WRC2024/03/31

ロヴァンペラがサファリを独走、勝田が2位奪回

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 2024年世界ラリー選手権(WRC)第3戦サファリ・ラリー・ケニアは土曜日も上位陣にいくつもドラマが襲いかかるなか、カッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)がリードを2分8.9秒に広げて首位を快走、2位には勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)が続いている。

 土曜日は昨年までと同じくエレメンテイタ湖の西部と南部が舞台となる。サバンナの森林地帯と岩稜地帯を駆け抜ける自然保護区のソイサンブ(29.32km)、自然豊かな湖を背景に走るかつての大サファリの舞台となってきたエレメンテイタ(15.08km)、やや距離を延長してこの週末の最長となる眠れるマサイ戦士に似た丘の麓を走るスリーピング・ウォリアー(36.08km)の3ステージをWSTIナイバシャのサービスを挟んで2回ループする、6SS/160.96kmというラリー最大のヤマ場の1日となる。

 ナイバシャのサービスパークは晴れた朝を迎えたものの、路面は湿っており、昨夜のうちに小雨が降ったようだ。8時現在は青空も見えるが、このあとすぐに曇りとなり、昼過ぎから小雨が降り始めると天気予報は伝えている。

 オープニングステージのSS8ソイサンプはドライコンディションだ。おびただしいルースロックやベッドロックが至るところにあり、終盤のハイライトだった2カ所の川渡りも干上がって水がなくなった代わりに危険なフェシュフェシュの「池」がラリーカーを飲み込もうと待ち構えている。

 ソイサンプ・ステージは、6位につけていたグレゴワール・ミュンスター(フォード・プーマRally1)が左リヤサスペンションを壊してマシンを止めるという波乱とともに始まることになったが、ドラマはそれだけでは終わらなかった。

 前日のトランスミッショントラブルでリタイアとなったエサペッカ・ラッピ(ヒョンデi20 N Rally1)は総合19位でリスタートしており、左フロントタイヤをパンクしてフィニッシュすることになったが、ここでは2番手タイムと返す返すもトラブルが悔やまれる速さをみせている。また、チームメイト同様にリスタートとなったオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)はスタート前のロードセクションでボンネットのキャッチピンを確認しないままステージをスタートしてしまい、片側が浮き上がったボンネットを閉めるためにマシンを止めなければならなかった。

 予期せぬ波乱は上位陣にも襲いかかった。2位につけていたエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)がパンクしてしまった左リヤタイヤを交換するために12.7km地点でストップ、ポディウム圏外から5位へと転落してしまった。エヴァンスから3.9秒遅れで土曜日をスタートした勝田は、コクピットに進入するダストに悩まされ、目をこすりながらもこの週末初のベストタイム、2位へと浮上することになった。

 首位のロヴァンペラはすでにかなりセーフティサイドの走りに切り換えたのか5.2秒遅れの3番手タイム、勝田に55.6秒という大きな差をつけて首位をキープしているが、勝田の後方14.6秒差の3位にティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)が迫っている。

 ヌーヴィルはSS9エレメンテイタでベストタイムを奪い、勝田に4.8秒差に迫ってきた。彼は速さをみせたことを喜びながらも、レッキの後でインカットを防ぐ石が動かされており、ペースノートに記したインカットがギャンブルになっていることを憤っていた。「いい走りだったけれど、レッキのあとのコースのモディファイはないと聞いていた。僕たちには危ない瞬間があった。彼らは道の真ん中に大きな石を置いたんだ!」

 ヌーヴィルは昨年、主催者がインカットの石を移動した正確な情報をもたらさなかったため、知人にコースをチェックさせたことが違法なレッキと判断されて失格となっている。それゆえに言葉も鋭くなったのだろう。

 勝田はここではヌーヴィルよりも9.8秒も遅れたが、彼は自身の戦略に従ってベストを尽くしていると語った。「僕たちがどれだけ戦いができているのかは問題ではない、パンクは簡単に起こり得ることなので、それを避けることに集中している。でも、次のステージは路面のコンディションが最悪だから注意しなければならない」

 SS10スリーピング・ウォリアーはサファリ最長の36kmをもち、その過酷さから最難関ステージになるとスタート前から予想されてきた。レッキのときはコース全域が水浸しだったが、水たまりとマディなセクションは序盤の数kmのみ、あとのコースはほぼドライとなったが、大きなルースストンが無数に転がってドライバーを待ち受けていた。

 ここで試練に見舞われたのは勝田だ。右フロントタイヤをバーストさせてフィニッシュ、ヌーヴィルにポジションを譲って3位へと後退することになった。 「大きな石にヒットしてしまった。僕のミスだよ。轍がひどいし、岩だらけで、非常にバンピーだった」と勝田は悔しさをにじませた。それでも、ミッドデイサービスに戻ってきた彼は、前ステージのヌーヴィル同様、レッキの時にはなかった岩の犠牲になったことを認めたが、それでもそのときには気持をすでに切り換え、冷静さを取り戻していた。

 とはいえ、ヌーヴィルもスリーピング・ウォリアーを無傷で走り抜けたわけではない。「フィニッシュの7〜8km手前あたりで石の上に乗りあげて何かが曲がってしまったから、慎重に走ったよ」
 
 後続のドライバーたちがひやりとした瞬間に見舞われたことを知らないだろうが、ロヴァンペラはタイヤトラブルなどもなく、ここではヌーヴィルを24.8秒上回る最速タイムでリードを1分27.9秒へと広げてみせた。「クリーンな走りをすることでうまく走りきることができる。そんな状況だね。ここは毎年信じられないほど難しいんだ。ハードにプッシュしながらも、賢明なドライビングで、しっかりタイヤのケアができたと感じている」

