WRC2024/09/08

ヌーヴィル首位へ、ヒョンデが1-2態勢で最終日へ

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 2024年世界ラリー選手権(WRC)第10戦アクロポリス・ラリー・ギリシャはまたしても波乱の一日となった土曜日を終えて、ティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)がトップへとポジションを上げ、ダニエル・ソルド(ヒョンデi20 N Rally1)が2位で続き、ヒョンデが1-2を築いている。

 土曜日はSS7レンギニ(28.67km)、SS8ティーヴァ(20.95km)を走ってペロポネソス半島へと南下、SS9アギイ・テオドリ(25.87km)を走り、ラミアから240km離れたアクロポリス・ラリーの元拠点、ルートラキで行われるタイヤフィッティングゾーンでタイヤ交換が行われる。午後はSS10ルートラキ(12.90km)のあとアギイ・テオドリの2回目としてSS11を走ったあと、143kmのロードセクションを走って、ギリシャの首都アテネから43km離れたマラカサ近郊のシリオス・モータウェイ・サービスステーションで開催されるSS12 EKO SSS(1.97km)を走り、今度は164kmのロードセクションを走ってラミアのリグループへ戻る。わずか6SS/116.23kmと短いが、ノーサービスで総走行距離694kmを走らなければならないため、マシンへの大きなダメージはまったく許されない。
 
 アクロポリス・ラリーの金曜日、トヨタ勢が相次いで波乱に見舞われたため、ヒョンデが1-2-3態勢を築いて土曜日を迎えることになった。このままのポジションを維持すればトヨタの選手権にとっても大打撃を与えることができるが、ギリシャの過酷なステージはそれを許さなかった。

 ラリー最長ステージとなるSS7レンギニは、以前はカメナ・ヴォウラとして知られた伝説のステージを一部使う。スタート直後に尖った石がコース全面に広がる逃げ場がないようなセクションやバンピーなセクションもあり、そこではパンクやベッドロックでの衝撃に注意が必要となる。この悪夢のようなステージをスタートしてわずか5km、それまでラリーをリードしてきたオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)が左フロントタイヤをパンク、交換のためにマシンをストップする。彼はわずか1分20秒という素晴らしいスピードで交換作業を行ったが、すでに前日までの彼が築いていた21.6秒というマージンはすっかり吹き飛んでしまい、ポジションダウンは確実となった。さらに彼はそこからわずか10km走ったところで今度は右フロントをパンク、残されたステージを考えて彼は再度タイヤ交換作業のためにストップすることになった。これで彼は4分あまりを失ってしまい、二人のチームメイトやセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)、さらにはWRC2のトップを争うロベルト・ヴィルヴェス(シュコダ・ファビアRS Rally2)とサミ・パヤリ(トヨタGRヤリスRally2)のRally2勢にも抜かれて6位まで後退した。

「2度もパンクでタイヤ交換した」と、タナクは笑うしかないといった表情を浮かべるも、「最初はリム落ち、2回目はリムが曲がっていたんだ」と付け加えるや、絶望したように目を背ける。 2台のRally2カーからはごくわずかですぐにも挽回はできそうだが、オジエからは1分39秒あまりも後方となり、2本のスペアタイヤを使い切ってしまっただけに、追い上げるどころかあとは生き残ることだけを考えなければならない。

 タナクのトラブルによって、ソルドがトップに躍り出すことになったが、彼はステージエンドで複雑な心境を語った。「リーダーになるのは嬉しいけど、こういうのは好きじゃないんだ」。選手権リーダーのヌーヴィルはソルドを16.2秒も上回るベストタイムを奪い、二人の差をわずか7.2秒へと縮めてきたが、ソルドはチームメイトとバトルをするつもりはない。「僕はリスクは冒してない。ただ走っているだけだ。優勝するのは嬉しいけど、僕の使命は一つだからね。このまま引き続き目標に向かっていく」

 前日のターボブローで首位から陥落したオジエは、タナクのトラブルで3位へとポジションを戻したものの、タイトル争いのライバルであるヌーヴィルとの差は1分41.4秒と大きく開いている。

 勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)とアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)は金曜日のクラッシュのあと無事にリスタートしたが、勝田が60位、フールモーも54位と大きく順位を落としており、土曜日のポイント獲得は絶望的だ。また、金曜日のターボトラブルで大きく遅れたエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)は15位へとポジションを戻してきたが、彼もポイント圏内までは5分近く離れている。

 続く、SS8ティーヴァでもソルドが首位をキープ、2位のヌーヴィルとの差は10.3秒へとわずかに広がった。ここまでトラブルらしいトラブルもなく鉄壁の走りを続けてきたソルドだが、ひたいには絆創膏を貼っており、ロードセクションで予期せぬ出来事があったと打ち明けた。「ジャッキが入れられなくて、いろいろやっていたら頭を打ってしまった。ステージ中にタイヤ交換が必要になって、ジャッキが入れられなかったら困るね・・・」

 だが、ソルドの懸念は現実のものとなってしまった。SS9アギイ・テオドリをスタートして12km地点で彼は右リヤタイヤをパンク、残りは13kmもあるため迷わずタイヤ交換したいところだが、ジャッキが使えない彼はそのままステージを突き進む。残り6km地点でついにタイヤはブロー、ホイールだけの状態のまま彼はフィニッシュラインを駆け抜けた。

 51秒を失いながらも、どうにか2位でステージを走り切ったソルドは、マシンを降りてダメージを確認し、何が起こったのか説明することなく走り去っていった。リヤフェンダーは見るも無惨に引きちぎられており、この日はミッドデイサービスはないため、サスペンションやブレーキ系に大きなダメージがあったら、続行を諦めるしかない。

