WRC2021/12/28

ジャン-ジョセフがオジエのセーフティクルー引退

(c)Toyota

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 2021年WRC最終戦のACIラリー・モンツァでセバスチャン・オジエとジュリアン・イングラシアは勝利によって8度目となるワールドチャンピオンに輝いた。トロフィーを授与された二人の傍らにはオジエのセーフティクルーを務めるシモン・ジャン‐ジョセフ(右端)の姿もあったが、彼もまたこの一戦でセーフティクルーを引退する考えだという。

 今シーズンはオジエのラリー・モンテカルロにおける記録的な勝利で始まり、息詰まるモンツァの勝利で終わることになったが、ここでもオジエの比類なき正確な走りを生んだのは、ジャン‐ジョセフの功績が大きいと言われている。

 それは、信頼の篤さを試される究極の試練だ。例えば、あなたがモンテカルロのあるコーナーに氷があることを知っていると仮定しよう。数日前のレッキの時、そこには確かに氷があったからだ。しかし、彼は、あなたがそこに着く頃には氷はなくなっていると言う。そして、スタッドレスタイヤとクォータースロットルをイメージしていたコーナーで、スリックタイヤを履いてブレーキを踏まないようにと助言する。それを信じて全開いくことができるだろうか?

 ドライバーは、彼らを完全に信頼して命を預けているのだ。それが、世界ラリー選手権に参戦するクルーとセーフティクルーの関係である。

 セーフティクルーはいまではターマックラリーでしか認められていないが、かつてはグラベルラリーでも使うことが許されていた。いまだに、アイスノートクルーや、ターマックイベントにもかかわらず、グラベルノートクルーと呼ばれているのはそのためだ。

 彼らは、サービスパークに誰よりも早く出勤し、スペシャルステージが始まるはるか前、コースが閉鎖されるまでに各ステージを回り、ドライバーがレッキを行ったときから路面がどう変化したのか、雨が降っていればアクアプレーニングの原因となる水溜まりがないかを確認する。

 セーフティクルーにとっても、ラリー・モンテカルロは特別なイベントだ。オジエは今年、モンテカルロで史上最多となる8回目の優勝を果たした。ジャン‐ジョセフが夜も眠れないイベントがあるとすれば、それはこのイベントだろう。

 ジャン‐ジョセフは、モンテカルロの歴史上最も成功したドライバーであるオジエに、彼が引退を考えていたときに、留まるように言った男である。

 ジャン‐ジョセフとオジエの活躍した時期は異なるが、2008年にシトロエンに所属していたとき、競技キャリアが交差した。2008年のアルスター・ラリーで、ジャン‐ジョセフは北アイルランドでC2-R2 Maxをドライブすることになっていたが、オジエが代理で出走した。

 それ以来、2人は固い友情で結ばれている。しかし、WRCのターマックラウンドにおいては、それ以上の関係だ。

 ジャン‐ジョセフは、オジエのアプローチと攻撃の方向性を決定する人物だ。このフランス領マルティニーク島出身の元ドライバーは、サービスパークで最も重要な人物と言っても過言ではない。

 ジャン‐ジョセフは、1990年代後半から2000年代前半にかけて、フォードとスバルのファクトリーチームでドライバーとして活躍した。コリン・マクレーのチームメイトだったといえばその実力もうかがい知ることができるだろう。

 フランス語を母国語とするジャン‐ジョセフは、長年、彼のコドライバーを務めてきたジャック・ボワイエとともに、オジエ、ジュリアン・イングラシアと完璧なチームを形成してきたが、ここ数年はイングラシアに代わって来季からオジエの新しいコドライバーとなるバンジャマン・ヴェイヤス(左端)とのコンビでセーフティクルーを務めている。

 このスポーツの最高レベルで活躍してきたジャン‐ジョセフは、トップレベルの競争のプレッシャーを理解しており、オジエにとっては信頼できるセーフティクルーとしてだけではなく、良き相談相手となっている。

 しかし、オジエより14歳年上の52歳のジャン‐ジョセフがもたらしてきた最も重要なものは、オジエのノートを本質的に理解していることだ。彼は、あるコーナーのブレーキングエリアを変更することで、その後のコーナーでオジエがクルマの姿勢をどう変えるかを知っている。彼はそのような状況を想定して理解し、それに合わせてノートを調整することができる。

 基本的に、ターマックに関しては、オジエとジャン‐ジョセフは完全にシンクロしている。ジャン‐ジョセフは、オジエの未来を予測する。そして、それを世界の誰よりも上手に行う。チーム・オジエは今季、ベルギーの特殊なコースを除いてすべてのターマックラウンドで勝利した。

 オジエは今季をもってフル参戦からの引退を表明しており、来季のWRCについては数戦の参戦になると考えられている。モンツァを最後に引退するイングラシアに代わって、来季はヴェイヤスがオジエのためにペースノートを読み、ジャン-ジョセフもまたセーフティクルーを辞めることなるため、完璧に見えたチーム・オジエも大きな変化のときを迎えることになる。この変化がオジエの走りにどのような影響をもたらすのか、気になるところだ。