WRC2024/03/30

ロヴァンペラが56秒リード、王者トヨタが1-2-3

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 2024年世界ラリー選手権(WRC)第3戦サファリ・ラリー・ケニアは3月29日の金曜日を終え、カッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)が56.9秒という大きなアドバンテージを築いてラリーをリード、チームメイトのエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)が2位、勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)が3位で続いており、トヨタGAZOOレーシングWRTが3年連続の表彰台独占に向けて1-2-3態勢を築いている。

 71回目を迎えるサファリ・ラリーは木曜日にナイロビ近郊で行われたスーパーSSカサラニで開幕、金曜日からナイバシャ湖周辺のサバンナに舞台を移して本格的な競技がスタートする。ロルディア(19.17km)、ジオサーマル(13.12km)、この日最長のケドン(31.50km)の3ステージをWSTIナイバシャのサービスを挟んで2回ループする6SS/127.58kmの1日となる。

 サファリは今季、雨季の始まるシーズンに開催日程を移したことで、月曜日から水曜日まで行われたレッキも時おり雨に見舞われており、木曜日のオープニングステージも雨あがりのコースで行われている。

 金曜日のオープニングSSとなるSS2ナイバシャがスタートする時点では雨雲はなく、青空が広がっているが、ケニアの天候は信じられないほどの速さで急変するため注意が必要だ。

 ナイバシャ湖の北岸に位置するオープニングステージのロルディアは、大きなバンプが続く森のなかのセクションからスタート、多くのルースストーンがある狭いセクションを駆け抜けて2400mの高さまで駆け上がったあとのダウンヒルをもつ。

 ここで素晴らしい速さをみせたのは7番手という後方からスタートしたワールドチャンピオンのロヴァンペラだ。彼は左リヤタイヤをリムオフしながらベストタイム、ラリーをリードすることになった。それでも彼も他のドライバー同様アンダーステアに苦労しており、マシンのセットアップを改善する必要があると厳しい表情を浮かべた。「あまり悪い言葉は言いたくないけど、最悪だった。クルマのアンダーステアがひどすぎて、このステージでどうやってタイムを出せたのか分からないくらいだ。もっと改善していく必要があるよ」

 1.4秒差の2位にオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)が付けるものの彼はステージエンドで前輪駆動の状態だったと告白、不安なスタートとなっている。「全般的にグリップが低く、どうにも苦戦している。前輪駆動だけになってしまったので、クルマは完全に機能していない・・・」

 0.1秒差の2番手タイムを奪って3位に浮上したのはエサペッカ・ラッピ(ヒョンデi20 N Rally1)だ。前戦ラリー・スウェーデンで6年半ぶりの勝利を飾った彼は、ワークス勢では唯一人だけスペア1本のみの軽量マシンで朝のループに臨んでおり、さらなる野心をみせる。「アンダーステアがひどかった。クルマがもっといい感じになればタイムももっと上がるだろう」

 前夜のスーパーSSを制してオーバーナイトリーダーとして金曜日をスタートした選手権リーダーのティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)はルースグラベルに苦しみ4位へと後退、それでもトップから1.8秒遅れの僅差だ。

 勝田はトップから10秒遅れの5位という慎重なスタート、エヴァンスは左リヤがスローパンクしており、勝田から2.7秒遅れの6位で続いている。

 SS3ジオサーマルは、あちこちの地熱噴出孔から蒸気のプルームが吹き出すなかを駆け抜けるドラマチックな景観のステージだ。ここで最初のドラマに見舞われたのは、一番手でコースに臨んでいたヌーヴィルだ。彼は序盤のコーナーでワイドになってベッドロックにヒット、右リヤタイヤをパンクしてしまう。彼は残り10km近くを耐えながら走ったが、ステージ終盤にはタイヤがブローし始めリヤフェンダーを大きく破損、19秒あまり遅れてしまい、勝田に抜かれて5位にポジションを落とすことになった。

 ヌーヴィルはステージエンドで2本パンクしているような気がすると告白しており、それが事実ならこれで彼はスペアを失ってしまったことになるが、幸いにもパンクは1本のみ。それでもフェンダーのほかボディのパネルにも大きなダメージがあり、彼とウィダーゲはロードセクションでボディに空いた穴を埋める応急修理に追われていた。

 ロヴァンペラが連続ベストタイム、タナクを抜いて2位に浮上したラッピに3秒差をつけている。一方、前ステージで前輪駆動で走っていると明かしたタナクは3位にポジションを落としたが、首位からわずか5.7秒で続いており、トラブルの詳細については語ろうとはしなかったが、幸いにも深刻なものではないようだ。

