WRC2021/11/20

エヴァンスがモンツァをリード、オジエが1.4秒差

(c)Toyota

(c)Hyundai

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 2021年世界ラリー選手権(WRC)最終戦のACIラリー・モンツァが19日金曜日に開幕、ドライバーズタイトルを争うトヨタGAZOOレーシングWRTの2人が序盤からトップを争う展開となり、エルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)がセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)に1.4秒差をつけて初日の首位となっている。

 ACIラリー・モンツァの初日は、ベルガマスク・アルプスの麓にある山岳ステージのジェローサ(10.96km)からスタート、コスタ・ヴァッレ・イマーニャ(22.11km)の2ステージをノーサービスのまま連続して走ったあと、「スピードの神殿」と呼ばれるモンツァ・サーキットへと戻り、午後はモンツァ・サーキットと施設内の道路を組み合わせたチントゥラート(14.49km)を2回走行したあと、ナイトステージとして行われるグランプリ(10.21km)で締めくくる7SS/105.41kmの1日となる。

 オープニングステージのSS1ジェローサは、昨年、エヴァンスが雪が積もったコーナーでコースアウトして初タイトルを失ったいわく付きのステージだが、週前半の雨によって多くのセクションが湿っているものの、ほぼドライコンディションとなった。それでも、落ち葉やかき出された泥や終盤のセクションは霧が出ているなどトリッキーな開幕ステージとなっている。

 ここでベストタイムを奪ってラリーをリードしたのは選手権リーダーのオジエだ。前夜に行われたシェイクダウンでは8番手タイムに沈み、まるで不調を疑わせるような出だしとなったが、それがまるで戦略であったかのようにここでは2番手タイムのエヴァンスに1kmあたり0.33秒の差をつけるベストタイムを奪い、3.6秒差でラリーをリードすることになった。

 選手権でエヴァンスに17ポイントの差をつけているオジエは、タイトルを獲得するためにこのラリーで勝つ必要はないが、それでも最高のスタートを切ることができたことを喜んだ。「ステージの最後の方で霧が出ていて、フィニッシュ手前が少し滑りやすくなっている。ドラマもなくまずまず順調なステージだった」

 一方、エヴァンスは予想外のタイム差をつけられたことを驚いていた。「正直そんなに悪くないと思っていたので、それだけタイムを失っていることに驚いているよ」

 ダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)が3番手、ティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)が4番手タイムとはいえ、トップのオジエからは8.2秒もの遅れとなっており、彼は「フィーリングは良かったが、落ち葉が道路上に出てきているからそれが原因で滑りやすくなっているのかもしれない」とトヨタ勢の速さに首を傾げることになった。

 SS2コスタ・ヴァッレ・イマーニャは標高1340mのヴァルカヴァの峠へ向かうワイドでツイスティな登りのセクションが濃霧のために視界に苦しめられることになる。オジエは各スプリットで好タイムを刻みながらも標高の高い場所で発生した霧に「少し気をつけた」と語り、そこは少し慎重になったと認めており、エヴァンスが0.1秒差をつけるベストタイムでオジエの後方3.5秒差にまで詰め寄った。

 タイトル争いの2人はわずか2つのステージを走っただけですでに後続を大きく引き離しつつある。ヌーヴィルは、チームメイトのソルドを抜いて3位に躍り出たものの、首位のオジエからはすでに16.8秒の遅れとなっている。朝のステージにむけてほとんどのドライバーがハードコンパウンドタイヤを5本搭載するなか、彼だけはハード6本として、スペアを2本選んでおり、さらに昨年、序盤でクラッシュしたため、この山岳ステージの経験がないことがハンデになっているかもしれないと彼は認めている。

「昨年はステージを走ってなかったので僕にとっては発見の連続だ。それでも、かなりハードにプッシュしているでもダウンヒルではブレーキに苦労している。それがスペアタイヤのせいかどうかはわからない」とヌーヴィルは語った。

