WRC2023/12/31

【TOP10-第2位】カッレ・ロヴァンペラ

「すでに伝説王者の風格」

■カッレ・ロヴァンペラ

Kalle Rovanpera
Toyota GAZOO Racing WRT

王者が真の王者にふさわしいかどうかが試された2023年シーズン、カッレ・ロヴァンペラはただの速さだけではなく、23歳とは思えない安定性と高いマネージメント能力を発揮してタイトル防衛を成功させた。

昨年、史上最年少のワールドチャンピオンに輝いたロヴァンペラは新シーズンの開幕戦モンテカルロを2位でフィニッシュ、タイトル防衛に向けて素晴らしいスタートを切った。それでもスウェーデン、メキシコ、クロアチアでは3戦連続で4位に終わり、表彰台にはとどかなかった。

ロヴァンペラは昨年、前半戦の7戦で5勝してタイトル争いを圧倒した。しかし、夏以降昨年の後半戦ではわずか1勝のみ、もはや勢いにまかせて突っ走るのではなく、保守的なアプローチでタイトル防衛に臨もうとしているかのようにも見えた。

しかし、このクロアチアではパンクのあと圧巻のペースで4位まで浮上、表彰台獲得への強い意志を示し、ポルトガルではその思いを示すように強烈なパフォーマンスによって今季初勝利を奪い、選手権をリードすることになった。エサペッカ・ラッピは、ラリー後の記者会見で「自分がかなり良い走りをしたと思っているのに、それより1kmあたり1秒も速く走られるとかなり落ち込む」とふり返ったほどの次元の違う速さだった。

クロアチアのあと選手権トップ5のドライバーがわずか11ポイント差にひしめき、タイトル争いは近年なかったほどの混戦になるかに思われたが、ポルトガルのわずか1戦を終えただけで、シーズンの流れは完全にロヴァンペラのものとなった。路面掃除で遅れながらもサルディニアでは3位表彰台を獲得して勢いに乗り、シーズン折り返し地点のサファリでも2位でフィニッシュ、ドライバーズ選手権では25ポイントから41ポイントの差へとリードを広げている。エストニアでもまた土曜日以降の全ステージを制し、後続に52秒もの大差をつけて圧勝。リードを55ポイントに広げることになった。

ロヴァンペラは母国戦フィンランドではラリーをリードしていながら雨のなかでクラッシュ、このミスによってホームでの初優勝のチャンスを失っただけでなく、チームメイトでライバルであるエルフィン・エヴァンスが完全勝利を成し遂げたため、選手権のリードは25ポイントへと縮ってしまった。

思いもしなかったミスによって彼の選手権は一瞬だが揺らいだかにも見えた。王者が真の王者にふさわしいかどうか、まるで試されているかのようだった。だが、ギリシャでシーズン3勝目を飾り、タイトル争いのライバルたちにまったく隙をみせなかった。

ロヴァンペラは、エヴァンスに対して31ポイントという大きな差をつけて終盤のセントラル・ヨーロッパを迎えたが、もちろんタイトルは保証されているわけではない。フィンランドのような小さなミスでリタイアになれば、選手権は最終戦を前に完全に振り出しに戻ることになってしまう。しかし、彼は勝負の一戦を前にプレッシャーが少しあることを認めつつも、「そのほうがいい結果を残せるし、より鋭く、より良い仕事ができる」と、王者にふさわしい強気のコメントを残すことになった。

一つ間違えば、選手権での大きなポイントを失いかねない状況のなか、守らなければならないことへの恐れや迷いは消え、もはやどのようなプレッシャーも彼を怯えさせることはなかった。泥の路面でのブレーキングでオーバーシュートするミスはあったが、それでも緊迫感のなかでの精神的な強さを発揮、タイトル争いのライバルであるエヴァンスのミスを誘い出し、2度目のタイトルに輝くことになった。なんと強いタイトル防衛戦だったか!

フィニッシュ後、ロヴァンペラは「初めてのタイトルよりもうれしい」と話した。昨シーズンは6勝、今季は3勝。表彰台は一年前と同じく8回、シーズンで獲得したポイントも250ポイント台でほとんど変わらない。ノーポイントに終わったのはフィンランドのわずか1回。ほかの12戦はすべてトップ4でフィニッシュした。昨年のように勢いにまかせてシーズンを席巻したのではなく、あらゆる状況をコントロールしきって達成したというリアルな手応えがあるのだろう。

今季6度のパワーステージ最大ポイントが証明するように、ロヴァンペラはスピードの封印を解除すれば、いつでも誰にも真似できない猛烈な速さをみせることができる。ベストタイム回数は昨年70回、今年は72回とほとんど変わらない。しかし、ラリーをリードしたステージの数は昨年は78ステージだったが、今年はわずかに49ステージだ。毎戦勝利だけを狙っていたわけではなく、着実にポイントを持ち帰る戦略だったことは、この数字からもはっきりと読み取れる。

ロヴァンペラが2度目のタイトルを決めたセントラル・ヨーロッパのラリー後、チーム代表のヤリ-マティ・ラトバラは、「ステージで勝ちたい、ラリーに勝ちたい、パワーステージも勝ってタイトルを得たいという最初の年のアプローチが今年は変わった。チャンピオンシップで勝つために、すべてのラリーに勝つ必要はないことを彼はすでに知っている」と、ロヴァンペラの戦い方をフィンランド出身の伝説のチャンピオンであるユハ・カンクネンのスタイルに重ね合わせて称賛した。

ロヴァンペラは来季、セバスチャン・オジエと同じく、シーズンの限定的なイベントしか走らないと宣言、世界を驚かせた。10代から最前線で走り続け、ふつうなら誰もが経験している青春時代のようなものをすべてラリーに捧げてきたのだから、ここらで少しペースを落とすのもいいだろう。なんてったって、彼はまだ23歳なのだから!

生年月日:2000年10月1日(23歳)
タイトル:WRC(2022、2023)
選手権ランキング:1位
獲得ポイント:250点
ベストリザルト:1位
優勝回数:3回
2位の回数:3回
3位の回数:2回
表彰台回数:8回
出場回数:13回
ベストタイム回数:72回
リードしたステージの数:49SS
リタイア数:1回
リスタートの回数:0回
パワーステージ勝利数:6回
パワーステージ獲得ポイント:42点