WRC2021/01/23

エヴァンスがモンテ首位へ、オジエが7.4秒差の2位

(c)Toyota

(c)Hyundai

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 2021年世界ラリー選手権開幕戦のラリー・モンテカルロは、トリッキーなコンディションのなかラリーリーダーがたびたび交代する波乱の展開となり、トヨタGAZOO レーシングWRTのエルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)が首位に浮上、この日の5つのステージのうち4つのベストタイムを奪ったセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)が7.4秒差の2位につけている。

 110周年記念のラリー・モンテカルロは、フランス国内のコロナウイルス感染対策によって夕方の18時から朝の6時までは外出が禁止された影響で木曜日のナイトステージが日中へと変更になったが、金曜日もすべてのスケジュールが2時間ほど前倒しとなり、オープニングステージのアスプルモン〜ラ・バティ・デ・フォンは夜明け前の朝6時にスタートを迎え、ナイトポッドランプを装着して早朝のナイトステージを走ることになった。

 ステージはややウェットのコンディションが続いたが、標高が上がるにつれて路面にはかなりのアイスが残り、終盤の5km は危険なほどのブラックアイスやスラッシュが覆っている。前日の2つのステージを制してラリーをリードしてきたオイット・タナク(ヒュンダイi20クーペWRC)は終盤までトップタイムから0.5秒遅れのペースだったが、最後のスプリットでペースを落として17.7秒を失って4位へと後退してしまう。「アイスのところだけ、慎重に行った。ここではそのような走りが重要だ」と冷静にコメントする。

 タナクに代わってここで首位に浮上したのは3.3秒差の2位でこの日を迎えたカッレ・ロヴァンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)だ。彼は、スラッシュのあるコーナーでハーフスピンを喫したにもかかわらず5.7秒差の3番手タイムにとどめ、2位のエヴァンスに2.2秒差をつけてついにラリーリーダーに立つことになった。「かなりいい感じに行っている。ヘアピンで1つ小さなミスをしたが、それ以外は良かったよ」

 このステージでベストタイムを奪ったのは選手権リーダーとして一番手でステージを走ったオジエだ。終盤の凍結したセクションで「レッキの時とは全く違うコンディションだった」とため息をもらしたが、もはや前日のブレーキペダルが床につくトラブルは完全に解消しており、5位から3位へと浮上、これでトヨタが1-2-3態勢を築くことになった。

 だが、ロヴァンペラのリードは長く続かない。彼は問題があったタイヤをロードセクションで交換したためにSS4シャランソン〜ギュミアンヌのスタート前TCに1分遅着、10秒のペナルティを科されたために3位へと後退、ここで連続してベストタイムを奪ったオジエが首位に立つことになった。「コンディションは決して簡単ではない。ナローな部分は結構ねばっこい泥が混じってスリッパリーになっているがベストは尽くした。最後の5kmはいい感じだったよ」とオジエは難しいコンディションのなかでいいリズムで走れていると満足そうに笑みをみせている。

 エヴァンスは、オジエに抜かれたとはいえロヴァンペラに6.7秒差をつけて2位をキープ、引き続きトヨタがトップ3を堅持する。

 この連続するステージはトヨタ勢に分があるのか、タナクはここでもオジエから11.9秒遅れの4番手タイムにとどまり、首位からは12.7秒遅れ、3位のロヴァンペラからも3秒遅れとトヨタ勢に引き離されつつある。昨日とは異なるこの状況に驚いているのかと聞かれたタナクは、エンジンに問題があることを明かすことになった。「よく分からないよ。全体的にはまずまずのステージだったが、ヘアピンでいつもブーストが低下してしまうんだ」

 走行順の問題も大きい。湿ったグラベルがインカットのたびにコースにかき出されるため、後続になるほど路面はダーティだ。続くSS5モンオーバン・シュル・ルヴェーズ〜ヴィルボワ・レ・パンで彼は路面のグラベルにのって高速であわやスピンしかかったが、どうにか事無きを得ており、ロヴァンペラを抜いて3位へと浮上した。ロヴァンペラはダーティな路面で18.5秒を失ったために、タナクから3.4秒差で朝のループを終えることになった。「本当に、本当に、本当に路面が汚れているよ。前を走っているドライバーたちはもっときれいな道を走っているからね。たくさんのグラベルがあって僕はプッシュできないよ」

 一番手で走行するオジエはこのSS5でももっともクリーンな路面を楽しみ、ベストタイムを奪い、2位のエヴァンスに11.3秒差をつけて朝のループを終えることになった。「良いループになったね。ベストを尽くしたと思う。昨日よりも自信を持って走れたし、ブレーキももちろん効いているからね!」

 一方、エヴァンスは、「たぶんこのステージをこの方向で走ることに関してはセブが良く分かっているのだと思う」と語り、2014年以来にルートに採用されたこの道を知らなかった自身とオジエの経験の差であることを噛みしめているようだった。

 トップ4の後方では、ティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)とダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)が朝のループで反撃のチャンスを伺っていたが、スーパーソフトタイヤ3本とスタッドスタッド付きタイヤ3本を選択した二人は凍結したセクションが想像より少なく、泥がかきだされたコーナーでどんどんタイムを失ってしまうことになった。

