WRC2019/10/05

タナクがGB首位浮上もオジエが3.4秒差

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 2019年世界ラリー選手権(WRC)第12戦のウェールズ・ラリーGBは、レグ1最後のナイトステージで素晴らしい速さをみせたトヨタGAZOOレーシングWRTのオイット・タナク(トヨタ・ヤリスWRC)が首位に浮上、シトロエン・レーシングのセバスチャン・オジエ(シトロエンC3 WRC)が3.4秒差の2位、一日のほとんどをリードしてきたクリス・ミーク(トヨタ・ヤリスWRC)も3.6秒差の3位につけている。

 エルシー(11.65km)、ペンマハノ(16.19km)、ディフナント(19.36km)、アベルヒルナント(10.26km)をサービスを挟んで2回ループする一日だが、午後のループではエルシーとペンマハノに続き、昨年から登場した採石場の山をつかったスレートマウンテン(1.60km)を走り、そのあと行われるディフナントとアベルヒルナントの2回目のループは、ナイトポッドを装着して向かうことになる。

 ウェールズへの直撃が懸念されたハリケーン・ロレンゾの余波によってラリーGBの金曜日は強い雨と風による荒れたコンディションになると見られていたが、予想に反して風もなく静かに雨が降り続く朝を迎えることになった。

 しかし、昨日から止むことなく降り続いた雨は、北ウェールズのスノードニア山脈のグラベルステージをマディで非常に滑りやすい、いつものラリーGBの舞台に仕上げてドライバーたちを待ち受けることになった。

 金曜日のオープニングステージとなったSS2エルシーでベストタイムを奪ってスタートしたのは、3カ月ぶりにWRCに帰ってきた地元のエルフィン・エヴァンス(フォード・フィエスタWRC)だ。オジエがステージ終盤でワイドになってオフしかかったほか、ヤリ-マティ・ラトバラ(トヨタ・ヤリスWRC)もディッチにオフしてそれぞれ6番手と8番手とトリッキーなコンディションに苦しむなか、昨夜、ウェットコンディションのオールトンパーク・サーキットで行われたオープニングSSでトップタイムを奪ってラリーをリードしたミークが0.5秒差の2番手タイムで首位をキープ、後方からスタートする二人の英国出身ドライバーの対決の図式になるかにも見えた。

 しかし、エヴァンスはSS3ペンマハノの高速の右コーナーで大きくリヤをスライド、バンクにヒットしたことでサスペンションを壊して43秒あまりをロス、12位まで後退することになった。

 このステージでベストタイムを奪ったのは一番手のポジションでコースを走るタナクだ。昨夜のSS1ではランプの照射角の問題からシケインでエンジンを止めてしまい、13位で金曜日をスタートした彼だが、続く、SS4ディフナントでも連続してベストタイム、首位のミークがヘアピンでオーバーシュートして4.7秒をロスしたため、首位まで4.8秒差の2位に浮上することになった。

 しかし、続くSS5アベルヒルナントはそれまでのステージよりもぬかるんだ泥が覆い、水のたまったラインがどこまでも続く光の筋のように続いている。タナクはアクアプレーンに耐えながら走るも、首位のミークとの差は6.5秒へと広がり、4位に落ちてしまう。「ステージはもっとトリッキーになった。とても難しいよ、このようなコンディションではグリップの予測は不可能だよ」

 朝のループでは一度もベストタイムを奪ってないものの、状況の変化にうまく対応しているミークが首位でスランディドノのサービスへと帰ってきた。6秒差の2位にはティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)がつけている。この日を2位でスタートしたヌーヴィルは、SS3ペンマハノのジャンクションでワイドになって4位まで落ちたが、「このような滑りやすいコンディションでもクルマの感触はまずまずだった」と語るように、ペースを維持してふたたび2位に戻している。

 このアベルヒルナントでベストタイムを奪ったのはエヴァンスとラトバラ。SS3でサスペンションを壊したエヴァンスは、メカニックとしての腕の良さを発揮、ロードセクションで足回りを完璧に修理して速さを取り戻しており、10位まで順位を挽回してきた。

 また、ラトバラもSS2ではオフしかかって7位まで後退、苦しいスタートを切ったが、SS4では2番手タイム、そしてSS5のベストタイムによって、アクアプレーンに苦しんでタイムを落としたタナクとオジエを抜いて3位まで浮上してきた。

