WRC2020/03/15

オジエ今季初優勝、通算6回目メキシコ勝利を飾る

(c)Toyota

(c)M-Sport

(c)Hyundai

 2020年世界ラリー選手権(WRC)第3戦ラリー・メキシコは、covid-19(新型コロナウイルス感染症)の世界的流行によって急速に旅行制限が拡大していることに配慮し、日曜日に予定されていた3SS/56.01kmがキャンセルされ日程を短縮。土曜日最終ステージ、SS21でフィニッシュすることとなった。ラリーは初日に首位に立ったトヨタGAZOOレーシングWRTのセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリWRC)が終始ラリーをコントロールし、今季初勝利を挙げた。2位にはオイット・タナク(ヒュンダイi20クーペWRC)、3位にテーム・スニネン(フォード・フィエスタWRC)が入った。

 土曜日の朝、レオンの空は曇りがちだたが、気温は朝8時の時点で13度あり、日中は28度まで上昇するだろうという予報だ。WRCドライバーの出走順は金曜日のスーパーSS前までの順位のリバースとなり、電気系トラブルでリタイアしたティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)を先頭に、3分間隔でスタート。1.ヌーヴィル、2.グリーンスミス(フォード・フィエスタWRC)、3.カッレ・ロヴァンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)、4.エルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)、5.タナク、6.スニネン、7.オジエの順となる。全車がミシュランのミディアムコンパウンド5本を選択してスタートした。

 土曜日のオープニングとなるSS13グアナファティートは、24.96kmの距離を持つ。高速セクションとタイトでテクニカルな区間が混在するコントラストの激しいステージだ。ここでベストタイムを奪ったのは、オジエ。「マシンは良いフィーリングだが、エンジンパワーは低く感じる。実際はそうではないのかもしれないが。いずれにせよ、タイムは良いので、すべてが上手くいっていることは明らかだ」と2位のスニネンとのタイム差を22.9秒に広げることに成功した。

 その後方、3位争いは早くも動きがあった。「スタートは慎重だったが、非常にクリーンな走りができた。これを続けるよ」というタナクが、エヴァンスを5.8秒上回るタイムで3位に返り咲く。とはいえ「1秒、1秒が重要だ。すべての場所でベストを尽くさなければならない」というエヴァンスとのタイム差はわずか1.4秒でしかない。

 続くSS14アルファロはワイドでハイスピードなコーナーが続く高速ステージだ。ヌーヴィルはスタート前のTCに11分遅れて1分50秒のペナルティを課せられることになった。これでヌーヴィルのスタート順はエヴァンスとタナクの間となる。3位争いをするチームメイト、タナクのためにエヴァンスのスタート順を早めて少しでも路面掃除を多くさせようという戦略だ。その甲斐もあってか、タナクはエヴァンスよりも5.3秒速いタイムで、3位争いのギャップを6.7秒へと広げた。

 後方ではグリーンスミスがスタートから2.1km地点で失速。エンジンを再始動することができず、マシンを押して路外に退避。自力で修理してコースに復帰したが約11分を失うこととなった。

 SS15は3年ぶりに使用されるデッラマデロのステージだが、フォーマットは以前と異なる。21.78kmのステージは高速コーナーが連続した後、ダウンヒルのヘアピンコーナーをこなし、流れるようなセクションを通り、最後の3分の1は日曜日に予定されていたエル・ブリンコ・パワーステージのルートに合流する。フィニッシュには観客の前に人工的に作られたジャンプが用意されている。

 ベストタイムを奪ったのはタナク。「自分たちにできることをしているが、プッシュする自信がない。現時点ではこれ以上の走りはできない」とコメントしたが、エヴァンスとの差を9.4秒に広げ、さらに2位のスニネンまで6.6秒に迫る。一方、首位を走るオジエは、「スピードを落とした。とくに最初のセクションはライン上にたくさんの岩があったのでパンクしたくなかった」と余裕が窺われる。

 午前のループを終えて、首位のオジエは2位スニネンに28.3秒のアドバンテージをキープしている。3位には急追のタナクが6.6秒差で続く。9.4秒差の4位のエヴァンスは「良い走りができなかった。とにかく苦労した」とタナクにジリジリと引き離されている。5位は路面掃除に苦しめられながらも健闘を続けるロヴァンペラ。SS14で大きくタイムを失ったグリーンスミスが10位。17位に沈んでいるヌーヴィルにとって選手権ポイント獲得はパワーステージでのボーナスポイントしか望めないが、そうした思惑さえも吹き飛ばす決定が下されることになる。

