2024年世界ラリー選手権(WRC)第5戦ラリー・デ・ポルトガルは大荒れとなった土曜日のレグ2を終えて、トヨタGAZOOレーシングWRTのセバスチャン・オジエ(トヨタGR ヤリスRally1)がリーダーに立っており、オイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)が11.9秒差で続く展開となっている。
ポルトガルの土曜日はマトジニョスの北東に位置するマラオ・エリアのステージが舞台となる。フェルゲイラス(8.81km)、モンティム(8.69km)、ラリー最長のアマランテ(37.24km)、パレーデス(16.09km)の4ステージをエクスポノールのサービスを挟んで午後もループ、さらにこの日の締めくくりとしてラリークロス・サーキットで行われるおなじみのロウサダ・スーパーSS(3.36km)を走る、9SS/145.02kmという長い一日となる。
アルガニル丘陵の伝統のステージが舞台となった金曜日を終えて、カッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)がオジエに1秒差をつけてラリーをリード、二人のワールドチャンピオンから3.7秒離れて勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)が続くという興奮の展開となっているが、その後方にはタナクも0.7秒差がぴたりと迫っており、勝田はまるでサンドイッチのようにワールドチャンピオンに挟まれている。
前日までの硬い路面とベッドロックが待ち受けるバンピーなステージとは異なり、土曜日のオープニングステージのSS10フェルゲイラスはソフトグラベルの路面をもち、その表面は柔らかい砂に覆われているが、朝霧でやや湿っているためか予想外にグリップする。
ここで素晴らしい速さでスタートしたのはロヴァンペラだ。彼は昨年も土曜日の朝、後続に対して1kmあたり0.5秒も引き離す圧巻のタイムを叩き出して、勝負を決定づけるリードを手にしていたが、今年も8度のワールドチャンピオンに先制のパンチをお見舞いする。
ロヴァンペラは8.81kmのこのステージで2番手タイムのタナクより4.2秒も速く、ライバルのオジエには5.7秒差をつけるベストタイムで発進、二人の差を6.7秒へと大きく拡大することになった。なんと1kmあたり0.65秒も引き離した計算だ。ロヴァンペラはステージエンドで、どうしたらこんなことが可能なのかと聞かれ、「ただ他の人より速く走ればいいんだよ」といたずらっぽく笑みをみせる。「でも、まだたった一つのステージだ。マシンとセットアップが良くなってくれば、かなり簡単になる」
ライバルより先にフィニッシュしたオジエはスプリットでロヴァンペラが大きなリードを奪いそうなペースを刻んでいることを知らされても冷静な表情を崩さなかった。「簡単ではなかった。ところどころ少し慎重になり過ぎたようだ。僕らはもっとプッシュする必要がある」
勝田は、2番手タイムを奪ったタナクに3位を譲ることになったが、その差はわずか1.3秒にしかすぎない。勝田はワールドチャンピオンたちを相手に一歩も引くつもりはないと意を決めているようだ。「大事な日であることは間違いない。昨日はプッシュしたし、これからも一つ一つのステージに集中し、出来る限りプッシュする必要がある」
勝田の後方には、ダニエル・ソルド(ヒョンデi20 N Rally1)をパスして5位へとポジションを上げたティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)が12.9秒差に迫ってきた。
続くSS11モンティムは、8.69kmと短いながらも非常にダスティで滑りやすく、狭くハイスピードコーナーが連続する難しいステージとなっており、それまで鉄壁の走りを見せてきた二人のラリーリーダーが相次いで罠に落ちることになった。
この日の朝、3年連続勝利に向けて快調なスタートを切ったかに見えたロヴァンペラは、3.8km地点の高速の右コーナーにオーバースピードで進入してコースオフ、切り株にヒットしたマシンは跳ね上げられて立ち木に寄りかかって横倒しでストップ、リタイアとなってしまった。幸いにも彼とコドライバーのヨンネ・ハルトゥネンにケガはなかったが、そのすぐ後方から迫ってきたWRC2リーダーのオリヴァー・ソルベルグ(シュコダ・ファビアRS Rally2)はコースすぐ脇に悲惨な姿で横たわったGRヤリスに注意を奪われ、ペースノートを聞き漏らしてしまい、わずか2つ先のコーナーでバンクにヒット、激しく横転をしてリタイアとなってしまった。