 オジエはグリップを失い、何度もオフしかかったために、3位から5位からまで順位を落として朝のループを終えたが、4位のタナクとは2.3秒差、2位のヌーヴィルとも2.8秒差にすぎない。サービスへと戻った彼は、選手権のライバルと僅差のバトルになっていることに満足していると語った。「ここは非常に速く、グリップを頻繁に失った。このようなアクアプレーニングが起これば何が起きるかわからないが、幸運なことに、僕らは何とかコースを走ることができた。最も重要なことは、オイットとティエリーに集中することだ。今のところ、僕たちの間にはほんの数秒しかないので、すべてが順調だよ」

 すでに雨は上がり、スランディドノの海岸には陽射しが戻ってきたが、ステージは引き続き滑りやすいウェットコンディションだ。一番手で水たまりを走るタナクが、フロントウインドスクリーンに跳ね上げた泥水が明るい日射しで白く光るために視界に苦しんでペースを上げられないなか、オジエはSS6エルシーとSS7ペンハマノで連続してベストタイムを奪って午後のループを発進、首位のミークまで2.5秒差の2位につけることになった。

 オジエの躍進とは対照的に、3位につけていたラトバラにはドラマが待っていた。ラトバラはエルシーで左リヤタイヤをパンクしたあと、さらにペンハマノではマシンをスライドさせ、朝のループでエヴァンスがヒットした同じバンクに勢いよく乗り上げてコースオフ、激しく崖を転がり落ちたマシンは立ち木に寄りかかるようにして横たわることになった。もちろんコース復帰は不可能、しかもロールケージは無惨にも歪んでおり、明日までの修理が絶望的であることは誰の目にも明らかだった。ラトバラは絶望でしゃがみこむしかなかった。

 オジエは、SS8の短いスレートマウンテンでミークの1.5秒後方までピタリと接近、いよいよラリーはこの日の山場ともいえるディフナントとアベルヒルナントのナイトステージを迎えることになる。

 ここで素晴らしい速さをみせたのはタナクだ。彼の走行順ではまだ明るかったSS9ディフナントで彼はベストタイム、オジエとともに3位につけていたヌーヴィルを一気に抜き去り、ミークと0.6秒差の2位へと順位を上げることになった。タナクはこのステージでライトポッドのワイヤーを破損してライトを失うトラブルに見舞われたが、幸いにもロードセクションでの修理がうまくいき、完全に陽が落ちて暗闇となったSS10アベルヒルナントでこの日4つめのベストタイムを奪ってミークを逆転、ラリーリーダーに立つことになった。

「ステージの前、僕らはかなりストレスを感じた。前のステージでライトを失い、さらにワイヤーが損傷していたからね。ロードセクションでたくさんの作業を必要としたが、幸運なことにロードセクションには明かりがあったんだ!」とタナクはふり返った。

 また、タナクとともにオジエもミークを抜いて2位へと浮上、選手権を争うタナクに3.4秒差で続くことになった。「良い一日だった。僕たちは優勝争いに絡むことを望んでいたが、その通りになっている。ナイトステージは決して簡単ではないが、ここにいられて嬉しいよ」

 いっぽう、昨夜から守ってきた首位を失ったとはいえ、ミークはまだ諦めるつもりはない。彼もまだオジエの0.2秒後方、首位のタナクとは3.6秒差にすぎない。「大きくスライドし、泥の上でリヤにハイドロプレーニング現象が起きたので、その後は少し慎重に走った。まだ終わっていないよ。今夜はあまりタイム差がないので、明日に期待している」

「このようなコンディションではクリーンに行かなければならなかった。グリップは不足しており、正直、本気で攻めたわけではない」と告白したヌーヴィルもまた首位から8.4秒遅れの4位で続き、トップ4が10秒以内にひしめく大接戦だ。またヌーヴィルの後方にはアンドレアス・ミケルセンとクレイグ・ブリーンの2台のヒュンダイi20クーペWRCが続いており、1-3位で初日を終えたトヨタに対して、選手権を争うヒュンダイも4-5-6位と好バトルを続けている。

 7位にはテーム・スニネンとエヴァンスのMスポーツ・フォード勢が続き、エサペッカ・ラッピ(シトロエンC3 WRC)は7位につけていたが、エルシーの2回目の走行でディッチに落ちてリタイアとなっている。

 明日の土曜日は、ダイフィ(25.86km)、ミヘリン(22.91km)、スウィート・ラム・ハフレン(25.65km)の3つのロングステージをタイヤ交換のみでノーサービスで2回ループするタフな一日となる。オープニングSSのダイフィは8時6分(日本時間16時6分)のスタート予定だ。