2024年世界ラリー選手権最終戦のフォーラムエイト・ラリー・ジャパンは、金曜日の日程を終えてオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)が首位。20.9秒差でエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)が追う展開となっている。ポイントリーダーで最終戦を迎えたティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)はターボのブーストを失う予期せぬトラブルで大きくタイムを失い15番手と低迷している。また昨年、大雨の中でコースオフを喫したものの最速タイムを連発して3位を獲得した勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)は、またしてもイセガミ・トンネルのステージでスローパンクチャーによりタイムを失ってしまったが、アドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)と0.1秒差の3位争いを展開している。
ラリー・ジャパンは金曜日の早朝からいよいよ本格的な林道ステージへと駒を進める。この日の行程は、愛知県豊田市のほか設楽町、新城市、岡崎市が舞台。23.67kmのイセガミ・トンネル、19.38kmのイナブ/シタラ、17.41kmのシンシロの3つのステージを稲武どんぐり工房に設けられたタイヤフィッティングゾーンを挟んでリピートし、その後2.54kmのオカザキ・スーパーSSを2回走行する8SS/126kmとなる。
この日のオープニングステージ、イセガミ・トンネルは、ドラマの舞台として多くのファンに記憶されていることだろう。2022年にはセバスチャン・オジエがパンクして優勝争いから脱落し、ダニエル・ソルドのマシンが炎上するアクシデントがあった。2023年はスタートから11km地点の右コーナーで、大雨によってできた水溜まりに足を掬われ勝田がコースオフしてマシンにダメージを負った。また同じコーナーではダニエル・ソルドとアドリアン・フールモーがコースアウトして沢に転落してリタイアとなっている。
イセガミ・トンネルは狭いタイトターンが連続しており、そしてバンピーな路面は落葉に覆われ、側溝や縁石によって道幅はさらに狭くなりマシンのライン取りの自由を奪う。陽があたる路面はドライだが、多くの林道の木陰はラリーウィークの前半に降った雨でところどころ湿っており、グリップレベルがめまぐるしく変化する。
果たして、今回もジャパン屈指の難路がドラマを生む。オジエがスタートから11.7km地点で左フロントタイヤのパンクで交換のためにストップ。2分以上をここで失ってしまう。また勝田も左リヤタイヤがスローパンクチャーに見舞われた。ペースダウンを余儀なくされたが、タイヤがリムから外れることなくフィニッシュできたことは不幸中の幸いだったがトップから1分3秒遅れの9位へと沈んでしまった。
トヨタにとっては完全な誤算のスタートとなった。マニュファクチャラー選手権をリードするヒョンデを逆転するには土曜日までを1-2でフィニッシュすることが重要だったが、オジエと勝田が失速したことで、タイトルは早くもヒョンデに傾いたようにも見えた。
ここでベストタイムを奪ったのはクリーンな走りを心がけたというヌーヴィル。タナクがセカンドベストを刻んでヌーヴィルに0.5秒差のラリーリーダーとなり、ヒョンデが盤石なスタートを切ることになった。
SS3のイナブ/シタラは、イセガミ・トンネルのステージほど道幅は狭くないが、2022年に使われた際にはスタート直後の右コーナーでヌーヴィルがバンピーな路面でマシンのコントロールを失いクラッシュしている。スタートから3km付近からは最高速度が175km/hにも達する高速のワインディング区間があり、その後ダムサイドの狭くバンピーな区間を経てフィニッシュする高速ステージだ。
このステージでは、トヨタ勢が速い。オジエがベストタイムを奪い、エヴァンスも1.8秒差で続き、2位のヌーヴィルとの差を0.6秒に縮めた。とはいえ、唐突にグリップがコンディションでそのマシンバランスは一筋縄ではいかないようだ。エヴァンスはフィニッシュ後「簡単にはいかない。序盤はスライドするところもあった。ほとんどはドライなんだけれど、グリップを読むのがとても難しいコンディションだ」と語った。
タナクは首位を維持しているとはいえ、トヨタ勢のトラブルで選手権を守る戦略も大きく変わったはずだ。無理をしてトップをキープしようとはしていない。「アンダーステアがあってトリッキーだった。マシンバラスはもっとよくなるはずなんだけどね」
SS4のシンシロ、かなり以前に国内戦では使用され、今年初めてWRCで使われることになったステージで、チャンピオンシップ争いにとって大きな波乱が起こる。首位のヌーヴィルが大きくスローダウンしたままフィニッシュラインを通過、このステージだけで40秒余を失ってしまう。「何が起きたのかわからない。パワーがないんだ」と茫然自失の表情だ。一方、ベストタイムを刻んだエヴァンスはタナクのタイムも上回り、一気に首位に躍り出た。
タイヤフィッティングゾーン前のリグループでヌーヴィルは「メカニックが見てくれるはずだ。おそらく機械的なものではなく電気系の問題だと思うけど、わからない」と語る。だが、メカニックがエンジンをステージモードの高回転で回しコンディションをチェックしたが、症状は改善しない。限られた修理しか受けられないため、長いステージが続く午後のループでも大きなタイムロスは必至だ。
ヌーヴィルはがっかりした表情を浮かべながらも、「明らかに、僕たちが望んでいたものではないが、このような状況で大きなポイントのリードがあるのは、シーズンを通じての僕らのハードワークの価値があったということだ」とポジティブに語ってステージへと戻っていった。午後のループを前に、首位のエヴァンスと2位のタナクとのタイム差は0.7秒。ヌーヴィルは39.5秒遅れて3位。さらに31秒後方の4位にペースを取り戻してきた勝田が浮上してきた。
2回目のイセガミ・トンネルではタナクがベストタイムを獲得した。エヴァンスは14.4秒遅れの3番手タイムに止まり、2位に後退。トラブルが解決していないヌーヴィルは2分30秒遅れで8位へ転落、首位から1分28秒遅れながらも勝田が3位に浮上する。
さらにヒョンデとトヨタのタイトル争いを大きく左右するドラマがふたたび後方で起きる。スタートから12km地点でアンドレアス・ミケルセン(ヒョンデi20N Rally1)がぬかるんだ路面でブレーキをミス、バンクにヒットしてスピンしたあと立木に激突しコースを塞いでしまう。これで赤旗が出されてステージが中断。後続のマシンは迂回路を使って次のステージへ向かうことになった。
ヌーヴィルのマシントラブルが改善されていないだけに、ミケルセンにはチームのバックアップが期待されたが、このアクシデントがヒョンデの選手権獲得にどう影響するだろうか?
