2024年世界ラリー選手権(WRC)第8戦のラリー・ラトビアは金曜日を終えてトヨタGAZOOレーシングWRTのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)がリード、15.7秒差の2位には母国戦でキャリア初となるステージウィンを果たした驚異のルーキー、マルティンシュ・セスクス(フォード・プーマRally1)が食らいついている。
ラリー・ラトビアは木曜日の夜に首都リガ近郊で行われたスーパーSSで開幕、リガでのオーバーナイトホルトのあと金曜日はトゥクムスに設けられたタイヤフィッティングゾーン(TFZ)でフレッシュタイヤへと交換し、ドライバーはWRC初お目見えとなるラトビアの高速ローラーコースターへと向かう。
朝のループはミルツカルネ(4.99km)のあと、トゥクムス(27.56km)、アンドゥミ(17.86km)を走り、トゥクムスでのTFZを挟んで、午後はミルツカルネとトゥクムスの2回目のステージをリピートしたあと、ストラツネ(17.44km)とタルシ(20.52km)を走ってリエパーヤのサービスパークへと戻る。ミッドデイサービスが設けられない、タフな7SS/120.92kmの一日だ。
オープニングステージのSS2ミルツカルネでベストタイムを奪ったのはロヴァンペラだ。前夜のスーパーSSでトップに立った彼は連続ベストでリードを3.7秒に広げた。「ここはかなりいいフィーリングだったし、楽しいステージだった。今日は道路掃除の効果がかなり大きい。後から走るドライバーのタイムが気になるが、スタートとしてはまずまずだ」
チームメイトから2.4秒遅れの2位で金曜日を迎えたセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)は、右コーナーでラインを外してディッチにタイヤを落としてヒヤリとした瞬間に見舞われたが、草の生えた土手にマシンをこすりながらも2番手タイム、3.7秒差で2位をキープしている。
ラトビアの高速ステージは全体的に小さい小石混じりのルースグラベルがコース全域を覆っており、フロントランナーたちは路面クリーニングに苦しむことになった。選手権リーダーとして1番手のポジションでスタートしたティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)は、オジエと並んで2位でこの日を迎えたものの、短いこのステージで5秒もロスして2位タイから6位へと後退した。1kmあたり1秒もロスした計算だ。
地元期待のセスクスは4番手タイムを叩きだして3位へと浮上、ワークス勢最後方となる10番手のポジションからスタートしているため、もっともクリーンな路面に助けられているとはいえ、早くもこの週末の台風の目になることを予感させることになった。それでも彼はここでは慎重なスタートだったと笑みをみせる。「ここではちょっと慎重に行ったよ。このめちゃくちゃ速いラリーカーを走らせるにはちょっと安定させて走ることが必要だからね!」
セスクスの2秒後方の4位にはエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)、勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)もオーバーステアを出してアンチカットの木製ポールをヒットするシーンもあったが、アグレッシブな走りで3番手タイムを叩き出して、エヴァンスから0.7秒遅れの5位に浮上してきた。
SS2トゥクムスは27.56kmというラリー最長を誇り、この日の鍵になると見られていたステージだ。ここで驚く速さをみせたのはセスクスだ。彼は最初のセクターでは暫定トップタイムのロヴァンペラから0.4秒遅れたものの、10km地点では1.8秒をリード、22km地点では2.4秒にリードを拡大、終盤にはややタイムを落としたものの、1.6秒差をつけて初のステージウィンを飾ることになった。トップレベルに挑戦してわずか2戦目、ハイブリッド付きのフルスペックのRally1カーではわずか3ステージ目での快挙だ。
「ここはトゥクムス・ステージだ! 昨年(のERCイベントで)は16秒差をつけて獲っているんだ。そして今回は初めてのWRCでのステージウィン! 信じられないよ」とセスクスは目をむいて喜びをみせる。これでオジエ抜いて2位へと浮上、首位のロヴァンペラアに3.3秒差に迫ることになった。レポーターから「相手は世界チャンピオンですね?」と聞かれた彼は、プレッシャーを与えないでくれと言わんばかりに指で耳をふさぐジェスチャーでおどけてみせたが、とても緊張しているようには見えない。「もちろんドキドキしているさ、とにかく今は本当に集中するしかない!」