 勝田はヌーヴィルから55秒遅れの3位、その後方、27秒差にはアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)がここまでノートラブルという信じられないほど安定したペースをみせて4位をキープしている。「僕にとっても人生でいちばん難しいステージだった。本当トリッキーだったが、とにかく走り抜けたかった」

 エヴァンスは朝のパンクでフールモーの55秒後方につけていたが、ここでもふたたび12km地点でパンク、今度はタイヤをバーストさせながら渾身の走りをみせて、ポジションを失うこともなく、フールモーからの遅れをわずかに縮め、53.2秒遅れの5位でサービスへと戻ってきた。

 朝のループが終わるころからナイバシャ湖のサービスの上空には鈍い色の雲がひろがり始め、ラリーカーが戻ってくるころには土砂降りの雨となった。これまでの週末、シュノーケルを装着しないでヒョンデだが、午後のループでは深い水たまりが出現する恐れがあるため長いダクトを装着してステージへと向かう。

 だが、サービスから60kmあまり離れているSS11ソイサンプは雷雨どころか青空さえ広がっており、路面はスーパードライだ。おまけに雨で固まったまま乾燥して轍となっていた土が朝のループの走行によって砕かれてフェシュフェシュとなり、ラリーカーは激しくダストを巻き上げて走行することになる。

 2位につけていたヌーヴィルが燃料系の問題のような症状でスローダウンしたあとマシンストップ、彼はなんとかリスタートするもふたたびマシンをストップ、EVモードでゴール、2分30秒あまりを失って5位へと転落することになった。

 朝のループに続いてソイサンプでふたたびベストタイムを奪った勝田がヌーヴィルを抜いて2位を奪回、3位にはフールモー、4位にエヴァンスがそれぞれポジションを上げてきた。

 SS12エレメンテイタも前ステージに続いて完全なドライのままで、朝よりはるかに多いフェシュフェシュのダストがラリーカーを待ち受けている。ヌーヴィルはここでも問題が解決できずにスロー走行、後続の勝田に道を譲るために7.7km地点でマシンを止めたあと、ふたたび走行を開始したが、ふたたびEVモードになって、ゆっくりとフィニッシュすることになった。彼はここでも7分あまりも遅れてしまったが、後続とは大きく遅れているため総合5位をキープしている。

 ロヴァンペラが首位をキープ、2位の勝田が2分17.7秒遅れで続いている。朝のポジションを取り戻したことで表情にも自信がみてとれる。「ステージを通して非常に慎重に走ったので、すべて順調だ。ステージを確実に通過して、一日の終わりにこの順位を維持したかった。次のステージは無事に生き残る必要がある!」

 4位につけるエヴァンスがベストタイムで3位のフールモーとの差を42.7秒へと縮めてきた。しかし、彼は左フロントタイヤをパンクしており、言葉少なくステージエンドから走り去っている。

 土曜日に残されたのはラリー最長ステージのSS13スリーピング・ウォリアーだ。大雨によってトリッキーなコンディションになることも警戒されたが、25km付近の山に近いエリアで終盤の数台のマシンのフロントガラスを湿らせた程度だった。

 泥だらけのマッドホールは出現することなかったが、ほぼ全域がフェシュフェシュと石が転がった困難なコンディションとなり、この日の最後のドラマが発生する。

 それまでノーミスで3位につけていたフールモーが左フロントタイヤをパンクさせて40秒近くをロス、そのため4位につけるエヴァンスが逆転するチャンスが訪れたかにも見えた。だが、エヴァンスもまた左リヤタイヤをパンク、終盤にタイヤ交換のためにマシンを止めることになり、フールモーとの差は2分22秒に広がってしまった。

 ロヴァンペラが慎重なペースで首位をキープ、2位の勝田はエンジンパワーが上がらない問題に見舞われながらも2番手タイム、ロヴァンペラからは2分8.9秒遅れだが試練の一日を2位で終えたことに、ほっとしたような笑みをみせていた。「マシンに問題はあるが、非常に満足している。アーロン(・ジョンストン)がステージ上で素晴らしい仕事をしてくれたことに言及しなくてはならない。僕は彼の声通りに従っていただけなので、彼にとても感謝している!」

 大きなギャップを保ったまま総合首位で土曜日を終えたロヴァンペラは、ここではハイブリッドのブーストを失っていたことを明かしたが、パンクなどの大きな問題を回避して無事に一日を走り切ったことを喜んでいた。「かなり良いリードを持っていたので、慎重に走った。こういうステージで大きなリードを持っているというのは、すべての轍を避けなければならないので、あまり楽しめない。ステージ全体を通して、僕たちはハイブリッドを持っていなかったが、上手くいった。大変な一日だったが、明日は無事に仕事を終わらせたい」

 選手権リーダーのヌーヴィルはこのステージでは遅れを59秒にとどめ、どうにか総合5位を死守してゴールを迎えたが、ポディウム圏内からは8分20秒あまりも遅れてしまった。それでも彼は明日のスーパーサンデーでは今日の遅れを挽回したいと力強く語っていた。「今日は僕たちの一日にはならなかったが、僕たちは戦い続けるつもりだ。ストップすることなく、全力を尽くすつもりだ」

 最終日はふたたびナイバシャ湖の周辺のルートに戻り、6SS/74.38kmのタフなステージが待ち受けている。オープニングステージのマレワは現地時間7時2分、日本時間13時2分のスタートが予定されている。