2025年世界ラリー選手権(WRC)第4戦ラリー・イスラス・カナリアスはトヨタGAZOOレーシング・ワールドラリーチームのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)が初日の金曜日に行われた6ステージすべてにおいてベストタイムを奪い、26.8秒差をつけてリード、2番手にセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)、3番手にエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)、4番手にサミ・パヤリ(トヨタGRヤリスRally1)、そして5番手に勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)が続き、トヨタが歴史的な1-2-3-4-5態勢を築いている。
25日金曜日は、ラス・パルマス市からから標高が高い島中央部を抜けて西部へ至る。ヴァルセキージョ〜テルデ(26.32km)、ヴァジェセコ〜アルテナラ(15.27km)、ラ・アルデア〜モガン(17.83km)の3ステージをラス・パルマスのミッドデイサービスを挟んで2回ループする6SS/118.84kmの一日となる。
ラリー・イスラス・カナリアスの幕開けとなるヴァルセキージョ〜テルデ(26.32km)は、ヴァルセキージョの中心部からスタートし、標高400mから1780mの最高地点まで駆け上がる。スタート地点の天候は晴れて路面はほぼ完全にドライだが、標高が高い地点では濃い霧が発生して路面がわずかに湿っている。
オープニングステージからいきなり素晴らしい速さをみせたのはロヴァンペラだ。開幕3戦はいずれも新しいハンコック・タイヤのマッチングに苦しんでいることを認めていた彼だが、昨日のシェイクダウンでみせた圧巻の速さが、偶然ではなかったかのように、チームメイトのエヴァンスに6.5秒という大差をつけるベストタイムを奪ってラリーをリードした。
「タイムには正直少し驚いている。フィーリングはそんなにいい感じはしなかったからね。タイヤの空気圧が最適ではなかったので、次のステージはもっと改善が必要だ。ペースノートの方は少なくともこのステージでは良かった」とロヴァンペラはステージエンドで語った。
エヴァンスから2.6秒差の3番手にはオジエが続き、トヨタが早くも1-2-3態勢を築く。それでもオジエはロヴァンペラから9.1秒遅れという自身のペースに不満そうだ。「タイヤに苦労している、空気圧が高くて、うまく機能していないんだ。自分の出来としては思ったほど鋭さは出せなかったが、ベストを尽くすよ」
好調なスタートを切ったトヨタ勢に対して、ヒョンデ勢は原因不明のトラブルに見舞われ、とくにステージ終盤の上りのセクションで大幅にタイムを失ってしまった。オイット・タナック(ヒョンデi20 N Rally1)はロヴァンペラから17秒遅れの5番手タイム、ティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)は19.6秒遅れの8番手にとどまった。
「本当に難しかった。まさにその一言だ。タイヤは問題なかったし、それは小さな問題だった」とタナクは皮肉な笑みをみせた。ヌーヴィルはステージエンドに明らかに落胆しており、首を振りながら「難しいスタートだよ・・・」と、つぶやいただけで走り去る。地面にオイルのあとが残っており、なにかのトラブルが疑われる。
ヒョンデ最速となったのは4番手タイムのアドリアン・フールモー(ヒョンデi20 N Rally1)だが、それでもロヴァンペラから12.8秒遅れだ。彼は自身のタイムには満足していると語ったものの、これほどトヨタに引き離されるとは想像してなかったようだ。「自分のステージには満足している。バランスも問題ない。しかし、なぜ彼ら(トヨタ)はこんなに速いんだ!」
トヨタの勝田とパヤリもヌーヴィルを上回り、それぞれ6番手と7番手でスタートして行った。
SS2ヴァジェセコ〜アルテナラはグラン・カナリア島の伝統のステージの一つだ。緑豊かなヴァジェセコの内陸部からアルテナラの山岳地帯へと蛇行しながら登っていく。滑らかで流れるようなステージはワイドでほぼ完璧にスムースなアスファルトをもち、峠を過ぎたあとはアルテナラへの長く速い下り坂が続く。スタート地点では晴れていたが、低く垂れ込める雲は標高1500mに近い高所でところどころで小雨を降らせ、路面をわずかに湿らせる。ロヴァンペラがオジエに6.7秒差をつける連続ベストタイム。1kmあたり0.44秒も引き離した計算だ。やや遅れをとってエヴァンスを抜いてオジエは2位へと浮上したが、トップのロヴァンペラとの差は15.8秒へと広がっている。