セスクスは続くSS4アンドゥミでもセンセーショナルな走りをみせて連続してベストタイム、ロヴァンペラとの差を0.1秒縮め、トップまで3.2秒差に迫ることになった。「(肩をすくめ)・・・・実際、ちょっと危ない瞬間もあった。僕たちはただリズムが良かっただけだと思う。世界王者と同レベルのタイムで走れるなんて・・・もう、何も言うことはないよ!」とセスクスはにやりと笑った。
ロヴァンペラは、クルマ一台ごとに路面は良くなっていく状況にもかかわらず、朝のループをトップで終えたとはいえ、けっしてパフォーマンスに満足しているわけではない。「このループでいちばん滑るこのコースで、クルマをできる限りうまく走らせるようにした。ルースグラベルがたくさんあって、自信がないと、ペースノートを信じきれないんだ」
オジエは3位で朝のループを終えたが、セスクスからじわじわ引き離され、その差は4.3秒へと広がっている。
オイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)は昨夜のスーパーSSでのミスによって金曜日を7位でスタート、3番手というロードポジションに苦しめられながらも前ステージで3番手タイムを奪って4位へと順位を上げ、オジエの6.2秒後方に続いているが、まだリズムは完全ではないと訴える。「最初のステージの後、少しリズムをつかめたけど、まだ通常のリズムで走ることはできていない。クルマも予測不可能で、流れをつかむのが難しいんだ」
5秒差の5位には「まだ十分にコミットできていない」という勝田がつけており、2番手のロードポジションでスタートしているエヴァンスがダスティな路面に苦しみながらも、ヌーヴィルによる道路掃除の恩恵を最大限に活かして3.3秒後方で続いている。
エヴァンスの0.3秒後方の7位には、このステージで3番手タイムを刻んだアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)が続いており、エサペッカ・ラッピ(ヒョンデi20 N Rally1)を10秒あまりも引き離している。
ラッピは8番手という後方からのポジションにもかかわらず、ステアリングに問題を抱えており、いっこうにペースが上がらないと悔しそうに首を振る。「すっと感触が最悪で、理由が分からない。自信の問題もあって、グリップを信頼できない状態だ。横向きになった時、どの方向にいくのかも分からない。難しいよ」
9位にはグレゴワール・ミュンスター(フォード・プーマRally1)が続き、一番手スタートのヌーヴィルはRally1カー最後方となる10位で朝のループを終えることになった。
ヌーヴィルはコンディションを聞かれ、「僕たちはやれることはやっている。どれほどひどいのか、タイムを見ればわかる」と険しい表情をみせた。いつものラリーなら、午後になればクリーンになったステージで、朝より路面掃除はラクになるはずだが、ラトビアの金曜日の午後は朝に走らなかった新しいステージも2つ走らなければならない。「午後もチャレンジングになりそうだが、できることをやっていくしかない」
トゥクムスでのTFZでのタイヤ交換を挟み、午後のループはオジエのベストタイムとともに始まることになった。多くのドライバーがスペア2本を搭載するなか、オジエはスペア1本で午後のループへと向かい、短い最初のSS5ミルツカルネで最速タイムを刻むことになった。「このステージは素晴らしかったが、短すぎる!スタートしたばかりなのに、もうフィニッシュしてしまった。タイヤの選択がうまくいったかどうかは、最後にわかるだろう」
オジエと同じくスペア1本を選んだセスクスは、ジャンクションにあったストローベイルの影に隠れていた石に乗り上げてひやりとしたが、幸いタイヤに問題を抱えずに0.7秒差の5番手タイム、2位をキープしている。同じ場所でタイヤをリム落ちさせたラッピのようにタイヤを1本失うことになれば、もはやセスクスにはスペアは残されてなかっただけに運も彼を味方することになった。
ここでは勝田が0.1秒差の2番手タイム、さらに0.1秒差で首位のロヴァンペラが続くことになった。後続の2人がスペア1本の軽量戦略を選ぶなか、ロヴァンペラはハード2本とソフト4本という安全策で午後のループに臨んでおり、ここではやはり重さを感じたと印象を語っている。「こういう流れるようなステージでは(2本のスペアタイヤによる)重さを感じるよ。このループではタイヤ選択がみんな違っている。もちろん(2本のスペアは)最善ではないが、次の長いステージはかなりラフで、その後、2つのステージがある。どうなるか見てみよう」
27kmの長いトゥクムスの2回目の走行は、朝の走行で柔らかい路面には轍が刻まれたところもあれば、硬い路面がラインに露出したコーナー、あるいはルーズな石ころがたくさん転がるといった複雑なコンディションとなってドライバーたちを待ち受けている。
