WRC2022/02/26

混戦スウェーデン、ヌーヴィルが初日をリード

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 2022年世界ラリー選手権第2戦ラリー・スウェーデンが開幕、金曜日のレグ1は5人のラリーリーダーが生まれる大接戦となったが、ヒョンデ・モータースポーツのティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)がトップに立っている。2位には一番手スタートというハンデを負いながらもトヨタGAZOOレーシングWRTのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)が4.3秒差で続いている。

 ここ数年雪不足に悩んできたスウェーデンはこれまで50年の長きにわたってイベントのホームだったヴェルムランド地方を離れ、600kmを北上したヴェステルボッテン地方のウーメオに移動、今年から新たな舞台で行われる。金曜日はクロークシェー(14.98km)からスタート、この週末もっとも北に位置する最長ステージとなるカームシェン(27.81km)、セーヴァル(17.28km)をウーメオでのサービスを挟んで2回ループ、サービスパークに近いレッドバーン・アリーナのスタジアムにフィニッシュするウーメオ・スプリント(5.53km)で締めくくられる7SS/125.67kmの一日となる。

 ウーメオは数日間にわたって暖かい日が続いたが、ラリースタートの初日は朝8時の時点でもマイナス8度という厳しい寒さの朝を迎えることになった。木曜日には雪が雨へと変わったことから、雪解けのぬかるんだコンディションでのスタートも懸念されたが、夜半にはマイナス15度まで一気に冷え込んだことで、オープニングステージのSS1クロークシェーのスノーステージは表面が固く凍結してドライバーたちを待ち受けた。

 一番手のポジションでスタートしたロヴァンペラは序盤のコーナーでスノーバンクにヒットし、右のリヤバンパーを一部失ってしまったが、そのダメージより自分のタイムが後方のドライバーたちからどれだけ遅れているのかを気になっているようだった。「自分のベストを尽くした。思っていたよりも難しかった。すごくトリッキーだった。ラインは雪の真下にあって、僕たちが開いていかなければならない。後ろの人たちに比べてかなりタイムを失ったと思う」

 もし柔らかな新雪が積もっていればコースオープナーとしてステージを迎えたロヴァンペラにとっては最悪のステージとなっただろうが、いまのところは一番手というハンデはそれほど大きくなかったようだ。なかなか破られないままだった彼のタイムを0.4秒差で破って、このステージをベストタイムでスタートしたのは、7番手という後方からスタートしたオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)だ。

 タナクは「かなり大変な仕事だったよ。道路は壊れて、ルースな雪が多くなっているからね」と苦戦したと印象を語ったが、ステージの多くがクリーンなラインになっていることに助けられたようだ。

 ロヴァンペラから0.6秒差、トップから1秒遅れの3位につけたのは、ワークス勢の最後尾からスタートしたオリヴァー・ソルベルグ(ヒョンデi20 N Rally1)だ。初めてワークスチームから母国ラウンドに出場した彼は、好スタートを切ったことに満足そうに「いい走りはできなかったし、シフトの問題が多かったが、まあそれでもまずまずと思う。まだまだ先は長いが、全開のラリーになることは間違いなさそうだ」と語っている。

 4番手にはヌーヴィル、5番手にはトヨタ・ワークスに4年ぶりに帰ってきたエサペッカ・ラッピ(トヨタGRヤリスRally1)が続いており、トップ5は1.9秒差という接戦状態だ。

 首位から3.7秒差の6位にはエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)、7秒差の7位とやや出遅れたクレイグ・ブリーン(ヒョンデi20 N Rally1)は、「非常にトリッキーだ。極力ミスをしないように、コースをキープするように心がけたが、それでもスノーバンクに捕まってしまいそうだった」とスピードに乗り切れない。続く、SS2カームシェン(27.81km)で彼にはドラマが待っていた。

 このラリーで最も長いステージでブリーンは、高速のダウンヒルのあとのバンピーな狭いセクションでコースオフ、スノーバンクに突っ込んでしまい、マシンを止めることになった。彼はこのアクシデントの前にもハーフスピンを喫して30秒あまりをロス、雪煙を上げてオフした2度目のミスはあまりにもハイスピードだったためにとても戻れそうには思えないほど深い位置でスタックしてしまう。ブリーンは「もう出ることはできない」とコドライバーのポール・ネーグルに声を掛けてマシンをあとにした。

 このアクシデントで赤旗がだされたあとステージは再開、混乱のなかでベストタイムを奪ったラッピが首位に立つことになる。彼にとってファクトリーチームでの最後の参戦となった2020年のラリー・モンツァ以来、1年3か月ぶりのラリーリーダーだ。「ステージウィンを誇りに思うよ。こんなに早くこうなるとは思っていなかったんだ。この週末の後半にできればいいと期待していたんだけど、良いスタートだった。本当に驚いているよ。自信がなくて、全開でいくべきところや、コーナーで何度もブレーキを踏んでしまったからね」