 完全にタイヤの読みが外れたヌーヴィルは、グラベルノートクルーがロードセクションでの問題のために走れなかったSS4ではペースノートの修正ができず、さらにSS5では右リヤのスタッドタイヤが影響してスピン、首位から1分2秒差の5位で朝のループを終えることになった。また、ソルドは前日のデファレンシャルの問題から開放されたにもかかわらず、「僕らにはまだスピードがない」とチームメイトからさらに1分遅れの6位にとどまっている。

 ギャップでのサービスでは午後のループにむけて、トヨタ勢はスノータイヤ4本+スタッドタイヤ2本を組合せ、ヒュンダイ勢はスノータイヤ5本をチョイスすることになった。モンテカルロではフルウェットタイヤの設定はなく、スーパーソフトのドライタイヤの溝ではアクアプレーンを引き起こすような状況ではスタッドなしのスノータイヤが選ばれることになる。1回目の走行のあとステージには大雨が降り始めているとのメティオの情報をもとにこのようなタイヤが選ばれ、トヨタ勢は雪に変わる可能性をも考慮にいれた戦略だ。

 だが、コースには新雪が降ることはなく、コースはフルウェットへ。朝の走行では凍結していた後半のセクションは融けた雪と泥がまざったシャーベットが路面を覆い、さらに難易度を上げてドライバーたちを待ち受ける。

 ここで波乱が待っていたのは首位のオジエだ。オジエはインカットした際に左フロントをパンク、2度のハーフスピンを喫してリム落ちした状態でフィニッシュすることになる。「カットするところが多すぎて、どこでどうなったのかわからない。このタイヤはパンクに非常に弱いことはわかっていたが、残念ながらすでに起きてしまった」とオジエはここで34.7秒も失い、エヴァンスとタナクに抜かれて3位へと後退することになってしまった。

 今季初のベストタイムを奪って首位に立ったエヴァンスもまたここが試練のステージだったと明かす。「僕らはオーケーだ。グリップが非常に変わりやすく、良いグリップがあると思った次の瞬間にはグリップが全く無かった」

 タナクは20.4秒差の2位につけたが、オジエとの差はわずか3秒にすぎない。「まだ自信がないところもある。ここはトリッキーなコースだったから、ヒーローになるような場所ではなかったんだ」とタナクはまだまだゴールまで長い道のりがあると言いたそうな様子だった。

 この日最後のステージとなったSS7シャランソン〜ギュミアンヌはかなりヘビーウェットコンディションのなか、オジエが素晴らしい速さをみせる。首位のエヴァンスになんと16秒差をつけ、7.4秒差の2位へと浮上、ふたたび戦いをふりだしに戻してみせた。「理想的ではなかったが、僕たちにできることは他になかった」と、オジエはこのステージに勝負を掛けたことを認めた。

 エヴァンスは、僅差でリードを守ったものの、勝利のためにプッシュすることと、不必要なリスクを冒さないように賢明なドライビングをすることのバランスが非常に難しいことを認め、この難しい局面で驚くべき速さをみせたオジエを称賛した。「このようにコンディションがトリッキーなステージでは、そのバランスが難しいね。慎重になりすぎたところがあったんだ。クルマが時々、勝手に動く場所もあった。彼(オジエ)のタイムは最高だよ」

 この日、ターボブーストなどの問題に悩まされたタナクは、ここでもフロントウィンドが完全に結露して視界を阻まれたマシンで苦戦を強いられることになり、オジエから20.9秒遅れ、3位に転落することになった。

 タナクから27.8秒遅れの4位にはロヴァンペラが続いている。朝のペナルティで首位争いから脱落した彼だが、午後のループでもSS6のスタートしてすぐのぬかるんだ泥がかきだされたコーナーでコースオフ、47.6秒もロスしてヌーヴィルに抜かれて5位にポジションを下げたが、最終ステージの3番手タイムで4位をとりかえしている。「ステージ序盤でミスをしてしまった。本当に泥だらけのカットがあって、グリップを失い、フィールドに入ってリバースで戻らなければならなかったんだよ」

 ヌーヴィルはロヴァンペラから6秒差の5位、SS7での2番手タイムで「やっとペースをつかむことになった」と語ったソルドが6位で続いている。7位にはWRC2最速のアンドレアス・ミケルセン(シュコダ・ファビアRally2エボ)がつけているが、勝田貴元(トヨタ・ヤリスWRC)が14.2秒差まで迫ってきた。

 勝田は、フルウェットとなったSS6では5番手タイム、SS7では4番手タイムを叩きだし、グリップが変化する難しいモンテカルロのコンディションにおいて次第にペースをつかみ始めている。「グラベルクルーのユホ(・ヘニネン)とクレイグ(・パリー)はとても良い仕事をしてくれた。無理なプッシュはしなかったが、タイムを見る限りでは問題ないので、自信もついてきたし、このステージには満足している」と勝田は語っている。

 23日土曜日のデイ3もスケジュールが3時間近くも前倒しとなり、ギャップ南東のラ・ブレオル〜セロネ(18.31km)は6時30分(日本時間14時30分)の開始となる。今夜の雨は明日の朝まで降り続くと天気予報は伝えており、山間部では雪を降らせる可能性もありそうだという。