ここでベストタイムを奪ったのはロヴァンペラだ。フロントにハードタイヤ2本、リヤにソフトタイヤ2本という興味深いタイヤチョイスだったが、それは明らかに上手く機能したようだ。彼は2 位のセスクスを3.5秒、オジエを3.6秒引き離すベストタイムを奪い、リードを7.2秒へと広げ、午後に向けたタイヤ戦略が正しかったことを確信することになった。「グリップはそんなに高くなかったが、ステージはかなりタイヤに厳しかった。このようにドライブするのは最も易しい方法ではないだろうが、おそらく(タイヤは)良い選択だった」
セスクスは終盤でタイヤがオーバーヒート、グリップを失ったと認めており、ブロックを失い始めたタイヤ3本とトランクに残ったソフトコンパウンドのスペア1本で残された2ステージを走りきるしかない。
ロヴァンペラはさらにSS7ストラツネでも連続してベストタイム、2位のセスクスは中盤ではロヴァンペラのタイムをわずかに上回ってみせたが後半ではタイムを落として1.7秒差の2番手タイム、2人の差は8.9秒に広がった。
ロヴァンペラはこの日の最終ステージであるSS8タルシでもベストタイムを奪い、セスクスとの差を15.7秒へと拡大して金曜日を終えることになった。「このステージは今日初めて適切なドライビングが出来ていると感じたステージだった。とても良い一日だった。マシンのフィーリングは完璧ではなかったが、ミスは無かった」
セスクスは驚くべき速さをみせて金曜日のヒーローとなったが、ロヴァンペラに比べて自身に何が足りなかったのかすでにはっきりと理解しているようだった。「このステージは悪夢だった。タイヤが全く残っていなかったんだ! タイヤを管理するのはかなり大変だった」。彼の5.7秒後方の3位にはオジエが続いており、ワールドチャンピオンにサンドイッチされているが、そのことに重圧をまったく感じてない。「本当に感動的な一日だったことは間違いないし、次の2日間もそうなるだろう!」
オジエの後方ではタナクが4位で午後のループを迎えていたが、終盤になって激しいポジション争いになった。タナクはSS7でブレーキに問題を抱えてペースダウン、勝田が2.9秒後方に迫るとともに、さらに1.6秒後方には午後のループでペースを上げたフールモーが迫ることになった。
3週間前にポーランドで獲得した表彰台の再現を目指してラトビアに向かったフールモーはSS5でエヴァンスを抜いており、SS7で4番手タイムを刻んだあと「タナクとタカを捕らえたい! 明日のスタートポジションのためにいい順位につけたいからだ。今より2台前にいることが目標だ」と、ビッグマウスでタナクと勝田にプレッシャーをかける。
それでもSS8では「ここではプッシュすることを決めていた」と語った勝田が2番手タイム、ブレーキに問題を抱えるタナクをパスして4位へと浮上して金曜日を終えることになった。「危ない瞬間はたくさんあった。ここではプッシュすることに決めていたし、このタイムには満足している」
2台抜きはならなかったが、フールモーもタナクを抜いて勝田の後方5.3秒差で続くことになったが、彼もタイヤは限界寸前だった。「僕のマシンにはもうタイヤは残っていない!場所によってはアイスの上を走っているようだった」
ヒョンデ勢最上位のタナクは6位まで沈み、7位のエヴァンスは最後までペースを上げる決め手を欠いたことに落胆していた。「このステージは非常に難しく、おそらく最もルーズなステージだった。明日は何ができるか考えよう。おそらくあまり良くはならないだろうけれどね・・・」。それでも彼はヌーヴィルに比べればまだマシな一日だっただろう。
Rally1カー最後方で最終ステージを迎えたヌーヴィルは、明日もトップスタートという最悪の事態を避けるべく、ミュンスターを捕らえるために渾身のアタックを仕掛ける。ミュンスターはここで3番手タイムを刻み、13.1秒差でヌーヴィルの猛プッシュから逃れることになった。
ヌーヴィルが全力を尽くしたことはマシンのフロント右に若干の傷があることからも明らかだったが、彼はステージエンドでステアリングを叩きつけて悔しさを露わにした。「大きくプッシュした。少なくとも順位をひとつ上げようと頑張ったんだけどね。何て言ったらいいか・・・チャンピオンシップを勝利するのは簡単ではないし、その戦略はラリーでは大きく変わったし、楽しくないものだ・・・」
それでもこのステージでは、ノーサービスの一日でステアリングの問題を抱えたままでさらにはパンクで8位という不本意なポジションに沈んでいたラッピがチームメイトの選手権をサポートするためだろう、フィニッシュライン手前で大きくペースダウンして10位へと後退、明日の土曜日を一番手でスタートすることを選んでいる。
ラリーカーはこの日、夕方にリエパーヤに戻っており、明日はクルディーガ地方、ディエンヴィドクルゼメ地方という、ヨーロッパ選手権として開催されてきたラリー・リエパーヤの中心的な舞台となってきた高速ステージへと向かうことになる。
オープニングステージのピルスカーンズは、現地時間8時20分、日本時間14時20分のスタートが予定されている。