WRC2023/11/19

エヴァンスがジャパン優勝、トヨタが1-2-3

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 2023年世界ラリー選手権(WRC)最終戦、フォーラムエイト・ラリー・ジャパンは最終日の日程を終えて、母国凱旋ラリーとなったトヨタGAZOOレーシングWRTが、エルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)、セバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)、カッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)の1-2-3フィニッシュという完璧勝利でシーズンを締め括ることとなった。また、金曜日にコースオフして大きくポジションを落としていた勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)が、10回のステージ勝利で迫真の追撃を見せて5位でゴール、成長をアピールした。

 ラリー最終日の19日日曜日は、愛知県豊田市および岐阜県恵那・中津川エリアを舞台とした6SS/84.08kmが競技区間として用意されている。SS17アサヒ・コウゲン(7.52km)の後、岐阜県のステージとしてSS18エナ・シティ(22.92km)とSS19ネノウエ・コウゲン(11.60km)を走り、中津川公園に設けられたタイヤ・フィッティングゾーンを経て、再びSS20エナ・シティ、SS21ネノウエ・コウゲンを走行。パワーステージとしてSS22アサヒ・コウゲンが行われる。

 1位から3位までを占めるトヨタの3台、エヴァンス、オジエ、ロヴァンペラはタイム差が開いていることもあって、ペースを整えてゴールへと向かう戦略。1分28.7秒差の4位にエサペッカ・ラッピ(ヒョンデi20N Rally1)がつけ、その26秒後方の5位争いを展開するオイット・タナク(フォード・プーマRally)と勝田のタイム差は14.9秒だ。

 スタートは前日順位のリバースとなり、ティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20N Rally1)、勝田、タナク、ラッピ、ロヴァンペラ、オジエ、エヴァンスの順。土曜日の夜から未明にかけて、一部のステージでは雪が降った。ラリーカーがステージに向かう時点では、晴れているものの路面は濡れている。朝のループへと向かうタイヤ選択は、首位グループのエヴァンス、オジエ、ロヴァンペラがウェット6本を選び、激しい5位争いを展開するタナクと勝田はともにウェット5本。ヒョンデのラッピ、ヌーヴィルはウェット4本+ソフト2本でステージへと向かった。

 SS17アサヒ・コウゲン(7.52km)は、豊田市の北に位置する小渡(おど)町、セイゴ地区の外れ、湾曲して流れる矢作川を見下ろしながらスタートする。標高187m、広い2車線のほぼフラットな道をおよそ3km走り、旭高原元気村に向かって林道を駆け上がる。斜度は最大で12度、道幅は4.5mと広い。落葉もなく比較的クリーンな路面だが、ガードレール、縁石、側溝によってインカットがほぼ不可能なコーナーが続く。リズミカルな連続コーナーで森林地帯を抜ければ、少年自然の家の先、標高650mのゴールを迎える。

 このステージでベストタイムを刻んだのはヌーヴィル。「おそらくここは一日の中で最も簡単なステージだった。特に計画はない。自分のフィーリングに従うつもりだ。もしフィーリングが良ければ、少しドライブしてみようと思う」と思うにまかせなかった週末、ようやく感触を掴んだようだ。注目の5位争いはタナクが最終コーナーでオーバーシュートによってタイムを失い、勝田がセカンドベストを奪う好走を見せたことで、その差が一気に9.6秒に縮まった。

 SS18は、エナ・シティ(22.92km)。ラリーカーは岐阜県に入り、紅葉に染まった美しいロードセクションを走ってSSスタートへと向かう。スタートから1.5kmほどは集落の中のギャラリーステージを走り、その後、昨年のルートに合流。東海自然歩道の美しい林道を標高630mまで上り、傍中林道へ。国内ラリーで使用された岐阜県の伝統の林道だ。幅3mほどのテクニカルな狭い林道で、標高780mまで駆け上がった後、ダウンヒルとなり、高波・峰山の集落を抜けて再び上りの林道へ。古いアスファルト、側溝があり使える道幅は狭く、路面もバンピー。連続するタイトターンを経て見晴らしのいいギャラリーエリアが待つ743m地点へと到る。コースは恵那林道の比較的スムースなワインディングの下りへと繋がり、標高560m地点でフィニッシュを迎える。2022年、エヴァンスが9.9km地点の下りの右コーナーでワイドになってしまいパンク、ヌーヴィルとの優勝争いから脱落したことからもわかるように、ペースが上がるとより危険度が増すステージだといえる。