 オーガナイザーは、WRCプロモーターとすべてのマニュファクチャラーチームの合意の下、日曜日に予定された3SS/56.01kmをキャンセルし、土曜日の最後のステージのロック・アンド・ラリー・レオンをもってラリーをフィニッシュすることを発表。covid-19の世界的な流行に伴って、急速に旅行制限が拡大しているための措置だ。ラリーは土曜日の最後のステージまで走ることで、当初計画された324.85kmのアイテナリーのうちの77.4%にあたる251.60kmをカバーすることとなり、これは選手権のフルポイント成立の条件(75%)をぎりぎり満たすことを意味する。パワーステージはキャンセルされ、ボーナスポイントは付与されないこととなった。

 日曜日の行程がすべてキャンセルされたことでラリーは緊迫の度合いを増す。残されたステージは、午前中に走った3SSを再びループし、金曜日にも走ったレオン・オートドローモのスーパーSSを2回走り、その後レオンの街に設けられたストリート・ステージ、ロック&ラリー・レオンのショートステージの6SSしかない。午後のステージに向けて、オジエ、エヴァンス、スニネン、グリーンスミスはハード4本とミディアム1本、ロヴァンペラがハード4本とミディアム2本、タナクとヌーヴィルがハード5本のタイヤを選択した。

 SS16、2回目のグアナファティートでベストタイムを奪ったのはヌーヴィル。「可能な限りクリーンな走りを心がけた」というオジエがセカンドベストを刻み、首位を堅持している。タナクと2位を争うスニネンはステージ中間地点のスプリットタイムではタナクを上回る速さを見せたものの、ステージ終盤で一瞬ストールしてタナクをよりも0.6秒遅い4番手タイム。これで両者の差は6秒に縮まった。タナクは「信じられないくらいフィーリングが悪い」とコメントしながらもスニネンをプッシュし続ける。続くSS17ではベストタイムを記録してその差を3.1秒差とした。

 SS18、「(抜くことができたか)全く分からない、思いきりプッシュできないから、できることはすべてやっている」とコメントしたタナクだが、チームメイトのヌーヴィルを0.4秒上回るベストタイムを記録。「トライはした。ハードタイヤで行ったが、かなりスリッパリーなステージだった」というスニネンを抜いて2位に浮上する。

 これで残されているのは3つのショートステージのみ。だが、首位を走るオジエは「こういうラリーでは何があるか分からない。パンクにも気をつけながらすごく慎重にドライブすることを心がけていくことが必要だ。やるべき仕事はしっかりとやらなければならない」と気を引き締める。

 レオン・オートドローモのスーパーSSではヒュンダイの2台が好タイムを叩き出した。ヌーヴィルは2回ともにベストタイム。「大変なイベントだったが、僕たちが勝利を競えるスピードを持っていることを示せた。今後はここでの問題を克服し、強くなって戻ってくる」と敗戦の中に希望を感じているようだ。タナクもセカンドベストを2回取り、スニネンを8.3秒差に引き離すことに成功した。

 最終ステージ、1.62kmのロック&ラリー・レオンでも順位に変動はなく、オジエは2位のタナクに27.8秒の差をつけて昨季のトルコ以来となる自身48勝目を獲得することになった。

「今週末は複雑な感情だった。勝利は勝利だが、この勝利は特別に感じる」とオジエは語った。彼はスタート前、このような状況下でラリーを走ることに違和感があると語っていたが、最後まで集中力を高めて勝利を獲得することになった。

「チームに感謝したい。彼らは素晴らしい仕事をした。こういう状況なのでハグで勝利を祝うことができないが、また次にとっておこう。可能な限り早く次のラウンドが開催できることを祈っている」

 タナクから10.1秒遅れの3位は健闘したスニネン、4位にエヴァンス、5位に路面の掃除役で苦戦しながらも安定したスピードを見せて成長をアピールしたロヴァンペラが入った。

 ドライバーズ選手権ではメキシコを終えてオジエが62ポイントを獲得して選手権リーダーに浮上、エヴァンスが54ポイントで2位、今回ノーポイントに終わったヌーヴィルが42ポイントで3位となっている。

 また、マニュファクチャラー選手権ではトヨタが110ポイントに伸ばし、10ポイント差だったヒュンダイとの差を21ポイントへと広げている。

 covid-19の世界的流行はWRCにも大きな影を落としている。メキシコの次に開催される予定だった第4戦ラリー・アルゼンチンはすでに開催延期が決定している。それにより次戦は5月21-24日のラリー・デ・ポルトガルとなるが、FIAとWRCプロモーターは状況を逐次注視していくとしており予断を許せない状況だ。