だ。「トラブルなく1日を過ごせたことに感謝しなければならない。非常に難しかったと言えるが、これからどんなことが待っているのかは誰もが分かっているだろう」

 ソルドは最後までハイブリッドの問題を抱えるという困難な状況が続きながらも、タナクから21.8秒差の2位で続いている。彼はライバルのトラブルに同情的だったが、チームの表彰台独占に集中しなければならないと語っている。「ライバルにトラブルが発生するのは確かに嫌なことだが、これも仕事の一部だ。本当に難しいラリーで、問題を抱えたドライバーもいるが、僕たちは本当に強いマシンを持っていると確信している」
 
 朝一番で最初にトラブルに見舞われたヌーヴィルはトップからは45.2秒遅れながらも一日を終えて3位につけていることは十分に満足できることだと語っている。「非常にチャレンジングな1日だったが、自分たちのこのポジションでできることはやった。皆に多くの問題が発生していたし、僕たちにとってももっと悪くなる可能性だってあった。今のこのポジションなら十分いいよ」

 グレゴワール・ミュンスター(フォード・プーマRally1)は朝のループでエンジンの回転が上がらない問題やサイドブレーキのトラブルに悩まされながらも堅実な走りで5位をキープして最終ステージを迎えた。だが、彼は岩だらけのコーナーで右フロントをパンク、タイヤ交換を強いられて4位に浮上するチャンスを失って7位へと後退してしまった。

 これで表彰台圏内までは1分40秒あまりも引き離されているがオジエがかろうじて4位で金曜日を終えることになった。チームメイトのエヴァンスはこの日の最終ステージでさらなるドラマに見舞われてしまい、45秒ものタイムロスを喫してしまい総合20位で金曜日を終えることになった。

 ターボを交換したあと午後の2つのステージではペースを取り戻していた彼だが、何が問題だったのか聞かれて「小さな問題だ」と認めたが、それ以上語ろうとしなかった。

 土曜日はわずか6SS/116.23kmと短いが、この週末でもっともラフな路面をもち、しかもノーサービスで総走行距離694kmを走らなければならないため、今日よりさらに試練が待つ1日となると言われている。28.67kmというラリー最長のオープニングSSのレンギニ・ステージは現地時間8時16分、日本時間14時16分のスタートが予定されている。