SS6イナブ/シタラ2ではタナクが連続ベストを記録。エヴァンスとのタイム差は20.4秒に広がった。このステージでも2分以上を失ったヌーヴィルは「走り抜けるだけだ。森の中はかなり暗い。ライトなしで走るのは簡単ではない、僕たちは速く走れていないから大丈夫だけどね。今の時点でこれ以上できることはない。クルマをサービスに戻して修理しなければならない」と落胆の表情だ。
SS7、シンシロの2回目の走行は前ステージでの遅れの影響で15分遅れてのスタートとなった。晩秋の陽の傾きはまさに釣瓶落とし。ほとんどのRally1カーがライトポッドを装着しない状態でスタートしていたこともあり、森の中を走る区間では視界の悪さに苦しめられることになった。ベストタイムはエヴァンス。タナクに0.4秒差をつけて、わずかながらも差を縮める。暗闇迫る中、ライトバーを装着したフールモーは、ここで勝田を12秒上回る3番手タイムを記録して0.8秒差で3位浮上を果たした。
SS8、9は岡崎総合運動公園を舞台にしたギャラリーステージ。片側2車線の広い一般道からスタートしタイトターンで折り返した後、公園の駐車場エリアにシケインで作られた狭くテクニカルなコースへと続き左回りと右回りの大きなバレルターン2つを駆け抜けてゴールを迎える。1回目の走行でベストタイムを刻んだのは勝田。フールモーとの差を0.1秒差とした。勝田は再走のSS9もベストタイムを記録したが、フールモーも同タイムのベストで譲らず、ふたりの差は僅か0.1秒。ポディウムを賭けてのバトルは土曜日へと持ち越されることとなった。
大波乱の金曜日を終えて、ラリーリーダーはタナク。「明日は知っているステージがふたつと初めてのステージがひとつ。どうなるか楽しみだ」と語った。20.9秒差で追うエヴァンスは「当然ながら午後のループの結果には少しがっかりした。もう少し良い走りができる可能性があったと思う。明日はもう少し安定した走りがしたいね。非常に厳しい一日になるだろうから、天気がどうなるか見てみよう」と追撃を誓う。
0.1秒差でポディウムを争うフールモーと勝田。「明日は今日より良い出走順になるので、どうなるか楽しみだ。明日の午後に目標を据えている。マシンが動いてくれるといいね。頑張ろう」とフールモー。勝田は「SS8、9でプッシュしたのは確かだ。誰かがシケインのボックスにヒットしてコーナーが完全にウエットになっていた。明日は大仕事になる。安定した走りを心掛けたい」とホームイベントでの連続ポディウム獲得に闘志を燃やす。
5位のオジエは勝田の21.6秒後方。「(5位は)十分とは言えない。今日は僕たちにとってはがっかりな一日だった。それでもチームのために努力を続けている。今日は多くのことが起こったし、明日もどうなるかは分からない。ドライビングはOK。フィーリングもOKだが、僕たちが望んでいた戦いはこのポジションを争うことではない。タカは僕にとって(戦うべき)ターゲットではない。(タナクが)ターゲットだったはずだったのだが、かなり離れてしまった」と失望を隠せない。
不可解なマシントラブルに見舞われたヌーヴィルはトップから7分41秒も遅れた15位。「間違いなく大変な一日だった。今日は良い点が見つからない。だがマシンがきちんと動いている時はフィーリングは良かった。それが唯一の良い点だ」と、明日からの追い上げに望みを託す。彼としては、ドライバーズ選手権では25ポイントという大きなアドバンテージを築いているとはいえ、Rally2勢をパスして少なくともポイント圏内で土曜日をフィニッシュしたいところだ。
フォーラムエイト・ラリー・ジャパンのDAY2は、岐阜県中津川市と恵那市が舞台となり、新ステージのマウント・カサギ(16.47km)からスタート。ネノウエ・コウゲン(11.60km)、エナ(22.79km)がそれに続く。中津川公園に設けられるタイヤフィッティングゾーンを挟んで朝と同じ3ステージを午後にループし、サービスを受けた後にトヨタ・スタジアム・スーパーSS(2.15km)で締めくくる7SS/103.87kmの一日となる。