WRC2022/05/21

波乱ポルトガルをエヴァンスがリード、勝田が4位

(c)Toyota

(c)M-Sport

(c)Hyundai

 2022年世界ラリー選手権(WRC)第4戦のラリー・デ・ポルトガルは、3人のワールドチャンピオンがそろってトラブルに見舞われた波乱の金曜日を終えてエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)がリード、選手権リーダーのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)が13.6秒差の2位で続き、トヨタGAZOOレーシングWRTが1-2体制を築いている。

 ラリー・デ・ポルトガルは木曜日の夕方に古都コインブラの市街地で行われたスーパーSSで開幕、ティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)がベストタイム、0.6秒差でオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)が続き、ヒョンデ勢がトップ2を占めてスタートしたが、上位5台が2秒差にひしめく混戦状態だ。

 金曜日の舞台となるのは、かつて幾多のドラマを生んだ壮大な景色が広がるアルガニル丘陵のステージ群だ。ロウザ(12.03 km)、ゴイス(19.33km)、アルガニル(18.72 km)というおなじみの3ステージを、アルガニルのタイヤフィッティングゾーンを挟んで2回ループ、モルタグア(18.15km)を走ったあと、この日の締めくくりとしてロウサダ・ラリークロスサーキットでのスーパーSSロウサダ(3.36km)を走ってサービスパークへ戻る、8SS/121.67kmの一日となる。しかも、デイサービスは設定されず、アルガニルでのタイヤ交換のみで走り切らなければならないため、トラブルやマシンダメージを避けて走りきる戦略が必要となる。
 
 完全なドライコンディションとなったポルトガルの金曜日、オープニングステージのSS2ロウザでは選手権リーダーとして1番手のポジションから初めてグラベルコースのスイーパーの役目を負うことになったロヴァンペラはさっそく10秒遅れで10位まで後退するなか、9番手という後方からスタートしたエヴァンスがライバルたちに6.1秒差をつける圧倒的な速さをみせて、首位に躍り出た。Mスポーツ・フォードのガス・グリーンスミス(フォード・プーマRally1)も2番手タイムで続き、ヒョンデ勢を抜いて2位へと浮上した。

 2番手のポジションでスタートしたヌーヴィルは、ロヴァンペラが巻き上げたダストに視界を失い、風が吹かない森のなかのいくつかのコーナーでスローダウン、タナクにもポジションを譲って4位へと後退した。セバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)は8番手という好ポジションにつけていたにもかかわらず、チームメイトのエヴァンスのペースに及ばず5位でオープニングステージを終えることになった。

 SS3ゴイスでもエヴァンスの速さは変わらない。彼は連続ベストタイムを奪って首位をキープ、2番手タイムのタナクが5秒差の2位へ、オジエも8.2秒差の3位へと浮上してきた。また、勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)もロヴァンペラと並ぶ3番手タイムでチームメイトを0.1秒差で抑えてしっかり5位で続くが、Mスポーツ・フォード勢はそろってコクピットにダストが進入する不運なトラブルで苦しめられる。

 2位につけていたグリーンスミスは、このステージでは最も遅いRally1カーとなってしまい、10位まで後退してしまった。彼は、木曜日のシェイクダウンでも同じ問題が発生したことを示唆し、マシンの問題は解決されないままだと訴えたが、ノーサービスの一日はまだ始まったばかりだ。

 ブリーンもまた室内のダストに苛立ちながらも、エヴァンスのタイムから0.3秒差と、ほとんどタイムをロスしないで踏ん張り、順位を落とすどころか4位へとポジションをアップしている。

 セバスチャン・ローブ(フォード・プーマRally1)はダカール・ラリーのステージを走り終えたかのような埃だらけの顔でロヴァンペラから0.4秒遅れの7位で続いているが、2位のタナクから7位の彼まではわずか5秒の差にすぎない。