 首位のタナクはここでは、ハーフスピンを喫してペースを維持できず、ラッピから5.7秒遅れの4番手タイムに留まり、ロヴァンペラとソルベルグに抜かれて4.8秒差の4位へと後退してしまった。「バランスに少し苦労しているが、バランスは速いセクションよりもスローなセクションでもっと重要になってくる。クルマが新しいというのもあるが、もちろん僕たちはできる限りのことはすべてやっている」

 タナクはなんとかペースを上げたいと語っていたが、このステージでダメージを受けていたフロントバンパーが続くSS3セーヴァルで脱落、高速ステージでエアロに影響受けた彼は10秒近い遅れにとどめながらもまた一つポジションを失って5位へと後退してしまう。「このステージの前に破損していたのが、取れてしまったんだ。本当に速かったが、エアロの効果は全くなってしまい、フロントがかなり軽かったんだ」

 さらにトラブルは首位のラッピにも襲いかかった。彼はスタートラインでエンスト、リヤバンパーを失ったことも影響しただろうが、コース全域でハイブリッドブーストが使えなかったために8番手タイムにとどまり、6位へと後退してしまう。「スタートでストールしてしまい、すぐにリスタートできなかった。もちろん、それだけで15秒のロスになったわけではない。ハイブリッドパワーも使えなかったし、慎重になり過ぎてバンクに近づかないようにしていたので、タイムをロスしたんだ」

 こうして、このステージではまたも首位が入れ替わる。ベストタイムを奪ったロヴァンペラが首位へと浮上、朝のループをトップで終えることになった。「朝からすでにトリッキーだったが、その中でこのステージがコンディションではベストだった。だが、午後のループはもっと難しくなると思う」

 SS3の2番手タイムを奪ったヌーヴィルが、ロヴァンペラから8.4秒差の2位で朝のループを終えている。彼はSS2でブリーンにクラッシュによって提示された赤旗でスローダウンを強いられてノーショナルタイムを与えられたが、彼はブリーンと同じバンクでも軽くオフを喫しており、さらにi20 N Rally1のバッテリーに問題を抱えていたため幸運だったとふり返っている。

「(SS2の)赤旗は僕たちにはラッキーだった。ハイブリッドキットに問題があったのでブーストが使えなかったんだ。そのあとこのステージでは別の電気的な問題が発生したので、それを直していたので遅れそうになったんだ。とてもストレスがあったが、今ここにいることができて本当に嬉しいよ」とヌーヴィルは、トラブルが続いたわりにはホッとしたせいか笑顔をみせている。

 朝から安定したペースを刻んでいるソルベルグがヌーヴィルから2秒差の3位で続いている。彼は甘かったペースノートのおかげで恐い思いをした瞬間があったと認めながらも、朝から3位をキープし続けている。

 ソルベルグから0.8秒差の4位にはエヴァンス、大きなトラブルに見舞われてはいないものの、期待していたペースを発揮できなかった彼は、「正直なところ、クルマにはあまり自信がないんだ。フロントエンドに苦労しているので、スムーズに走るのは難しいんだ」と明らかに沈んだ声で語った。

 ウーメオのサービスを挟み、この日のオープニングSSのリピートステージとなるSS4クロークシェーではまたも首位が入れ替わることになった。1回目の走行では固く凍結していたステージには走行でかきだされたルーススノーが覆い、そこにはメインイベントと併催されるヒストリックラリーが通過したことでラインはかき消されて、邪魔なわだちが生まれている。一番手スタートのロヴァンペラは、朝のペースをすっかり失い、なんと8番手タイムで4位へと後退してしまう。「今は本当に難しい。ラインがまったく無い。ラインに沿って走ろうとしたし、自分でもラインを作ろうとしたが、まったく上手くいかなかった」

 素晴らしいベストタイムで一気に首位に立つことになったのは、この日4人目のリーダーとなったエヴァンスだ。「ここはとても難しくて厄介だった。カッレにとっても悪夢だっただろうけど、僕たちにとってもそれほどいい気分ではなかったよ」とチームメイトのロヴァンペラに同情的だ。明らかに後方になると路面はクリーンになり、1.6秒差の2位にはソルベルグが浮上、ラッピも4.5秒差の3位へとふたたび順位を上げてきた。

 エアロのトラブルで首位争いからやや脱落したかに見えたタナクも、「このようなコンディションでは、前方を走るドライバーは災難としか言いようがない」と同情しながらも、ロヴァンペラからも0.1秒差の5位で続き、トップから5.2秒遅れへと挽回してきた。

