WRC2023/12/28

【TOP10-第8位】エサペッカ・ラッピ

「感情を止めた果てにあるもの」

(c)Hyundai

Esapekka Lappi
Hyundai Motorsport

ヒョンデに移籍して新シーズンをスタートしたエサペッカ・ラッピは、4月のクロアチア以降、5戦中4戦でトップ3フィニッシュ(サルディニア2位、クロアチア/ポルトガル/エストニア3位)を果たし、2017年のフィンランド以来の優勝に近づいたかに見えた。

しかし、ラッピは母国戦のフィンランドでは初日にクラッシュ。それ以降も不安的なラリーが続き、迷走する。

雨のセントラル・ヨーロッパは不利な後方のポジションだったにもかかわらず、泥がかき出されたスリッパリーなコンディションで信じられないほど果敢な走りをみせたが、マシンのリヤが突然スライドを起こして彼のラリーは終わってしまった。

さらに終盤戦のチリでも速さを結果に出さなければならないという焦りはあったのだろうが、オープニングSSでの危険なクラッシュでマシンを止めてしまった。

移籍直後からラッピに速さがあったことは間違いない。今季最初のアクシデントとなったメキシコでも土曜日に電柱に激突するまでラリーをリードしていた。ときにそのスピードはチームメイトのティエリー・ヌーヴィルさえ上回り、シーズンを追うにしたがって、なにかから逃げるかのように加速度的に彼は速くなっていたような気がする。

前半でチームの選手権に大きな貢献をしながら、後半戦で結果を出せなかったため、ラッピは来季のラインナップから外れるのではなかろうかの憶測もあったが、彼はチームとの話し合いの結果、限定でマシンのステアリングを握ることを選ぶことになった。

「夏は忙しく、多くのラリーで間違った場所にいたような気がした。家族と離れてラリーをするのは本当につらかった」と、ラッピはクリスマス休暇の際、不安的だった自身の後半戦について触れている。

ずっとつらかったのだろう。クロアチア前のテストでクレイグ・ブリーンが事故でなくなったとき、ラッピは激しくショックを受けており、感情を殺してラリーに向かわなければならなかったと認めていた。ラッピとブリーンがチームメイトとして一緒に走ったのは、2月のスウェーデンの1回のみだ。しかし、二人は古くからの友人であり、成功を競い合ったライバルだった。

「僕らの生活には危険と死の可能性が差し迫っていることを思い知らされた」とラッピはブリーンの報せを受けたときにそう言った。ふりかえって見れば、ラッピはそのあともずっと感情を止めてラリーに臨んできたのかもしれない。限界ぎりぎりのスピードでラインをなぞりながら、彼は友人のことも家族のことも、すべての感情を忘れてがむしゃらにアクセルを踏んできたのだろうか。

2024年シーズン、おそらくラッピの初戦は2月のスウェーデンとなり、夏の高速グラベルラウンドの連戦が出番になるのだろう。ラリーに一歩距離を置いたことで、もつれてしまった気持ちにも整理もつくだろう。ふたたびチャンピオンシップのトップ争いに帰ってくることができるはずだと信じている。

■エサペッカ・ラッピ
生年月日:1991年1月17日(32歳)
選手権ランキング:6位
獲得ポイント:113点
ベストリザルト:2位
優勝回数:0回
2位の回数:1回
3位の回数:3回
表彰台回数:4回
出場回数:13回
ベストタイム回数:15回
リードしたステージの数:13SS
リタイア数:4回
リスタートの回数:1回
パワーステージ勝利数:1回
パワーステージ獲得ポイント:18点