WRC2020/07/19

WRCドイツはバウムホルダーで無観客開催か

(c)Toyota

 ドイツ自動車連盟(ADAC)は、間もなく2021年のラリー・ドイッチュランドの詳細を公開すると見られており、それはバウムホルダーの軍事演習場のステージが舞台となる2日間のイベントとなりそうだが、主催者は無観客での開催か、さもなくばキャンセルという厳しい2択を迫られているという。

 3月中旬より休止となっていた今季のWRCは、特例としてカレンダーに加わった9月のラリー・エストニアからシーズンを再開することになり、その後、ラリー・トルコ、ラリー・ドイッチュランド、ラリー・イタリア・サルディニアと続き、最終戦ラリー・ジャパンへと至る公式スケジュールが組まれることになった。

 しかし、ドイツでは先月、新型コロナウイルスの集団感染がふたたび発生したことから大規模イベントについて少なくとも10月末まで規制することを決定、ADACは10月15-18日に予定されるラリー・ドイッチュランドの開催についてドイツ政府との話し合いを続けてきた。

 ドイツ政府は先週、集団での感染事例が多発していることから、感染が拡大した地域に対してロックダウンを強化する新たな方針を発表、各州が感染率だけではなく独自の基準で封鎖の可否を判断できることを決定、各州政府が第二波を防ぐために旅行客の受け入れを禁止するなどのの防疫対策をすることを承認しており、10月末までの大規模イベントへの制限については今後緩和されるどころか、制限解除の目処はまったく立ってない状況にある。

 こうしたなか、ADACは先週末、9月3-5日に予定されたザクセン・ラリーの許可が政府に認められなかったとして突然の中止を発表、先月、やっと新たなカレンダーが承認されて待望のシーズンが開幕する予定だったドイツ・ラリー選手権も、同イベントの中止によってシーズンが残り3戦になったことから一転して今季の選手権そのものをキャンセルすることを決めている。

 ザクセン・ラリーのディレクターを務めるミハエル・ゲルリッヒは、現在のドイツの制限下ではコース外を含むイベント全域で観客をコントロールして接触者を追跡することは不可能だと語っている。

「主催者として、観客の距離や衛生面での規則を守るために、公共の場で観客の流れをコントロールしたり、制限したりする責任がある。しかし、47km以上のスペシャルステージでこれを管理し、保証することはできない。たとえチケット数を制限して固定した観戦エリアが設けられていたとしてもだ。そして、もちろんコース外でもそれが求められる。どうやったら実現できるのか!」

 10月15日から18日まで開催が予定されるラリー・ドイッチュランドについても、例外なく大規模イベントへの制限下におかれることになるが、主催者のADACは6月末の時点では、「当局と調整しながら、ドイツのWRCラウンドがどのような条件でなら観客参加型として開催できるかを確認しているところだ。すべての選択肢を検討し、既存の接触制限と衛生規則の遵守を条件に、開催に向けたコンセプトを策定する」と、観客をいれての開催を諦めないとの姿勢を強くみせていた。

 しかし、こうした主催者の方針に対して、美しいブドウ畑で有名なモーゼル河畔の農家たちがラリー開催への反発を表明したことで、ルートのコンセプトを完全に変更することが必要となったため、主催者はバウムホルダーの軍事施設内のステージのみでアイテナリーを組み直すことに方針を決定していた。

 FIAも今月初めに発表した「リターン・トゥ・モータースポーツ(モータースポーツへの復帰)」ガイドラインのなかで、WRCの再開については複数のエリアではなく、1つのエリアを使ってイベントを開催することを勧告しており、なかでも観客数をコントロールしやすいものとしてバウムホルダーを想起させる軍事施設をもっともラリー開催に適したルートとして推奨していた。

 しかし、ドイツの情報筋によれば、上述した国内戦のザクセン・ラリーが中止に至ったように、ラリー・ドイッチュランドについてもバウムホルダーという閉鎖されたエリアでの開催であっても、政府は屋外であっても観客をそこに集める以上、1.5m以内に複数の人がいないように接触制限と安全性を維持することを約束することが条件だとしており、30メートルもの大きなジャンプが見応えとなっているアリーナ・パンツァープラッテとほか一部エリアに限られた数の観客をいれたいという主催者との考えに大きく隔たりがあったとの情報だ。

 バウムホルダーの軍事演習場の道路が舞台としたステージは、戦車訓練用の道路網を使用しており、路面はアスファルトではなく、コンクリートと石畳の組み合わせとなる。