WRC2017/08/19

豪雨のドイツDAY1、タナクが首位に浮上

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 2017年世界ラリー選手権(WRC)第10戦ラリー・ドイッチュランドは、雷雨によってトリッキーなコンディションとなるなかタイヤチョイスを成功させたMスポーツ・ワールドラリーチームのオット・タナク(フォード・フィエスタWRC)が首位に立っており、シトロエンからの3戦目を迎えたアンドレアス・ミケルセン(シトロエンC3 WRC)が後方の不利なポジションでのスタートをものともしない素晴らしい走りで2位につける展開となっている。

 モーゼル川のぶどう畑のステージに戦いの舞台を移した金曜日、鈍い雲が低く垂れ込め、いまにも雨が降りそうな状況のなかでオープニングSSが始まることになった。SS2はギャラリーステージとして今季から新たに採用されたヴァーダーン-ヴァイスキル。このステージでは選手権を争うセバスチャン・オジエ(フォード・フィエスタWRC)が1km地点でスピンしてオフ、4.4秒遅れの7位と出遅れる波乱が起きるなか、ここでWRC 150戦目を迎えたダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)がベストタイムで首位に浮上、タナクが1.5秒差の2位につける展開となった。

 タイトターンが連続するぶどう畑のステージは、ラリーカーが走行するたびにコーナーのインカットによって泥が道路にかきだされることになるため、一番手でコースインしたドライバーがもっともクリーンな路面を走ることができる。

 SS2を終えて1.9秒差の3位につけた選手権リーダーのティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)にとって、オジエを突き放すためにはまさに絶好の状況となったが、ウェットとドライのセクションが交互に表れるトリッキーなコンディションとなったSS3ミッテルモーゼルで彼は1km地点の右コーナーでオフ、すぐにコースに復帰したものの、フロントバンパーにダメージを負って7位にポジションダウンすることになった。

「ドライだったがブレーキングしたところで突然ウェットになっていて、ぶどう畑に突っ込んでしまい、フロントスプリッターを失ってしまったんだ」とヌーヴィル。彼はフロントバンパーが外れかかったためにダウンフォースが得られず、トリッキーになったマシンに苦戦、SS4グラフシャフトを終えて早くも首位から21秒遅れとなってしまった。

 選手権争いの二人がそろって問題を抱えるなか、SS3でベストタイムを奪ったタナクが首位に浮上。だが、後方の不利なポジションにもかかわらず、このステージを終えて4.2秒差の2位で続いていたミケルセンがSS4でタナクに9秒もの大差をつける衝撃の速さをみせてラリーをリードすることになった。

 このステージも典型的なぶどう畑のトライアルで道路の片側に高い壁があり、もう一方の側はぶどう畑への転落の可能性があるデンジャラスなコースだ。序盤にはオープンな草地を抜けセクションもあるため、クルマが走行するたびにコーナーではカットによってダートがかき出されるため、後方スタートのミケルセンにとって条件はけっしていいわけではなかった。

 しかし、ミケルセンはゴール後、「小さなミスが2回あって、完璧な走りではなかった」と語ったが、シトロエンでの限られたチャンスをモノにするためにオンボードの映像でステージを研究し尽くした、その努力の甲斐が好タイムにつながることになった。もちろんミケルセンがラリーリーダーとなるのは、C3 WRCをドライブしてから初めてのことだ。

 ミケルセンは大雨が降る可能性もあったために朝のループではオールソフトタイヤをチョイス、SS5ヴァーダーン-ヴァイスキルの路面はほとんどドライになったために4番手タイムとなったが、2位のタナクに対して4.1秒をリードして、首位で朝のループを終えることになった。

 いっぽう、ハードとソフトのミックスの組み合わせで朝のループに挑んだドライバーたちもこの妥協策にけっして満足したわけではない。SS2のコースオフでヒヤリとさせたオジエも、「けっして満足できるセットアップではないが、妥協するしかない」と語りながらも、このあとはきっちりとした走りで3位をキープ、選手権を争うヌーヴィルに対して11.9秒をリード、タナクに1.5秒差に迫って朝のループを終えることになった。

 朝のループのあと、ボスタールゼーのデイサービスがはじまるころ、ステージでは大雨が降り始めたとの情報がもたらされ、ドライバーたちは午後のループにむけたタイヤチョイスに頭を悩ませていた。

 トップ争いをするミケルセンとタナクはフルウェットタイヤとソフトタイヤを組み合わせて雨への対策を重視した選択を行ったが、選手権を争うヌーヴィルとオジエは未知数なフルウェットを嫌い、申し合わせたようにオールソフトタイヤをチョイス。しかし、ステージは嵐のような激しい雨によって川になっているところもあり、2014年ドイツで初めて準備されて以来、初めて実戦に投入されたフルウェットタイヤが威力を発揮することになった。