 朝のステージではノーサービスで2回目のループを走ることになり、SS3ジェローサでは、アドリアン・フールモー(フォード・フィエスタWRC)の波乱が発生することになった。ただ一人、ソフトコンパウンドのピレリを4本チョイスした彼は、朝のループで6位につけたが、このギャンブルは湿ったステージでは有効にも見えた。だが、じょじょに路面が乾き始めるなかソフトとハードをミックスしたこのステージではさらにドライビングの精度を落とすことになり、彼は左コーナーでマシンをスライドさせてアウト側のバンクにヒットして横転、ガードレールを乗り越えて深いディッチに落ちてしまいリタイアとなってしまった。

 朝のジェローザ・ステージの1回目の走行でベストタイムを出していたオジエは2回目の走行でもエヴァンスを2.1秒上回るタイムでライバルに5.6秒差をつけることになった。さらに彼はSS4コスタ・ヴァッレ・イマーニャでも連続してベストタイム、チームメイトに6.5秒差をつけて朝のステージを終えることになった。

 オジエはこのステージでは左ヘアピンでタイトなラインをとり、インに切り込んだあと2輪走行になる瞬間があったが、幸いにもそのまま駆け抜けている。「そんな大げさな瞬間でもなかったが、アスファルトの上で予期しないことも起こる。楽しむこと、これがラリーのスタートでの目標だったが、今のところうまくいっているみたいだ、だからここまでは満足しているよ」

 エヴァンスは朝のループではベストタイムを奪ったステージでオジエに0.9秒引き離され、明らかに望んでいるペースではなかったと認めた。「冷えたタイヤでスタートが難しかったけど、それは誰にとっても同じだからね。悪くはない、ただ僕たちが今いたかったポジションでないことは確かだ」

 首位争いをするトヨタの2台に続くのはヌーヴィルだが、わずか4ステージでトップから27.2秒も引き離されており、なぜこれほどまでにタイムを落としているのか分からないと彼は認めた。「このステージもすべてを出し切った。正直なところ、すべてがいい感じなので、どこでタイムをロスしているのかわからないよ。ここから1秒でもタイムを縮めるためには、それは多くのリスクを伴うことになるよ」

 ヌーヴィルのあと、2.5秒差で4位につけていたソルド以降は、観客に急病人がでたためステージが赤旗でキャンセルとなったためにノーショナルタイムが与えられている。

 2Cコンペティション・ヒュンダイから出場するオリヴァー・ソルベルグ(ヒュンダイi20クーペWRC)は新しいコドライバー、エリオット・エドモンドソンとの初ラリーにもかかわらず、安定したペースでのスタートとなっている。彼は連続5番手タイムでスタートしたあとSS3では堂々の4番手タイムを奪い、ソルドの18.3秒後方の5位につけている。

 新しいコドライバーであるヨナス・アンダーソンとの初戦を迎えたガス・グリーンスミス(フォード・フィエスタWRC)は、チームメイトのリタイア後、順位を上げて6位となっているが、勝田貴元(トヨタ・ヤリスWRC)は2.9秒差、さらにヒュンダイi20クーペWRCのデビュー戦のテーム・スニネンも勝田の2.9秒差に迫ってきた。

 しかし、シェイクダウンのトップタイムで優勝争いが期待されたカッレ・ロヴァンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)は、朝のステージで首位から1分44秒もの遅れた9位のスタートとなっている。彼は優勝争いをするチームメイトになにかあった時のためにトヨタのマニュファクチャラー選手権のポイントを守るためにペースを落とし、チームプレイに徹しているが、「プッシュできないマシンでは走るのが難しいし、楽しいはずがない。しかし、今週末の計画は、全体的にはラリーを完走することであり、僕がプッシュすべき理由は何もない」と退屈なラリーに不満そうだ。

 初日の午後は、モンツァ・サーキットのメイントラック、バンク付きのオーバル、そして内側のグラベルのサービスロードを組み合わせたステージが舞台となる。サーキットのステージでは1ステージごとに15分間のフレキシ・サービスが認められるのがモンツァの特徴だ。

 最初のサーキットステージのSS5チントゥラートで速さをみせたのはエヴァンスだ。彼は、朝の4ステージでオジエに引き離された差を一気に挽回、6.5秒差の遅れを0.8秒差まで縮めることに成功するも、このステージの難しさを訴える。「ここでは自分が上手くやっているかどうかを知ることはとても難しい。ブレーキをかけるのが遅いのか、早いのか。グリップやコンディションはある意味、宝くじのようなものだからね」

