WRC2020/03/14

オジエがメキシコ首位に、エヴァンスが3位に躍進

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 2020年世界ラリー選手権(WRC)第3戦ラリー・メキシコは、波乱が続出した金曜日を終えてトヨタGAZOOレーシングWRTのセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)が首位に立っており、13.2秒差の2位にテーム・スニネン(フォード・フィエスタWRC)が続き、先頭ランナーのハンデを背負いながらもエルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)がポディウム圏内の3位につける展開となっている。

 ラリー・メキシコは木曜日の夜、かつて銀鉱で栄えた古都グアナファトの地下トンネルで行われたストリートステージGTOで開幕したあと、いよいよ金曜日から今季初のグラベルステージへと戦いの舞台を移し、そのオープニングステージ、SS3エル・チョコラテ(31.45km)は、いきなり失望のドラマが待っていた。

 今季初参戦のダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)はWRカー最後尾からスタート、彼は2つめのスプリットまではトップタイムに匹敵する速さをみせていたが、ラジエーターホースが外れてしまうトラブルで7.9 km地点でストップ、幸いコースに復帰できたものの、5分近く遅れてしまい、早くも優勝争いのチャンスを失ってしまった。

 前戦スウェーデンに勝利し、初めて選手権リーダーとしてコースオープナーを務めたエヴァンスにとっては試練のスタートとなった。前夜のストリートステージを終えて2位につけたエヴァンスだが、ここでは路面掃除に苦しみ、1kmあたり0.8秒もの遅れを喫して26.3秒をロス、首位から25.5秒遅れの7位まで転落することになった。

 このステージで素晴らしいタイムを奪ったのは6番手の後方からステージを走ったオイット・タナク(ヒュンダイi20 クーペWRC)。彼は2番手タイムのオジエを10.3秒も引き離すベストタイムを叩き出して、一気に首位へと浮上してみせる。2位には10.6秒差のテーム・スニネン(フォード・フィエスタWRC)、オジエはスニネンの0.3秒後方の3位につける展開だ。

 クリーンな路面を味方に進撃を続けるかに見えたタナクにはSS4オルテガ(17.24km)で不運が待っていた。ワイドになってしまい岩にリヤをヒットした彼は、サスペンションにダメージを負って45.9秒をロス、8位へと後退することになった。

 このステージでベストタイムを奪ったのはオジエ、スニネンも捕らえて一気に首位へと浮上する。オジエは続くSS5ラス・ミナース(13.69km)でコースにかき出された大きな石を巻き込んでひやりとさせたものの、リードを7.8秒に広げ、さらに短いSS6パルケ・ビセンテナリオ(2.71km)でもスニネンを引き離して9.7秒をリードして朝のループを首位で終えることになった。

「これまでのところ非常に良いが、まだまだ先は長い。ここでは決して簡単な道ではない。常にどこにでも岩があるからね」と、オジエは午後のループにむけて気を引きしめる。

 いっぽう、スニネンの0.6秒後方の3位で朝のループを終えたのはティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20 クーペWRC)。前夜のストリートステージで首位に立った彼は、2番手の走行ポジションのためにダスティですべりやすい路面に苦しむことになり、右リヤのエアロを壊しているが、パルケ・ビセンテナリオの短いステージでトップタイムを奪い、じわじわとペースを上げてきた。

 朝からグリップレベルの低さを嘆いていたエサペッカ・ラッピ(フォード・フィエスタWRC)もSS4で3番手タイムを奪って16.6秒差の4位で続き、ラッピから2.5秒差の5位でエヴァンスが続いており、選手権リーダーにとって最大の試練ともいえる金曜日の朝のループをどうにかうまくしのいでみせた。

 カッレ・ロヴァンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)はSS3ではオジエに匹敵するペースを刻んでスタートしたが終盤に左フロントタイヤをスローパンクさせて22秒あまりをロス、スペアを失った彼はそのあとのステージを慎重に行かざるを得ず、朝のループを首位から31.4秒遅れの6位で終えることになった。

