WRC2022/01/22

ローブがモンテ首位快走、オジエが9.9秒差の2位

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 2022年世界ラリー選手権(WRC)開幕戦ラリー・モンテカルロのレグ2も、過去18年のWRCで17回のタイトルを奪った二人のセブの対決に沸くことになり、この日行われた6ステージのうち4ステージでベストタイムを奪ったMスポーツ・フォードWRTのセバスチャン・ローブ(フォード・プーマRally1)がセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)に9.9秒の差をつけてラリーをリードしている。

 レグ2は、アルプ・マリティーム地方の北部に向かい、メルカントゥール国立公園に隣接するルワ〜ブイユ(18.33km)、ギヨーム〜ペオーヌ〜ヴァルベーヌ(13.49km)、ヴァル・ド・シャルヴァーニュ〜アントルヴォー(17.11km)の3ステージのあと、ピュジェ・テニエでのタイヤ交換をはさんで、ふたたび同じ3ステージをループする6SS/ 97.86kmの一日となる。デイサービスは設けられていないためマシンへのダメージは避けたいところだ。とくにシェイクダウンからマイナートラブルが続いた新しいハイブリッドシステムについては信頼性も未知数なだけにドライバーもチームも祈るような気持だろう。

 金曜日のオープニングセクションにむけたタイヤチョイスは前日とは大きく異なる戦略となった。すべてのドライバーが基本的にはソフト4本を選びながらも、前夜に2本のスペアタイヤを搭載したことが、失速の原因の一つとも考えられたヒュンダイ勢がスペア1本をチョイスしたのに対して、トヨタの4台は重量増のハンデを覚悟の上でスーパーソフト2本を保険のために搭載する。

 軽量化で反撃を期すヒュンダイに対してトヨタの戦略も鮮明だ。金曜日のオープニングSSとなったルワ〜ブイユ・ステージのラ・クイヨール峠はこの週末の最高到達点の標高1678mを誇り、スタート地点での気温は0度に過ぎないが、朝日が登っているにもかかわらず、峠付近にはマイナス7度と冷え込んで凍結したセクションが待ち受けている。

 このステージに向けて、首位のオジエと3位につけるエルフィン・エヴァンスの2台のトヨタGRヤリスRally1はソフトとスーパーソフトを2本ずつクロスに。6位のティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20 N Rally1)がソフト3本とリヤに1本のみスーパーソフト、8位のオイット・タナク(ヒュンダイi20 N Rally1)とMスポーツ勢は全車がソフト4本だ。

 ほぼドライと見られていたステージだが、ウェットのコーナーやアイシーなセクションなどまさしく千変万化、ウェット路面が突如、ブラックアイスへと姿を変えるなど、いくつもの罠を仕掛けてドライバーを待ち受ける。

 1番手でコースを走るオジエがブイユ村に入る最後のコーナーで突然グリップを失ってスライド、左リヤをガードレールに軽くヒットする。「最終コーナーのひとつでバリアにぶつかってしまった。このコーナーはグリップの判断が難しく、とても変わりやすかった。今日のタイヤチョイスはちょっと妥協した感じだが、どうなるかな」と、オジエはヒヤリとした瞬間をふり返った。

 後続のエヴァンスもまた終盤の似たような霜のコーナーでガードレールにヒットしたが、リヤバンパーに小さなダメージを負ったしまいオジエのタイムを抜くことができない。ヌーヴィルもタイトターンでのスピン、勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)も濡れたヘアピンでスピンして切り返しに苦しむことになったが、ヒュンダイ勢を抑える4位という好位置で金曜日を迎えたアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)に比べればまだましなトラブルだ。

 フールモーは左コーナーのブレーキでスライド、外側のバンクにヒットしたあとマシンはバリアを越えて道路の反対側の谷底へと転落した。彼とコドライバーのコリアにケガはなくともに無事だったが、マシンは見るも無惨な状態でワークス勢のリタイア1号となってしまった。

 このステージでベストタイムを奪ってスタートしたのはローブだ。「かなりトリッキーなステージだった。レッキの時よりもかなりウェットでしめっており、少し氷も張っていた。ダウンヒルはとても速く、いくつかのコーナーでは少し驚かされたよ」とローブは語っている。