 路面コンディションは、木々の合間から強い日差しが射し込んでいるものの、朝の時点では路面は依然としてかなりのウェット状態だ。「恐ろしい! (先頭ランナーのため)ラインはどこにもなく、ずっとラインを作る必要があった。全体的な速度はスローだが、コースアウトする危険性は非常に高い。ラリーの最終日にとって、これ以上に難しいことは思いつかないほどだ」と、オープニングステージとは打って変わって慎重なコメントを出したヌーヴィルが連続ステージ勝利。「良かったが、正直言ってすごくスローに感じた。グラベルクルーは良い仕事をしてくれた。ヒヤっとする場面はなかったが、場所によってはもっと速く走れたはずだ。どのくらいスピードを出せるのか判断するのは難しい」と語る勝田がまたもセカンドベストで追い上げ、タナクとの差はわずか0.4秒まで迫ってきた。

 勢いに乗る勝田に対して、タナクは「さっきも言ったけれど、僕たちは(勝田に対して)競うものが何もなく、できることは何もない。トリッキーで、マシンのバランスも悪く、まるでフロントがパンクしたまま走っているような感じだ。今年はそういうことが何度もあった。フィーリングがなく、何も機能していない」と苦渋の表情だ。

 朝のループの最後のステージとなるSS19ネノウエ・コウゲン(11.60km)。中津川市小野川のスタート地点は標高560m。左側が岩壁で見にくい細道を通過すると、すぐに幅6mのワイドな上りのワインディングを走る。保古の湖を眺める標高900mの恵那山荘のギャラリーコーナーをパスし、中津川市岩村方面へのハイスピードな林道を下る。ブロークンターマックを2kmほど下った後、7km地点からは道路が半分ほどに狭まるセクションが断続的に出現する。そのため山側の左コーナーでは縁石にホイールやフロントエアロをヒットしないように慎重な走りが必要だ。インカットに注意しながらタイトターンを中津川市手賀野の標高540mまで下ってフィニッシュ。標高の高い部分では昨夜降った雪が残り、ウェットの状況だ。先頭ランナーのヌーヴィルによれば「これもチャレンジングなステージだ。前のステージよりは少しは楽だったかもしれないけど、リズムに乗れなかった。落葉が多かったし、場所によってはシャーベット状の雪も残っている」とのこと。

 このステージでは勝田がガードレールに接触するほどのフルアタックで、セカンドベストのヌーヴィルのタイムを5.3秒も上回るベストタイムを叩き出した。タナクは20.4秒遅れ、これで勝田は5位にポジションを上げるとともに、4位のラッピとの差も16.2秒とした。「すべて問題ない。バリアに接触したけど、十分柔らかかったので、おかげでさらに速くコースに跳ね返してくれたよ!」と勝田はさらに上を狙う。この後、ラリーカーは中津川公園のタイヤフィッティングゾーンへと向かい、最後のループに向かってのタイヤに履き替える。昼になってもそれほど路面は乾かないだろうという予想と、多くのラリーカーが通過したことで路面が汚れたことを懸念して、エヴァンス、オジエ、ロヴァンペラ、勝田のトヨタ勢と、4位のラッピ、はウェット4本+ソフト2本を選択。タナクがウェット3本+ソフト3本で、ヌーヴィルだけがソフト5本とドライタイヤを選択した。

 SS20、エナ・シティの再走は、予想したようにインカットの泥が路面に掻き出され、より滑りやすくなっていたが、ベストタイムは一番手で出走し、唯一オール・ドライタイヤのヌーヴィルが取った。ラッピがセカンドベストを刻み、「なぜなのか分からない、まったくグリップがないんだ。頑張っているんだけど、グリップがない!」と焦りを口にする勝田のタイムを10.4秒引き離し、その差は26.6秒となった。