 レオンで行われるデイサービスの頃には気温は30度まで上昇することになり、人にもマシンにも厳しいコンディションとなったSS7エル・チョコラテでは、ふたたび悲劇が待っていた。4位につけていたラッピがステージエンドのストップラインでマシンを止めた際にリヤから発火、マーシャルが消火器で一旦は火を消し止めたため、ラッピは走り始めれば消える程度の火災と判断したのだろうが、これは完全な判断ミスだった。走行を始めるや瞬く間にマシンは火に包まれ、彼はやむなくマシンから脱出することになった。幸い彼とフェルムにはケガはなかったが、マシンは完全に焼け落ちてしまった。

 また、このステージではソルドも走行中にエンジンルームから煙りを上げてマシンを止めることになる。彼は幸いにも火を消し止めることができたが、朝のループで見舞われたラジエーターホースの接続不良の問題でエンジンには致命的なダメージが及んでおり、ここでラリーを終えることとなった。

 SS7ではタナクがベストタイム、スニネンが2番手タイムでオジエの後方8.2秒差に迫ったが、3位につけていたヌーヴィルは大幅にタイムをロス、わずか0.6秒差だったスニネンからの遅れは一気に11.1秒へと広がってしまう。

 ラッピが次のステージへ向かうロードセクションを塞ぐ形で火災を起こしたため、主催者はSS8をキャンセル、ラリーはSS9ラス・ミナースで再開する。空が曇り、気温がみるみる下がり始めたこのステージでは、ハードを主体としたタイヤ選択で午後のループに向かったライバルよりも、ミディアムを1本多く搭載したタナクとヌーヴィルが巻き返すチャンスに期待がかかる。

 だが、突然、中継のカメラには前ステージでソルドがマシンを止めたときと同じ光景がデジャヴのように写しだされる。なんと今度は3位につけていたヌーヴィルがエンジンフードを開けてストップ、修理を試みようとするが、バッテリーの電圧を失っており、彼はヘルメットを脱いで続行を断念することになってしまう。

 このステージで連続してベストタイムを奪ったのはタナク。タイヤギャンブルを成功させた彼は、ロヴァンペラとエヴァンスを一気に抜いて2位のスニネンの20秒後方の3位へと浮上することになった。「ここで少しは取り戻すことができたが、前のステージがキャンセルになったのは残念だね」と、タナクはタイムを縮めるチャンスが奪われたことを惜しむことになった。

 ハードタイヤ4本を選択したエヴァンスは、かなり涼しくなったことでグリップがしないダスティな路面に手を焼くが、タナクの0.5秒後方にピタリと続き、2番手タイムのロヴァンペラもエヴァンスからわずか1秒差で続き、3位をめぐって僅差のバトルとなっている。

 いっぽう、オジエは、冷えたハードタイヤに苦しむスニネンとの差を12秒に広げて首位を快走する。「ここまでは順調だよ。3番手のポジションでスタートできて、ラリーをリードできるというのはいいものだよ」と、彼は笑顔をのぞかせる。

 長くタフな金曜日のロングステージを終え、この日に残されたのはレオン・オートドローモを舞台とするスーパーSS(2.33km)を2回走行するSS10/11とSS12ストリートステージ・レオン(0.73km)のみだ。オジエが連続してスーパーSSでベストタイム、石畳のトリッキーなストリートステージ・レオンでも手堅い走りでまとめて2位スニネンとのリードを13.2秒に拡大して首位で金曜日を終えている。

 いっぽう、SS9を終えた時点で3位をめぐって、タナク、エヴァンス、ロヴァンペラの3人が1.5秒差にひしめくバトルとなっていたが、明日の走行ポジションはすでにスーパーSSの前の順位で決まっているため、ここから先の1秒を争うバトルは意味をもたない。

 それでも3人はターマックとグラベルがミックスされたトリッキーなショートステージのSS11で同タイムで並ぶなど最後までホットなバトルを続けることになり、最後のSS12でタナクを0.2秒差で抜いたエヴァンスが3位に浮上、ロヴァンペラもベストタイムで追撃の鞭を入れて、タナクの後方2.3秒差でこの日を終えている。

 明日の土曜日も9SS/133.74kmという長い一日となる。オープニングSSのグアナファティートは現地時間8時58分(日本時間23時58分)のスタートが予定されている。