 オジエはターンでリヤをスライドさせて、リヤをタイヤバリアにヒットさせてひやりとする瞬間をみせたが、マシンにはダメージなく走り切ったが、5.7秒遅れの6番手にとどまった。「非常にスリッパリーだった。一番手の出走は、あまり良くなかったのだと思う。ステージは悪くはなかったが、ところどころ本当に滑りやすかった」

 3位につけるヌーヴィルは、SS5ではエヴァンスのステージ優勝を上回る勢いで、最初のスプリットだけで1.8秒の差をつけていたが、その後はタイムが伸び悩み、最終的には3番手タイムで終えることになった。それでもヒュンダイのギヤボックスに問題を抱えていた彼は15分のサービスに救われることになり、チントゥラートのリピートステージのSS6ではベストタイムを奪ってみせた。

 それでもこのステージでヒーローとなったのは彼ではない。0.4秒差の2番手タイムを叩き出したエヴァンスは、このリピートステージでもオジエを2.1秒上回り、1.3秒差で逆転して首位に立つことになったのだ。

 オジエは「最初の走行ではブレーキに問題があったために遅れたが、ここでは大丈夫だったし、より安定していた」と、速さには問題ないと感じていたにもかかわらず、ふたたびペースはエヴァンスに及ばなかった。それでも、このポジションのまま行ってもむろんタイトルは安泰だ。

 金曜日の最終ステージとなるのはSS7グランプリは、サーキットのステージでは唯一ターマックのみで構成され、メインサーキットとバンクのある旧コースや難しいシケインやヘアピンも追加されており、ただでさえ難しい挑戦だが、日没のあとの暗闇の中での走行となる。

 エヴァンスはここでは3番手タイムに終わったもののモンツァのリードをさらに0.1秒増やし、タイトル争いのライバルに1.4秒差をつけて、シーズン最終戦の初日を終えることになった。エヴァンスが逆転でタイトルを獲得するためには、オジエがさらに順位を下げることが必要となるが、彼にできることは今のポジションをキープすることだけだ。「サーキットでは上手くいったが、明日の山岳ステージに向けて、やるべきことがいくつかある」と彼は言い残している。

 オジエは、1.4秒差ながらチームメイトに遅れをとっているが、3位のヌーヴィルとは20.2秒差をつけており、このまま2位をキープすれば8回目のタイトルを獲得するのに十分だ。「今日はラリーのスタートとしては良かったと思う。山岳ステージでは良いドライブができた。午後はブレーキに問題があって、シケインのある場所ではリスクを取らなかったが、すべて順調だ」

 ヌーヴィルは、金曜日の7つのステージを終えて、首位から21.6秒差でポディウム圏内につけているが、マシンのフィーリングは良かったものの、思うようなタイムが出なかったと首を傾げている。「マシンのパフォーマンスには満足しているし、フィーリングも良かったが、なぜだかわからないがタイムにつながらない。これは非常に奇妙なことなので、明日に向けて改善することが難しい」

 グランプリ・ステージでベストタイムを奪ったソルドは、4位のチームメイトに3秒差に迫っている。「カタルーニャで、マシンの方向性を少し変えた。正直、かなり良くなった。小さな変化だが、大きな変化だ」

 ソルベルグはチントゥラートの2回の走行ともに4番手タイムを並べてソルドから26秒遅れの5位で続いている。

 一年前のモンツアのパワーステージでキャリア初のベストタイムを奪った勝田は、SS5では終盤のセクションまでトップタイムをマークしていたが、タイトターンでの不運なエンジンストールによってベストタイムはならなかった。それでも彼はサーキットのステージでペースをアップ、SS6でグリーンスミスを抜いて6位へと浮上、最後のSS7では2番手タイムを奪ってグリーンスミスに8.6秒差を付けるとともに5位のソルベルグに14.9秒差に迫っている。

 ラリー・モンツァは明日の土曜日もふたたびベルガモ北部の山岳ステージで朝を迎える。オープニングステージのサン・フェルモは現地時間7時38分(日本時間15時38分)のスタートが予定されている。