 混乱のオープニングSSを終えて、リアをヒットしながらもけっきょく2番手タイムとなったオジエが首位をキープするもローブが5.5秒差まで急接近。フールモーのリタイアでガス・グリーンスミス(フォード・プーマRally1)が4位へポジションアップ、5位につけていたヌーヴィルはクレイグ・ブリーン(フォード・プーマRally1)に抜かれて1つポジションダウン、ステージエンドでRally1カーのドライビングは「まだ怖い」と打ち明けることになった。

 SS4のギヨーム〜ペオーヌ〜ヴァルベーヌは前ステージよりも気温も上がり、路面のコンディションも穏やかになるはずだった。エヴァンスは4本ともソフト、オジエはソフト3本にリヤに1本だけスーパーソフトを組み合わせ、ヌーヴィルとタナクとローブはソフト4本を装着したが、ステージは日陰が多く、前のステージよりもさらにトリッキーなコンディションだ。

「終盤にはヘアピンが多く、トラクションがかからないので安全よりで走った」という首位のオジエは2.7秒差の5番手タイムにとどまり、ベストタイムを奪ったローブが2.8秒差へと迫ってきた。

 ローブはSS5ヴァル・ド・シャルヴァーニュ〜アントルヴォーで朝から3連続ベストタイムを刻み、ついにオジエを抜いて首位に躍り出すことに成功した。「氷でトリッキーだったがグラベルクルーが素晴らしい仕事をしてくれたから、最初から最後までプッシュすることができた」とローブは笑みをみせた。

 オジエは終盤の下りのセクションで連続するブラックアイスのあるコーナーでやや慎重すぎる走りだったのか6番手タイムにとどまってしまい、終盤のヘアピンでマシンをスライドさせながらもオジエを13.5秒も上回るタイムを叩き出したエヴァンスがオジエを捕らえて2位へと浮上した。「ようやく調子が掴めてきたが、ところどころ滑りやすくなっていてとても難しかった。ヘアピンで少しワイドになってしまい、スローパンクしたが大丈夫だった」

 朝のループを終えて首位にはローブ、2位のエヴァンスとは10.6秒差だ。一気に3位にポジションを落としたオジエは首位から13秒差、エヴァンスからは2.4秒遅れだ。

 この週末これまで一度もトップ3のタイムがなかったヒュンダイ勢も速さをやっとみせてきた。SS4で3番手タイムを奪ったヌーヴィルは、セットアップが改善したのか、ヌーヴィルもやっとペースを上げられたことにさぞかしほっとしているかと思いきや、「良くはなったが怖さは何も変わっていない。驚きの連続なので、そこを改善していかなければならない」と指摘していたが、SS5ではふたたび3番手タイムを奪って4位で朝のループを終えている。

 ヌーヴィルには抜かれたものの、クレイグ・ブリーン(フォード・プーマRally1)は5位をキープ、オープニングSSではハイブリッドブーストが使えずに苦しんだタナクもSS4では0.8秒差の2番手タイムを奪うなどペースを上げており、ブリーンの2.3秒差まで迫っている。「ブーストは今はもう少し安定しているので、やっと少し楽しくなってきたよ」

 快調な走りで4位につけていたグリーンスミスはここでハイブリッドブーストを失って24秒をロス、惜しくも7位へと後退してしまった。オープニングSSのスピンで出鼻を挫かれた勝田は、コンディションの変化に戸惑いながらも、ここでは5番手タイムを奪って8位をキープ、「(Rally1カーに)まだあまり慣れていないが、一歩一歩前進している」と語った。

 金曜日はデイサービスがなく、ピュジェ・テニエでのタイヤ交換でドライバーたちは午後のループへと向かっている。ほとんどのドライバーがソフトタイヤ5本をチョイスしたが、タナクのみがソフト4本+スーパーソフト1本を組み合わせた。

 午後のループの最初のステージはSS3のリピートとなるSS6ルワ〜ブイユ。ローブがこの日4つめとなるベストタイムで2位につけるエヴァンスに対するリードを14.5秒へと広げることになった。「マシンのフィーリングがとても良く、ギリギリの走りができている。完璧なステージだった。今のところすべてがうまくいっているので、この調子で続けたい」

