WRC2023/03/20

オジエが記録的7勝目、ヌーヴィルが逆転で2位

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 2023年世界ラリー選手権(WRC)第3戦ラリー・メキシコでセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)が開幕戦モンテカルロに続いて今季2勝目を達成することになった。最終ステージまでもつれた2位争いは、ティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)が0.4秒差でエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)を逆転、2位でフィニッシュすることになり、トヨタGAZOOレーシングWRTの1-2勝利を阻止することになった。

 ラリー・メキシコの最終日はラス・ドゥナス・スーパースペシャル(3.53km)からスタート、オタテス(35.63km)、サン・ディエゴ(12.61km)のあと、お馴染みのエル・ブリンコ(9.59km)がパワーステージとして行われる。4SS/61.53kmという短い一日となるが、ロングステージはリピートではなくそれぞれ1回の走行であるにもかかわらず、そのなかにはラリー最長となるオタテスも控えていることや、すでにこの週末に走行しているクリーンになったセクションがミックスされたステージ構成のため、ほとんどのドライバーが3日間で初めてハードを主体としたタイヤチョイスでステージへと向かっている。

 日曜日のオープニングステージは、メキシコの象徴的なステージの一つとして新たに今年から加わったいくつもの奇岩が立ち並ぶラス・ドゥナス・スーパースペシャルだ。しかし、3日連続、4回目の走行となるため、コースには深い轍が刻まれ、かなり荒れたコンディションとなっている。

 ラリーリーダーのオジエはここではセーフティなペースでフィニッシュ、3.6秒の遅れをとったが、引き続き32.2秒のリードを保っている。「轍が多いので、タイヤがリムから外れるようなリスクは冒さないように、軽く走る計画だった。まだあと何キロもある。次のステージはとても長い」

 だが、コンディションが荒れているからといって2位を争う二人にとっては簡単にアクセルを緩めるわけにいかない状況だ。ティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)は、土曜日に4つのベストタイムで2位のエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)の4.3秒後方へと迫ってみせたが、ここでもライバルを0.2秒上回るベストタイムを刻み、その差を4.1秒へと縮めることになった。

 それでもヌーヴィルは前日にここでパンクしたためクリーンな走行を心がけたと語った。「激しい戦いになりそうだね。轍の中で奮闘しなければならないので、ステージを通して本当に体が温まったのがよくわかったよ!昨日はここでパンクしてしまったので、今日は轍の中でリヤタイヤに少し注意を払った」

 エヴァンスは0.2秒を失ったとはいえ、昨日この短いステージで1.1秒も失ったため、今日の走りには合格点を与えている。「正直なところ、思ったより良かった!マシンが轍に引っかかってしまって、スムーズに走るのが難しかった。彼との勝負? まだ先は長いよ」

 ラリー最長となるSS21オタテス・ステージの序盤の17.5kmはこの週末ほかのステージでも使用されたため3回目の走行となる。そのため、クリーンなラインのあるところがある一方で、いくつものコーナーがかき出された無数の鋭い石が転がりだして危険なコンディションとなっている。また後半の初めて走るセクションは一転してルースグラベルが多く、滑りやすいコンディションとなっている。

 このトリッキーなステージで勝負をかけたのはエヴァンスだ。序盤のクリーンなセクションで彼はスパート、最初のスプリットで1秒近く上回り、2つめのスプットでは早くも1.5秒も上回る。ルースグラベルの多い中盤はややペースを落としたものの、石が無数に転がる終盤のもっとも勇気が試されるラフなセクションでさらにスピードを上げ、ヌーヴィルに1.7秒差をつけるベストタイムを刻むことになった。

「大変だった!とてもスリッパリーで、判断が難しいんだ。でも、そんなに悪くはなかったようだね」とエヴァンスはひたいの汗を光らせながら笑みをみせている。

 2ステージを残してエヴァンスはヌーヴィルとの差を5.8秒に広げて2位を確定させたかにも見えた。だが、ヌーヴィルは勝負を諦めてはいなかった。彼は続くSS22サン・ディエゴで猛然とプッシュ、最後のコーナーではオフ寸前までワイドになって攻め込んだ。

 ヌーヴィルはステージエンドで、ぎりぎりの走りでタイムを刻みに行ったのは、ロードセクションでエヴァンスが何かの修理を行っていたのを目撃したからと明らかにし、最後まで戦いを諦めるつもりはないと強い決意をみせる。「エルフィンはマシンを修理していたんだ。前のステージで何かに触れてサスペンションを壊してしまったようだ。彼がすべてを賭けて全開で走るには勇気が必要となるだろう。僕はプッシュし続ける。僕は諦めるつもりはない」

 そのエヴァンスは、スタート直後の左コーナーでワイドになってフロントが浮き上がってしまうほどリヤをディッチに深く落としてしまう。衝撃も大きいように見えたが、幸いにもトラブルなく走り切って2位をキープしたが、3.1秒を失い、ヌーヴィルとの差は2.7秒へとふたたび縮まることになった。エヴァンスは、ステージエンドでライバルが指摘した自身のトラブルについては何も語らず、「どうなるかな・・・頑張るよ」とポーカーフェイスで応じている。