 SS5で初のベストタイムによって首位のミケルセンまで17秒差まで挽回したヌーヴィルも、SS6ではふたたび12秒もタイムをロス、26秒もの遅れを喫することになった。これに対して、3本のフルウェットを装着したタナクは25km地点でワイドになってスライド、ほとんどコースオフしそうになりながらもベストタイムを奪取、1.5秒差にせまってきていたオジエを6.6秒差に突き放しただけでなく、首位のミケルセンに0.9秒差まで迫ることになった。

「狭いヘアピンでハンドブレーキを使ったが、コーナーの出口が見えず、ブドウ畑に突っ込んだ。すぐにコースに戻れて非常に幸運だった。チームが勧めたとおりにウェットタイヤを4本装着しなかったことが悔しい」とタナクは残念そうに語ったが、彼の勢いは小降りになった次のSS7でも変わらない。彼はこのステージでも連続してトップタイムを奪い、ついにミケルセンを抜いてふたたび首位に立つことになった。

 この日、3回目の走行となる最終ステージのヴァーダーン-ヴァイスキルは多くのラリーカーの走行によってかき出された泥水がコースを覆いつくして信じられないほどトリッキーなコンディションとなったが、タナクは堅実な走りで首位を守り、ミケルセンに5.7秒差をつけてこの日を終えることになった。

 首位を失ったとはいえ、ミケルセンは、トップグループによっていちだんと荒らされたコースに苦戦しながらも、フルウェットタイヤにも救われ、わずか数秒差の2位にとどまったことを喜んだ。

 いっぽう、午後のループでソフトタイヤを選択したヌーヴィルとオジエは、首位のタナクにじわじわと離されることになったが、このウェットコンディションのなかで3位をめぐって大接戦を演じることになる。二人ともSS7ではスピンとコースオフをしそうになりながらも死力を尽くし、オジエは18.7秒のリードを守ってこの日の最後のステージを迎えることになる。

 だが、オジエはあろうことか木陰の下のウェットセクションでスピン、コース復帰に手間取ってしまったために20秒をロス、2.4秒差ながら3位をヌーヴィルに譲ることになった。

 ドライとなった朝のループで4位まで順位を上げたエルフィン・エヴァンス(フォード・フィエスタWRC)は午後のループでグリップに苦しんで5位にとどまることになり、ユホ・ハンニネン(トヨタ・ヤリスWRC)が朝のループでオフして柱に激突してリヤスポイラーやフロントスプリッターにダメージを負うトラブルに見舞われながらも、その後は堅実な走りを続けて、トヨタ勢最上位の6位につけることになった。

 だが、ハンニネンのチームメイトたちにとっては試練の一日になった。SS4を終えて5位につけていたヤリ-マティ・ラトバラ(トヨタ・ヤリスWRC)はSS5のスタートでエンジンにミスファイアの問題が発生、終盤のコースオフも重なり1分30秒近くをロスして10位まで後退してしまった。

 ラトバラはサービスで問題が解決したあと午後のループでは速さをみせて、SS8では初のベストタイムを奪って8位までポジションを上げてこの日を終えることになった。朝の問題さえ起きなければ3位争いをしていただけに無念のスタートとなってしまった。

 また、エサペッカ・ラッピ(トヨタ・ヤリスWRC)はSS3でブレーキをミスしてぶどう畑にオフ、「トリッキーなステージに自信がもてない」と語っていたが、SS4では2番手タイムを奪ってこの時点で6位に浮上することになった。しかし、彼も雨となったSS7でコースオフ、サスペンションを壊してディッチのなかでマシンを止めることになった。

 木曜日のステージを終えて3位につけていたクレイグ・ブリーン(シトロエンC3 WRC)は表彰台争いが可能なポジションで朝のループを終えるかに見えたが、SS4で石の崖に接触してパンク、午後のループでも難しいコンディションのなかでコースオフを喫し、7位で金曜日を終えている。

 また、オープニングSSのベストタイムで首位に立ったソルドはSS4をスタートして600m地点で崖下に40mも滑り落ちて無念のリタイアとなり、チームメイトのヘイデン・パッドンも同じステージでのパンクのために1分をロス、ペースをつかめないままに9位と遅れをとってしまった。

 明日の土曜日は、バウムホルダーの軍事演習地で行われるラリー最長となる41.97kmのパンツァープラッテ・ステージの2回の走行を含む9SS/146.67kmの長い一日となる。