 続くSS4アルガニルで首位争いは激しく動きをみせる。タイヤを激しく摩耗させてペースを落としたエヴァンスが10.6秒遅れ、7位につけていたローブがベストタイムを奪って0.5秒差でトップに立った。

「懸命にトライしてとてもいいステージが走れたと思う。今の自分にできる中でもいい走りだった」と語るローブに対して、エヴァンスは「正直なところ、完璧ではなかった。グリップがほとんどないから、ペースが足りなかったりするんだ」とアルガニルの走りが満足できるものではなかったと語っている。ほとんどのドライバーがダスティな朝のループにむけてソフトコンパウンドを主体としてきたタイヤ戦略を採用したが、気温は30度をすでに越えており、タイヤはそろってすりきれて限界寸前だ。

 ローブと同様に前ステージでペースを抑え、アルガニルのためにタイヤを温存したヌーヴィルも2番手タイムで続き、9位から一気にエヴァンスの2.8秒後方の3位へと順位を上げることに成功した。タナクはマシンバランスに不満を持ちながらも5.7秒差の4位。ロヴァンペラが一番手のポジションに苦しみながらもここでは3番手タイム、タナクと同タイムで並び、信じられないことに首位争いさえ可能であるかのような遅れにとどまっている。

 スタートポジションに恵まれながらもペースが上がらなかったオジエも、アルガニルではやっと4番手タイム、この日の最も良い走りでトップから6.7秒差の6位につけているが、彼はまだ自分のパフォーマンスに満足していないようだ。「正直言って、プッシュはしているんだ。でも、どうすれば速く走れるのか、今のところわからないから、もっと分析する必要がある」

 金曜日はミッドデイサービスは設けられず、アルガニルでのタイヤフィッティングゾーンにおけるタイヤ交換と簡易的な調整だけでドライバーたちは午後のループへと向かう。その最初のステージ、SS5ロウザでまったく予想もできなかったアクシデントが発生する。なんと、朝のループで首位に立ったローブが、スタート直後のアスファルトのセクションの左コーナーで大きくスライド、右リヤをコンクリートバリアに激しくヒット、タイヤは激しく歪んでボディから外れかかっている状態で、チャンピオンは静かにマシンを止めてゲームオーバーとなった。

 これでエヴァンスは失ったリードを取り戻したが、ヌーヴィルがわずか2.1秒差の2位、ベストタイムを奪ったオジエが4.8秒差の3位へと迫ってきた。

 だが、オジエの快進撃は続かない。SS6ゴイスは、無数の石が散らばり、大きなわだちが刻まれたところもあるなど、コースはひどく荒れている。駆動系の問題から前ステージで5位に順位を落としたタナクが、2.6km地点でパンクして1分39秒をロスしてしまう。さらにオジエも4.2km地点でパンク、同じく交換作業のために2分を失ってしまい、そろって首位争いから大きく後退することになった。しかも、オジエはスペアを1本しか搭載していない。

 オジエは続くSS7アルガニルでふたたびパンク、スペアを失った彼はスロー走行を続けることをやめて後続のエヴァンスにクリーンな視界をもたらすために長時間ストップしたあと、コースを外れてマシンを止めている。また、タナクも今度は左リヤをパンク、どうにか走りきったが、ここでも1分35秒を失ってしまい、10位までポジションを落としている。

 3人のワールドチャンピオンにトラブルが相次ぐなか、エヴァンスはSS6でベストタイム、2位のヌーヴィルとの差を2.1秒から5.8秒へと広げ、混乱のなかロヴァンペラが18.7秒差の3位へと浮上してきた。彼は続くSS7ではなんとこの週末初めてのベストタイム、2位のヌーヴィルに7.1秒差まで迫ってきた。