これでベストタイムを奪ったオジエがトップに、タナクが3.4秒差の2位となった。タナクはここではオジエに0.5秒引き離されたが、トップに迫りたいという野心を隠そうともしない。「ベストを尽くしている。これが最速タイムではないことは分かっているが、再び最速タイムを出したいと思っている」
タナクの後方僅差につけていた勝田は、スリッパリーなジャンクションでリヤのグリップを失ってスピンを喫し、さらにエンジンをストールして11秒をロス、タナクから12.3秒遅れとなったが、チームメイトのトラブルで3位へと浮上している。
勝田のトラブルで後続のヌーヴィルにはポディウム圏内に迫るチャンスもあったが、彼もスリッパリーな左コーナーでグリップを見誤ってブレーキをミスしてオーバーシュート、フロントスポイラーやフェンダーを破損してしまった。「ブレーキングでグリップを見誤ってしまい、少しワイドになり、ヘアピンで再びグリップの判断を間違えた。一つのステージで2回もミスするのは良くない」
SS12アマランテは、マラオの丘陵地帯にある、このラリーで最も長い、37.24kmのステージだ。さらにワイドでハイスピード、流れるようなコースは一転して道路に近い木々に囲まれたツイスティなコーナーへと変化し、路面もソフトグラベルからベッドロックの多い荒れたセクションなどリズムと路面の変化に対応しなければならない。
この週末最大の難所となったこのステージで波乱に見舞われたのは3位につけていた勝田だ。彼はタイトな右ターンのイン側にあったわだちにタイヤを引きずりこまれてバンクにリヤを激しくヒット、そのまま走行を続けたが10kmすぎでリヤサスペンションが壊れてしまい、マシンをコース脇にストップ、表彰台へ向けたチャレンジはここで絶たれることになった。
前ステージでエアロにダメージを負ったヌーヴィルは、この長いステージで勝田に大きく引き離されることを覚悟していたが、ライバルのドラマで自身が3位となったことを知ることになった。「(エアロを壊した影響は)かなり大きかった。アンダーステアがかなりあってコーナーではクルマをターンさせることができなかったよ」
このモンスター級の長いステージでトップを争う2人のタイムは他を12秒近く引き離す驚くべき速さだったが、なかでもベストタイムを叩きだしたタナクはオジエに3.6秒差をつけ、0.2秒差ながら逆転でトップに立つことになった。 それでもタナクはステージエンドでとくに無理しているわけではないと強調する。「できる限りのことはしている。まあ現状はこんな感じだろう。場所によっては突然だったり、驚くようなところもあるから、限界がどこにあるのかわからない。そこが厄介なところだね」
だが、タナクは朝のループの終わりとなるSS13パレーデスで、ステージ中盤で右リヤタイヤのスローパンクに見舞われてしまう。彼は残りの8.5km を完全にパンクしてリム落ちしないようにタイヤを労りながらどうにか走りきったが、ここでオジエに首位を譲るとともに13.6秒差の2位へと後退してしまった。「おそらく20秒ロスしてしまったが、リムから外さないようにすごくスローダウンして走ったので、少なくともペースとリズムはキープできた」
オジエはここでふたたびリーダーとなって朝のループを終えたが、リラックスするにはまだ早いと感じている。「ラリー序盤から簡単にはいかなったし、僕たちには楽ではなかった。それに2回目のループはとても暑くなりそうだから、どうなるか見極めたいと思う」
ヌーヴィルは、フロントのエアロを壊した影響でトップからは54.4秒遅れとなってしまったが、3位をキープしてサービスへ帰れることを喜んだ。「エアロを失い、本当にトリッキーだった。フロントのグリップはゼロだった。サプライズの連続だったよ」
ヌーヴィルから3.6秒差の5位にはソルドが続き、さらに20.4秒差の6位にはパレーデスで2番手タイムを奪ったアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)がつけており、午後のループではさらなるポジションアップに野心をみせている。「今朝(ソルドは)それほど速くなかったので、彼と戦うつもりだった。アマランテではタイムをロスしすぎたが、なんとか食らいついていたい」
午後のループの最初のステージとなるSS14フェルゲイラスのソフトグラベルは、朝のループでは木陰がやや湿っていたが、完全にドライとなっており、朝には見られなかったいくつもの深いわだちが刻まれている。ここではタナクが息を吹き返したようにベストタイム、首位のオジエに10.4秒差に迫ることになった。
