WRC2024/09/29

ロヴァンペラが霧と雨のチリでライバルを圧倒

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 2024年世界ラリー選手権(WRC)第11戦ラリー・チリ・ビオビオはレグ2を終えて、雨と霧のなかで素晴らしい速さをみせたカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1ハイブリッド)がトップに浮上、チームメイトのエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1ハイブリッド)が15.1秒差の2位で続き、トヨタGAZOOレーシング・ワールドラリーチームが1-2態勢となっている。

 曇り空の朝となった土曜日は、コンセプシオンのサービスパークから南下、ビオビオ川を渡った山岳地帯が戦いの舞台となり、ペルン(15.65km)、ロタ(25.64km)、マリア・ラス・クルーセス(28.31km)の3ステージを走ったあと、ミッドデイサービスが行われ、午後も同じ3ステージのループを走る、6SS/139.20kmというラリー最大のヤマ場の一日となる。

 この日はスペシャルステージの路面キャラクターが前日と変わり、タイヤの摩耗がより大きな課題になると見られており、土曜日の朝のループに向けて、ほとんどのドライバーがハードタイヤを主体としたチョイスとなっている。

 SS7ペルン(15.65km)はワイドな道の高速セクションを上り、その後9km辺りからダウンヒルとなり、タイトなヘアピンを通過しながら下り、ビオビオ川を眼下に見下ろす息を飲むほどの絶景のなかでフィニッシュを迎える。

 首位で土曜日をスタートしたエヴァンスがベストタイム、オイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1ハイブリッド)に対するリードを3秒から7.1秒へと広げることとなった。「スタートはかなり滑りやすく、グリップレベルを判断するのは容易ではなかった」とエヴァンスは語っている。

 当初、金曜日はタナクがトップでフィニッシュしたが、キャンセルとなったSS1のエヴァンスのノーショナルタイムが救済されることでトップが入れ替わっている。もちろん、出走順が1台違いだとはいえ、路面はずっとクリーンになるため、エヴァンスは3秒以上のマージンを手にした計算となる。このタイム訂正に対して、ヒョンデは早朝からラリー・チリのスチュワードにプロテストを行ったものの、「公正かつ合理的」な方法で算出したものであるとしてこの訴えは却下されている。

 ロヴァンペラは初日はあまり手応えのあるフィーリングが得られなかったと不満をみせていたが、ここでは3番手タイム、2位のタナクに4.4秒差に迫っている。「今日はフィーリング的に少し良くなっていると思う。タイヤの摩耗を管理することが鍵だ」

 選手権をリードするティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1ハイブリッド)は路面の掃除から解放され、グレゴワール・ミュンスター(フォード・プーマRally1ハイブリッド)を抜いて5位へと浮上、4位につけるサミ・パヤリ(トヨタGRヤリスRally1ハイブリッド)に11.3秒差に迫っている。

 ドライバーズ選手権で3位につけるセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1ハイブリッド)は、当初、素晴らしい速さでラリーの主導権をにぎっていたが、金曜日のSS3でバンクに激しくヒットしてパンク、総合9位までポジションを落としている。この日の朝、唯一人だけハードタイヤよりソフトタイヤを多く搭載した彼は2番手というスタートポジションながら、このステージでは2番手タイムを奪い、25.7秒もの差があった8位のアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1ハイブリッド)との差を一気に17.5秒へと縮めてみせた。

「正しいかどうかはループの最後にしか分からない、今のポジションからすると、何かを試さなければならなかったんだ」とオジエはタイヤ選択の狙いについて説明する。

 フールモーだけでなく7位につけるエサペッカ・ラッピ(ヒョンデi20 N Rally1ハイブリッド)も序盤のマディなコーナーでフロントスポイラーを激しくヒット、バンパーごと脱落して遅れ始めているだけに、オジエとしては少なくとも5位につけるヌーヴィルの背後まで迫ってこの日を終えたいところだっただろう。

 だが、オジエの野心的なチャージは呆気ない幕引きを迎える。SS7ロタ・ステージの25 kmすぎ、中高速のブラインドコーナーが連続するセクションで、彼は右コーナーのイン側のライン上に転がり出ていた岩に乗り上げてステアリングアームを破損をしたのか、次の左コーナーを曲がることができずに崖にヒットしてマシンを止めることになった。