 タナクはチャンスと見るやさらにペースをアップ、SS5カームシェンでこの日2つめのベストタイムを刻んで、ロヴァンペラだけでなく、ソルベルグとラッピをまとめてパス、エヴァンスの1.1秒後方の2位へとポジションを上げてきた。

 だが、続くSS6セーヴァルのスタートを前にしてタナクのマシンに異変が生じる。前ステージの残り10kmでハイブリッドパワーを失ってしまったと嘆いていた彼だが、走行中にハイブリッドキットに問題があることを示すレッドライトが点灯したため、安全上の懸念とFIAレギュレーションに基づき、ロードセクションでマシン停止を余儀なくされてしまう。

 タナクのリタイアで首位のエヴァンスもプレッシャーから解放されたはずだが、彼は前ステージでの過度なプッシュがたたったのか、夕闇のなかで迎えたこのSS6ではリヤタイヤのグリップ不足によってスノーバンクで弾かれたピンボールのような状態になってしまい、大きくタイムをロスしてしまう。エヴァンスはどうにか首位はキープしたものの、ここでベストタイムを奪って2位へと浮上してきたヌーヴィルに対するギャップは0.6秒となった。

「いい感じだった。マシンはうまく機能しているから、とても快適だよ。コンディションはトリッキーだが、路面が少しクリーンになっている。僕らはうまくタイヤを管理できたので、最後のステージでもタイヤも大丈夫だろう」と、リラックスしたように語ったヌーヴィルに対して、エヴァンスは「クルマのバランスも悪いし、リヤのタイヤも摩耗しているので、正直言ってあまりいい状態ではない」と明かし、さらにヌーヴィルから0.9秒差の3位につけるラッピも「タイヤが完全にダメになってしまって、このタイムが出たことに驚いているくらいだ。最終ステージの心配はあるかって? 大ありだよ」と逆転首位のチャンスは諦めるしかない状況だ。

 ヌーヴィルはこの日の最終ステージは、ウーメオ・スプリントで、タイヤに問題を抱えたトヨタ勢を尻目に2番手タイムでしめくくり、首位でこの日を終えることになった。「午後は非常にクレバーに過ごすことができた。タイヤマネージメントも上手くいき、マシンも完璧だった。サービスでセッティングを少し変更し、それはほんの少しだったが、快適に感じたので、速くドライブすることができた。とてもうまくいったよ」

 ここでベストタイムを奪って2位へと順位を上げたのはロヴァンペラだ。「グリップがまったくなかったんだ」というチームメイトのエヴァンスを抜き、ヌーヴィルのわずか4.3秒後方の2位で一番手スタートという大役を全うすることになった。

 エヴァンスはここで7番手タイム、同じようにタイヤの消耗に悩まされていたラッピも6番手と苦しんだが、エヴァンスが首位から7.4秒遅れで3位をキープ、ラッピもチームメイトから1.4秒差の4位で続くことになった。

 午後のループではトップまで1.6秒差まで迫って、初のリーダーさえ照準に入れたかにみえたソルベルグだったが、彼もまたタイヤのマネージを失敗しており、最終ステージをダメージを受けたタイヤでスタートすることになっていた。ソルベルグはいきなりジャンクションでオーバーシュートしてしまい、わずか5kmのステージでトップから15.8秒もロス、首位から28.1秒も遅れた5位でフィニッシュ、「タイヤがない。単純なことだよ。前ステージでちょっとタイヤに賭け、最後にはタイヤがダメになってしまった。ペースはよかったが、上手く使えていると思ったタイヤの消耗が激しかった。セーブすることは本当に難しいよ・・・」と力なく答えていた。

 TGRネクストジェネレーションから参戦する勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)は最終ステージで3番手タイムを奪うなど速さをみせたが、SS4のスノーバンクではまってしまい40秒あまりをロスしたことが響き、ソルベルグから50.8秒遅れの5位にとどまっている。「今日はかなりタフな一日だったが、僕の将来にとって重要なことがたくさんあったので、とにかくラリーをこなそうと思った。上手くいかず少し残念だが、まだ2日あるので集中して頑張りたい」

 Mスポーツ・フォード勢にとっては開幕戦から一転して沈んだラリーとなっている。開幕戦をクラッシュで終えたアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)は自信を取り戻すべく、チームメイトのガス・グリーンスミス(フォード・プーマRally1)に15.2秒差の7位につけている。

 グリーンスミスは、朝のループではハイブリッドとギヤボックスのトラブル、午後のループではスノーバンクへ刺さってしまうなど苛立つシーンがつづいたが、どうにかリタイアの危機を逃れて8位で続いている。