世界ラリー選手権第12戦ラリー・デ・エスパーニャは、50秒あまりをリードしていたセバスチャン・オジエ(VWポロR WRC)が最終ステージでまさかのクラッシュ、チームメイトのアンドレアス・ミケルセン(VWポロR WRC)が劇的な初優勝を飾ることになった。
ラリー・デ・エスパーニャの最終日は、6.80kmのギアメッツ、19.30kmのプラットディップ、12.10kmのドゥエザイゲスの3ステージを2回ループする6SS/76.40kmの一日。デイサービスやタイヤ交換を行わずに一日を走りきらなければならないため、最後まで戦いの行方はわからないと見られていた。
すでにオジエは二日目を終えて53秒という圧倒的な大差を築いており、後方からスタートした最終日はカットされて土が掻き出されたコーナーでもきっちりスピードを落として慎重な走りに徹しており、後方で繰り広げられるミケルセンとヤリ-マティ・ラトバラによる熾烈な2位争いを余所に、あとはただ今季8勝目にむけてクルージングをするだけだった。
ラトバラがミケルセンを2.9秒をリードして迎えた最終日は、前日にパンクのあとで追い上げたラトバラの速いペースを振り返れば、ドラマはなくこのまま彼が逃げ切るだろうというのが大方の予想だった。ところが、安全性を優先したラトバラの戦略が思ってもみなかったドラマを用意する。
オープニングステージのベストタイムで発進し、「2位を諦めない」と語ったミケルセンに対して、スペア2本を搭載したラトバラはマシンのバランスを崩してペースが上がらない。さらにSS19でもミケルセンは連続ベストタイムを奪ってとうとうラトバラに0.4秒差まで詰め寄ることになった。
むろんラトバラもこのままで戦いを諦めるつもりはなく、SS20のトップタイムでその差を0.9秒まで戻すことになったものの、なんと次のSS21で彼はパンクを喫して9秒をロス、8.1秒差でミケルセンに2位を譲ることになる。
だが、それまでコンマ1秒ともいえるバトルを演じてきた二人だけにこれで勝負は決したかにみえたものの、ミケルセンはSS22をスタートしてすぐのコーナーでスピン、2位をキープしたものの、わずか1.4秒のリードで最終ステージを迎えることになった。
パワーステージとして行われる最後のドゥエザイゲスのステージ。しかし、もはやボーナスポイントをめぐる勝負ではない。先に走りきったラトバラが「これでアンドレアスが抜いたらリスペクトする」と語ったほど完璧な走りでフィニッシュ、しかし、ミケルセンもラトバラを1.7秒上回り、その差を3.1秒へと広げて2位を決めたかにみえた。
ところが、ゴールした直後の彼にインタビューが行われようとしたまさにその時、オジエがクラッシュしたという情報がゴール地点にもたらされる。8.7km地点の左コーナーでインカットしたオジエがイン側の排水コンクリートのへこみでラインを乱してガードレールに激突、右フロントタイヤが引きちぎれたマシンはスピンしながらコースをふさぐ形でストップすることになった。
騒然とするジャーナリストやラジオのレポーターを余所にまだ状況が信じられないためかコクピットのミケルセンはあっけにとられた顔をみせたが、チームと無線で確認をとったオラ・フローネの祝福で初めて信じられないドラマが起きたことを確信し、彼は天をあおいで深く息を吸いこみ、やっと笑顔をみせた。
「本当になんと言っていいかわからないよ。もちろん初の優勝を望んでないわけがないよ、でも、現実とは思えないよ!グラベルに苦戦して、ターマックで必死でプッシュした。ロードセクションで泣いてしまうだろう」
チームのマニュファクチャラー選手権2位を奪い返すためのチームプレーに徹してきたダニエル・ソルド(ヒュンダイi20 WRC)にとっても劇的な表彰台になったが、彼の後方には2台のシトロエンが続くことになった。最終日になってやっとターマックでのいいペースを掴んだマッズ・オストベルグ(シトロエンDS3 WRC)が4位、スピンによって順位を一つ落としたもののクリス・ミーク(シトロエンDS3 WRC)が5位でフィニッシュすることになり、選手権ではシトロエンが4ポイント差にリードを広げて2位を堅持することになった。
また、彼らの後方では同タイムでスタートしたヒュンダイのヘイデン・パッドンとティエリー・ヌービル(ヒュンダイi20 WRC)の最終日のバトルが注目されたが、ヌービルがSS22でブレーキングの際にドライブシャフトを壊してコースオフ、観客の助けを借りてステージに戻ったものの、彼は5分あまりをロスしてマルティン・プロコップに抜かれて8位でフィニッシュすることになった。
なお、ヒュンダイはヌービルのマニュファクチャラーポイントを優先するためにパッドンにチームオーダーを与えてポジションを落とさせると見られていたが、二人ともこのままの順位で最後のフィニッシュを迎えている。