 SS21、2回目のネノウエ・コウゲンでは、勝田が渾身のステージ勝利を獲得。4位のラッピとのギャップは、19.8秒。残すステージは7.52kmのアサヒ・コウゲンのパワーステージのみで、逆転はかなり難しい状況。「路面は乾いてきていて、湿ったセクションはかなり減ったが、今朝よりもグリップが低くなった。理由は分からない。残念だ」と勝田。一方のラッピは「今はすべてコントロールできている。週末の間はそうではなかったが、今はすべて順調だ」と語る。

 エヴァンス、オジエ、ロヴァンペラのトヨタ勢が1-2-3を維持したまま最終パワーステージへと向かう。「僕たちにとって良いパワーステージになるといいね。このままいけばチームにとって素晴らしい結果となるだろうから、すべて上手くいくことを願っているよ」とロヴァンペラ。オジエは「まだ7.5kmあるので、仕事をやり遂げる必要がある。これまでのところはチームにとって上手くいっているようだ」と、どこまでも慎重だ。昨年、ラリー・ジャパンの最終日にパンクを喫して首位争いから脱落した経験を持つエヴァンスも「朝のループの時よりも満足しているが、ゴールするまで終わりではないことは分かっている。最後のステージまで集中し続けなければならない」と気を引き締めた。

 最終SS、アサヒ・コウゲンの再走となるパワーステージの勝利は、昨年のウイナー、ヌーヴィルが獲得した。「まず第一に、終わってほっとしている。楽しめる週末ではあったが、上位争いができるはずだった。チームに僕のミスについて謝罪したいけれど、これが現状だ」とワンミスに沈んだラリーをの反省を口にした。

 6位のタナクは、「僕はペースに乗れていないとすぐにイライラしてしまう。今年は多かれ少なかれ、僕たちはペースに乗れていなかった。厳しい一年になったが、少なくとも挑戦した。今後に目を向けよう」とMスポーツ・フォードでのシーズンを振り返った。

 金曜日にコースオフでポジションを落としながらも、10回のステージ勝利を飾り、マン・オブ・ザ・ラリーに相応しい活躍をみせた勝田は5位。「スピードという点では、とても良かった。このスピードを来シーズンに引き継ぎたいが、結果については残念。マシンは週末を通してとても良いフィーリングだったし、ファンの皆さんにもとても感謝している」と母国ラリーでの手応えを語った。

 4位はラッピ。「確かに、スピードを見つけることが重要だった。チーム全員に感謝しなければならない。シーズン前半は良かったが、後半は自分としては十分ではなかった。今後が楽しみだ」と来季への展望を語る。

 トヨタGAZOOレーシングWRTは、サファリ・ラリーに次ぐ今季2度目となる1-2-3フィニッシュでポディウムを独占。今季3勝目を獲得したエヴァンスは「去年は残念な結果になったが、今年は金曜日の夜に大きなギャップを築くことができた。とはいえ、コンディションは簡単ではなく、長い週末だった。チームに感謝したい。ホームラリーで1-2-3は信じられないほど素晴らしい結果だ。チームのホームラリーであるフィンランドとジャパン、両方勝つことができてうれしい」と勝利の感触を晴れやかに語る。

 今季はスポット参戦でチームに貢献したオジエは「今シーズンはとても楽しかったので、この機会が持てたことをうれしく思う。計画は7つのラリーに参戦することだけだったが、日本に来れるようにチームを少し説得した。1-2-3でフィニッシュできれば、これは夢に見る以上の結果だ」とコメントした。

 今季連続タイトルを得て、文字通りトヨタのエースとして完璧勝利に貢献したロヴァンペラは「この結果を達成できて、私たち全員が喜んでいる。またタカ(勝田)のことを誇りに思う。金曜日の朝以降、彼のドライビングは素晴らしかった。非常にプッシュしていたし、彼のタイムを見て嬉しくなったよ」と話した。