 これでヌーヴィルがトップに浮上、選手権のために土曜日の最大ポイント獲得が見えてきただけに、あとは何事もなくこのポジションを守り切りたいと語った。「僕の目標はとてもシンプル、問題なく1日を乗り切ることだ。特にパンクがないようにね。僕たちに必要な幸運が少しでもあることを願っているよ」

 オジエは2連続でベストタイムを奪ったが、ヌーヴィルとの差はまだ1分25.2秒と大きいが、ソルドとの差も49.9秒と大きなものだ。「差が大きすぎる!できる限りベストを尽くして自分たちの仕事を続けて、どうなるか見ていこう。このギリシャでサービスなしでは大きなチャレンジだ。ここまでは満足しているが、なんとかこの1日をフィニッシュしたいと思う」

 グレゴワール・ミュンスター(フォード・プーマRally1)はサルディニアに並ぶ、自己最高位の5位につけていたがコースオフ、バンクにマシンを止めることになった。これで2台のRally2カーをパスしたタナクがトップ5に浮上してきたが、オジエとは2分あまりもの大差だ。

 ルートラキに設けられたタイヤフィッティングゾーンでタイヤ交換と車載パーツだけの簡易的なサービスが行われたあと、ラリーカーはSS10ルートラキへと向かう。ダメージが心配されたソルドも、メカニックたちの手を借りてどうにかマシンの応急修理が成功させており、ここではオジエから4.9秒失ったものの、45秒差をつけて2位をキープしている。「バカに見えただろう?でも、僕たちには世界最高のメカニックがいて、幸いにも彼らが直してくれた。すでにミスを犯しているので、ここではリスクは取らなかった。このまま終えられるように頑張るつもりだ」とソルドは笑みをみせた。

 ここで40秒のリードを築いたヌーヴィルは、アギイ・テオドリの2回目の走行となるSS11でリードを52.6秒へと拡大することになった。彼は計画どおりに進んでいることを喜んだ。「なんというか、今日は信じられないような一日だが、まだ終わったわけではない。僕たちは計画通りに走行し、無事にマシンをフィニッシュさせようとしている。それが昨日からの唯一の計画だ」

 ソルドとコドライバーのカンディド・カレーラは顔やスーツをホコリまみれにしてステージエンドにたどり着いた。前ステージでは金属シートとテープの応急修理はうまくいっていたが、このラフなステージではついにホコリがコクピット内に充満した状態で走ったが、それでもオジエには26.9秒という大きな差をつけている。この日に残されたのは、高速道路を閉鎖して使用する前代未聞のスーパーSSしか残ってない。土曜日までの2位のポイントを確実なものとしただけに、ソルドの表情は晴れ晴れとしたものだ。「正直、ハードだったよ。石がたくさんあった。パンクはしたくなかったので、ただ走り抜けただけだ。セブに対してこれ以上タイムを失いたくなかったよ」

 エヴァンスが10位まで挽回してポイントを獲得するという望みは薄かったが、このステージでの横転によって完全に打ち砕かれた。低速でタイトな下りの右ヘアピンのターンで、タイヤが轍に引っかかってゆっくりと横転、ルーフを下にしてストップしてしまった。

 彼は観客に助け起こされたあと走行を開始したが、後続のオジエの視界を妨げないようにストップ、チームメイトをパスさせたあとペースを落としてフィニッシュ、5分を失った。「スローなヘアピンで轍に引っ掛かり、超ゆっくり横転したが、マシンに何かダメージがあり、続けられるといいが・・・」

 エヴァンスはロードセクションでマシンを止めて、ブーストが上がらなくなった問題の解決を試みていたが、トヨタはこのあとの最終ステージを走るまえに彼をリタイアさせることを決定した。すでに土曜日までのポイント獲得は不可能な14位のポジションであり、明日のスーパーサンデーに向けてマシンを完全に修理するための時間を確保するためだ。

 4位につけるタナクもまったく同じコーナーで片輪を浮かせたが、うまくカウンターステアを当てて幸いにも横転を防いでいる。タナクは目を剝きだしにして驚いた表情をうかべた後、「サーカスに行けるかもしれないね」とジョークを飛ばした。「でも、上手く切り抜けた!」

 全長1.97kmのEKOスーパースペシャルステージは、アテネからラミアに向かう高速道路のサービスステーションの周辺エリアと高速道路の一部区間を使用した特設ステージとなる。首位のヌーヴィルがオジエに0.4秒差をつけたベストタイムで一日を締めくくった。2位のソルドとの差は54.9秒、ソルドと3位につけるオジエは25秒差だ。

 ヌーヴィルは、土曜日までの暫定の選手権ポイントでリードをさらに拡大、27ポイントだったオジエとの差を32ポイント差へと拡大、明日の最終日を迎える。「難しい一日だったと思う。これ以上言うことは無い。計画を忠実に守り、それは上手くいっている。しかし、明日は難しい一日になる。現実的には、まだ何も終わっていない」とヌーヴィルは気を引きしめていた。

 この日の夜、サービスが行われなかったため、日曜日は早朝6時から異例ともいえる45分間のサービスから始まり、クルーたちはリフレッシュしたマシンで最終日の舞台へと向かうことになる。

「ラリー・オブ・ゴッズ(神々のラリー)」と称されるアクロポリス・ラリーでは、かつてここで勝利して神々に祝福された者のみがワールドチャンピオンになると言われてきた。はたして明日、ヌーヴィルが勝利によって、悲願の初タイトルへの道を切り開くだろうか。オープニングステージのSS13イノホリは現地時間8時59分、日本時間14時59分のスタートとなる。