RXインタビュー2017

「ランデは完璧な仕事ぶりを見せてくれた」

セバスチャン・オジエ

オジエは以前から「ドライバーとして必要なのは、隣に座っている人と100%の信頼関係を築くことだ」と語っていたが、ヴェイヤスに代わって新たなコドライバーとなったランデとのコンビは、何年も連れ添ったイングラシアとのコクピットのような安心感を感じたと明かしている。



─どのようにして新しいコドライバーとしてヴァンサンを選んだのですか?

「ジュリアンが引退を決めたあと、当然バンジャマン(・ヴェイヤス)が第一候補だった。彼は長年僕のグラベルクルーだったし、イベント前テストでも何度もコドライバーをやってくれていたからね。彼はこの1年とてもよくやってくれたけれど、トヨタのような大きなチームで、僕の隣に座ることは、彼にとっては大きなプレッシャーだった。それに僕がフル参戦していないことも、彼にとってより困難な状況であったと思う。仕事の流れや車について学ぶ機会が少ないのだから。そこでジュリアンに復帰してほしいと頼んだが、彼には断られた。同時に、僕とジュリアンは若い選手たちにチャンスを与えたいとも考えた。そこで、ヴァンサンにコドライバーシートを申し込んだというわけだ」

─ラリー・ジャパンでのヴァンサンの仕事ぶりはどうでしたか?

「ラリー・ジャパンはまったく新しいステージで多数のコーナーがあるので、すべてのコドライバーにとって大変なラリーだ。レッキの段階から非常に集中していなければならない。ヴァンサンはよい仕事をしてくれた。初めて組んだにもかかわらず、何年も前から一緒に仕事をしているかのように感じたよ」

─今後もヴァンサンとのコンビを続ける予定ですか?

「ヴァンサンとの仕事はすべてスムーズで、彼は僕が速くドライブするために必要な自信を与えてくれた。このラリーで勝つことができなかったが、よいパフォーマンスを発揮できた。僕らのコンビを続けるよい兆候だと思う」

◆取材ノート

このインタビューで(さらりと)明かされているとおり、ラリー・ジャパンではセブとジュリアンのコンビが復活する可能性がありました。少なくともセブはジュリアンを一番に希望したわけです。ところがジュリアンは、「Rally1カーを知らない自分では(誰もがオジエが勝つと当然のように思っている)ラリー・ジャパンで優勝するために完璧な仕事はできない」として、その申し出を断りました。そして、Rally1カーを知っていて、かつ非常に真面目なヴァンサンをセブの新しいパートナーとして選んだというわけです。もちろん、「若い選手に学ぶ機会を与えたい」という彼らの思いもありました。

セブとジュリアンがラリー・ジャパンで走ってくれることが長年の夢だった私は、少し残念に感じつつも、ジュリアンの判断をとても彼らしい(ジュリアンは事前の準備が完璧でないと気が済まない人なので)と思いました。

ヴァンサンはインタビューのなかで「仕事は完璧にやりたい」と言っている通り、ジュリアンととても似ているタイプです。ラリー前にジュリアン、ヴァンサンと3人で食事に行ったのですが、ヴァンサンは(万一にもあたらないよう)生ものはもちろん魚介類は避けるという徹底ぶりでした。ちなみに、そのときは全席が個室の居酒屋に行ったのですが、フランスにはないスタイルとのことで、2人とも興味深そうでした。一方の私は、日本語だけで書かれたメニューを説明するのに四苦八苦していました(笑)。

ところで、ヴァンサンは若いといっても、コドライバーとしては12年、WRC(WRC3、WRC2を含む)では7年の経験を持っています。けして経験が浅いわけではなく、むしろ年齢に対して相当経験を積んでいると言えるヴァンサンに、ジュリアンは数日間つきっきりで早朝からすべてのロードセクションを回って仕事の仕方を教えていました。ラリー前に自ら運転してロードセクションを細かくチェックするなど事前準備を怠らない「ジュリアン流」の流儀をたたき込まれたヴァンサンは、セブの頼もしい相棒になるでしょう。

セブ曰く、ヴァンサンの声はジュリアンとそっくりだとみんなに評判で、自分でもジュリアンが帰ってきたかのように感じることがある、とのことでした。確かにオンボード映像を見ると声がジュリアンに似ています。

ただし、セブと組むということはヴァンサンもフル参戦はできないわけです。それでも、ルーベとプーマRally1で戦いつつ「(トップレベルに到達するための)最後の1ステップが足りない」と感じていた彼にとっては、たとえシーズンの半分のみの参戦であっても8度の王者から学べるものが大きいのではないでしょうか。(岡本ゆかり)