 朝のループで首位を失ったオジエは2.9秒差の2番手タイム、エヴァンスの背後1.4秒差にじわりと迫ってきた。

 ローブは、続くSS7ギヨーム〜ペオーヌ〜ヴァルベーヌでも中間スプリットまでベストを刻んでいたが、終盤の上りのセクションでハイブリッドブーストが効かなくなったことから2.9秒差の3番手タイムとなっている。それでもローブは首位をキープ、エヴァンスを抜いてオジエが2位へ浮上してきたが、その差は14.4秒だ。

 ここでベストタイムを刻んだのは7位につけるグリーンスミスだ! 彼は前ステージでも中間スプリットで最速タイムをマーク、最終的に4番手タイムとして6位のタナクに5.4秒差に迫り、ここではついにベストタイムで0.7秒差まで迫ることになった。「クルマがどんなにいいか、言葉に置き換えるのは難しい」とグリーンスミスはプーマRally1を絶賛、シーズン前の大きな目標のひとつに、ステージ優勝を掲げていたが、開幕してわずか7つめのステージで野心を果たすことになった。

 金曜日の最終ステージは、SS8シャルヴァーニュ〜アントルヴォー。オジエがこの日初のベストタイムで首位のローブとの差を9.9秒に縮めることになった。朝のループで首位を失った彼だが、午後のループで追い上げることができたことには満足しているようだ。「午後はプッシュしたが、それ以上に速く走ることはできなかった。クルマの安定感とトラクションがいくらか欠けているね。この時点でこれ以上速く走ることはできないけど満足だよ」

 ローブはここでもハイブリッドブーストに問題を抱えてタイムを失うことになったが、それでもリーダーとして金曜日を終えることができたことを喜んでいる。「ハイブリッド問題があったが、クルマのフィーリングを掴んでどんどんプッシュを続けてこられたからね。大きな差ではないがこうして1日を終えてリードできていることを嬉しく思う」

 オジエに少しでも迫るはずが、エヴァンスは最終ステージだけでオジエよりも11.3秒も遅れたことに悔しさよりも驚きを隠せない様子だった。「これほどロスすることになって驚いているよ。終盤のヘアピンで慎重になり過ぎていたかもしれない」。首位のローブからは22秒遅れ、オジエからは12.1秒遅れの3位で金曜日を終えることになった。

 ヌーヴィルもまたSS7でハイブリッドブーストの問題で失速したが、朝のループで「怖い」と語ったマシンに苦労しながらも、それでも少しずつマシンのセットアップや使い方を掴みつつあるようだ。エヴァンスからは25.8秒差の4位と表彰台圏内まではかなり遠いが、それでも諦めるつもりはない。「今週末のためにできることは、多かれ少なかれハイブリッドにある。できることはあまりないが、なんとか戦うしかない」

 タナクはじわじわとブリーンとの差を縮め、最終ステージでついに抜き去って5位でフィニッシュしている。ブリーンはコース上にGoProカメラを置いた観客を批難してタイムを失ったことを悔しがったが、それ以上にこのマシンのポテンシャルを引き出せなかったことに失望しているようだった。「ノートもうまくできなかったし、100%自信をもってプッシュできなかった。路面は凍結しているところもあったし、新しいクルマと新しいシステムをうまくコントロールできなかったので余計にそうだ」

 7位にはグリーンスミス、午後のループでは素晴らしいタイムを出すことができただけに、SS4のパワーブーストのトラブルで4位を失ったことは悔やまれるところだが、明日にむけて多くの前向きな材料があるだけに表情は明るい。

 午後のループでは5番手タイムを2度奪って堅実なペースをつかみかけている勝田が8位、セットアップに苦労しているカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)はトップから2分あまりも遅れた9位と精彩を欠いている。また、オリヴァー・ソルベルグ(ヒュンダイi20 N Rally1)は終始コックピット内に進入する煙と格闘しながらも、ロヴァンペラから10.1秒遅れで10位につけている。

 明日の土曜日は、サン・ミシェル峠で知られるル・フュージュレ〜トラム・オートのステージから始まる5SS/92.46kmの一日となる。スタートは現地時間8時17分(日本時間16時17 分)となる。