 ルースなステージに多くのドライバーがスタートから苦しみ、ロヴァンペラもまた高速コーナーでのセットアップが不十分だと語ってきたが、少しずつライバルたちよりさらにペースが上がり始める。彼は続くSS4ケドンで朝から3連続のベストタイム、2番手タイムのタナクに11秒差、2位につけるラッピを12秒あまりも引き離す圧巻のスピードで、リードを15.5秒に拡大して朝のループを終えることになった。「このステージは毎年素晴らしくて、今回は違うペースノートでリバースで走っている。新しいノートでもコミットしたいと思ったしとてもいい感じだった。かなり大きなプッシュをすることができて、タイムにも大満足だ」

 ラッピはここでは引き離されたが、ミスのない走りで2位をキープ、ライバルよりもスペアタイヤを1本少なくするというリスクを冒したが、そのペースによってそのギャンブルが正しかったことを証明してみせた。

 オープニングSSのあとで駆動系について不安があることを認めたタナクは、チームメイトから1.3秒遅れの3位で朝のループを終えており、深刻なトラブルに見舞われる前にサービスに戻ったことを喜んだ。「とてもクリーンな走りを心掛けたけど、場所によっては非常に危険だった。それに、少なくともマシンは問題なく走っている、あのあとも特にドラマはなかった」
 
 タナクから24.5秒遅れの4位で続くのは「ここまではすべて順調だ、トラブルを回避するようにしてきた」という勝田だ。「間違いなく、ここではちょっと慎重になりすぎて相当なタイムを失うことになった。しかし、トラブルがないようにコースをしっかりキープしていくことが必要だ」と、彼はここまではプランどおりのラリーができていることを喜んだ。

 前ステージでマシンのボディパネルが裂けて穴が開いたヌーヴィルは、ゴーグルとフェイスマスクを装着し、コックピットに進入するダストに備えたが、応急修理がうまくいったため、ほとんどそれらは不要なほどだったと彼は喜んだ。「大丈夫だった、思っていたよりも良かった。幸いにも(ダスト)マスクとフロンガラスをクリーンに保つことができて、十分な視界を確保することができた。それに尽きるよ」

 それでもヌーヴィルはここでハイブリッドブーストを失ったこともあり、4.9秒差で5位をエヴァンスに譲ることになった。

 エヴァンスはヌーヴィルを抜くとともに4位の勝田にも1.8秒差に迫ることになったが、もっとペースを上げることができたと朝のループに不満をみせた。「もっといい走りができるはずだから、朝全体としては少しがっかりしている。午後は改善できるかどうか見てみよう」

 サファリはトヨタが席巻した昨年とは異なり、ここまではヒョンデの3台がトヨタと対等なバトルを演じているようにも見えたが、午後になるとこの流れが変わり始める。

 ロルディアの2回目の走行は、大きな石が転がり荒れた路面コンディションとなってドライバーたちを待ち受けており、それまで2位につけていたラッピが9.8km地点のバンピーなセクションでマシンを止めることになった。ラッピのオンボード映像ではとくに路面に石など見当たらないセクションで突然、何かが壊れた大きな異音が発生した様子を映し出していたが、ヒョンデはトランスミッションのトラブルだったと発表している。

 これで2位にはタナクが浮上、勝田も41.6秒差の3位へポジションを上げてきた。だが、続くSS6ジオサーマルで、今度はタナクが3.8km地点の左コーナーのインに深く進入しすぎ、イン側のバンプにあった石に乗ったかのように跳ね上げられてそのままコーナーアウト側のバンクに正面から激突してしまう。彼はコースに戻ろうと試みたが、ステアリングアームを壊しており道路の反対側にマシンを寄せてその場でリタイアとなった。

 ヒョンデは木曜日を1-2で終え、金曜日の朝のループでも2-3位をキープしていたが、ラッピに続いてここでタナクがマシンを止めたことで、勝田が2位へ、エヴァンスが3位へと浮上、トヨタが1-2-3を形成することになった。

 首位のロヴァンペラはSS5に続いてSS6でも連続ベストタイムを叩き出し、後続のライバル2人が相次いで消えたことでリードは46.4秒へと拡大している。それでも彼はステージエンドで、タナクのリタイアを聞いたことで冷静な気分ではいられなかったと認めた。「トリッキーだったよ。オイットがリタイアとなったと聞いたので、僕はクレイジーなことはしたくなかった。ドライビングはあまり良いフィーリングではなかったが、クリーンな走りだった」