 盤石の走りを続ける首位のオジエは前ステージで9秒を失い、ここでも3.8秒を縮められてリードは22.5秒となったが、残るは最終パワーステージのみだ。オジエはまったく意に返さず、ゼロリスクのドライブを楽しんでいると笑みさせみせる。「すべて順調だ。朝はリスクを冒さずタイヤを少し温存していたからね。パワーステージが楽しみだ。全力で攻めることはないけど、きちんとした走りをするつもりだ」
 
 そして迎えたパワーステージのエル・ブリンコはここまでの順位でのリバースで走ることになり、2.7秒差で最終ステージを迎えたエヴァンスとヌーヴィルのバトルに注目が集まることになった。

 先に走ったヌーヴィルは、オイット・タナク(フォード・プーマRally1)のタイムを上回ることはできなかったものの、暫定の2番手タイムでフィニッシュ、エヴァンスの到着をステージエンドで待ち受ける。「できることはすべてやったよ。この週末はずっと限界ギリギリの状態だったので、最後の方は本当に疲れたよ。2位で終われることを願っている」

 エヴァンスはスプリットでじわじわとタイムを落とすことになり、ヌーヴィルから3.1秒遅れのタイムにとどまり、0.4秒差で2位を逃して3位に後退することになった。彼は、ヌーヴィルが指摘していたようにサスペンションに問題を抱えていたことを明かすとともに、ゴール目前でポジションを落としたことを悔しがった。「朝の最初のロングステージから曲がったサスペンションアームを抱えていたんだ。なんとかここまで戻ってこられるように、何ヵ所かで無理をしないように走ったんだ。残念だよ・・」

 オジエは余裕のクルーズを見せるかとも思われたが、暫定トップとなっていたタナクのタイムを2.1秒も上回ってパワーステージでも勝利、メキシコでの記録的な7度の勝利に花を添えることになった。「このステージは好きなんだ!今週末はクルマが素晴らしく、僕たちもチームも完璧な週末だった。次のラリー(・クロアチア)に出場するので、そこでは1番手でスタートすることが重要だし、チームのためにもポイントを獲得することが重要だった」

 4位でフィニッシュしたのはカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)。表彰台を逃した彼はボーナスポイントを獲得するためにタイヤを温存してパワーステージに臨んだが、右コーナーでリヤを大きく振り出してリヤスポイラーを破損、4番手タイムにとどまった。

 金曜日のパンクによって表彰台バトルから転落したダニエル・ソルド(ヒョンデi20 N Rally1)が5位となり、ガス・グリーンスミス(シュコダ・ファビアRally2エボ)が昨年のジャパンに続いて6位でフィニッシュ、WRC2優勝を果たしている。

 選手権リーダーとしてメキシコに挑んだタナクは、金曜日のターボ破損で表彰台争いから大きく遅れたものの、2日間の追い上げでどうにかトップ10圏内に戻して9位フィニッシュを果たした。オイル漏れを起こしたダンパーを抱えながらもパワーステージでも2番手タイムで貴重なボーナスポイントを獲得することになったが、「このような問題をまた繰り返さないことを願う。変えていかければ、このままで続けていくわけにはいかない」と、厳しい表情で彼は訴えた。

 勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)にとって、初挑戦のメキシコの最終日もステージの経験を積むことに集中することとなった。金曜日のアクシデントやこの日もSS22のフライングフィニッシュのあとのストップコントロールまでのゾーンでマシンがストップする問題があったが、最後のパワーステージではストレスを吹っ切るようなメガジャンプをみせて23位でフィニッシュした。「アーロン(・ジョンストン)がフラットで行けと言ったんだ! もちろん、コドライバーには従わないといけない、そうだよね? 金曜日のことはチームに申し訳ないと思う。クルマは素晴らしいのに、それを使いこなすことができなかった。でも、次回はもっと結果を出せるようにしたい」

 ピエール-ルイ・ルーベ(フォード・プーマRally1)は2日連続でリタイアとなり、メキシコ初参戦で厳しい戦いを強いられているが、最終日もパンクに見舞われてスペアを失いながらもどうにか26位で完走を果たしている。

 第3戦メキシコを終えて、ドライバーズ選手権では今季2度目の参戦で2勝目を飾ったオジエが56ポイントへとポイントを伸ばして選手権リーダーに浮上、逆転2位フィニッシュのヌーヴィルが53ポイントに伸ばして選手権2位に躍進、ロヴァンペラはヌーヴィルから1ポイント差の52ポイント、タナクが47ポイントで続いている。

 また、マニュファクチャラー選手権では、トヨタGAZOOレーシングWRTが80ポイントから127ポイントへと伸ばしてリードを維持、100ポイントで続くヒョンデとの差を14ポイントから27ポイントへ広げている。Mスポーツ・フォードは73ポイントとなっている。

 WRC次戦は舞台をヨーロッパに戻し、1カ月後のクロアチア・ラリーとなる。ステージエンドでのコメントでも明かされたようにオジエが今季3戦目の出場を果たすことになる。