選手権でここまでチームメイトのエヴァンスに57ポイントの遅れをとっているロヴァンペラは、まるで生まれ変わったかのような自身のペースを喜んでいる。「確実にもっとうまく走れたはずだ。ステージの序盤はあまり良い流れに乗れなかったが、そのあとはいいフィーリングだった。グラベルクルーたちはノートに関しては本当にいい仕事をしてくれている。おかげで僕たちはかなりいいフィーリングを得られている」
トヨタがトップ3を維持する一方、ヒョンデ勢はここでもペースが上がらず、フールモーはヒョンデ勢最速タイムも11.8秒遅れの4番手タイム。ヌーヴィルに至っては15.3秒もの遅れを喫してしまった。なんと1kmあたり1秒も遅れた計算だ。「正直言って、驚きはなかった。何が起こっているのか分からない」と、彼は完全に混乱したように首を振る。
高いグリップをもつグラン・カナリア島のターマックステージではタイヤの摩耗が大きいことが懸念されるため、この日の朝、ほとんどのドライバーがハード・コンパウンド5本をチョイスするなか、島の変わりやすい天候を警戒してソフトをオプションとして搭載したドライバーもいる。勝田はここでの雨を予想していたようにソフト・コンパウンドタイヤを左フロントタイヤに装着、パヤリはソフトとハードを2本ずつクロスに装着してステージに向かう。パヤリはロヴァンペラに12.4秒遅れをとったもの、ペースが上がらないタナクとヌーヴィル、さらにはチームメイトの勝田を抜いて5位へとポジションを上げてきた。
ロヴァンペラはSS3ラ・アルデア〜モガンでも3連続でのベストタイムを奪い、2位のオジエに対するリードを17.8秒へと広げて朝のループを終えることになった。それでも、完璧とも言えるスタートをみせたにもかかわらず、ロヴァンペラはステージエンドで不満そうな表情をみせる。「本当に良いループだったが、このステージはそれほど良くなかった。タイヤのフィーリングを良くするために、もっとプッシュすべきだった。スタート直後はタイヤがうまく機能していなかった。理由はわからないけどアンダーステアが多くて、うまくバランスを取ることができなかった。2回目の走行でタイヤがきちんと機能するかどうか確認する必要がある」
オジエはチームメイトに続いて2位につけているものの、新しいハンコックのハードコンパウンドに完全に適応できてないと感じていた。 「驚きが2つあった。1つはカッレが明らかにリードしていること、そしてもう1つヒョンデが明らかに遅れていることだ。その主な原因は、この新しいハードタイヤにあると考えている。このタイヤでのラリーは今回が初めてで、僕らもまだそれを完璧に理解していないし、最適なセットアップを作り上げるために取り組んでいるところだ」
2位のオジエの後方には3秒差の3位でエヴァンスが続き、トヨタが鉄壁の1-2-3をキープしている。フールモーがヒョンデ勢最上位の4位につけているものの、エヴァンスからはじわじわと引き離されていまや14秒遅れ、後方のパヤリが0.2秒差に迫っており、さらには勝田も5.1秒差の6位で続いている。
トヨタ勢でただひとり、シェイクダウンからアンダーステアへの不満をみせていた勝田はここまでは慎重なペースをみせていたが、少しずつ改善の手応えを感じている。「クルマに少し変更を加えて、ずっと良くなったよ。多くのタイムロスがあったのは残念だったけど、まだまだ先は長い。素晴らしいステージなので、とても楽しめているよ」
このステージではトヨタがステージタイムのトップ5を占め、ヒョンデ勢を完全に置き去りにしつつある。タナクとヌーヴィルは、マシンの調子が悪い理由がはっきりと分からないまま、あっという間にタイムシートの上位から脱落してしまった。
タナクは勝田から6秒遅れ、トップからはすでに42.9秒遅れの7位となっており苛立ちを隠さない。彼は、自分たちが抱えている問題はテストから持ち越されたもので、ヒュンダイは解決策を見つけられなかったと説明した。「どうやらトラブルのようだ。マシンのバランスが取れていないんだ。今はタイヤをかなり酷使しているが、グリップが欠けているが。同じようなことはテストでわかっていたが、残念ながらラリー本番前に原因を突き止めることができなかった。何が起こっているのかエンジニアたちが把握できていない。だから、僕らに理解できるものではない」
ヌーヴィルはタナクから2.5秒遅れ、トップから早くも45.4秒差の8位と低迷し、マシンをどう調整すればもっと速く走れるのか途方に暮れている。「もちろん最善を尽くしているし、何かがおかしいのは確かだが、理由は分からない。実際にはとても良い結果を期待していたのに、そうはならなかったよ」