 ヌーヴィルはここでは次のステージでの逆襲に備えてリヤのトランクには新品のソフトタイヤ2本を温存、ここではあえてダメージの大きいハードで耐える走りだったと明かしたが、彼の戦略はまさかのドラマで無に帰してしまう。SS8モルタグアでは左フロントのドライブシャフトを破損してしまい、1分28秒をロス、7位へと後退してしまう。彼は「ロードセクションで走行中にホイールをロストして修理したが、走っているうちにドライブシャフトが破損してしまったんだ」と、スマホで撮影した曲がったホイールの写真を示しながらハンドルを叩いて悔しがった。

 SS8ではロヴァンペラが連続してベストタイム、エヴァンスから10.7秒差の2位へと浮上したが、金曜日の最終ステージとしてロウサダ・ラリークロスサーキットで行われたスーパーSSロウサダではエヴァンスがベストタイム、ロヴァンペラとの差を13.6秒へと広げ、トヨタが1-2体制で初日を終えることになった。

 エヴァンスはサバイバルとなった午後のループはやや慎重な姿勢だったかもしれないとしながらも、厳しいコンディションのなかでここにいることを満足げにふりかえった。「極限のコンディションで、誰もが自分の道を切り開こうとしていた。時にはくじ引きのようなこともあった。もっと速く走れたはずだと言うことはできるだろうが、それでもここにいるのだろうか。それはわからない。いつも言うのは難しいよ」

 いっぽう、コースオープナーという初の大役にもかかわらず、2位で続くことになったロヴァンペラは、「予想とは違ったけど、今日は本当にいい仕事ができた。チームはこのコンディションに強いマシンを用意してくれたし、それも重要なことだ。強くて速いというのはいいことだよ」と満足そうに一日をふりかえっている。

 ダニエル・ソルド(ヒョンデi20 N Rally1)はRally1カー最後となる12番手ポジションでスタートしたが、理想的な条件を生かせず朝のループは9位にとどまっていた。それでも、上位勢にトラブルが続出した2回目のループではベテランらしくじわじわとポジションを上げて44.4秒差の3位で金曜日を終えている。

 ソルドから5.2秒差の4位につけるのは勝田だ。彼はSS6でのスピンのあとダストのなかでの切り返しに手間取って28秒を失ったが、そのあとはSS7、8で連続して3番手タイム、最後のSS9でも2番手タイムで駆け抜け、SS6でのミスがなければ初日を3位で終えていただろう。「とてもタフな一日でした。でも、とにかくここにいる。明日はまだ長いステージがあります。楽しみながら頑張り、経験を積むことが僕らの計画です」と勝田は語っている。

 勝田から11.1秒遅れの5位にはMスポーツ・フォード勢最速のグリーンスミスが続いている。速さをみせながらもSS7のパンクに続いてSS9でもパンクに見舞われてしまっている。

 ピエール-ルイ・ルーベ(フォード・プーマRally1)はSS6では2番手タイムを奪い、総合順位も4位へと上げることになったが、SS8でコースオフ、ダストのなかでコースに戻るのに手間取ってしまい、6位でレグ1を終えている。

 7位にはドライブシャフトを壊してトップ争いから脱落してしまったヌーヴィル。朝のループでダストに苦しんだブリーンは、午後のループで追い上げを見せるかにも見えたが、荒れたコースのなかでトラブルが続出したSS6でパンク、SS8のオフでマシンにダメージを負って8位へとポジションを落としている。

 明日の土曜日は、マトジニョス東部に位置するラリー最長にして最も難しいステージと称される37.24kmのアマランテ・ステージを含む7SS/156.80kmという長い一日となる。オープニングSSのヴィエイラ・ド・ミーニョは現地時間7時38分(日本時間15時38分)のスタートが予定されている。


カベイラ山脈のステージが舞台となり、ヴィエイラ・ド・ミーニョ(17.48km)、美しいカベセイラス・デ・バスト(22.03km)、ラリー最長にして最も難しいステージと称されるアマランテ(37.24km)の3ステージをエクスポノールのサービスを挟んで2回ループし、この日の締めくくりとなるポルトのストリートステージであるスーパーSSポルト - フォス(3.30km)を走る、7SS/156.80kmという長い一日となる。