 勝田はエヴァンスを1.8秒リードして、4位を争って午後のループをスタートしたが、いまやそのバトルは2位争いとなっている。二人はSS5では同タイムでの2番手タイムで並び、勝田はSS6ジオサーマルではエヴァンスに3秒差をつけ、アドバンテージを4.8秒に広げてみせた。

 勝田はリスクをあまり冒さない作戦はすでに成果を上げていることを実感しているが、水温の問題などが起きており、けっしてここまで不安のない戦いを続けているわけではない。「誰に何か起きてもおかしくない状況だ。僕はスマートでいる必要があるが、現時点ではコックピットで非常に多くのことが起こっているのでドライブがとても難しい」

 このステージが始まるころ、この日の最終ステージとなるSS7ケドンでは小雨が降り始めたとの情報がもたらされた。雨の勢いが強まれば、走行順の後方になるほど不利な状況になる。とくに7番手という後方のロヴァンペラは先頭スタートのヌーヴィルより20分近く遅れてコースに臨むため、ここで大きくタイムを失う恐れもあった。

 だが、ロヴァンペラは、雨に祟られることなくここでも走行順のアドバンテージを活かし、金曜日に行われた6つのステージをすべて制し、56.9秒のアドバンテージを築いてフィニッシュすることになった。「喜んでもいい結果だろう。このステージはコンディションがかなりラフで、どのマシンもところどころで少し深く沈んだと思う。僕はリスクを冒さず、マシンが壊れないようにすべての石を回避した。本当はもっと速く走りたいが、現時点ではこれで問題ない」

 勝田はジャンクションをミスしてチームメイトのエヴァンスに抜かれて3位に後退したが、その差はわずか3.9秒に過ぎない。午後のループを6位でスタートしたエヴァンスはミッドデイサービスでセットアップを変更して自信を取り戻し2位へとポジションを上げたものの、首位のロヴァンペラからの遅れは取り返しようがないことにがっかりしている。「全体的にかなりがっかりしている。前のポジションで走るのは常に難しいが、もう少し良くてもよかったはずだと感じている」

 勝田はここでエヴァンスより8.7秒遅く、総合3位に後退したが、彼はまだサファリには長い戦いが待っていると考えているようだ。「ソフトなセクションでタイムを失ってしまい、ジャンクションをひとつミスして、そこでもタイムを失った。でも、無事にこの場所にいられてとてもうれしい。明日はさらにトリッキーで難しい一日になるだろう」

 ヌーヴィルは朝のパンクで戦列を離れてしまっているが、チームメイトたちのトラブルで4位へとポジションを上げてきた。「残念ながらまたもヒョンデにとって厳しい一日となったね」と、サービスパークへと戻ってきたヌーヴィルは語った。いまやヒョンデのたった一人の生き残りとなった彼は、SS6ではバンプを越えたときに姿勢を乱してコースオフ寸前になりながらも生き延びており、SS7での2番手タイムで勝田の6.5秒後方へと迫ってきた。「このステージの走りには満足しているが、かなり路面のダストが多くてすべてのジャンクションでタイムを失っている。出来る限りプッシュしようとしたが、難しい一日だった」

 アドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)はヌーヴィルから39.3秒遅れの5位につけている。彼はミッドデイサービスでセッティングを調整し、多少の改善は見られたものの、バンピーなセクションでのボトムアウトに悩まされ続け、高速セクションでのトップスピードに影響があったと認めている。「朝は大きくタイムを失ったので、今はかなり近づいてきていることがうれしい。こういうステージでは僕にできることは何もない。(サンプは)常に地面に触れていて、直線でタイムが落ちてしまう。マシンは良くなったが、フラストレーションも溜まっていることはたしかだ」

 グレゴワール・ミュンスター(フォード・プーマRally1)はチームメイトから2分近く遅れた6位でつづいている。朝のループではシマウマと接触しそうになる試練もあったが、ジオサーマルでの2回目の走行では4番手タイムを記録してみせている。

 明日の土曜日はエレメンテイタ湖の西部が舞台となり、マサイ戦士に山の麓を走るラリー最長の36.08kmを誇るスリーピング・ウォリアーの2回の走行を含む、6SS/160.96kmの1日となる。オープニングSSは現地時間8時01分、日本時間で14時1分のスタートが予定されている。天気予報は晴れの朝になるものの、午後になって雨が降る可能性が高くなっていると報じている。