ヌーヴィルはミットデイサービスでのセットアップで問題が解決しそうかと聞かれたが、いまは確証はないようだ。「今の時点で解決策はわからないし、それは誰にもわからないと思う。エンジニアと話しているが、はっきりとした技術的な問題があったわけではない。ただスピードがないんだ。午後はスピードをもっと上げていくための何かを見つけていくことに集中するだけだ。いまは冷静に自分の仕事をしていくしかない」
ラス・パルマスのミッドデイサービスでは全ドライバーが午後のループに向けてハードタイヤ5本をチョイス、青空が広がったSS4ヴァルセキージョ〜テルデ・ステージは、気温が23度まで上昇、ステージエンドでの路面温度は45度だと報告されている。
首位のロヴァンペラが、2位につけるオジエにここでも4.5秒差をつける4連続のベストタイム、二人の差は22.3秒へと広がった。「かなり満足している。サービスで小さな変更を加えたが、それらがいい感じだ。他のみんな同様、僕たちにもまだ改善の余地はあるが、かなり上手くいっていると思う」とロヴァンペラは説明した。
ヒョンデ勢の問題は解決には至らず、トヨタが2ステージ連続してステージタイムで1-2-3-4-5を占めた。選手権リーダーのエヴァンスはオジエからわずか5.4秒差の3位で続き、パヤリがフールモーを抜いて4位へポジションアップしてきた。さらに6位につける勝田もフールモーに3.1秒差に迫っており、トヨタが総合順位でも1-2-3-4-5態勢目前となっている。
タナクは7位をキープしているが、トップとは1分近く差がある。ヌーヴィルはタナクから2.9秒差の8位で続くが、このステージでもトップタイムから1kmあたり0.5秒あまりも遅れている。「多少の改善はできたかもしれないが、明らかに不十分だ」と彼は悔しさを滲ませている。
ロヴァンペラの進撃は止まらない。朝につづいてふたたび霧がでたSS5ヴァジェセコ〜アルテナラでもエヴァンスに2.4秒差をつけて5連続のベストタイム、さらにこの日の最終ステージとなるSS6ラ・アルデア〜モガンでもベストタイムを重ね、金曜日の6ステージすべてにおいてベストタイムを奪い、2位のオジエに26.8秒差をつけることになった。
「こんな風にターマック・ラリーを走るのは久しぶりだ。今のところ、かなり良いフィーリングで、流れるようなドライブができている。明日もどうすればいいかわかるといいね。このステージではいくつか小さなことを試したので、きっと上手くいくはずだ」とロヴァンペラは笑みをみせている。
オジエは、ステージエンド・レポーターに素晴らしい速さで2位で続いていることを称賛されたものの、その表情にはロヴァンペラを一度も捕らえることができなかったことへの悔しさがにじんでいた。「カッレのほうが僕たちよりも良かったので、素晴らしい一日だったとは言えない。今日の彼はすごかったね」
3位のエヴァンスはオジエとの差が9.6秒とやや開きはじめ、4位につけるパヤリが3番手タイムを奪って18.9秒差に迫っている。「一日中とてもうまくいった。攻めずに、自分のフィーリングを見つけることに集中した。こういうラリーでは、正確でクリーンでなければならない。そうしないとタイヤにダメージを与えすぎてしまうので、僕はただ管理しようと努めた」
勝田は、アンダーステアの問題からスピードになかなかコミットできない初日となったが、SS5でフールモーを抜いて5位へと浮上、トヨタが総合順位で1-2-3-4-5態勢を築いて金曜日を終えることになった。「速く走りつつも快適に感じるために、もう少し何かを見つけなければならない」
トヨタの後方にはヒョンデ勢が6-7-8位で続くが、いずれもリーダーのロヴァンペラからは1分以上遅れをとっている。SS6ではタイヤが苦しくなったフールモーが6位から8位へと後退、ヌーヴィルがタナクを0.8秒差で抜いて6位へとポジションを上げてきた。
ヌーヴィルは明らかに午後のループではペースが改善したように見えるが、それでも完全な解決にはほど遠い。「何と言ったらいいかわからない。今日から何を学んだか分からない。まだ2日あるので、ポジティブに考え続けなければならない。バランスが良くなく、なぜかわからないがグリップがないので、非常にイライラするよ」
9位にはグレゴワール・ミュンスター(フォード・プーマRally1)、10位にはジョシュ・マクアリーン(フォード・プーマRally1)が続いている。
土曜日は島北部を中心とした7SS/124.08kmの一日となる。金曜日もそうだったように島の北部は今後も不安定な天候が続くと見られており、タフな一日になることが予想されている。