オジエはまだまだ十分なリードを保っているが、タナクに3.2秒も縮められており、これが最大のペースだったのかとレポーターに問い詰められたが、その答えをはぐらかしている。「それは見てのお楽しみだ。ここはかなり掃除する部分が多かった」
朝のループでロヴァンペラがクラッシュしたモンティム・ステージの2回目の走行となるSS15ではふたたびタナクがベストタイム、オジエとの差を7.8秒差に縮めてきたが、彼もまた「僕たちは特別なことは何もしていない。クリーンに走っている。ここはグリップはかなり低かったからね」と言葉をはぐらかす。言うまでもなく、勝負は次のアマランテ・ステージであり、二人ともクライマックスに向けてここまでタイヤをマネージメントしてきたはずだ。
37kmオーバーというラリー最長のアマランテはかなり路面が荒れており、とくに終盤はベッドロックがむき出しとなり、掘り出された鋭い石がドライバーたちを待ち受ける。オジエは序盤スプリットからじわじわとタナクをリードして中盤では2.1秒を引き離したが、そのあとタナクはペースを挽回して1.4秒差まで迫ってきた。だが、オジエは最後の荒れたセクションでタナクとの差を4.1秒まで広げて最速タイムを奪い、リードを11.9秒へと戻すことになった。それでも、フロントのみソフトタイヤだったタナクに対して、オジエはリヤもソフトタイヤであり、ともに擦り切れる寸前だった。
オジエはこの日最後のロングステージであるSS17パレーデスでもベストタイムを奪ってタナクとの差を13.5秒に拡大、最終ステージの短いロウサダ・スーパーSSではタイムをわずかに落としたが、それでも11.9秒をリードして、明日の最終日、ポルトガルの最多記録となる6勝目に挑む。
「トリッキーな1日だったが、ラリーをリードしているのは嬉しい。多くの予期しないことがあったし、トヨタとしては完璧な一日ではなかった。それでも僕らはトライしなければならなかったし、明日もひと仕事を終える必要がある」とオジエは笑顔でふりかえっている。
タナクは朝のパンクのためにトップを守ることができずに2位で土曜日を終えたが、けっして悪い一日ではなかったとふりかえっている。「午後はリズムが良くなった。とくに轍の中では良かったよ。昨日に比べればかなり堅実な一日だった。僕らがトヨタに匹敵するマシンを持っているかどうかはわからないが、全般的に今日の仕事は悪くなかったと思う」
ヌーヴィルは一番手という不利なスタートポジションながら土曜日を3位で終えたことは信じられないと語っている。「「木曜日の時点では僕らが3位で土曜日を終えると誰かが言ってくれも僕は信じなかっただろう。難しい一日だったが、正直言って素晴らしいフィーリングだよ」
フールモーはここでもソルドへの追撃をゆるめない。フールモーは3番手タイム、ソルドとの差を20秒としている。「(ソルドを捉えるには)十分ではないが、僕たちがここにいることを知らせるために少しプッシュしたんだ」とフールモーは
ソルドはSS12アマランテを終えて、3位のヌーヴィルに1.5秒差に迫ったが、明日のスタート順はスーパーSSまでのタイムで決まるため、チームメイトが3位のポジションをキープできるようにSS13では10秒あまりもペースを落としている。だが、ややペースを落としすぎたため、終盤の3つのロングステージでトップ3のタイムを並べ、さらに最後のスーパーSSでベストタイムを奪ったフールモーが7.3秒後方へと迫ることになった。
「僕たちがここにいることを知らせるために少しプッシュしたんだ」とフールモーはにっこりと笑顔をみせた。「何かが起きたときに順位を取って代われるように、ソルドに近づいていたかったんだ」
エルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)は前日のパンクでフールモーから1分50秒遅れの6位となっているが、タイヤをしっかりマネージメントして明日のスーパーサンデーでのポイント挽回を狙うつもりだ。
また、9 位で土曜日をスタートしたグレゴワール・ミュンスター(フォード・プーマRally1)は朝のループで燃料系の問題から何度もマシンを止めて16位まで後退、サービスで修理を行ったが、気温が上がった午後も似たような症状に悩まされながらも14位まで挽回して土曜日を終えている。
明日の最終日はノーサービスで走る4SS/62.18kmをファフェのビッグジャンプで締めくくる一日となる。オープニングステージのカベセイラス・デ・バストは現地時間7時5分、日本時間15時5 分のスタートが予定されている。