 これでオジエはノーポイントで土曜日を終えることになり、9度目のチャンピオンへのチャレンジはいちだんと厳しい状況へ追い込まれることになった。

 ここではロヴァンペラがベストタイム、タナクを抜いて2位へと浮上するとともに首位のエヴァンスまでわずか1.8秒差へと迫り、やっといいフィーリングを得られたことに満足そうに笑みをみせた。「いい走りだった。ステージはとてもいい感じで、路面はタイヤにとてもラフで少し注意が必要だ。次のステージはまだまだいちばんひどいから、ペースをしっかり管理し続けて、そこからどこまで行けるか様子を見る必要がある」

 タナクは序盤のワイドな右コーナーでリヤのグリップを失ってハーフスピン、数秒を失っており、このステージだけでロヴァンペラに10.7秒差をつけられた。それでもロヴァンペラとの差はまだ1.8秒、首位のエヴァンスとの差も8.1秒にしかすぎない。

 SS9マリア・ラス・クルーセスは28.31kmというラリー最長ステージであり、昨年多くのドライバーがタイヤのパンクやデラミネーションに苦しんだステージだ。アラウコエリアの山岳地帯を駆け上がるステージは小雨と濃霧でさらにチャレンジングなものとなった。

 エヴァンスは昨年、このステージの終盤でタイヤ2本が擦り切れた状態で失速、優勝争いから脱落していたが、今年は優勝に大きく近づくステージとなったと後でふり返ることになるかもしれない。彼は1.8秒差の2位に迫っていたロヴァンペラにここだけで9.5秒の差をつけるベストタイムを奪い、チームメイトの勢いを封じるとともにリードを11.3秒へと広げている。前日のタイム調整で順位を入れ替えたタナクとの差も17.4秒へと大きく広がり、文句なしのリードを築いた。「ちょっと驚いているんだけど、スコット(・マーティン)には『どんなものか分からないよ』と話していたんだ。あのようなコンディションでは、自分がどのような走りをしたのか見当もつかなかったからね」とエヴァンスは満足そうに微笑んだ。

 ロヴァンペラは、エヴァンス同様にここではソフトとハードを2本ずつ組み合わせたが、単純にエヴァンスのほうがいい仕事をしたと認めた。「タイヤマネージメントで大きな差が出てしまった。もう少しプッシュしようとしたが、終盤でタイムを失ってしまった」

 タナクはステージエンドで「ペースが上がらなかったのは、なぜなのかわからない」と語ったが、タイヤ選択の違いもあるだろう。昨年と同様にこのロングステージに向けて彼はハードを4本チョイスしたが、ショルダー部はまだ十分にブロックを残しており、タイヤマネージメントをするどころか雨に濡れた終盤の路面では思ったほどグリップが得られなかったのだろう。

 エヴァンスに続く2番手タイムを奪ったヌーヴィルがパヤリを抜いて4位へと浮上、チームメイトのタナクの31.4秒後方で朝のループを終えることになった。「僕らにとってはタフな朝だった。いくつかのシリアスな問題がずっとあったからね。でも、幸運なことにここにいるよ。サービスにもどってマシンをみてもらう。それにスタックしてしまったワイパーも直してもらうよ。(雨のなか)なにも見ることができなかったからね」

 パヤリはヌーヴィルにポジションを奪われたとはいえ、Rally1カーでの2戦目のためポジションを争う気はさらさらない。「このコンディションではトリッキーだし、途中から雨が降り始めたからグリップはかなり低かった。愚かなことはしたくないので、クリーンでなければならない」

 パヤリの21.1秒後方の6位には、ミュンスターが続くが、昨日まで印象的なペースを見せたにもかかわらず、一夜明けてリヤのグリップに悩まされていると認めている。0.4秒差の7 位にはチームメイトのフールモーが迫ってきた。

 午後のループの最初のステージとなるSS10ペルンは、朝に引き続いて霧雨が残るなかでの走行となり、エヴァンスがベストタイム、ロヴァンペラとの差を13.6秒へと拡大することになった。

 だが、天候が改善するかに見えたが、次のSS11ロタ・ステージではさらに激しい濃霧が発生、終盤には雨でかなり湿ってマディとなったセクションもでてきた。

 トップグループが走るころにはますます霧は深くなり、ボンネットのすぐ先も見えないほどコンディションが悪化するなか、ロヴァンペラはエヴァンスに19.1秒もの大差をつける2番手タイム、リーダーボードをひっくり返して5.5秒差の首位に立つことになった。

「本当にひどい霧だ。僕がラリーカーでこんなコンディションの中をドライブしたことはこれまで無かったと思う」とロヴァンペラは信じられないといった表情を浮かべることになった。

 エヴァンスはこのようなコンディションのなかでラリーリーダーの座を奪われたことにあっけにとられた様子だ。「ボンネットの向こうが見えなかったから、あのコンディションでどうやってラリーをするのかわからないよ。クレイジーだった」

 このステージではロヴァンペラとエヴァンスがソフト2本+ハード2本で走るなか、3位につけるタナクはハードを4本装着しており、ここだけでロヴァンペラに13.7秒も引き離され、首位からの遅れはすでに20.8秒へと拡大、コンディションが悪化する前に走ってベストタイムを奪ったヌーヴィルが14.2秒の後方へと迫ることになった。

 マリア・ラス・クルーセスのステージは朝の走行の時点で霧は晴れるかとも見られていたが、ドライバーたちのハードタイヤを重視したタイヤ戦術をあざ笑うかのように予想外の雨とさらなる霧に覆われ、完全にウェットコンディションのステージとなった。

 ロヴァンペラはここでもエヴァンスに9.6秒差をつけ、リードを15.1秒差に拡大して土曜日をトップで終えることになった。

 ロヴァンペラは「今年の中で最も難しいステージだった。ただ道から外れないようにドライブするのみだった」とふり返ったが、エヴァンスより明らかにこの突然のコンディションの変化にも柔軟に対応していた。エヴァンスは、「濃霧でのコミットメントが足りなかった。トリッキーなコンディションになったことで、自分たちの力を最大限に発揮できなかった」と、ただ悔しさをにじませていた。

 一方で、ハード6本を選んで午後のループに向かったタナクの戦略は完全に失敗となり、昼の時点で6.1秒だったロヴァンペラとの差は3ステージで33.6秒へと拡大、後方につけるヌーヴィルも10.1秒後方に迫ってきた。「彼らは『今日の午後は雨が降らない』と言っていたが、完全に間違った情報だった。人生ではすべてが難しいが、それでも頑張らなくてはいけない」とタナクは天を仰いだ。

 ヌーヴィルはチームメイトとは異なりトヨタ勢と同じく2本のソフトタイヤをオプションとして搭載していたことにも救われただろう。「僕たちはやるべきことを正確にやり、良いリズムを保った。このステージではもう少しできたかもしれないが、今日はできることを最大限にやったよ」

 雨となった午後のループでロヴァンペラとともに速さを見せたのは6位で午後のループを迎えたフールモーだ。彼は霧と雨なかで慎重な走りに徹していたパヤリをSS11で抜き去るとともに難しいコンディションのSS12ではベストタイムを叩きだし、5位でこの日を終えることになった。金曜日のロードセクションでのオルタネーター・ベルト交換の遅れによる1分のペナルティさえなければ、トヨタの2台に続いて表彰台圏内の3位で土曜日を終えていたはずだった。

 パヤリは一度はミュンスターにも抜かれて7位まで落ちたが、最終ステージで抜き返して6位でフィニッシュしている。

 ラッピはすでに朝のトラブルでリーダーボードの8位に落ちていたが、SS11で計算ミスのためタイムコントロールへの早着によって2分のペナルティが科せられたあとは上位を目指すことより、明日のスーパーサンデーに向けてフレッシュタイヤを温存するためのタイヤ戦術へと目的を切り換えていた。

 明日の最終日も、にわか雨が降るとの予報もある。4SS/54.80kmの短い一日となるが、スーパーサンデーやパワーステージのポイントが掛かっているだけに最後までペースを緩めることはできない。オープニングステージのSS13ララケッテは現地時間8時23分、日本時間20時23分のスタートが予定されている。